■【初詣】新春警備■
商品名 アクスディアEX・セイクリッドカウボーイ クリエーター名 高原恵
オープニング
 年も改まり、世間はいわゆる正月休みである。だが、正月であろうとも休まず働いている職種は色々と存在している。その1つに警察官がある。
 大きなイベントがあれば何かと警備に駆り出されることになる警察官だが、正月はまさに大きなイベント。人出の多い寺社の周辺を巡回警備している様子など珍しくもない。
 さて、新年1月3日。ビルシャスにある『佐津姫神社』周辺で警察による警備が行われていた。それなりの参拝客を集める神社なので警備が行われるのも納得なのだが、それにしては今日はちょっと警備の人数が多いように思われる。
 しかし、それには理由があった。この日、パトモス国議会の議員が2人『佐津姫神社』に参拝に訪れるというのだ。
 1人は人類派議員の黒山三郎、魔属に対する規制強化強硬派の代表格である。
 もう1人は同じく人類派議員の榊進一郎。けれども黒山とは逆に、魔属に対する規制緩和派の代表格だ。もっとも、そういう考えを持つ人類派議員など極めて少数派であるのだけれども。
 この真逆の立場の2人が同日に参拝に訪れる予定だというのだから、色々な意味でたまったものではない。どちらにしても敵は少なくないのだろうから。
 ともあれ、無事に何事もなく1日の警備を終えたいものである――。
シナリオ傾向 警備:5(5段階評価)
参加PC 月村・心
星崎・研
【初詣】新春警備
●現状
 ビルシャスにある『佐津姫神社』周辺の警備は厳重に行われていた。近付く車両などは検問で止められて、チェックを受けたりもしていた。
 もちろんそれはパトモス国議会の議員である黒山三郎と榊進一郎が参拝に訪れるからであるのだが、警備を厳重に行わなければならない明確な理由が存在していた。それもつい2日前……年が明けたばかりの日に判明した事実。
 年が明けて早々、ソアルにてテロリスト魔皇たちが逮捕された。彼らは所有していた爆弾を使って、魔属に対する規制強化強硬派の代表格である黒山の殺害を企てていたのだ。だがしかし、彼らの集まっていた場所へ踏み込んだGDHP捜査員たちの働きで、その企ては阻止された……はずである。
 はずであるというのは、残念ながらリーダー格の男を含む2人がなお逃走中であることだ。逃走後すぐに非常線の配備を要請したが、残念ながら引っかかることはなかった。所有していた爆弾こそ押収したが、だからといって逃走中の2人が黒山を狙わないという保証もない。殺害が目的なら、何も爆弾でなくともナイフの一突きで事足りる。ゆえにこうして警備が厳重にされるという訳だ。
 その警備であるが……ある意味総動員、またある意味混沌とした状況であった。それについて少し説明しよう。
 所轄のビルシャス署が駆り出されるのは当然として、その2日前の事件の絡みでGDHP刑事部捜査第1課がまず動いている。そしてテロリスト魔皇ということで、どうもGDHP公安部公安第1課も密かに動いているという話がある。さらには、GDHP警備部警備第1課も乗り出してきている。しかし特殊急襲部隊や特殊神機隊が動いているということではない。警備部警備第1課付きの新たなチームがどうやら投入されているようだ。
 とまあ、ここまでは警察の話だ。けれども、動いているのは警察だけではない。実はパトモス魔軍も介入してきているのだ。理由は昨年のデモンズゲートでの黒山襲撃事件が挙げられる。その時にも動いていたパトモス魔軍が2日前の事件を聞き付け、先の襲撃事件と関連性があるのかもしれないと言って、情報収集のための人員を出してきたのである。
 このように様々な事情が絡まり合っているので、総動員だとか混沌などと言った理由が分かってもらえただろうか。真逆の立場の議員2人が同日に参拝に訪れることでただでさえややこしいのに、さらにややこしくなっているのだから……。

●警備を行う者たち
「これが逃走中のテロリストの1人……」
「そうだって。もう1人逃げてるらしいけど、そっちは残念ながら似顔絵やモンタージュ作れなかったみたいね〜」
 パトモス魔軍イレーザーナイツ隊員・星崎研は逢魔の貴沙羅がもらってきた逃走中のテロリスト魔皇の似顔絵を受け取り、しげしげと見つめていた。似顔絵として描かれているのはリーダー格の男である。
「なるほど。じゃあ特に注意しないといけませんね」
 そう言いながら、研は似顔絵を頭へしっかり叩き込もうとしていた。榊・黒山両議員の護衛をするにあたって、今回一番の要注意人物であることは間違いないのだから。
 ちなみに――警備担当者に回っている両議員のプロフィールだが、一部ミスがあったのはここだけの秘密である。榊議員の方は『魔属に対する規制強化の強硬派、代表格』ではなく、正しくは『魔属に対する規制緩和派の代表格』だ。どうやら黒山議員のプロフィールの一部文章がうっかり紛れ込んでしまったらしい。
 その研は貴沙羅共々イレーザーナイツとして今回の警備に参加している。だから一応の名目としてはパトモス魔軍から情報収集のために出された人員ということになっている。そのため多少の行動制限がかかっているが、まあ気にするほどではない。
 それと同じ頃、『佐津姫神社』に隣接して止まっているGDHPの指揮車トレーラーの中で、大量のモニタに目を通している男が居た。月村心である。
「正月も3日だってのに、相変わらずの人出だな……」
 モニタに映し出された映像を見てつぶやく心。前日夜から神社の至る所に設置された小型の監視カメラからの映像がモニタに送られてきているのだ。だから多くのモニタは人・人・人という映像だったりする。が、ここにひょっこり手配中のテロリストが映るかもしれないのだから、ぼうっと見ている訳にはゆかない。
「しかし警備づいてるな。年末は国外の要人で、年始は国内の要人か……しかもほとんど立ち上げているものが正反対ときた議員2人」
 やれやれといった様子で頭を振る心。とはいえ、警備する者にとっては政治の話は関係ない。心としてみれば、とにかく成果を上げればいいだけのことだ。何しろ今回もまた『ケルベロス』の面々を投入しているのだから。しかも今回はGDHPの一員(現在はGDHP警備部警備第1課付きだ)として、正式なデビュー戦となる。これをどう乗り越えるかで、今後の『ケルベロス』への評価が変わってくることだろう。
 その『ケルベロス』の隊員たちだが、普通に制服に身を包んで警備を行っている者の他、私服で一般参拝客を装って潜り込んでいる者も数人存在していた。
「さて、そろそろ今日の主役が到着する頃合か」
 時刻を見て腰を浮かしかけた心だったが、ふと目にしたモニタの映像に思わず眉をひそめた。何故ならそれは、巫女姿の明菜(ある意味で有名なサーチャーの逢魔だ)が神社の人間2人に両腕をがっちりとつかまれて社務所の方へずるずる引っ張られてゆく光景であったのだから。そして胸元の辺りがやけに開いているのは何の冗談かと。
「……何だこりゃ……」
 いやはや、よく分からない光景も映し出されるものである。

●主役脇役勢揃い
 さて、いよいよ本日の主役――榊・黒山両名の到着だ。先に到着したのは黒山の方で、それから5分も遅れず榊も到着した。各々女性秘書やら取り巻きやらを引き連れての参拝である。
 さすがに2人とも政治家と言うべきか、一般参拝客の歓声に対してきちんと手を振ったり頭を下げたりして応えている。どのような場所であっても、パフォーマンスの場であるのかもしれない。
 当然ながら各々には厳重に警備がつく。その周辺にマスコミの記者やら野次馬などがついてくるのだから、彼らの行く手はちょっとした混雑と混乱に襲われる。
 先に拝殿に参ろうとする黒山のそばには研と貴沙羅がついていた。続く榊のそばには同様に心がついてゆく。『ケルベロス』隊員への指揮を行う関係もあって、先行する黒山も視界に入る榊のそばへつくことにしたようである。
 両者ともに拝殿に向かうが特に何事も起こらない。先に黒山が参拝を済ませて戻ってくる。つまり榊と向かい合い、顔を合わせる形となる訳だ。
「明けましておめでとうございます、黒山先生」
 先に挨拶をしたのは榊の方だった。年長である黒山を立てた形になるだろうか。
「明けましておめでとう、榊くん。君も今日の参拝だったか。わざわざ私に合わせてきたのかね?」
 ちくりととげのある言葉を返す黒山。わざと挑発しているように思えないこともない。だが榊が巧みにかわす。
「いえいえ、偶然ですよ黒山先生。ですが警備をされる方々のことを思うと、同日の方がよいのではありませんか?」
「ふむ、そうかもしれん。面倒なことが1度で済むのだからな、はは」
「それはそれとして、今年の議会ではどうぞお手柔らかに」
「君、それは私に手を抜けと言っているのかね?」
「まさか。私は黒山先生ほどの豪腕ではありませんから」
 ……何だか周囲で聞いている者の方が胃が痛くなりそうなやり取りである。現に各々の女性秘書がそれとなく自分の議員の止めようとしている様子が見受けられる。『先生、その辺りで……』などと暗に言っているのだろうか。
 と、そんな時であった。
 パパパパパパパパーンッ!!!
 離れた場所でけたたましい破裂音が聞こえてきたのだ。銃声? いや違う、これは爆竹の音だ。
「陽動かもしれん、各員要警戒……」
 そして心がすぐさま指示を与えた刹那――。
 ターンッ!
 今度は間近で銃声が聞こえた。そう、確かに銃声である。けれども誰も傷付いてはいない。ただ目に入るのは、他の一般参拝客2人によって拳銃を空へ向けられている顔中髭だらけのサングラスをかけた男の姿。
 いやいや、一般参拝客ではない。それは私服姿で潜んでいた『ケルベロス』の隊員2人。その彼らが、拳銃を取り出した不審者を取り押さえたのだ。
「こいつ手配中の男に似てます!」
 心の耳にそんな報告が入ってくる。言われてみれば、髭とサングラスがなければそうかもしれない。何にせよ、こうして拳銃を手にしている以上、誰かを狙うつもりだったのは疑いようがない事実。
「きゃーっ!!」
「わぁっ、人殺しだっ!!」
「こいつ銃持ってるぞ!!」
 悲鳴とともに逃げ出してゆく一般参拝客。マスコミはといえば、捕らえられた犯人の姿にフラッシュを浴びせかけたり、テレビカメラを向けたりする。警察はといえば逃げてゆく一般参拝客を誘導したり、犯人に押し寄せようとするマスコミを押し止めたりと大変に。かくして現場は大混乱。
 そんな最中、異変に気付いたのは貴沙羅であった。
「研君!!」
 はっとして研の名を呼び、手にしていた機動隊用大盾を構えて黒山を守るように立つ貴沙羅。服の袖口でナイフを隠した男が、突進してこようとしていたのである。
「残る1人だな!!」
 2日前の事件で逃走中なのは2人。手配されて似顔絵の回っている方が拳銃の男ならば、消去法でこれはもう1人の方だと分かる。研は突進してきた男のナイフを持つ手に対し、強い手刀を叩き込んだ。ナイフは手からぽろりと落ち乾いた音を立てた。
「逃がすか!」
 逃げる素振りを見せた男にすかさず心が迫り、みぞおちに膝蹴りを1発叩き込んだ。これは耐え切れず、男はその場に崩れ落ちる。そうしてわらわらと制服警官がやってきて男を取り押さえた。
「神属の隊員に告ぐ。負傷者が居たら治療してやれ……」
 もうこれで議員たちを狙う者が居ないと確信した時、心は『ケルベロス』に所属する神属の隊員にそう指示を与えた。犯人たちによる被害はなくても、逃げる拍子に押されて転ぶなりして怪我した参拝客の1人や2人、確実に居るだろうから――。

●あなたへ伝えたいこと
 襲撃事件は被害者を出すことなくひとまず無事片付いた。しかし簡単に事情を聞くため、榊・黒山両議員にはまだ残ってもらっていた。神社の社務所の1室を借りて、同時に話を聞こうというのだ。『同時』という所に色々なものが透けて見えるのは気のせいだろうか。
 両議員に事情を聞くのは心が行うことになった。実際の犯人逮捕にも関わっていることから適任と思われたのだろう。そして、この場には研と貴沙羅も同席している。これはあれだ、情報収集という名目があるからだ。
 事情聴取は形式的に一通り行われてゆく。と、その最中に研が口を開いた。
「よろしいでしょうか。両議員に、ぜひ聞いていただきたい意見があるのですが……」
 そう前置きをする研。榊も黒山も拒否はしなかった。ただ誰の意見かと黒山に問われたので、研は自分と貴沙羅の意見であると答えていた。そして意見を話してもよいと分かり、研は自分たちの意見を口にした。
 まず、魔属への規制強化について。第一次・二次神魔戦線で起こった悪魔化魔皇による被害や昨今の魔属のテロ行為などから賛成ということであった。前者については自らも被害を受けたということも告げて。
「しかし、具体的にどう規制していくのか、行き過ぎの強化には反対です。例えば、ルチル増設は賛成ですが、特定地域への侵入禁止や魔属だけに対する奉仕義務の強化などなら反対します」
 研はきっぱりと言った。それから話は神属について及ぶ。
「何故神属への規制は行われないのでしょう。神属にも被害は小さいとはいえ、テロ紛いの行為を行う者も居るではありませんか。それは一部の者と言うならば、魔属も同じではありませんか?」
 確かに……そうかもしれない。魔属だから、神属だからと一括りに考えるのは果たしてどうなのだろう。
「……俺からも言わせてもらっていいか?」
 黙って研の意見を聞いていた心が口を開いた。やはり否定はないのでそのまま話を続ける心。
「魔属は締め上げればおとなしくなるような連中じゃないことは、分かっていただきたいものだな? 魔属は今に至るまでに数々の弾圧を受けてきた。今締め上げれば不満が爆発し、いい結果は生まない」
 そう言い、黒山をじっと見つめる心。その目は『それは覚えておけ』と言っているように見えた。
「それに……神属も大多数はおとなしいが、魔属や人を平気で人体実験に使ったり、人間を感情搾取の道具としか見てないような、人を人とも思わない外道も数知れず居ることを教えておいてやる」
(もっとも、そういう神魔人関わらずそういう外道を始末するために俺たち……『ケルベロス』は居るんだがな)
 胸の中で心はそう付け加えた。
「あ。言い忘れましたが、私や貴沙羅は他種族への恨みなどはなく、神魔人共存に賛成しています。実際、各々の種族の友人が居るのですから」
 思い出したように両議員に伝える研。傍らの貴沙羅もこくこく頷いていた。
「……貴重な意見を聞かせてもらった、感謝しておこう」
「我々は意見を活かさねばなりませんね、黒山先生」
「うむ。だからといって手加減はせんぞ、榊くん」
「これは手厳しい。ともあれ、貴重な意見をありがとう」
 どういう反応が返ってくるか心配ではあったが、黒山も榊も研や心の意見は真正面から受け止めたようである。本当に意見を活かしてくるかどうかは、今後の活動を見ないと分からないけれども――。

●おみくじ
「研君お疲れさま〜。おみくじ引いて、出店で何か買お!」
「……短時間でどれだけ買えるのかなあ」
 警護もどうにか終わり、少し時間が出来たので研は貴沙羅とともに自分たちもお参りすることにした。貴沙羅など甘えているのか、しっかりと研の腕に自分の腕を絡めていたりする。
 そして引いたおみくじは――。
「吉でした。失せ物は……気長に待て?」
「やった大吉! 西への旅はさらによし、だって〜。じゃあ西にあるりんごあめから行こ〜」
 研が吉で貴沙羅が大吉。なかなかよいのではないだろうか。
 ちなみに時間があったので、心もおみくじを引いていた。
「きょ、凶? 仕事運……足元を固めよ、か」
 何だか意味深なおみくじである。

【了】