■気になるあのことそんなこと【SIDE S】■
商品名 アクスディアEX・セイクリッドカウボーイ クリエーター名 高原恵
オープニング
 パトモス・新東京――この地では日々様々な出来事が起こっている。楽しいこと、苦しいこと、嬉しいこと、悲しいこと、表沙汰になったこと、伏せられてしまったこと、そして未だ誰も気付いていないこと……。
 GDHPなどに関わっていて、気になる出来事はないだろうか?
 例の事件の続きはどうなったかと、ふと思い出すことはないだろうか?
 気になるなら、自ら動いて調べてみるのもいいだろう。誰かに言われる訳ではない、決断するのは自分自身であるのだから。
 だがしかし、望む結果が必ず得られるとは限らない。得られた結果が、真っ赤な嘘である場合もあるやもしれない。
 それでも構わないと覚悟が出来ているのであれば……見えぬ真実をつかむこともあるだろう。
 今回使えるのは2月上旬のある1日のみ。1日で何が出来るのか、よく考えて行動してみてはどうだろうか。
シナリオ傾向 フリーアタック:6(5段階評価)
参加PC 彩門・和意
マニワ・リュウノスケ
陣内・晶
風祭・烈
瀬戸口・春香
月村・心
神崎・雛
タスク・ディル
気になるあのことそんなこと【SIDE S】
●まずは好奇心から
 その日、神崎雛は自宅でノートパソコンを叩いていた。ネットサーフィン? いやいや、いわゆるひとつのハッキングという行為の最中だったのだ、雛は。
 無論、発信元が分かると色々と厄介なので、足跡の偽装を行ったり痕跡を消したりと、可能な限りの努力を行っていた。
(不意に好奇心が動きましたねぇ……)
 キーを叩き、トラックパッドに指先を滑らせ、雛はそんなことを心でつぶやいていた。ま、ハッカーを動かすものといえば好奇心が主だろう。ちなみに、雛自身はハッカー並みの腕前を持つ素人である……らしい。
(いい情報があると、売れそうですね〜)
 前言撤回、そっちかい。
「……おっと、今のはなしですよ?」
 誰への言い訳ですか、誰への。

●互いの主張
「本日は、お時間をいただきありがたく存ずる」
 ビルシャス某所の黒山三郎事務所を、マニワ・リュウノスケは逢魔・ソフィアを伴い久々に訪れていた。前回同様、長野の地酒『舞姫』と栃餅を土産に持ち。
「構わんよ。どうせ今日は1日、何かしら来客の相手だ。その合間の短い時間で済まないが」
 リュウノスケの前方、ソファに腰掛けていた黒山が苦笑しながら言った。
「手短に話しますゆえ、ご容赦を」
「ああ、そのまま。さっそく話に入った方が君にとっても有益ではないかね?」
 頭を下げようとするリュウノスケを黒山が手で制する。
「お気遣い感謝いたす。では――」
 リュウノスケは余計な前置きなど挟まず、即座に本題へ入った。今日伝えるべきは、魔族規制の一点。
「神魔人、各々に力が有り申す。神魔は直接に、人は考える智により」
「神魔に智という力がないとは言わせんよ。だが、突出しているということであれば、その通りだろう」
 小さく頷く黒山。リュウノスケの話は続く。
「残念なことに、言われるように力に溺れる魔属は多うござる。ゆえに規制強化、結構でござるが、建前だけでも神魔人、平等に規制すべきと存ずる。己が力に溺れるは魔のみにあらず。溺れる神人もあれば……」
「平等に規制すべき、かね。うむ、正論だ。しかし、わしは以前に言わなかったかね。『力を違法に使う者には処罰を。そして制限を』と。君の意見は分かる。けれども、君の今の話が十二分に説得力を持つのは三者同等の状況である時ではないかね。魔属ゆえ規制をするのではない、規制の必要があったのが魔属であったというだけのことだ、現在は。もし神属であったなら、規制されるべきは神属だ。人類であるならば……思い上がりは捨てなければな」
「…………」
 リュウノスケは黒山をじっと見つめた。黒山の場合、魔属憎しで言っている訳ではないのは明らか。そこには確固たる『信念』が存在しているのをリュウノスケは強く感じていた。
「と、申し訳ない。次の来客の時間だ」
 時計に目をやった黒山がそう伝える。ほんとに短い時間であった。その時、リュウノスケが黒山にこんな頼みをした。
「……出来得るなら榊殿への紹介状、お願いしたく存ずる」
「む?」
 一瞬リュウノスケを凝視する黒山。そしてニヤリと笑みを浮かべた。
「榊進一郎くんか。なるほど、君もなかなか面白い真似をする……よろしい、書こう。これを平井くんに見せてくれたまえ」
 さらさらっと走り書きしたメモを、黒山はリュウノスケに手渡した。そこには紹介状作成の指示が記されていた。

●裏技
「わざわざ気遣って来てくれるとは嬉しいですね。確か……月村さんでしたか」
 榊進一郎はビルシャス某所にある自分の事務所を訪れていた月村心に、そう言いながら微笑んだ。
「あれから、最近変わったことは?」
「いえ何事も」
 心の質問にさらりと答える榊。嘘は吐いていないようだ。
「しかし、警察の方も大変ですね。安全であって当前、失敗すれば四方八方から瞬く間に叩かれる訳ですから」
 榊がそう言って笑う。これを好機と捉えた心は、すかさずこう言った。
「ええ、大変ですよ。装備や人員を確保する所からもう」
 苦笑する心。今日ここへやってきた真意を上手く混ぜ込むことが出来た、と思う。
 『ケルベロス』を立ち上げることは出来たが、まだまだ足らない物だらけである。ここに来る前に上にも伝えてはみたが、果たしてどのくらい希望が通ることか。とりあえず、移動用車両やバイク、事務方の人員などは今月中に整えられるらしいのだけれども。
 で、希望が通るのを悠長に待ってもいられないので裏技的な方法を心は使うことにした。いわゆる、議員の力添えという奴だ。
「ああ、予算には限りがありますからね。警察関係の予算も、もう少し増やすべきなんでしょうけども……」
 榊が思案する。その姿を見た心はこう思った。
(ひとまず種は撒いた……と。もう一方でも種を撒いてくるか)
 この後、心は黒山の事務所も訪れて同様の話を上手くやってきたのであった。結果が出るまで、少々時間がかかることだろう。

●戦乙女、再び
 セメベルン、『喫茶ソル』。本物のヴァルキューレが居るとして、知る者ぞ知る喫茶店である。
 相変わらず店にはマスターである青年と、ロサという少女、そしてベルデという名のヴァルキューレの3人の姿があった。
 カランコロン♪ と扉についている鐘が鳴り、男女1組の客が入ってくる。
「マスター、いつもの」
 と男性の方が言えば、
「それはあまりに唐突が過ぎると思います」
 そう女性の方が窘める。なお、夫婦漫才をやっている訳ではない。念のため。
「おや。お客様、確か以前にも来られましたよね?」
 マスターが2人へ尋ねた。
「ええ。その節は」
 ぺこりと頭を下げる男性――彩門和意。女性の方、逢魔・鈴の窘めはまだ続いていた。
「その言葉を言ってみたい気持ちは分かりますけれど、マスターさんを困らせてはいけませんわ」
「じゃあ……改めて、ランチ2つとコーヒーを2つ」
 右手でVサインを作り注文する和意。
「了解しました。コーヒーはいつお出ししましょう」
「ええと、なら食後に」
「本日も観光ですか?」
 マスターが2人に笑顔で尋ねてくる。和意はちらり鈴と顔を見合わせてから答えた。
「ええ、まあ」
 曖昧な物言いだった。
 やがて運ばれてきたランチを堪能し、食後のコーヒーが出てきた時に和意はマスターへ質問をした。
「それにしても、いくらベルデさんが他人に危害を加えないとはいえ、役所がうるさかったのでは?」
「はい?」
「いえ、以前聞きそびれたんで」
「ああ……言われてみれば話してませんね。その通り、あの時は何枚書類書いたでしょうか……。かといって、即日認められる訳でもないですし」
「なるほど、手間がかかるんですね」
「個人でですからね。軍用だとまた話が違ってくるようですけど」
 と言って苦笑するマスター。
「そうですか、話が違ってきますか」
 コーヒーに口をつける和意。
(なら、散見するサーバントが新東京内で暴れる事件の火元は……?)

●1勝負いきましょう
「どうも、お久し振りー……っと、先客でしたか?」
 陣内晶が情報屋ジョーの所を訪れると、そこにはすでに1人の青年が来ていた。瀬戸口春香である。
「構わねえぜ。これから1ゲーム始める所だったからな」
 ニヤッと笑うジョー。春香はといえば、小さく溜息を吐いたように見えた。
「一緒にテーブル囲んだっていいだろ? 心配すんな。情報売る時は、1人ずつ聞かせるさ」
 ジョーが晶と春香に確認する。
「僕は構いませんよー」
「……そういうことなら俺も構わない」
「よし、決まりだ」
 2人に納得してもらった所で、ジョーは顎でくいとポーカーテーブルを示した。座れ、ということだ。
「あ、お土産のいちご大福です。紅さんも相変わらず綺麗っすねー」
 土産をジョーに付き従う美女・紅に手渡す晶。ジョーがニヤニヤと見ていた。
「相変わらず面白い奴だ、お前さん」
「そうですかねー? ああ、相変わらずブラフも何もあったもんじゃない戦い方ですよー」
 などと予め宣言する晶。その間に春香はさっさとテーブルについていた。
 ポーカーの結果については、この後すぐ。

●ゆ・う・わ・く
 さて。情報といえば、彼女の存在を外すことは出来ないだろう。エスティーローダー……エスティーのことだ。彼女に接触する者が、今日もまた1人――。
「ふぅん……だから大晦日、アスカロト慌ただしかったのねぇ」
 エスティーはそうつぶやきながら目の前の青年、風祭烈の左肩にそっと手を置いた。
「そうだ。着いたらまず殲騎、それからネフィリムが居た。ご丁寧に、新型さ」
 烈が視線を外すと、視界の端ににこにこ微笑んでいる逢魔・エメラルダの姿が見える。何か……微笑みの後ろに怖いオーラが出てる気が。
「それとぉ、麻薬密売がどう関わってくる訳かしらぁ。聞かせてもらえるぅ?」
 豊かな胸を押し付け、烈の身体に密接してくるエスティー。肩からすぅっと手を滑らせて頬を軽く撫でる。明らかに誘惑モードだ。
「……頼むからエメラルダをそんなに怒らせないで欲しいな」
 表情を変えず烈はエスティーに頼む。……エメラルダからの視線が何だか刺さって痛いのだ。微笑んでいるというのに。
「あらぁん。アタシは気にしないわよぉ?」
 いや、そういう問題でなく。
「つまりだ。麻薬密売と大晦日の事件、事を起こすには個人レベルでは不可能な規模じゃないかってことだ。それなりの規模の黒幕が居ないと無理な……」
 諦めて話を先に進める烈。すると、エスティーの表情が急に引き締まった。
「それってぇ、現状では限られるわよぉ。神帝軍かぁ……北海道」
「やっぱりそっちも入ってくるか……」
 ぼそりつぶやく烈。やっぱりというのは、大晦日の事件について1つの結論がアスカロトから出ていたからだ。すなわち、誘き寄せたのは北海道『日本国』の者だと。
「北海道だけどぉ……ちょぉっと気になる話がねぇん」
「気になる話?」
「……工作員があちこちに入り込んでいるらしいって話。パトモスだけじゃなくてぇ、中国やASEANなんかにもぉ……」
「なっ……!」
「今流れてる麻薬、調べたら東南アジア方面からなんでしょぉ? ASEANがわざわざ今、この国を怒らせる真似をすると思う?」

●勝ち得た情報
 さあ、ポーカーの結果だ。
 晶は4のスリーカード、春香は10とKのツーペア。それに対しジョーは7のワンペアであった。2人ともが勝利だった。
「お前さん、今回欲しい情報は何だ?」
 別室に移り、ジョーが晶へ尋ねた。
「そうですねぇ……実は、ちょっと気になる姉妹が居るんですが」
 そう前置きして晶が尋ねたのは、榊陽子・美弥子という姉妹についてのこと。色んな所に顔を出しているから、何だか気になるのだ。
「榊進一郎……お前さん知ってるか?」
「ああ、正月に神社に来てたあの」
「そいつの姪っ子だ。弟の娘だってことだがな」
「は?」
 さすがの晶も、すぐには言葉が出てこなかった。サーチャーの逢魔・明菜の3サイズの質問を忘れるほどに。
 続いて入れ替わり、春香が情報を買う番だ。
「昨年末行われた、パトモスと中国の会合。同じくASEANとの会合。その内容と、それに基づく各国の新しい動きの有無を知りたい。主観で結構だ」
 実は、会合の話はあまりマスコミに出ていない。大晦日の新聞に、ベタ記事で僅かに記されていた程度だったのを春香はすでに確認していた。
「そいつか。どっちもあれだ、神魔技術製兵器をどれだけ必要としてるかを強く訴える場だったみたいだな。そもそも、その場を用意しろと言い出したのは中国の方らしい。その動きを察知して、慌ててASEANも追随したって話だぜ。俺の感触じゃ……中国がそろそろ焦れてきてるようだな。少々、強引に来るかもな……」

●心配無用
「ああ。じゃあ、ソアルに魔皇が潜んでいたことが問題化している訳じゃないんだ」
「そ。犯罪者が潜んでたことは問題になってっけど」
「ま、ソアル署は先の問題があるからな」
 ビルシャス某所の公園にて、タスク・ディルはユーリこと木下有理とタクこと拓山良樹の2人と顔を合わせていた。
 大晦日のソアルでの事件の影響で、ソアルでは魔皇批判が起こっているのではないかと心配してタスクは尋ねてみたのだが……どうやら杞憂らしい。
「ともかく、今まで通りだから心配すんなって」
 ユーリが笑ってタスクの肩を叩くと、タクが言葉を続けた。
「もちろん、GDHP内でもな。おとなしくしてる分には、問題ないさ」
「タクの言う通り! 逃げた連中も、神社で捕まったんだ。他に仲間も居ないようだし、一段落ってとこだな」
 親指をぐっと立ててユーリはタスクへ言った。

●立場は違えども
「お初にお目にかかり申す。拙者、魔狼隊、マニワ・リュウノスケと申す。此度はお時間をいただきありがたく存ずる」
 黒山に出してもらった紹介状を手に、リュウノスケは榊の事務所を訪れていた。深く礼をした後、ソフィアが土産の品を榊へ差し出した。
「お口に合うか分かりませんが、お身体によいのでお許しください」
「どうもありがとう。申し訳ないですが、彼女……室町くんに渡してもらえますか」
 榊にそう言われるまま、ソフィアは近くに居た室町という女性に土産を手渡す。恐らく秘書なのだろう。
「で、ご用件とは」
 リュウノスケたちに席を勧め、自らもソファへ腰を降ろす榊。リュウノスケは単刀直入に尋ねることにした。
「貴殿が、規制緩和を唱える真意を知りたく参り申した」
「真意?」
「力に溺れ、自身を律することも出来ぬ輩が多い魔属でござる。それでも規制緩和でござるか?」
「……信じたい、ではダメでしょうかね」
「信じたい、でござるか?」
「この国がまだ、日本だった頃。私はね、自身を律していた魔属を何人も見ているんですよ。その姿を知っているからこそ、信じたい。私の行動はそのための準備です。今すぐには無理ですが……真の共存の、ために」
 まっすぐにリュウノスケを見つめる榊。その瞳に嘘偽りは感じられなかった。リュウノスケがふっと笑みを浮かべた。
「……貴殿と黒山殿、立場が違えど排除を唱えぬ以上、共存を目指す同志でござるな。よき未来のため、何とぞお願いいたす」
 深々と頭を垂れるリュウノスケ。確固たる『信念』を持つ者がここにも居た――。

●ある接点
「何というか……面白いですねぇ」
 雛は先日神社で襲撃された黒山と榊に関する情報を眺めていた。規制強化強硬派代表格と言われる黒山には特定の団体との繋がりがまるで見られないのに対し、榊の方にはある団体との繋がりがあったのだ。
 その団体の名は――神魔人親睦推進団体・トリニティフレンズ。昨年秋辺りから、この団体の催しに足を運ぶことがあるらしい。何となく、主張が重なる所があるからなのだろうか?
「それはそれとして、さすがにGDHPはセキュリティが頑丈ですね」
 別のウィンドウに視線を向け、ふう……と溜息混じりにつぶやく雛。……ちょっと待て、何を調べてたんだ、何を。

【了】