■気になるあのことそんなこと【SIDE D−1】■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 高原恵
オープニング
 パトモス・新東京――この地では日々様々な出来事が起こっている。楽しいこと、苦しいこと、嬉しいこと、悲しいこと、表沙汰になったこと、伏せられてしまったこと、そして未だ誰も気付いていないこと……。
 さて、あなたはデビルズネットワークタワー・アスカロトにて依頼を受けていて、気になった出来事はないだろうか?
 例の事件の続きはどうなったかと、ふと思い出すことはないだろうか?
 気になるなら、自ら動いて調べてみるのもいいだろう。誰かに言われる訳ではない、決断するのは自分自身であるのだから。
 だがしかし、望む結果が必ず得られるとは限らない。得られた結果が、真っ赤な嘘である場合もあるやもしれない。また、掘り起こしてはならなかった真実を知ってしまうかもしれない。
 それでも構わないと覚悟が出来ているのであれば……見えぬ真実をつかむこともあるだろう。
 今回使えるのは2月中旬のある1日のみ。1日で何が出来るのか、よく考えて行動してみてはどうだろうか。
シナリオ傾向 フリーアタック:6(5段階評価)
参加PC 陣内・晶
風祭・烈
月村・心
路森・凜火
真田・浩之
気になるあのことそんなこと【SIDE D−1】
●ある作戦
 2月中旬の某日――密やかに水面下で陰謀が進行していた。そう……水面下だ。ターゲットは、その陰謀がよもや自分に向かったものであるとは全く思ってもいなかったのだから。
 ターゲットの名は明菜、デビルズネットワークタワー・アスカロトのサーチャーである。

●餌食
「あーきーなーさん」
 仕事の交代を終え、アスカロトより出てきて少しした場所で明菜を呼び止める女性の声がした。
「はい?」
 振り返る明菜。するとそこには、笑顔の女性が立っていた。GDHPの刑事の寒椿である。
「あ、寒椿さんでしたか。こんにちは」
 ぺこりと頭を下げる明菜。と、急に寒椿があれっといった表情を浮かべた。
「覚えてないの、明菜さん?」
「え?」
「あー、やっぱり忘れてるんだ。こないだ約束したでしょう、一緒にご飯食べに行こうって。だから、仕事終わった頃を見計らってわざわざきたのにー」
 軽く頬を膨らませる寒椿。一方の明菜は、何度も頭を左右に傾げていた。
「そ、そうでした……っけ? あれ……?」
 記憶のどこからも、約束のことが出てこない明菜。当たり前だ、そもそも約束などしてはいないのだから。
 しかし、寒椿が勘違いしているという訳ではない。約束などしていないことは、寒椿も重々承知なのだ。その上で、こんなことを言っているのである。
「まー、いいや。じゃ、一緒に行こっか?」
 にっこり微笑み、寒椿は明菜にそう尋ねた。そして明菜がこくっと頷いた瞬間、寒椿は後ろを振り返ってこう言った。
「明菜さん、一緒に行くってー」
 次の瞬間、角から現れる1つの人影。
「ああ、一緒に行ってくれるんですか」
 現れたのは安堵した様子の陣内晶であった。
「あっ……」
 明菜、絶句。気のせいではなく、顔が強張っている。
「年明けの神社では迷惑をかけてしまいましたからねぇ。では、焼肉屋でもどうですか」
 1人うんうんと頷きながら、晶は明菜へそう声をかけた。明菜はというと、晶と寒椿の顔を交互に指差して口をぱくぱくさせている。
「ささっ、早く行こっ!」
 寒椿は素早く明菜の腕に自分の腕を絡め、有無を言わさず引っ張っていった。これはあれか、軽い拉致か?
「……あーうー……」
 これから何があるか、おおよそ想像のついている明菜。しかし抗う気力もなく、ずるずると引きずられてゆくのであった……。

●再調査
「これはわざわざありがとうございます」
 頭を下げ礼を言い、お茶菓子の箱を受け取っているのはサーチャーの魅阿だ。もちろん場所は、アスカロトである。
「いつもサーチャーの皆には世話になってるからな」
 魅阿の礼にそう答える風祭烈。傍らに居た逢魔のエメラルダがぺこり頭を下げて一言付け加えた。
「そういうことですので、どうぞ皆さんでお召し上がりください」
「では、ありがたく受け取らせていただきますわね」
 魅阿はもう1度頭を下げると、お茶菓子の箱を奥へと持っていって他のサーチャーへ手渡していた。
「それで……」
 戻ってくると、魅阿はふふっと意地悪っぽい微笑みを烈たちに向けた。
「ただ、お茶菓子を渡すためだけに来られたのではありませんわよね。風祭様、エメラルダ様」
(お見通しか)
 苦笑する烈。自分たちが他に目的のあることは魅阿には分かっているようである。
「……だったらストレートに言わせてもらおうか。過去の依頼で、少し気になることがあるんだ。その記録を、調べ直させてほしい」
「どのような依頼です?」
 本当の用件を口にした烈に魅阿が聞き返した。
「1年……いや、2年近く前になるのか。新東京の近郊で、同時多発的にサーバントが暴れたことがあったろう。その事件と……」
「と?」
「陸軍が移送していたサーバントが逃げ出した事件も1年以上前にあった。それらについて、どうにも気になることがあるんだ」
「ああ……はい……そちらの件ですか……」
 途端に思案顔になる魅阿。烈はそれを見逃さなかった。
(何かつかんでいるのか?)
 魅阿の今の素振りは、明らかに何か心当たりがある様子のもの。
「……お調べになるのでしたら、どうぞあちらへ」
 どうやら場所を提供してくれるようだ。別のサーチャーが呼ばれ、烈たちはその後についてゆくよう促される。
 烈の後ろを歩いてついてゆきながら、エメラルダは何気なく後ろを振り返った。
 魅阿が2人から距離を取り、また別のサーチャーに何やら指示している様子が視界に入っていた。

●秘められた遊び
 さて、場面変わって焼肉屋。その個室には、メイド服に着替えた……もとい、寒椿によって着替えさせられた明菜の姿があった。
「あのっ……これって短過ぎるんじゃ……」
 メイド服のスカートの裾を押さえ、もじもじと恥ずかしがる明菜。それもそのはず、明菜が着ているメイド服は超がつくほどのミニスカートであったのだから。何せ、普通に立っているだけでも中が見えるだろうというくらい。隣に立っている寒椿もミニスカートなメイド服姿だが、さすがに明菜ほどではない。
「大丈夫! 明菜さんは可愛い!!」
 晶がそう明菜に言い聞かせる。まあ手にカメラが握られているのは毎度のこととして、その格好が何故かメイド服であることはあえて突っ込まないことにする。
「羞恥心を捨てることが、一人前のメイドさんへの道ですよー」
「あう〜……私、メイドさんじゃありません〜」
 晶の言葉にぶんぶんと頭を振る明菜。
「そんなに恥ずかしがらなくたって〜」
 すすっと明菜のそばに近付き、寒椿がぴたっと密着する。
「……明菜さん……お着替えの時、あんなに綺麗だったのに……」
 ふふと意味深な笑みを浮かべ、ほんのり頬を赤らめる寒椿。……あなた、着替えの時に何やったんですか?
「まあまあ。ともかく、今日は奢りなんでじゃんじゃん食べてください」
「後が怖いです……」
 晶の言葉を聞いて、明菜がぼそりとつぶやいた。正解です、明菜さん。

●ある仮説
 再びアスカロト。魅阿の元に、新たな来客があった。月村心である。
「こんにちは、月村様」
 自分の方へやってくる心の姿を見付け、先に魅阿が挨拶をした。
「ああ、魅阿さんこんにちは。ちょうどよかった。少し聞きたいことが……」
「月村様もですか」
「も?」
「いえ、こちらのことですわ。それで、どのようなご用件でしょう」
「うーん、最近何か変った情報や依頼はなかったかなと思って。いざとなれば、そのまま俺が出向くことも出来るし」
「確か月村様は、GDHPの何か新設部隊に関わられていると聞き及んでおりますが。今回のご用件は、そちらのご関係でしょうか」
 さすがサーチャー、そういった情報も耳に入っているようだ。
「まあそんな所だ」
 心は曖昧に答えた。
「だからといって、この前の年末みたいに警護の後にいきなり殲騎で飛べってのは勘弁してくれよ? さすがにあれはハード過ぎる」
 心は苦笑しながら付け加えた。魅阿もつられてくすっと笑う。
「ご心配なさらなくとも、最近はそのような依頼はありませんわ。あれは特殊な状況下でしたから」
「そうか、ないのか……」
 ふう、と息を吐き出す心。
(つまり、特に情報も得られず……だな)
 と思ったが、今話していてふと思い出したことがあった。
「……そういえば年末で思い出したが」
「何でしょうか」
「あの時現れたネフィリムの情報を流したのは結局誰だったんだ?」
「その件ですか。アスカロトの見解は、北海道の手の者かと」
「捕まえたのか?」
「いえ。依然調査継続しておりますが、そこまではまだ……」
「ふむ……。まあ見事に罠にかけられた訳だが……相手は何者で何の意図があってやったんだろうか?」
 思案顔で心が問いかけると、魅阿はこのように答えた。
「それにつきましては、2つの仮説が出ております。1つは、魔皇様方を誘き寄せた所に偶然神帝軍のネフィリムがやってきていた。いわゆる『嘘から出た真』というものです。そしてもう1つは、神帝軍の動きをつかんでいて、そこへわざとぶつけてきた……」
「後者をするメリットが分からないな」
「恐らくですが、魔皇様方を倒す確率を少しでも上げようとしたのではないでしょうか。消耗した段階で神帝軍と戦うのは、不利なのですから。しかし、もし2つ目の仮説が当たっているとなると、少々大事かもしれません」
「……大事?」
「神帝軍の動きを多少なりとも把握出来る情報網を、北海道も持ち合わせているということです。位置的に考えて、大晦日のネフィリムは九州・沖縄の神帝軍でしょう。……その動きを把握しているということですよ?」
「なるほど……な」
 事の重大性は心も理解出来た。そういった情報を手に入れられるということは、優秀なエージェントが居るのか、それともエージェントの数があるのか……。
「……こうなってくると、ASEANと中国の動向も少し気になる所だな」
 心は何気なくそう口にした。
「さて、どのようになっているのでしょうね」
 答える魅阿の口調には、どことなくはぐらかすような感触があった。
「何かあったらいつでもここに連絡してくれ。そうだ、一応そっちの連絡先も教えてもらおうかね?」
 皆さーん、ここに情報収集にかこつけて何かやってる人が居ますよー?

●接点
 再び焼肉屋へ場面は戻る。
 明菜は焼肉を食べていた。黙々と、そう黙々ともぐもぐと一心不乱に焼き上がった肉を片っ端から食べていた。周囲で写真を撮っている晶の行動など、どうでもいいといった様子で。……そこのあなた、現実逃避と言わないように。
「いやあ、いいアングルの絵が撮れましたねー」
 納得ゆく写真が何枚も撮れたのか、満足そうな口振りの晶。そういえば明菜の爪先の方の角度から露になった太もも方面へとカメラを向けていたりもしたが……そういった感じの写真なのか。
「ところで明菜さんにちょっと聞きたいんですが」
「……何ですか」
 網の上の肉を返す手を止め、明菜が晶へ顔を向けた。
「明菜さんは以前、榊姉妹の依頼を持ってきたような気がするんですがー」
「あ、はい、猫さんとうさぎさんのお世話のあれですね」
「彼女たちと個人的な面識があるんでしたっけ?」
「ありますよ、今もたまにお会いしてお茶することもありますし」
「どうしてお知り合いになったんです?」
「えっと、近所のお家に子猫が生まれたというので、見に行ったことがあるんですね。そこにたまたま来られていたのが、陽子さんと美弥子さんたちなんです」
「そうなんですかー。そういえば、2人とも普段は何されてる方なんです?」
「さあ?」
 明菜が首を傾げた。
「え、ご存知ない?」
「聞いていませんから。ただ、親の残してくれた資産で食べているとは言っていたような……。家賃収入とか」
 なるほど、資産家だから神魔人親睦推進団体・トリニティフレンズのスポンサーについたり、マンションの最上階1フロアを自分の家に出来たりするのだろう。
「ん〜、美味し♪」
 そうやって明菜と晶が会話をしている間、もぎゅもぎゅと寒椿は焼肉に舌鼓を打っていた。
 作戦名『ドキッ! メイドだらけの焼肉祭り 明菜さん弄りもあるよ』はこうして時が過ぎてゆくのであった……。

●隠された記録
 三度アスカロト。烈とエメラルダは別室にて、過去の記録を調べさせてもらっていた。
「おかしいな……」
「おかしいですわ」
 異口同音、2人の口から同じつぶやきが漏れていた。
「……どうして移送サーバント逃走の記録がないんだ?」
 眉をひそめる烈。エメラルダと2人してくまなく何度も探してみた。だが、例の事件の記録は一向に見付からないのだ。
「まさか紛失あるいは消失でしょうか」
「いやそれはないだろ。となると……」
 エメラルダの言葉を否定した烈の脳裏に、ある2文字が浮かび上がる――『隠蔽』。何か、不都合が生じる記録だったのだろうか。
「まあ、もう1つの方はどうにかそれらしい成果が得られそうだからまだましだけどな……」
 手元の印がいくつも入った日本地図に目を向けて烈が言った。それは同時多発的なサーバント襲撃であったと思しき事件の発生場所。そう、2年近く前の事件と類似したものを烈がピックアップした資料から、エメラルダがプロットしたのだ。
「地方でのサーバントの実状をまとめた資料があったのは助かりましたわね」
「ああ。あれはよくまとまってたよな。誰がまとめたか知らないが、感謝しないとな」
 そういった資料にも助けられ、完成したプロット図。事件はパトモス全土で発生しているようだが、スミルナル西部やベルガモン北部へやや偏りが見られた。もっとも今年に入ってからはまだそのような事件は起こっていないようだが。
「ロシア駐留の神帝軍の仕業かもなあ……」
 そのように推測する烈。位置関係からすると、そうなのかもしれない。そして気になる点が2つ。
「……もはやヴァーチャーの所持や強化型ネフィリムの量産も可能とする、十分可能なレベルまで感情エネルギーが集められているのか?」
 1つはこのこと。ロシア駐留の神帝軍の仕業であるなら、何かタイミングを探っている可能性がある。今年になって何もないというのが、逆に怪しいのだ。
 そしてもう1つ。プロットされた事件の中には、サーバントが村や町を避けるような行動を取っているケースがいくつか見られるのだ。まるで、また別の勢力が居るかのようで……。
「ともかく、後手に回らなきゃいいが」
 椅子の背もたれに寄りかかる烈。無言で頷くエメラルダ。
 その様子を、何故かサーチャーが窺っていたことを2人は知らない――。

●表立っては語られぬこと
 その頃、セメベルンにある『喫茶ソル』を1人の青年が訪れていた。
「マスター、ご無沙汰」
 青年――真田浩之はそう言って店に入ってくると、カウンター席へ座った。セメベルンでの調べ物の最中、一息入れるために以前訪れたここへやってきたのである。まあここに居るヴァルキューレが目的なのかもしれないが。
(さて、ファイルを役立ててくれるとありがたいんだが……)
 先日アスカロトへ送った地方サーバントの実状をまとめたファイルのことを思い出し、思案する浩之。それは『今出来る全てをする』という浩之の想いの結晶の1つとも言えた。これで何か確たる手を打てるのであれば、これほど喜ばしいことはない。
「お待たせしました」
 浩之の前にコーヒーが出てきた。香りと味をじっくり味わいながら、浩之は今日まで調べていたことを頭の中でまとめていた。
(そうか、人には従うがパトモスに従うことを是としない神属もやはり存在するのか……)
 それはセメベルンを一時的に拠点とするようになり、次第に浩之が分かってきたこと。神帝軍ではない、パトモス側でもない、第3の勢力の存在――。
「……複雑だなあ……」
「おや、分かりますか。色々な味がするでしょう、コーヒーは」
 浩之のつぶやきを勘違いしたマスターが、のんきにそう言った。

【了】