3月ともなると春の足音がそろそろ聞こえてくる。冬の寒さも、あと少しといった時期である。
しかし季節が移り変わろうとも、犯罪が減少するなんてことはまずない。よくて現状維持、悪ければとことん増加する一方だ。
今、ビルシャスでは困った事件が起こっていた。それは恥ずべき犯罪と言っていいだろう――痴漢というものだ。夜道、1人で歩いている女性を狙って背後からいきなり抱きつき、胸に触ってからすたこらさっさと逃げ去るというのだ。
被害者たちの話では、その犯人は170センチくらいで帽子を目深に被り、顔はサングラスとマスクをしていたためによく分からないという。服装は地味な感じだったそうだ。ただ、犯人からは柑橘系のいい匂いがしたなんていう話もいくつかあった。
事件の発生エリアは、ビルシャスの居住区や商店街区を中心とした範囲。とはいっても、どこかに偏っているのではなく点々と散らばっている。恐らく意識して偏らないようにしているのだろう。
で、被害者たちだが、年齢範囲は14〜38歳ほどと少々幅がある。種族も人間をはじめ、人化した魔皇や逢魔、同じく人化したファンタズマと、別段共通性がない。
だが……ただ1つだけ被害者女性たちの共通項が見付かった。
それはどう説明するのが一番よいのだろう。
その、何だ。
ええと……あのですね。
いわゆるひとつの、女性特有の胸の膨らみがですね。まあ……つまり、そう豊かではない方々が被害者な訳でして……。
俗にはとある漢字2文字で表現される方々だった訳です、ええ。
ある意味、犯人の特徴といえば特徴なのかもしれないけれども。
ともかく、これ以上被害者が増えないように、早急の犯人逮捕が望まれている。
では、諸君の健闘を祈る。
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