「魔皇様方、お願いいたしたい依頼があるのですけれど……」
デビルズネットワークタワー・アスカロト。サーチャーの逢魔・魅阿は集まった魔皇たちを見回してから、次のように言葉を続けた。
「申し訳ありませんが、この時点で引き受けると確約された方以外にはこの先をお話することは出来ません。引き受けると仰られる方々のみ、どうかお残りください」
この魅阿の物言いに、既視感を覚えた魔皇も居るかもしれない。何故ならそれは、昨年末にも聞いたようなフレーズである気がするから――。
そしてその場に残った魔皇たちを相手に、魅阿は依頼の内容について語り始める。
「魔皇様方には、ある人物の行動を調査していただきます」
ふむ、素行調査の類なのだろうか。魅阿が慎重を期していることからして、調査対象となっているのはきっとそれなりの身分を持つ者であるに違いない。
「その人物の名は……張文昇。中華人民共和国の官僚の方です」
……何ですと?
中華人民共和国の官僚を調べろと?
「ここに、張氏の明日の予定表があります。午前中はパトモス政府の複数の省庁を訪問、午後は2時頃より夕方まで施設の視察などを行うようです。そして、昼に2時間近く予定が入っていない時間帯があります。恐らく昼食の時間なのでしょう」
魅阿が張の明日の予定をざっと説明する。
「魔皇様方。明日、この調査が無事に終わりましたら、これよりお知らせする住所へお向かいください。そこに、今回この依頼をなされた方がお待ちですので」
……なるほど、調査が終わるまで依頼者は秘密ということか。いったい誰が、何のために中華人民共和国の官僚を調べようとしているのか……。
「それでは魔皇様方、くれぐれもお気を付けて……」
魅阿は深々と頭を下げた。
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