4月2日。
「悟られたか……」
男はもぬけの殻となった室内をゆっくりと見回してつぶやいた。ここはビルシャス某所のホテルの一室である。
「……探さなくてはならないな」
と言ってその男――張文昇は何処かに電話をかけ始めた。
時を同じくして。
「魔皇様方、緊急にお願いいたしたい依頼があります」
デビルズネットワークタワー・アスカロト。サーチャーの逢魔・魅阿は固い表情で言葉を発した。
「申し訳ありませんが、この時点で引き受けると確約された方以外にはこの先をお話することは出来ません。引き受けると仰られる方々のみ、どうかお残りください」
以前にも聞いたこのフレーズ。また何か、訳ありの依頼なのか……。
ともあれ、引き受ける意志を示した魔皇たちだけがその場に残ったことを確認し、魅阿は依頼の内容について話し始めた。
「魔皇様方にはこれよりある場所へ向かっていただき、そこに居られる方が指示される場所へともに向かっていただくことになります。なお、先方にはすでに話を通しておりますので……」
これはまた、漠然とした依頼だ。どこかからどこかへ、誰かを連れてゆくという依頼であることは分かるが、詳細がよく分からない。突っ込んで尋ねてみても、
「それは……答えられません」
と魅阿の口は固く。まあ引き受ける意志を示した以上、やるしかない訳だが……。
「それでは魔皇様方、くれぐれもお気を付けて……」
出発する魔皇たちに向かって、魅阿は深々と頭を下げた。そして、頭を下げたままぽつりとつぶやく。
「この国の未来がかかっていますから」
……それはよほど意識していないと聞こえないほどに小さなつぶやきであった。
アスカロトの近くで、出入口を見張っている怪しい影があった。
「――慌ただしく出てきたぞ」
「追ってくれ――」
そして影たちは、魔皇たちに気付かれぬよう後を追い始めた……。
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