4月4日――その日は春の日差しが何とも心地よい日であった。
「つまらねぇよなあ」
「退屈だよな」
しかしながら、ビルシャスをぷらぷらと歩いているとある2人にとってはそのような日であっても、あまり心地よくはないようで……。
「何でこう、オレたちが細かいヤマ追わなきゃなんねーんだ? タクもそう思うだろ?」
GDHP刑事・ユーリこと木下有理は、相棒のタクこと拓山良樹に同意を求めようとしたのだが、
「事件に大小はないぜ、ユーリ」
とタクにあえなく一蹴されてしまう。
「いやいやいや。オレは別にちっちゃいからおざなりにしてるってことはないぜ? たださ……何もオレたちが出る必要のないヤマが、ここんところ多くないかってことだ」
「……それは俺も同感だな」
慌てて言葉を付け加えたユーリに対し、タクは小さく頷いた。確かにユーリが言うように、ここの所は大きな事件を追う機会がぐっと少なくなっている。まるで、他の大きな事件に首を突っ込ませないかのごとく……。
「1つだけ思い当たる節があるんだ、俺」
「奇遇だな、タク。オレも1つあるんだよな」
「せーので言うか?」
「ああ。せーの」
「「黒山三郎」」
2人の言葉がはもった。黒山三郎といえばこの3日前に麻薬の使用容疑で逮捕拘束されている、パトモス国議会の人類派議員にして魔属に対する規制強化の強硬派代表格だ。
「……そういやあれ以来か、ユーリ?」
「だと思う」
去年の8月のことだ。女性のタレコミを受けて逮捕した男の部屋から、黒山のサインの入ったクーデター計画の書類が見付かったのは。
その直後からである。2人に、細かい事件がやたらと押し付けられるようになってきたのは。
「ま、オレたちゃ優秀だもんな」
「ああ。俺たちが出ると、他の連中の仕事がなくなるしな」
そんなことを言い放つユーリとタク。
その時である。2人の目の前を1人の女性が駆け抜けていったのは。背が高くスタイルもよい美人と言ってよい女性だったが、表情は強張ってどうも後ろを気にしているようであった。
「いい女だったな、タク」
「そうだな。怯えたような表情じゃなきゃなおいい女だ」
などと2人が話していると、今度は3人組の男が前を走り抜けていった。周囲に脇目も振らず、ただ女性が消えていった方へ向かってゆく3人組。
「タク、どう思う今の」
「逃げる女を追う男たち……か」
ユーリとタクは顔を見合わせると、ニヤッと笑った。
「「やっぱ味方すんのはいい女の方だよなあ」」
……そういう理由で動くのか、あんたらは。
「タク、手伝い呼ぶか?」
「デートの前に全員帰すんならいいぜ」
ともあれ、『あぶれる刑事』の2人は動き出した。何が待ち受けているとも知らず――。
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