5月1日――ビルシャス某所・榊進一郎事務所。今日、ここには大勢の者たちが集まっていた。
本人の事務所であるのだから榊が居るのはもちろんのこと、女性秘書の室町にその妹の沙織、それから榊の姪(兄の娘だ)である榊陽子、榊美弥子姉妹。さらには神魔人親睦推進団体・トリニティフレンズの会長である広重郁美、デビルズネットワークタワー・アスカロトのサーチャーの逢魔である明菜の姿もある。そして『あぶれる刑事』などと呼ばれるGDHPの刑事であるタクこと拓山良樹と、ユーリこと木下有理の姿まであった。
そこに加えて、明菜が連絡を取った魔属たちだ。いったいこれは何の集まりだというのだろうか……。
「『汚い爆弾』の使用を、何としても阻止しなければならない」
榊が皆の顔を見回してそう言い放った。
衝撃の情報が榊の元にもたらされたのは先月4日のこと。沙織が自らの生命顧みず届けてくれた情報は、『北海道』がこの新東京で『汚い爆弾』を使用を企んでいるというものであった。そして、その混乱に乗じて侵攻してくるというのだ。
『汚い爆弾』……『ダーティ・ボム』とも呼ばれるそれは、放射性廃棄物などの放射性物質を詰めた爆弾のことだ。そんなものが新東京で使用されてはたまったものではない。魔属や神属はまだしも、普通の人間も数多く暮らしているのだから……。
しかし、そのような情報を入手したのであれば、速やかにパトモス政府に報告すればよいではないか――普通、誰しもそのように考えることだろう。けれども、それを許さない事情があったのだ。
それは、この4月から津軽海峡の緊張度が著しく高まっていたことが大きい。何かきっかけさえあれば、すぐにでも交戦が開始されるほどに……。
そんな中で、これこれこういう情報がありますなどと言った日には、議会における榊の特異な立場もあって、下手すれば『北海道』のスパイとして榊の身柄が拘束されてしまう危険性があった。だから言えないまま、独自の伝手で可能な限り調べようとしたのである。
だがやはり限界はある。そこでこうして、自分よりも的確に動いてくれそうな者たちを一斉に集めたという訳だ。その判断は、ある意味正しい。
「出来れば、アスカロトで責任持ってお引き受けしたかったんですが……」
申し訳なさそうに明菜が言った。明菜はアスカロトに打診はしてみたのだ。してみたのだが……事情と状況ゆえ、アスカロトが表に立つと様々な問題が出てくるとのことで見送られたのである。だからここでこうして明菜が居るのも、アスカロトの公式見解としては『勝手にやったこと』となる訳だ。
「敵が実行に移る前に、予め対策を立てておきたい。素早く対処するためにも……どうか、知恵をお借りしたい」
榊が頭を下げて皆に頼む。
「私からもどうかお願いします、魔皇様方!!」
明菜も慌てて頭を下げて魔皇たちにお願いする。
形だけを見るのなら、榊個人からの依頼。けれども……影響するのは新東京、ひいてはパトモス全土の未来。そして、自分たちの未来。
よし、じゃあ……皆でいい知恵を出し合おうじゃないか。
全てが手遅れに、なる前に。
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