■逃避行、北へ【2】■
商品名 アクスディアEX・セイクリッドカウボーイ クリエーター名 高原恵
オープニング
 逃亡中の殺人犯――平坂雄太とその恋人である八田奈美を追うGDHPの捜査官や善意の協力者たちは、今はスミルナルと呼ばれる地域の一部分である旧の青森県に足を踏み入れていた。2人の乗った車が、青森で乗り捨てられていたからだ。
 そのことから、2人は青森に潜伏していると考えられていた。何故ならば、2人の出身地である北海道には現在行くことは出来ないのだから……。
 2人を追ったある者は、下北半島にある大間の地を訪れていた。そこは本州最北端の地、よく晴れた日には北海道がはっきりと見えるそうだという。2人がもし故郷を想ってここまで逃げてきたのだったら、きっと北海道の見える地へ姿を見せるのではないかと考えたのだ。
 だが、現在の所は2人の姿を発見出来ていない。来ているのかいないのかさえも分からなかった。狙いは悪くないと思われたのだが……ひょっとすると、探し方が悪かったのかもしれない。とにかく、2人の姿を探し出すことが先決であった。
 そして、スミルナル署から気になる情報が入っていた。被害者・黒田隼人の仲間たち数人も青森に現れたらしいという話である。残念ながら行先不明。しかし、非常に厳しい状態になったことは確かかもしれない。向こうに先に、平坂たちを捕らえさせる訳にはゆかないのだ。
 捜査は未だ継続中――。
シナリオ傾向 捜査:5/戦闘:?(5段階評価)
参加PC 高町・恭華
陣内・晶
路森・凜火
逃避行、北へ【2】
●朝刊にて
 その日の地元紙朝刊、社会面下方の片隅にこのような尋ね人広告が掲載されていた。
『黒田、五所川原で待つ 雄太』
 この広告を見るほとんど全ての読者は、これが何を意味するのか、まるで知らないはずだ。だが、ある特定の連中にとっては、何がしかの意味合いを持つことになるかもしれない。
「無事掲載されましたねえ」
 朝刊に目を通していた陣内晶は広告を見付けるなり、安堵の溜息を吐いていた。実はこの広告を掲載してもらうよう動いたのは、晶自身なのである。
 というのも、黒田の仲間が平坂たちを追いかけているという話が、どうにも引っかかっていたからだ。
(どうも嫌な予感が消えないんですよねー……)
 そんなことを思っていた晶は、ダメ元でこのような広告を出してみたのだ。一個人で広告がこう簡単に出せるのかという疑問はあるだろうが、いわゆる全国紙の類ではなく地元紙であることが幸いした。ある程度、融通がきいたのである。
 それに、だ。様々な要因(多くは語らないが、旧青森県の現状を見れば容易に想像つくはずだ)で収入手段も減少していることもあってか、きちんと支払いの算段を済ませれば受け付けてくれたのだ。まあ、晶が切羽詰まった様子を装って頼んだことも、プラスに働いたのかもしれないが。
 ともあれ、こうして広告は出た。狙いはもちろん、顔も分からぬ黒田の仲間たちである。相手も何がしかの方法で情報収集を行っているはず。そこでもし、この広告を見て引っかかってくれたのであればしめたものだ。
 ただ、懸念はある。
(……当人たちも引っかかったらまあ……これは不可抗力ですよね)
 平坂たちがこれを見て、訝しんで引っかかってしまうことがないとも言えないのだ。
 どうなるかは成り行き任せ、運次第。ひとまず晶は、知り合いのGDHP捜査官へ連絡を行うことにした。

●一路、津軽半島へ
「あ、はい、じゃあ、そうスミルナル署には連絡しておきますね。また何か分かったら連絡待ってますし、連絡しますから」
 軽自動車に乗り込もうとしていたGDHP捜査官の寒椿は、晶からかかってきた電話に対しそう受け答えをした。
 そして電話を終えると、ようやく軽自動車へ乗り込んだ。その姿はGDHPの制服ではなく普通の洋服。なら軽自動車も普通のかと言われると、それは違う。ご丁寧に無線機が搭載されている。いわゆる覆面パトカーの一種である。スミルナル署に交渉して、一見警察車両とは分かりにくい物を1台借り受けたのだ。
 寒椿はキーを差し込んでエンジンをかけると、携帯電話でスミルナル署へ連絡をした。晶の言っていたことを伝えるためである。
「そうです、ひょっとすると、五所川原に仲間が現れる可能性もゼロじゃないようなんで。パトロールをお願い出来ればとー……」
 どうにかそれも終え、やっと寒椿は車を走らせた。向かうは晶の居る下北半島――ではなく、何故か津軽半島方面である。
 それには寒椿なりの考えがあった。すなわち、出来ることならば北海道に渡りたいものと思われる平坂たちは、1度くらい各々の港や青函トンネル周辺を回っているはずではないか、と。
 また、渡るチャンスを待つとしても、何の手段もコネも持ち合わせていないはずの一般人の2人が1ケ所に長時間留まるとも思えない。かといって、様子を見れなくなる内陸の方へ向かうとは思えない。それゆえに、青森湾を転々としているのではないかと寒椿は考えたのだ。
「……こういう場合、普通のホテルを使った方が安全なんだけどー」
 一般的な傾向を口にする寒椿。しかし心の中ですぐにこう思った。
(そんな度胸と機転があるなら、そもそも当てなく逃げ出さないかな。やっぱり、人気のなさそうなトコ探して、野宿してるんだろうなー)
 途中、探すとすればそういった場所を中心にした方がよいのかもしれないと寒椿は思った。
「けど、もし青森に被害者の仲間が居たらどーするんだろ」
 懸念を口にする寒椿。もし居たなら、平坂たちを罠にかけてくる可能性があるかもしれないと思っていたのだ。例えば……北海道への密入国業者を装うなどして。
(そっちも調べなきゃ……)
 ああもう、やることが何て多いんだろう。身体は1つしかないというのに。

●遅れを取り戻すために
(出遅れているのは痛いな……)
 寒椿が津軽半島方面へ向かっていた頃、反対の下北半島方面にコアヴィークルで向かっている女性の姿があった。寒椿同様GDHPの捜査官、高町恭華である。こちらはGDHPの制服着用だ。
 恭華は一路、大間へと向かっていた。何しろ手がかりらしい手がかりがない。ならば北海道にもっとも近い場所へ向かい、猫の手となってくまなく探し回る他ないと考えたのである。
「……フィアリスが上手くやってくれるといいけれど」
 ここに居ない自らの逢魔、フィアリスの名を口にする恭華。フィアリスは今、スミルナル署に詰めて情報収集の真っ最中であったのだ。そこで何かつかむことが出来たなら、状況が好転するに違いないのだが――。

●各種情報取りまとめ
 場面変わって、スミルナル署。先に述べた通り、フィアリスはここに詰めてビルシャス署と連絡を取りつつ、情報収集を行っていた。
 その内容は大きく3つ。まず、平坂や奈美の縁者がここ旧青森県あるいはその近辺に居ないか。次に、黒田の仲間の顔写真はないか。そして、黒田の仲間の居場所についてである。
 いずれもとても手間取る内容だったが、それでも少しずつ情報は集まってきていた。例えそれが亀の歩みのごとくだったとしても、だ。
 まず平坂たちの縁者だが、旧青森県やその近辺には居ないようだということ。もっとも北海道内に関しては現在情報が途絶しているので不明であるが、普通に考えれば肉親や親戚などが居てもおかしくはないだろう。
 次に黒田の仲間の顔写真だが、これはビルシャス署が頑張ってくれた。黒田の部屋から、何人かの仲間と撮ったと思しき写真を見付けてきてくれたのである。
 さっそくそれは、スミルナル署の方へファックスで送信されていた。きっと仲間全員ではないだろうが、それでも恭華たちの捜査の助けになるはずである。
 最後に黒田の仲間の居場所だが――それがきちんと分かれば苦労はしない。これについてはまだまだ情報収集が必要であった。
(恭華に成果を伝えないと)
 そう思ったフィアリスが恭華へ連絡をしようと思った矢先、スミルナル署の署員が他の情報を親切にも持ってきてくれた。
「あっ、ありがとうございます」
 署員に礼を言い、紙の束を受け取るフィアリス。連絡するのは、これに目を通してからの方がよさそうだ。
 そして目を通し始めるフィアリス。しばらくして――。
「……えっ……?」
 フィアリスは驚きのつぶやきを発することとなった。

●検問所にて
 さて、津軽半島方面へ向かった寒椿だが、思わぬ壁にぶつかっていた。
「ここから先は、一般車両は原則通行禁止だ」
「だから、一般車両じゃなくて……はい、GDHPの身分証明書です!」
「GDHPだろうが原則通行禁止だ。しかるべき方法にて、許可を得てきてもらいたい」
「ううー……」
 その壁とは軍だ。蟹田辺りまで来た時に、パトモス陸軍が検問を敷いていたのである。さすがに青函トンネルが近くなってくると、こういうことが行われるのだ。
(許可取ってなんてしてたら、1日仕事になっちゃうなあ)
 溜息を吐く寒椿。しかし物は考え様である。GDHPの寒椿でさえこうなのだから、一般人である平坂たちが容易に検問を通過出来るはずがないのだ。
(よーし……)
 寒椿は思い切って、平坂と奈美の写真を検問にあたっている兵士たちに見せた。
「捜査のため、この2人を探しているんです。至急保護する必要があるんです! 目撃しませんでしたか?」
「……ちょっと待ちたまえ」
 兵士の1人が写真を寒椿から借り受けて、上官の判断を仰ぎに向かった。しばらくして戻ってきた兵士は、写真を寒椿に返してこう告げた。
「そういう報告は上がっていない」
(外れかあ)
 これで津軽半島の線は完全に消えたと考えていいだろう。寒椿は短く礼を言って、車をUターンさせた。
「よくよく考えるとこれって……何か危険手当申請したくなるお仕事だよねぇ」
 思わず愚痴が出る寒椿。いやほんと、洒落にならない仕事かもしれない……今回は特に。

●まさか、しかし、かもしれず
 大間では相変わらず晶が平坂たちの捜索を続けていた。やがて合流した恭華とともに、しらみつぶしに聞き込みを行う。
 高台や石碑のある辺り、港の方、その他諸々、写真を手に尋ねて回るが成果がない。というか、情報が皆無なのはどういう訳だ?
 いっそ大間から今別の方へ向かってやろうかと晶は思ったが、その前に寒椿から津軽半島の線が消えたことの連絡があって、行くことをやめた。
 そんな時、恭華に連絡が入った。フィアリスからだ。
「もしもし。ああ、フィアリス」
 そして現在までに集まった情報を聞く。
「あ、そうだ。ついでにレンタカー会社の情報とか聞いてもらえませんか?」
 晶がそう頼んだのと、恭華が眉をひそめた瞬間がほぼ同時であった。
「ない? ないって、どういう……」
 恭華は詳しい事情をフィアリスに尋ねる。答えはすぐに返ってきた。
「どれにも引っかかってない? ……分かった、ありがとう。じゃ、ファックスは交番で受け取ればいいのね」
「どうしたんです?」
 恭華が電話を切ると同時に、晶が尋ねた。
「レンタカー、盗難車、タクシー、宿泊施設……いずれも、2人らしいカップルは目撃されていないって」
「はい? じゃあ、どうやって移動を?」
 恭華の言葉に首を傾げる晶。宿泊施設の方はまだ分かる。ばれぬよう、野宿をしているのだろうと考えられるから。しかし、移動手段が引っかからないのはどういうことだ?
「2人とも普通の人間のはずなのに」
 恭華も思案する。すぐに思い付くのは2つ。1つはヒッチハイク、そしてもう1つは――徒歩。
 まさかとは思うが、そのまさかだったら……ひょっとして……追い抜いてしまった……とかですか……?

●そこに、居た
 ともあれ、捜索方針を練り直す前に、恭華と晶は交番へ届いているファックスを受け取りに向かった。確かにそこには、フィアリスから黒田が数人の仲間と撮った写真が送られていた。しかし、何故か写真がもう1つある。これは1人だけ、単独で映っている。集合写真の方にはない顔だった。
 恭華がフィアリスに連絡を取ると、ファックスを送る前にビルシャス署から追加の報告が来たというのだ。何でも黒田の仲間の1人が麻薬の売人をやっていたことが分かったそうなのだ。単独の写真の男がそうだという。
 ファックスを受け取った恭華と晶は、1度大間から逆に辿ってみようかと話し合い、コアヴィークルを走らせたのだが――。
「あっ」
 恭華が何かを発見し、急停止する。晶もそれに続いて急停止。
「どうしました?」
「……今、あっちに写真の中の1人が」
 指差す恭華。今は誰も居ないが、指差す先を確かに通ったのだという。
 2人は逆に辿るのを急遽中止し、再び大間の捜索へ戻った。本当に写真の中の1人が居たのであれば、平坂たちもここに現れたか現れるかするであろうから。
 今、迂闊に大間を離れる訳にはいかなかった。

●残りは何人?
 一方、寒椿は青森市内へ逆戻りしている最中だった。そんな寒椿に、スミルナル署から連絡が入る。車を急いで止め、寒椿が電話に出た。
「もしもし。はい、寒椿です。……え、捕まった!?」
 それは五所川原で黒田の仲間と思しき5人が逮捕されたというものであった。職務質問に応じず抵抗したので、とりあえず公務執行妨害で引っ張ってきたらしい。
 何故黒田の仲間と思われるかというと、所持品の中に平坂らしき似顔絵があったのだという。
 5人の内訳はまだ不明だが、少なくとも1人は地元の者が含まれているようだ。抵抗された時に、なまりが出ていたのだそうだ。
「だけど……これで全員なんかじゃないよね、絶対」
 電話を切って、寒椿がぼそりとつぶやいた。
 どの方向へかは分からないものの、確実に捜査の糸は動いていた――。

【了】