■逃避行、北へ【3】■
商品名 アクスディアEX・セイクリッドカウボーイ クリエーター名 高原恵
オープニング
 逃亡中の殺人犯――平坂雄太とその恋人である八田奈美を追うGDHPの捜査官や善意の協力者たちは、今はスミルナルと呼ばれる地域の一部分である旧の青森県にて捜査を続けていた。
 平坂と奈美が未だに捕まらない中、事態はどうも悪い方へ進んでいる気がしてならなかった。何しろ、被害者・黒田隼人の仲間たち数人も青森に現れたらしいという話があり、つい先程入った連絡によると、五所川原で黒田の仲間と思しき5人が逮捕されたというではないか。
 だが、逮捕された5人の少なくとも1人からは地元のなまりがあったという。これはあれか、誰かが懸念していた青森に居る黒田の仲間なり知り合いなりが加わったということか?
 しかし黒田の仲間たちの一部については、写真が手に入っている。見れば分かるはずだ――と思っていた矢先、何と大間にその写真に映っていた1人が現れたのだ!
 果たして大間の地で、何が起ころうとしているのか……捜査は重大局面を迎えようとしていた。
シナリオ傾向 捜査:5/戦闘:?(5段階評価)
参加PC 陣内・晶
路森・凜火
逃避行、北へ【3】
●追って、追って、追って
 寒椿はスミルナル署に借り受けている覆面パトカー(一見そうとは見えにくいミニバンタイプだ)を、大間へ向けて懸命に走らせていた。
「……あっはっは、まだ来てなかったんだね」
 運転する車内で笑う寒椿。どこからどう見ても乾いた笑い。平坂と奈美の姿が目撃されていないという連絡を受けてから、10数分に1度の間隔で寒椿はこんな感じだった。
 連絡受けた当初、まさかまだ青森にも辿り着いていないのか、と寒椿は思った。だがこの時の寒椿は、よほど焦って忘れていたのだろう。平坂たちの乗っていた車が、青森にて乗り捨てられていたことを。
 見付かった場所は青森市内なのだから、落ち着いて考えれば2人が青森に居るだろうことは明白で。……状況が緊迫してくると、ついつい忘れてしまうのかもしれない。
 そのことをすぐに思い出した寒椿は、こういう方法を取ることにした。青森市内でのその車の発見場所から大間へ向かって、普通の人間が歩けるような比較的安全な地域で聞き込みを行おうというのだ。
(どうも長距離移動ドライバーへの聞き込みは芳しくないようだから……)
 仮にもし平坂たちがヒッチハイクしているのなら、長距離移動のトラックなどに乗せてもらうのが楽だろう。だが、そちらで2人の情報が引っかかったという話は聞いていない。
 ならば考え方をこう変えてみよう。長距離でなく、近距離ならばどうなのかと。ひょっとしてヒッチハイクの際、その土地その土地の地元の一般人の車を選んでいるのでは……?
(小刻みに移動すればそれほど怪しまれない、追う方も分かり辛いって思っているのかな)
 そう考える寒椿。だが実際に追う方からしてみれば、そうでもなかったりする。どういう手段を取ろうが、手がかりをつかまれたらそこを辿ってこられてしまうのだから。変わるのは、手がかりをつかまれるまでにかかる時間くらいではないだろうか。……もっとも今回の場合、見事に時間を稼いでいる訳ではあるのだが。
 そうこうしているうちに、またスミルナル署から連絡が入ってくる。無線で報告されたそれは検問設置の報告であった。大間方面に向かって、急ぎ検問の設置を開始したということだ。陣内晶が黒田の仲間を大間で発見したという報告をした際、検問を行うべきではと提言したのだ。
 それを聞いた寒椿は、無線のマイクをつかんでこう頼んだ。
「なら一緒にこのことを聞いてもらえませんか。『ヒッチハイクをする男女2人』を見なかったか、乗せたことはなかったかと、ドライバーの人に」
 寒椿は無線を切ると、覆面パトカーの速度を上げた。こうなってくると、悠長に南から聞き込みをしている場合ではない。検問は南から順次設置されてゆくだろうから、一気にある程度の所まで行ってしまってから聞き込みを行った方がよいだろうと思い――。

●罠がそこには用意されていた
 一方、大間の地には晶が1人留まっていた。いや、留まらざるを得なかったのだ。繰り返しになるが、黒田の仲間を発見してしまったのだから……。
 素早く探したからだろう、その黒田の仲間は難なく見付けることが出来た。見間違いなどではなかったのだ。
(しかし、微妙に手に余る問題になってきましたねえ)
 そんなことを思いながらも晶は黒田の仲間の見張りを続ける。晶の格好は目立たない地味な服、そして片手に地図だ。どうやら見咎められた時に、道に迷った旅行者を装えるようにしているようだ。……ある意味迷ってはいる訳なのだが、それはともかく。
 距離を置き、晶は黒田の仲間を追いかける。黒田の仲間はあちこち動いてから、やがて海岸向けて歩き出す。そして着いたのは、放置されて久しいと思われる小屋であった。
 黒田の仲間はそこへ入っていった。
「……ここが拠点?」
 ぼそっとつぶやく晶。慎重に小屋へと近付いてみた。窓は……残念ながらない。中の様子を窺おうとするなら、隙間から気を付けて覗く他ないようだ。下手すれば相手にばれてしまう危険性があるが仕方がない。
 ここはという隙間を見付け、晶はそっと覗き込んでみた。中には5人の男の姿があった。1人はもちろん晶が見張っていた黒田の仲間、残る4人のうちの1人は先程見た単独の写真に映っていた奴だ。あとの3人は見たことない顔だ。
 漏れ聞こえる男たちの会話に、晶が聞き耳を立てる。
「分かってるな?」
「ああ、俺たちは北海道への密航請負人を装う……だったな」
「で、ここに夜まで閉じ込めて……」
「……夜になったら男は海にドボンだ。女は……へっ」
「うちの兄貴の親友なら、黒田さんは俺らにとっても兄貴です。最後まで協力させてもらいます。な、そうだろ?」
「おうっ!」
「もちろんだ!」
 ……何だか大変なことになっている。
(1対5……多勢に無勢ぽいですね。まだ人数も増えそうですし、警察へ電話して一網打尽にしてもらいましょうか)
 と晶が考えたその時、中の男の1人の携帯電話が鳴った。晶が見張っていた男のだ。
「もしもし、ああ俺だ。……そうか、分かった。しばらくすれば大間に着くんだな。そのまま『丁重に』連れてきてくれ」
(うわ)
 晶は思わず頭を抱えたくなった。この展開は……最悪じゃないか!!
 晶の脳裏に、砂浜で木や石を使って墓を2つ建てている自分の姿がぼんやり浮かんでいた……。

●尻尾に手が届きそうなのに
「見たんですか!?」
 寒椿は聞き込み相手である中年女性の話を聞いて、思わず驚きの声を発していた。
「見たのは横顔とほとんど後ろ姿だけど、そんな感じかねえ」
「……カップルは車の後部座席に乗ったんですね?」
 確認する寒椿。後ろ姿を見たというのはきっとそのことだろう。ならば2人の横顔は、車に乗り込む時に見たに違いない。
「そうそう。後部座席。そんでずーっと向こうに走って……大間にでも行ったんじゃないかねえ?」
 これはかなり有力な手がかりだ。2人は確実に北へ向かっているのだ。
「あ、他に何か気になったこととかありましたか?」
 念を入れ、寒椿は尋ねてみた。中年女性は少し考えてからこう答えた。
「うーん、名前は知らんけど、浮かんでるバイクみたいなのがそばに1台か2台居たかも……」
「!!」
 寒椿は驚愕した。浮かぶバイク……それってコアヴィークルではないのか!?
(……1歩遅かったぁっ!!)
 この状況、話が真実であれば――平坂と奈美は、黒田の仲間たちの手に落ちたと考えられる。
 頭が痛くなってきた寒椿の元に、スミルナル署から連絡が入った。それは検問で、黒田の仲間と思しき者たち7人を身柄拘束したという報告。彼らは一路大間を目指していたそうだ。
 で、晶からの連絡もあって救援を大間へ向けて送ったが、寒椿も先行しているなら大間へ向かってもらいたいとのこと。
 ……こうなったら戦闘力どうのこうのの問題でなく、大間へ向かうしかないでしょう。
 これまでの捜査にけりをつけるために――。

【了】