■あぶれる刑事 ―頭痛―■
商品名 アクスディアEX・セイクリッドカウボーイ クリエーター名 高原恵
オープニング
「ユーリ、お前その話信じていいんだろうな?」
「あたぼうよ、タク。信じてるから一緒に来たんだろ?」
 ビルシャス某所、下町風情漂う地の路地を2人の男が歩いていた。GDHPの刑事・タクこと拓山良樹、同じくGDHP刑事・ユーリこと木下有理――人呼んで『あぶれる刑事』とはこの2人のことだ。
 2人は今、行方不明となっている爆弾を探してここへ来ていた。数カ月の捜査の上、ようやく確かな情報をつかんだのである。
「そんなこと言って、こないだ紹介してもらった女には酷い目に遭ったからな」
 表情変えずタクが愚痴る。
「あらー? タクの好みだったろ、アケミちゃん?」
「ああ好みだったさ。……彼氏って奴が5人もレストランに現れなきゃな」
「あーらら」
 あちゃーという表情を浮かべるユーリ。さすがにそこまでユーリは知らなかった模様で。
「ま、今日のこれはさすがにそうはならないからさ、タク。何度もヤサ変えてたようだけど、今度こそ尻尾つかんだんだ」
「で、行ったら敵がわんさかか?」
「……お嫌いですか?」
「お好きです」
 顔を見合わせて、2人がニヤリと笑った。と、その時だ。
 ズキューン……!
 銃声が聞こえてきた。それも2人が向かっていた方角から。
「た、助けてくれぇっ!!」
 1人の男が前方から駆けてきていた。
「GDHPだ! どうした、何があった! 今の銃声は!!」
 男を捕まえ、タクが矢継早に質問を浴びせる。すると男はこう答えた。
「頼む、捕まえてくれ! 死ぬよかましだ!! 俺を自首扱いにしてくれ!!!」
 はっとして顔を見合わせる2人。もしやこの男……?
「おい、爆弾はどうした? 何があった?」
 ユーリが男に顔を思い切り近付け尋ねる。
「爆弾は部屋にある! けどよ……仲間2人が馬鹿やりやがったんだよ!!」
「だから何を」
「俺の知らない間に薬に手を出してやがったようなんだよ!! 2人していきなり叫んだかと思うと、銃を出してきやがって……俺に向けようとしやがったんだ!!」
「「何ぃ?」」
 タクとユーリの声がはもった。どうやらその2人、麻薬の影響でトリップしてしまっているようだ。
「厄介だぜ」
 ユーリが吐き捨てるようにつぶやく。何て頭が痛い展開だ。
「ああ、厄介だ。……爆弾もまだ、そこにあるんだろ?」
「ああっ!?」
 タクの言葉にユーリの目が点になった。
 目指す場所は1階建ての小さな平屋。周囲には普通に家もある。そこで爆弾が破裂したら……洒落にならない。
 これは下手に長引かせるのは不味いかもしれない――。
シナリオ傾向 捜査:5(5段階評価)
参加PC 伊達・正和
高町・恭華
タスク・ディル
緑川・圭吾
あぶれる刑事 ―頭痛―
●応援到着
 近所で銃声が聞こえ、狼狽しない住民はまず居ない。様子が妙だと感じた周辺住民たちは、慌てふためき自宅からの避難を開始していた。タクやユーリたちが避難を促すより早くだ。
「はいはい、落ち着いて!」
「GDHPです! 我々の指示に従ってください!」
 ユーリもタクもそう叫ぶはいいが、住民たちはろくに聞いておらず。2人を無視してとっとと逃げてゆく。まあ下手にこの場に留まっていられるよりは、遥かにましではあるけれども。
「こらっ、GDHPだど! 落ち着けっつってんだろっ!! 逮捕すっど!!」
「お前が落ち着けよ」
 手が出そうになるユーリへ、冷静にタクが突っ込んだ。小さく、ごめんと謝るユーリ。
 そうこうしているうちに、騒ぎを聞き付けたか、応援要請を受けたかした者たちが2人の元へ相次いでやってくる。
「大変なことになってるな」
 いち早く姿を見せたのは、以前の捜査にて協力してもらった伊達正和だった。思いがけぬ正和の登場に、思わずユーリが尋ねた。
「あら? 何でここに?」
「ああ。GDHPに情報提供してた最中に、この騒ぎのことを聞いたんだ。無関係とも思えないからな」
「情報の内容は?」
 今度はタクが尋ねる。
「……麻薬の密輸だ。先日引き受けた仕事で、仲間が妙な噂を聞いたらしい」
「麻薬の?」
「……密輸?」
 ユーリとタクが正和の言葉に顔を見合わせた。
「詳細まではあれだが、どうも東南アジア方面から入ってきているそうだ」
「タク。これさ、あとで入手経路吐かせた方がよくね?」
「オーケー。なら急所は外すか」
 狙う気だったのか、タク。
「……相変わらずだねえ」
 と、そこに呆れた声が聞こえてきた。見るとそこには呆れ顔のタスク・ディルの姿が。
「相手も銃を撃ちたくて仕方ないみたいだし、2人と気が合いそうだね。説得でも十分じゃない?」
「「一緒にするなよな」」
 タクとユーリがはもってタスクへ言い返す。
「で、周囲の避難は済んでるの」
 反論を無視し、しれっと尋ねるタスク。
「オレたちが指示する前に避難始めた」
「非常に優秀だよな」
 2人の言葉にとげがあるように思えるのは、気のせいということにしておこう。
「ま、いーけどね」
 そしてタスクはくるりと、自首してきた男の方へ向き直る。
「家の間取りはどうなってるの。それと爆弾の隠し場所と……起爆させる方法か」
 肝心な質問をタスクは男へ行った。男は素直に答える。爆弾は物置にあって、少なくとも男が飛び出したきた時に他の2人が居た部屋とは多少離れているということ。それと、起爆装置はいずれもタイマー式であるとのこと。
「数は」
 タクが突っ込んで男に尋ねた。
「よ、4つだ」
 整理しておこう。作られたのが10個前後。その内、今までに回収出来たのが5個。で、ここに4個。……まだ他の所に残っていることがこれで確定した。
「頭痛ぇな」
 ユーリが明後日の方を向いてつぶやいた。そのつぶやきがここに4個あることに対してか、それともまだ探さなきゃならないことに対してかは分からない。
 やがてパトカーが何台もやってきて、この地域一帯の本格的な封鎖が始まった。これにより周辺住民の身体への被害はほぼ回避出来ることだろう。それでも、万一爆弾を爆発させてしまったなら、家など財産への被害は起こる訳だけれども。
「遅くなった!」
 そんな時、声とともにたたたと駆けてくる足音が。魔機装鎧エステルに身を包んだ緑川圭吾だ。後方には、乗ってきたパトカーから降りようとしている妻にして逢魔のクレアの姿もあった。
「お、特殊急襲部隊の登場だ」
 圭吾の姿を見てつぶやくユーリ。まあエステルといえば特殊急襲部隊に結び付くのは当然のことだろう。すると突然、怪訝な表情を浮かべた。
「……いつから異動したんだ、あいつ?」
 ユーリが怪訝な表情をした理由、それは見慣れた顔がやはりエステルに身を包んでいたからである――GDHP捜査官の高町恭華が、遅れてやってきた。その後を、逢魔のフィアリスがややぐったりした様子でついてくる。
「違うよな?」
 タクが恭華を親指で示し圭吾へ尋ねた。
「いや、違う」
 こくっと小さく頷く圭吾。はて、じゃあ何故恭華はエステルを装備しているのだろう。本人に聞いてみるべきかもしれない。
「これ? 銃有り、爆弾有り、麻薬で錯乱中と3拍子揃って危険だから、使用許可の申請を……」
 と言って、恭華はフィアリスの方へ振り返った。
「よく許可降りたな、そんなに早く」
「だいぶ苦労しました……」
 ユーリの疑問にぐったりしたフィアリスが答える。どうやら使用申請にかなり駆けずり回ったようだ。もしかしたら、多少無茶もしたのかもしれない。
「そもそもタイミングが悪い。他の所に、人員が出払っている所にこれなもんだから」
 助け舟という訳ではないが、恭華たちの言葉に圭吾が補足する。ゆえに、許可が早く降りたんじゃないかということだ。
「それはそれとして。大事だよねえ、拳銃を持ったヤク中が外に出たら……」
 固い表情で圭吾が言った。
「ああ。だからここで決める」
 きっぱりと簡潔にタクが言う。縦横無尽に逃げ回る、武器を持った麻薬中毒者ほど厄介な存在はない。
「で、間取りとかは?」
「もう聞いたよ」
 圭吾へタスクが言った。そして男から聞いた情報を、圭吾や恭華たちへも伝える。
「ここで決めるつもりなら、一気に行くべきなのかもな」
 タクの先程の言葉を受けて、正和が思案しながら言った。
「……一気に制圧出来そうじゃね?」
 ユーリがちらと圭吾と恭華を見る。エステルに身を包んだ2人なら、銃撃を受けたとしても防御膜のおかげで多少は耐えられるはずだから。
 ぐずぐずしてはいられない。急いで作戦会議が行われる。その結果、表と裏から一気に制圧することでまとまった。
 表、すなわち正面に回るのはタク、恭華、フィアリス、クレアの4人。裏に回るのは、ユーリ、タスク、正和、そして圭吾の4人である。人数バランスもちょうどよい。
「……と、こんなところかね。じゃ、いってみるか」
 作戦もまとまり、一足早く動き出す圭吾。その背中に向かってクレアが大きな声で言った。
「了解ヨ。一緒に頑張りましょ、ダ〜リン!」
「よっ、お熱いねっ!」
 ユーリが圭吾へ冷やかしの声をかけた。思わず圭吾苦笑い――。

●一気呵成
「……イッてる目つきだ」
 表側、窓際に陣取っている犯人たちを見て、タクが面倒そうにつぶやいた。
「こちら裏。表はどーだ、どうぞ」
 通信機からユーリの声が聞こえてくる。裏側はスタンバイ出来たようだ。
「表だ。こっちはいつでもいいぜ、どうぞ」
「裏、了解。90秒後に突入する、どうぞ」
「表、了解。90秒後だな、どうぞ」
 作戦の概要はこうだ。タスクや圭吾の提案で、表と裏、タイミングを合わせて突入することになっていた。その際、表側には犯人たちを引き付けてもらう必要があった。そうしている間に、裏側が入り込んで犯人急襲および爆弾の確保・回収を行うという手筈だ。
 幸い、逃げ出してきた男は裏口から出てきたというので、そのままであれば鍵は開いているはず。表の玄関も、鍵はかかっていなかったはずだという。
 90秒経過――作戦開始。タクが窓際へ向け銃弾を放った。まずは威嚇射撃である。
「出たな化け物ぉぉぉぉっ!!」
 銃弾に驚いた犯人の1人がそう叫んで窓を開いた。
「@*&%$#¥!!」
 もう1人の方はろくに日本語になっちゃいない。意味不明なことを叫んでいた。2人して、だいぶ『キテいる』模様。
「あいつらいつから麻薬やってんだ?」
 そんな疑問を口にしながらも、タクは銃をまた撃つ。恭華が正面から突入するべく飛び出してゆく。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 化け物と叫んだ男の方が、恭華へ銃を撃った。だがちゃんと狙えていなかったか銃弾は僅かに逸れて、恭華のそばの地面へ向かう。
「らひゃひゃあひゃうげひゃーっ!!!」
 もう1人の方はタクの方へ向けて乱射だ。しっちゃかめっちゃかに撃ってくるものだから、下手に動かない方がよかった。
「危ないじゃないのヨ!」
 クレア、援護射撃開始。今頃は裏から圭吾たちが突入しているはずであった。
 その頃裏側は、作戦通りに裏口から突入していた。ユーリとタスクは爆弾確保へ、圭吾は犯人たちを捕らえるべく最短距離で2人の居る部屋へ向かう。
 圭吾が部屋へ足を踏み入れた時、犯人たちは表のタクと恭華に釘付けであった。圭吾は自分に近い犯人の拳銃を持つ腕目がけて、警棒を振り降ろした。
「うっ?」
 警棒を受けた犯人は、衝撃で銃を取り落とす。だが痛がっている様子はない。麻薬の影響なのか、痛覚が麻痺してしまっているみたいだ。
「くたばれ化け物ぉぉぉぉぉぉっ!!」
 銃を取り落とした犯人は、叫びながら圭吾へと向かってきた。
「あひゃらひゃけひゃーっ!? にょひゃらけーーっ!!」
 もう1人の犯人は目の前の展開に対し、他の部屋へ逃れようと試みる。そして隣の部屋へ入った瞬間――首の後ろに衝撃が走った。
 そのまま男は銃を持った腕を固められ、もう一方の腕で首を絞められる。圭吾とは別ルートで部屋へ近付いていた正和が、隣の部屋で潜んでいたのである。
 いわゆる盆の窪を突いた正和のやり方は正しかった。痛覚などが麻痺している状態の麻薬中毒者相手では、素早く無力化する方がよいのだ。多少は抵抗を見せていた男も、すぐにぐったりとなった。
「ふう、やれやれだ」
 正和は男の手から離れた銃を、静かに拾い上げた。
 一方、圭吾に向かった男の方も、かなりやられていた。警棒でがしがしと圭吾にやられているのだが、それでも男は向かってゆく。そこへ窓から恭華が飛び込んできた。
「はっ!!」
 恭華が気合いとともに男を後ろから羽交い締めにすると、圭吾は警棒を両手で握り直して一息に男のみぞおちを突いた。
「ぐあっ!?」
 さすがにこれは効いたようで、こっちの男もぐったりとなった。
「……麻薬の力は怖いね」
 ぼそっとつぶやく圭吾。改めて、麻薬の恐ろしさを感じていた。
「爆弾は?」
 恭華が周囲を見回して言った。そうだ、まだそれが残っていた。
「回収したどー」
 そこへユーリがひょいと顔を出す。すぐにタスクもやってきた。
「爆弾は4つとも手付かず。作動もしてないから、処理班に任せていいんじゃない」
 さらりとタスクが言った。そこで圭吾が持参していた爆弾処理用のケースへ収め、爆発物処理班の到着を待つことにした。
 かくして作戦は成功。犠牲者ならびに周辺への被害を出すことなく、彼らは事態を収拾したのであった。

●その後
 逮捕された犯人たちは、当然ながら取り調べを受けた。麻薬を使用していた者たちは、その入手経路なども追求されることになる。
 さて、いったいどんなことが分かるのだろう。嫌な予感が……する。

【了】