■【真夏の水泳大会】プールの女王コンテスト■
商品名 アクスディアEX・トリニティカレッジ クリエーター名 高原恵
オープニング
 梅雨も明けた夏8月――お盆の時期を前にして、神魔人学園では一大イベントが開かれることとなった。その名も『真夏の水泳大会』、場所は遊戯施設として開放される神魔人学園の屋内プールだ。
 生徒会長・道真神楽が襲われ怪我したことで一時は開催そのものが危ぶまれたが、神楽の鶴の一声によって、当初の予定より遅れてしまったがこうして実施されることとなった。
 ちなみにこのイベント、世界制服同好会の会長・高野真里が水泳部をはじめとしたあちこちの部を巻き込んで実現させたものだったりする。

 この『真夏の水泳大会』の最後を締めくくるのは、『プールの女王コンテスト』だ。エントリーした者は水着姿と一芸姿、そしてプールで泳いだり戯れる姿を披露して審査員10人による審査を受けることになる。その中には飛び込みの時同様、神楽や真里などの姿も見られる。
 我こそはと思う者はぜひエントリーし、存分に自らの魅力などをアピールしてもらいたい。
 なお優勝者には、『神魔人学園・プールの女王』なる称号と、ビルシャス某所のスイーツバイキング招待券がペアで贈られるので頑張ってほしい。
 それでは参加者希望者はこちらで受付を――。
シナリオ傾向 コンテスト:6/ほのぼの:5(5段階評価)
参加PC 彩門・和意
チリュウ・ミカ
真田・音夢
【真夏の水泳大会】プールの女王コンテスト
●今、自分に出来ること
 スタンドの観客席に人が増え始める。見れば、入ってきた者の多くは大きめなカメラを持っているように思える。恐らく、最初の世界制服同好会の発表会を見てから外へ出ていった連中が戻ってきたのであろう。
「いい! 水着いい!」
 ……まだ居たのか、あなた。
 ともあれ再び観客の増え始めたスタンド。その一角、床にバスタオルを敷いて横になっている者が居た。全5種目、全てに参加してきた彩門和意であった。
「和意様、お疲れさまでした」
 鈴が横になって疲労を癒している和意へ、ゆっくりとうちわを扇いで風を送っている。
「ほんと……疲れましたねぇ」
 とつぶやく和意の目は疲れのためかとろんとしていて、いつ眠りの世界へ落ちても不思議ではないように見えた。
「ただ今、プールの女王コンテストへの出場者を募集しております。我と思わん方はどうぞふるってご参加ください。見事女王に輝いた方には、スイーツバイキング招待券がペアで贈られます……」
 会場にコンテスト参加者を募るアナウンスが流れた。それに鈴が反応を見せる。
「スイーツバイキング……」
 鈴は横になっている和意をちらりと見た。
(疲れた時には甘い物がよいのですよね……)
 思案する鈴。水着姿、人前に出るのは恥ずかしい。けれども――。
「……さすがにこれは参加出来そうにはないですね」
 冗談ぽく和意が言う。まあ『女王』なのだから、男性である和意には無理だ。
「和意様。わたくし、しばらく席を外しますわね」
 やがて意を決し、立ち上がる鈴。どうやらコンテストに出場する気のようだ。
「あ……いってらっしゃい。じゃあ鈴さん、僕は少し休ませてもらいます」
 和意はそう言うと、静かに目を閉じた。

●受付にて
「うー……暑いな」
 救護テントの中、ぐでっとだれているのはチリュウ・ミカであった。発表会からこっち、ずっと救護テントに居座っていたミカは、カチ割り氷を氷嚢代わりにしていた。
 救護テントゆえ、それなりに仕事はあった。例えば飛び込み競技の後には、失敗した参加者が何人かやってきたし、ばらまき借り物競争の後でもぶつかって鼻血を出したとか怪我したという参加者が数人やってきた。それらの処置にかかっている時間を除けば、全体的にのんびりとはしていたのかもしれない。暑いけれども。
(しかし、毛布を借りに来たのには驚いたな)
 ばらまき借り物競争の時のことを思い返すミカ。和意が大急ぎでやってきた姿が頭に浮かんでいた。
「……あ、そういえばクリス出場するって言ってたっけ」
 カチ割り氷の冷たさにぼんやりしてた頭も冴えてきたか、ようやくそのことを思い出すミカ。逢魔のクリスクリスが、そう言って数日前から何やら準備をしていたような気がする。
 そのクリスクリス、コンテストの受付に一番乗りを果たしていた。
「はい、はい、はーい! 参加しまーす!!」
 元気よく言い放ち、登録用紙に必要事項を書いてゆくクリスクリス。と、隣に人影が。何気なくそちらを見てみると……。
「え、サナさん?」
 驚くクリスクリス。何と世界制服同好会・会計兼書記のサナ・カスケードの姿がそこにあったのである。
「あなたも参加されるのですか?」
 サナもクリスクリスが居ることを知って、にこやかに話しかけてきた。あなた『も』?
(むむっ、強敵出現!)
 直感的にクリスクリスはそう思った。何しろサナはスタイル抜群、水着映えすることは確実なはずだ。
「……まさか神楽会長や真里先輩は出場しないよね?」
 ぼそりとつぶやき、きょろきょろと辺りを見るクリスクリス。するとサナが笑っていった。
「お2人とも審査員です」
「そーなの?」
 それを聞いてクリスクリスは安堵した。ならば、ひとまずの要注意はサナだけだ。出場者が集まるにつれ、増えてゆくかもしれないけれど――。

●彼女の意向
 さて、コンテストのアナウンスはこの人も聞いていた訳で。
「ま、まさか、マスター。出場しろなどということは……?」
 何故かびくびくしながら、恐る恐る尋ねているのはギリアム。尋ねる相手は彼の魔皇、マスターである真田音夢である。ちなみにギリアム、今は女装などではなく普通の格好だ。
「…………」
 無言でギリアムを見る音夢。無言なのが逆にギリアムには胃が痛い時間。
(……うう……)
 ギリアムの脳裏に、発表会の時の音夢のつぶやきが蘇ってくる。『ポロリと切るの、どっちがいい?』とか、『……超回復をもってすれば、10日で元通り……』といった不穏な発言の数々。しかも冗談なのか本気なのか、判断に困る表情で言ってくるから始末におえない。
 さあ、今度は何を音夢が言うのかと思いきや――。
「参加しなくて結構です」
 おや、意外な言葉。ギリアムは一瞬耳を疑った。
「……参加しなくてよろしいのです、か?」
 なので、つい聞かなくていいことを聞いてしまった。
「ええ」
 短く答える音夢。それでようやくギリアムはほっと胸を撫で下ろすことが出来た。
「タマは女王ってカンジじゃない」
 音夢がギリアムを見ずに、ぼそっとつぶやいた。なるほど、そういう基準だったのか。
「……どっちかというと妹キャラ」
 ちょっと待った、音夢さん。今のつぶやき聞いて、ギリアムさんがずーんと沈んでます。
(い、妹キャラって……)
 念のため繰り返しておくが、ギリアムは男性である。あくまで女装するはめになることが少なくないだけですとも、ええ。
「……でも……」
 音夢はそうつぶやくや否や、どこかへ向かってすたすたと歩き始めた。
「マスター?」
 ギリアムは、慌ててそんな音夢を追いかけてゆく……。

●コンテスト開始!
「それでは参りましょう! 神魔人学園・プールの女王コンテスト!!」
 舞台上に立つ司会者のコールとともにファンファーレが会場に鳴り響き、スタンドの観客から拍手と歓声が起こる。いよいよコンテストの開催だ。
「お待たせいたしました。皆さん、心の準備は出来ていますか? カメラの用意はよろしいですか? これよりエントリーされた総勢24名の出場者が順番に登場し、水着・一芸・泳ぐ姿などを披露してくれます。それを審査するのが、あちらに居られます10名の審査員の方々です」
 審査員席を紹介する司会者。10人の審査員は男女5人ずつ、教師を含むなどしてなるべく公平になるよう考えられていた。その中には生徒会長である道真神楽と、世界制服同好会会長の高野真里の姿もあった。
「審査員は各自10点を持ち、100点を最高点に得点がつけられることになっています。そして最高得点を得た出場者に、見事プールの女王という栄冠が与えられる訳です。なお登場する順番は、公正にくじ引きによって決定しております」
 登場順は受付順ではなく、締め切った後でくじ引きによって決定していた。なのでどういう流れになるかは完全にランダム。エントリーナンバーはこの決定した登場順でつけられていった。
「まずはエントリーナンバー1番の方、どうぞ!!」
 司会者がマイクに向かって叫ぶと、トップバッターの出場者が舞台へ上がってきた――。

●もじもじと
「エントリーナンバー5番の方、どうぞ!!」
 司会者に促され、舞台に上がってきたのは鈴である。その格好は、購買部で買った件の競泳水着姿だ。競技にも参加していたため、水に濡れた様子があるのが生々しく。
「おおっと、競泳水着ですか。なかなか、ツボを突くようなチョイスですねー」
 司会者はそう言うが、購買部で買ったそのままなのでチョイスも何もない。しかしスタンドからは、何度となくカメラのフラッシュが炊かれていた。
 恥ずかしく思いながらも何とか自己紹介を済ませた鈴は、一芸披露へと入る。まずは借りてきたスモックエプロンを水着の上からつけてみた。
「どのような一芸を披露していただけるのでしょう?」
「あ、はい。その……絵を描くことが得意ですので、審査員さんの似顔絵を少し」
 鈴は特技を活かして似顔絵を描くことにした。時間がないのでスケッチブックへの素描だが、神楽をモデルに似顔絵を描くことにした。
「さあさあ、どのような似顔絵になるんでしょうか。スタンドの方、見えますかねー?」
 司会者が場を繋いでいる間に鈴が似顔絵を描き上げる。
「完成しました」
 と言って鈴が見せた似顔絵は、急いで描いた割には結構な出来映え。モデルとなった神楽も満足そうだ。
「よく特徴が捉えてあると思いますわ」
 そんなコメントを口にしていた。
 その後、鈴はプールで泳ぐ姿を少し披露して、自分の順番を終えた。

●セクシーに
「エントリーナンバー11番の方、どうぞ!!」
 もうすぐ半分が終わるという頃に、舞台に上がってきたのはサナだ。サナの格好は白のビキニ姿。豊かな胸の辺りはちとこぼれそうな感じがしないでもなく。
 サナが自己紹介を終えて披露した一芸は、何とダンス。流れてきた音楽に乗せて、ビキニ姿のまま踊り始める。
 ……見事な胸の揺れっぷり。それはもうたゆんたゆんと上下、あるいは左右に。スタンドを目をやると、身を乗り出して見ている者も居た。
 その後、サナはプールで背泳ぎする姿を拾うし、自分の順番を終えた。

●元気よく
「エントリーナンバー17番の方、どうぞ!!」
 後半の中頃に舞台へ上がってきたのはクリスクリスであった。
「お、ようやくかあ」
 救護テントからコンテストの模様を見ていたミカは、クリスクリスの登場に姿勢を正した。ちゃんと見てあげようと思ったのだ。
 クリスクリスの水着は、水色のビキニ姿。あどけない顔をしながらも、ボリュームという点ではちょっと前のサナに迫るものがあった。
「きましたっ! これぞアンバランス! あどけない少女は、自らの身体の破壊力に果たして気付いているのかいないのか!」
 よく分からない説明をする司会者。相変わらずスタンドからはひっきりなしにフラッシュが炊かれていた。
 明るい笑顔をアピールしながら、いくつもポーズを取るクリスクリス。そして自己紹介を終えて披露する一芸は……何と水芸。大がかりではあるが、何日も前から出場準備をしていたからこそ披露出来る芸ではあった。
 紙の裃を水着の上から着ている間に、三味線持った者が3人ほど現れた。実はこれ、クリスクリスが邦楽愛好会にお願いして来てもらった部員たちである。
「それじゃ、いっくよー♪」
 邦楽愛好会の部員たちが奏でる三味線の音に合わせ、クリスクリスの持つ扇子の先から水が迸ったり止まったり。華麗な技に、スタンドから拍手が沸き起こる。
(ふふ、驚かせちゃお)
 ここでクリスクリスが悪戯心を起こした。何と水芸で迸る水が、審査員席の方へ迫ったり、司会者に迫ったりしたのだ。ちなみに司会者、完全に水がかかりました。
 一芸披露後、プールへ入るクリスクリス。と、突然誰かに呼びかけた。
「みんなー、おいでー!」
 その途端、わらわらとプールサイドに初等部らしき女の子たちが出てきた。女の子たちは一斉にプールに入ったかと思うと、クリスクリスのそばへやってきて、一緒に遊び始めた。
「ど、どれだけ仕込んできたのでしょーか!」
 司会者はやや呆れ気味にそう言うが、いや全くその通り。
 だが、救護テントからその様子を見つめていたミカは目を細めていた。
「ここに通わせてよかった……」
 クリスクリスのはしゃぐ姿に、しみじみつぶやくミカ。
(同年代の子と、あんなに活き活きとはしゃいで……)
 ――ん?
 ミカが、はたと自分の間違いに気付いた。
(お仲間は初等部のガキんちょかーい!)
 心の中で思い切り突っ込みを入れるミカ。ちなみに、クリスクリスは16歳です。
「ま、まあクリスの精神年齢に釣り合ってて違和感ないんだが……」
 ミカががくりとうなだれた。違和感ないけれど、それはどうなんだろうと思ってしまう。
 そんなミカの気持ちを知らず、しばらく初等部の女の子たちと戯れていたクリスクリスは、自分の順番を終えたのだった。

●切な気で
「さあっ、いよいよ最後になりました! エントリーナンバー24番の方、どうぞ!!」
 司会者が、最後となる出場者を促した。ところが、少し待っても舞台に出てこない。どうしたのかと観客たちがざわつき始めた頃、マイクの声が聞こえてきた。それは音夢の声であった。
「……もう過去から、自分から逃げたくないから……。……歌います、あの人に届くように……」
 そのマイクパフォーマンスが終わるや否や、曲が流れ始めた。いわゆるバラード、それも胸を締め付けるような感じのする切な気なバラード。イントロに合わせ、ようやく音夢が舞台へ登場してきた。
「ど、どうやらもう一芸に入っています!」
 司会者が観客へそう知らせる。音夢の格好は水着ではなく白を基調としたフリルドレス。長い髪は大きな赤いリボンによって、1つにまとめ上げていた。
 両手でマイクを握り、歌う音夢の口から紡がれるのは幻想的な言葉。碧い月夜、夢を見ている少女の姿が浮かんでくる……。
 観客も耳を傾けて聞いていると、間奏部分になって突然出てきたスモークが音夢を覆い隠した。そして間奏が終わりそうな頃にスモークは晴れ――矢羽紋柄のワンピースという水着姿に変わっていた音夢の姿がそこにあった。この演出に観客が歓声を上げた。
 観客は音夢から距離があってよかったのかもしれない。近くで見ていたのなら、音夢の身体に残る痛々しい傷痕に気付いていたかもしれないから……。普段愛用する着物姿は、この傷痕を隠すためのものであった。
 やがて間奏が終わり、切な気な表情で再び歌う音夢。特別上手い訳ではないが、想いを込めて歌っていることは誰の目にも明らかであった。
 最初幻想的だった歌詞は次第に現実味を帯びてきていた。過去を想い出に変え、歩き始める少女の姿が浮かんでくる。そのことを教えてくれた、大事な人に再び巡り合えることを信じる少女の姿が――。
 曲が終わると、音夢は観客に向かって一礼をした。大きな拍手が音夢を包む。
 音夢はそのままプールには入らず、まっすぐに舞台を後にした。戻ると、スモークなどを炊いてくれたギリアムと合流した。
「マスター。……凄くよかったです」
 ギリアムが音夢へ微笑む。音夢は目をぱちくりとさせて一瞬思案したように見えたが、ちょっと照れながら微笑みを返した。
「ありがとう、タマ」
 最後、ちょっと変則的になったが――こうして全ての出場者がアピールを終えた。

●結果発表
「優勝者は、エントリーナンバー17番!」
 神楽によって発表された優勝者はクリスクリスであった。僅差ながら、1歩抜け出していたのだそうだ。
「みんなっ、どうもありがとうねーっ☆」
 見事プールの女王に輝いたクリスクリスは、舞台に上がって感謝の言葉を口にした。
 それから神楽とクリスクリスを中央に、出場者全員で記念写真。こうして長かったイベントも終わりを告げたのであった。

【了】