■【真夏の水泳大会・後日談】秋のスイーツに舌鼓を■ |
商品名 |
アクスディアEX・トリニティカレッジ |
クリエーター名 |
高原恵 |
オープニング |
真夏の水泳大会から早3ヶ月近くが過ぎた。
何やかんやの理由で大変遅れていたのだけれども、つい先日各競技の優勝者の手元に各々の優勝賞品が贈られていた。
水泳大会に合わせて行われた『プールの女王コンテスト』、その優勝賞品はビルシャス某所のスイーツバイキング招待券・ペアであった。ちょうど色々と秋の味覚が味わえる頃合である。賞品の受け渡しが遅れたのは、ある意味ではよかったのかもしれない。
さて、今日はそのスイーツバイキングの模様をちょっと覗いてみよう――。
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シナリオ傾向 |
ほのぼの:6(5段階評価) |
参加PC |
チリュウ・ミカ
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【真夏の水泳大会・後日談】秋のスイーツに舌鼓を |
●老若男女の集う場所(ただし『男』は少数)
世の女性というものは、概して甘い物が大好きであるらしい。そうでなければ流行っているケーキ屋などの甘い物の店に、女性の姿が多く見られるなんてことはないはずだ。男性で賑わう甘い物の店というのは、あまり聞いた所もなく。
そのことを実証するのが、ビルシャス某所にあるスイーツバイキングの店の様子であった。
「わぁ……やっぱり女の子で一杯だねー」
そう言って、きょろきょろと店内を物珍し気に見回すのは銀髪の小柄な少女だ。すぐ後ろには、黒髪細身の女性が腕を組んで苦笑い顔で立っている。
「私たちもこれからその仲間入りをするんじゃないか」
黒髪細身の女性、チリュウ・ミカが少女に向かって言った。
「あ、そうか。てへ☆」
ぺろりと舌を出す少女――クリスクリス。と、思い出したように残念そうな表情を浮かべた。
「あーあ、予定だったらこの中に男のコ、仲間入りさせるはずだったのに。結局ミカ姉と一緒かぁ」
この夏に行われた神魔人学園の『プールの女王コンテスト』、その優勝賞品であるスイーツバイキング招待券2枚を握り締めてクリスクリスは溜息を吐いた。
「もったいないからって自分から誘っておいて、何だその言い種はクリス」
ミカ、さらに苦笑い。
「だってぇ。……甘味に付き合ってくれる男のコ、見付からなかったんだもん」
がくんと肩を落とすクリスクリス。あれこれと当たってはみたのだ。当たってはみたけれど……こういうことになった次第。
「いや。男子は甘い物好きは少ないけど、クリスの魅力がまだまだってことだぞ」
今度はふふりと笑ってみせるミカ。この言葉には真実が含まれている。甘い物がさほど好きではなくとも、興味ある女子に誘われたなら十中八九の男子は足を運ぶことだろう。しかし、今回の場合そうでないということは……。
「言わないでーっ!」
耳を塞いでクリスクリスは頭をぶんぶんと振った。薄々そうではないかと自分で感じていても、他人に指摘されるとダメージは倍率ドン、さらに倍となってしまう訳で。
「仕方ない……今日はミカ姉に親孝行だね」
「じゃ、今日は遠慮なくお義母さん孝行してもらおうか」
ダメージから立ち直ったクリスクリスの言葉に、さらりと言葉を被せるミカ。何だかんだいって仲がよい2人である。
そしてまずはレジで受付。さっそくクリスクリスは招待券2枚を店員の女性に手渡した。
「はい、スイーツバイキング、フリードリンク付きが2名様ですね。ご案内いたしますので、少々お待ちいただけますか」
店員の女性にそう言われ、案内されるのを待つ2人。ミカがそうだったのかといった様子でつぶやく。
「ふーむ、フリードリンクなのか」
「ミカ姉はチケット見てなかったんだっけ? そうだよ、何種類でも何杯でも好きに飲んでいいみたい。嬉しいよねー♪」
にこにこ笑顔のクリスクリス。無論、ミカにとってもそれは喜ばしいことであった。
「……あれ?」
その時、クリスクリスが何かに気付いた。
「何か、やる気オーラ出していたりする?」
ミカから、何かこう……沸き上がるものをクリスクリスは感じたのだ。
「いいや?」
しれっと答えるミカ。クリスクリスの視線は、ミカにしては珍しい姿なスカートの方へ向いていた。クリスクリスは普段着だというのに、である。
「今日の格好だって、普段あんまりしないよねー?」
クリスクリスの手がミカのスカートへ伸びる。
「あっ、こらっ」
ミカはその手を止めようとしたが、クリスクリスがつかむ方が早かった。
みょん。
ミカのスカートが、伸びた。
「え」
クリスクリス、もう1回スカートを引っ張ってみる。
みょいん。
また、伸びた。
「はっ、まさかミカ姉、ゴムスカー……」
ぺち。
皆まで言う前に、クリスクリスの手が軽くミカに叩かれる。
「いい子だからそこまでにしようか、クリス」
にっこりとミカ。慌ててこくこく頷くクリスクリス。
「準備万端にしてきただけだ」
とミカが言った。なるほど、だからそのゴム入りフリーサイズなスカートですか、ミカさん。
●ど・れ・に・し・よ・う・か・な♪
やがて店員に案内されテーブルへつく2人。まずは飲み物の注文だ。ここはスイーツは自分で取ってくるのだが、飲み物はその度に店員に注文するシステムらしい。
クリスクリスはオーソドックスにオレンジジュースを、ミカは濃いめのエスプレッソを注文し、さっそくスイーツを取りにゆく。
スイーツの並ぶ場所と同じ場所に置いてある大きめの皿を手に取り、何から手をつけようかと2人は物色を始めた。
「秋の甘味っていうと果物とかマロン、パンプキンベースのお菓子だよね♪」
クリスクリスがそう言う通り、りんごだとか栗、かぼちゃなどを使ったスイーツはちゃんと並んでいた。例えば焼きりんご、モンブラン、パンプキンパイ……などなど。
そしてこれも忘れてはいけない。秋といえば柿だってある。柿のゼリーがあったと思いきや、何と柿の羊羹まであるではないか。
「あっ、美味しそう」
さっそくクリスクリスも目をつけていた。実はこの店、和菓子系統のスイーツまで置いてあるのだ。なので飲み物のメニューにも、抹茶などがあったりする。
「う〜ん、どの子から選ぼうかな?」
スイーツの前で、クリスクリスうろうろ。どれもこれも美味しそうで、目移りしてしまう。
そんな時、不意にミカがクリスクリスの視界に入った。
「わ!」
思わず驚くクリスクリス。何とミカが手にしている皿の上、スイーツがてんこ盛りになっているではないか。慌ててそばへ行くクリスクリス。
「ミ、ミカ姉!」
「ん? クリスはもう選んだのか? 何だ、全然選んでないじゃないか」
まっさらな皿を見て、ミカが呆れたように言った。
「ミカ姉は選び過ぎだよぉ」
クリスクリスも呆れ顔。
「そうかな? これでも最初だから抑えたつもりなんだがなあ……」
てんこ盛りで抑えたというのか、あなたは。
「あんまり食べると太っちゃうよ? それにミカ姉ってお酒好きだから甘い物って不得手じゃなかったの?」
よく酒好きは甘い物が好きではないなどと言われるが、そうとも限らない。世の中にはケーキをつまみに酒を飲む者も居る訳で。
「甘い物は別腹だから」
「いやミカ姉、『別腹』って使い方違うしっ!」
『別腹』も何も、まだ何も食べてないじゃないか。クリスクリスに突っ込まれて当然である。
「さぁ、甘味全種類制覇だっ。おー!」
突っ込みを華麗にスルーし、1人で盛り上がるミカ。ちょっとだけクリスクリスは他人の振りをしたくなった……。
●もぎゅもぎゅ美味しさ堪能
各々スイーツを取ってテーブルに戻ると、すでに注文した飲み物は置かれていた。
「いっただきま〜す☆」
「いただきます」
もぎゅもぎゅとスイーツを食べ始める2人。スプーンとフォークをこまめに持ち替えたりと、妙に手の動きが忙しいのが微笑ましく。というか、あんたらどれだけ取ってきたんだと。
「う〜ん、し・あ・わ・せ☆」
美味しいスイーツを堪能し、とろけるような表情のクリスクリス。やはり甘い物の威力は絶大のようだ。
「うん、美味しい美味しい」
ミカもしっかりスイーツ堪能中。何かもう、半分ほどなくなってますし、ミカさん。
「3年前ならこんな落ち付いた生活、考えられなかったよね……」
クリスクリスがぽつりつぶやく。ミカはスイーツを食べる手を一瞬止めて、無言で静かに頷いた。こういう時間が過ごせるのも、ひとまずは平穏であるからなのだろう。
「そういえばクリス、学校は楽しい?」
「うん。学校、楽しいよ♪ 先輩や後輩、同級生。沢山の人と知り合えるし」
不意のミカの質問に、クリスクリスは即答した。ミカはさらに質問を投げかける。
「勉強は?」
おっと、ちょっと意地悪な質問だ。
「お勉強は……が、頑張ってるよ」
はいクリスクリスさん、視線を逸らさないで答えるよーに。
と、突然ミカの手がクリスクリスの頬へ伸びた。
ぐにぐに。
がさがさ。
どうやらナプキンで頬を拭かれたようだ。
「え、ボクのほっぺに何かついてたっ?」
「頬にクリームが」
くすっとミカが笑う。
「う〜、恥ずかしいなぁ……」
顔を少し赤くしたクリスクリスは、恥ずかしさを紛らわせるためか、スイーツを食べる方へ集中した。ところが。
「ほら、また」
ぐにぐに。
がさがさ。
……今度は反対側についたのを拭かれました。
「う〜」
クリスクリスの顔が、さらに赤くなった。
●目標達成
それから何度かスイーツを取りに行き、堪能を続ける2人。ふと思い付いたようにクリスクリスが言った。
「こんなに美味しいのどうやって作ってるんだろうねぇ。パティシエさんがお菓子作る所、見学させてもらえないかなぁ。それでボク、少し勉強しようかな」
「熱心だな。学校の勉強も同じくらい頑張ってくれると嬉しいけど」
「ミカ姉!」
からかうように言ったミカをクリスクリスが窘めた。いやまあ、痛い所を突かれているので反論は出来ないのだけれど。
クリスクリスは店員が新しい飲み物を持ってきた時に、見学させてもらえないか頼んでみた。答えは残念ながら不可。しかし、いくつか基本的なお菓子のレシピが書かれた小冊子を持ってきてくれた。この店が無料で配付しているものだそうだ。
「見学出来ないのは残念だけど……レシピがもらえたのは嬉しいかな☆」
「で、お菓子を作って何がしたい、クリスは?」
ミカがクリスクリスへ目的を尋ねる。
「えっとねボク、世界制服同好会の先輩たちや、夏のイベントでお世話になった人たちにお礼のお菓子作りたいんだ☆」
「うんうん、それはいいことだな」
「あ、もちろんミカ姉も食べてよねっ」
「いいけど、砂糖と塩を間違えるなんてことは……」
そう言うミカの目は笑っている。
「ないっ! ……と思うよ、たぶん……きっと……だといいなぁ……」
どんどんトーンダウンするクリスクリス。最初に強く否定したものの、あり得そうだから自分で自信がなくなってきたのだろう。
「さあ、また取ってくるとしよう……」
すくっと立ち上がるミカ。あなたの胃袋は宇宙ですか?
「本気で全種類制覇する気なの、ミカ姉?」
クリスクリスが呆れ顔で尋ねた。ミカは特に表情も変えずしれっと答えた。
「あと2種類で制覇だな」
うわ、本気だったよ、この人ったら!!
それを聞いたクリスクリスは、あんぐりと口を開けたのだった――。
【了】
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