■警察学校の1日 ―不足を補え―■
商品名 アクスディアEX・トリニティカレッジ クリエーター名 高原恵
オープニング
 新東京、神魔人学園――トリニティカレッジとも言われるそこは、様々な学校が集約した巨大学園である。初等部・中等部・高等部・大学部など普通の学校があるのは当然のこと、他にも神魔技術工科大学やパトモス軍学校などといった少し特殊な学校もある。
 その特殊な学校の1つに、警察学校も含まれている。
 警察学校では法学や逮捕術、実際の勤務についてなど、警察官として必要な学習が行われており、入学には高卒以上に相当する学力が必要である。そして卒業後は、GDHPや通常の警察に勤務することになるのだ。
 もっともこれは警察官の卵たちについての話。中には警察官であっても、何らかの理由で再訓練を命じられてやってくる者も居るとか居ないとか。
 現在の訓練生たちの卒業を翌月に控える秋・11月。最初は不安げだった顔付きも、数々の訓練を経てしっかりとした顔付きに変わっていた。訓練によって自らの能力に開花した者も少なくはない。程度の差はあれども、訓練生たちは何かしらの実力をつけていっていた。
 しかし、それでもまだ足りない部分というのは存在する。完璧な者などまず存在しないのだから、それはごく当然のこと。だが、訓練生を指導する教官たちの親心としては、極力不得手な部分などを克服してもらいたいと考えるのもまた当然のこと。
 この時期、各々の教官たちは訓練生たちに何が足りないかを考え、それらを補うべく授業を組んでいた。それでは今日もまた、警察学校の1日の様子を見てみよう――。
シナリオ傾向 授業風景:5(5段階評価)
参加PC 月村・心
キョー・クール
ヤスノリ・ミドリカワ
警察学校の1日 ―不足を補え―
●それは、思いがけぬ訓練
「何か、今日の訓練はいつもにも増してきついらしいぜ」
「げーっ、まじかよ。じゃ、あの教官か?」
「……だよなあ」
 訓練生の間でそんな会話が交わされている。さすがに訓練生として何ヶ月も過ごしていると、内容から教官の推測が出来るようになるらしく。
 で、その推測は当たったのかというと――。
「今回はパトモス軍士官学校とのサバイバルゲームを行う」
 はい、大当たり。訓練生の前、1段高い場所に立ちヤスノリ・ミドリカワが本日の訓練の説明を始めていた。
 訓練生たちは『パトモス軍士官学校』という言葉を聞いて軽くざわめいた。正確に言うと『パトモス軍学校・士官科』だ。その名が示すように軍の指揮官養成コースであり、軍隊の運用や作戦指揮のやり方を学んでいる。
 そういう連中が相手ゆえ、訓練生たちの反応も無理はない。まあ、伝統的に警察と軍はあまり関係はよろしくないという部分も、多少なりとも影響しているのかもしれないが。
 それにしても、こんな訓練がよくセッティング出来たものだと思う。伝手やコネなど、ヤスノリがフルに利用したのだろうか。
「昨今の情勢から見て、テロリスト側が豊富な武器弾薬を使用するという例が多々あるので、それを想定する」
 ヤスノリによる趣旨説明。警察でテロリストに対応する部署といえば、GDHP警備部警備第1課特殊急襲部隊がすぐに思い浮かぶことだろう。訓練生の中にも、ゆくゆくはここへ配置される者だって居るに違いない。しかし、その他の者だって周辺警備などで狩り出されることは十分にある。対テロリストな訓練を受けていて、決して無駄にはならないはずだ。
 だがヤスノリは訓練生の中に、今回の訓練に対する疑問の感情があることを感じ取ったのだろう。さらに突っ込んだ説明を始めた。
「いいか、貴様らはまもなく卒業を控える身だが、卒業したからといって即戦力ではない。それどころか、訓練では優秀な成績を上げた奴が実戦で使い物にならなくなる例がある。それを回避する方法は1つ。経験値を稼ぐことだ。だから――」
 ヤスノリはゆっくりと訓練生たちの顔を見渡した。
「これから経験値を稼がせてやる」
 という訳で、訓練場所まで移動した訓練生たち。行き先はパトモス軍学校の都市戦闘用演習場だ。つまり訓練生たちにとってみれば、実際の現場に近い状態で訓練を行うということだ。もっとも実際には一般市民も大勢居る訳だから、現実には避難誘導も行うことになるだろう。
「仮想敵のパトモス士官学校組はこの都市戦闘用演習場に居る。もうすでに展開しているはずだ。彼らをテロリストと見立てて制圧行動を行う。当然だが抵抗してくるぞ」
 ヤスノリはそう言うと、ポケットからある弾丸を取り出して訓練生たちに見せた。
「使用する武器、装備などの装備は実際に使われている物だが、見ての通り弾丸は暴徒鎮圧用のゴム弾だ。ただしだからといって甘くみるな。弱装化されているが、ボクサーのパンチ並みの威力があることを覚えておけ」
 平然と重要なことを言うヤスノリ。言い方を変えれば、当たり所が悪ければ洒落にならない結果が待っているということだ。
「では初期情報を与えておこう。現時点で判明している情報はライフル、ショットガンなどで武装していることだけだ。人数、その他装備は不明」
 ヤスノリから初期情報を聞いて、訓練生の中には参ったなといった様子で顔をしかめる者の姿も見られた。しかしテロリスト相手の場合なんて、初期情報はそんなものである。むしろ最初の時点で一から十まで情報が得られている方が珍しい。
 ともあれ説明は終わり、これから実際に部隊を編成して訓練に臨む訳だが――。
「部隊編成に関しては各々の判断に一任する」
 ヤスノリの口からそんな言葉が出た。警備訓練の時と同様の形式だ。指揮官が居て、その指示に従うと。ところが、警備訓練の時と違う点があった。
「ただし今回は指揮官も自分たちで選べ」
 警備訓練の時はヤスノリが指名していた。が、今回はそれからして訓練生自身が行わなければならない。どういった基準で指揮官が選ばれ、部隊が編成されるのか見物である。
 やがて指揮官の選出および部隊編成が完了。結局部隊は5つ編成され、指揮官は5人中3人が警備訓練を踏まえた形で選ばれていた。
 ヤスノリは指揮官や部隊の顔ぶれを確認すると、離れた場所から見させてもらうと言って訓練生たちの前から去った。
 ヤスノリが向かったのは都市戦闘用演習場が一望出来る場所だ。建物の屋上と考えてもらえばいいだろう。
 少しして訓練が開始される。たちまち銃声が響き渡ってきた。士官科組が行動を開始したのだ。そして早い段階で大音響が聞こえてきたり、閃光が見られたりした。音響手榴弾や閃光弾を士官科組が使用したらしい。思っていた以上に、相手の動きが早い。
「……やはり士官学校組が一枚上手か」
 双眼鏡片手に状況を見ながら、ヤスノリがぼそりとつぶやいた。机上で何度となくシミュレートしたのだろうか、訓練生たちの動きに比べて士官科組は無駄が少ないようにヤスノリには思えた。
 と、そんなヤスノリの所に数人の男たちが現れた。普通ならこうして顔を合わせることもまずないだろう者たちだ。すなわち警察と軍、各々の高官。いずれも自らの組織の制服を着用していた。
「どうかね、状況は」
 ヤスノリに最初に尋ねたのは警察の高官だった。
「……即戦力となる対テロ部隊。その原型が今の状況、何より実戦の洗礼を浴びていない奴らを過大評価するのは危険だな」
 双眼鏡を手渡しヤスノリは答えた。それを聞いた警察高官は苦笑い。
「それにしても、今回の訓練は君がかなり熱心に希望したと聞いているが……」
 今度は軍高官がヤスノリに尋ねてきた。するとヤスノリは、ふうと溜息を吐いてこう答えた。
「かつての神魔大戦で嫌というほど感じたものだ。実戦経験の重要さを。……それまでは幹部候補とまで言われていた私が、無力感を味わったのだからな」
 それは苦い経験。ゆえに、訓練生たちが自分と同じ轍を踏まないようにというヤスノリの親心なのだろう。
 実際問題として――熱望したからといって、こういった訓練がすんなり決まるはずもない。やはり裏では警察と軍各々の思惑があったからである。
 警察としてはヤスノリが言ったように、対テロ部隊の充実が念頭にある。一方の軍は、恐らく北海道『日本国』侵攻が念頭にあるのかもしれない。市街戦となった際、効果的に作戦を進めるにはどうすればよいかというサンプルデータの取得を、今回の目的としていても何らおかしくない。
 そんな様々な思惑の上に成り立った今回の訓練、終始士官科組が優位だったが訓練生たちもじりじりと制圧を行っていた。結局そのうち両者膠着状態に陥り、時間などの関係もあって訓練は打ち切りとなった。
 一説には……どちらか一方が勝利することによる警察と軍の心情悪化を回避するためという話もあるが、定かではない。

●現場を、見る
「今回の授業は見学だ」
 士官科組との訓練があった翌日の授業、キョー・クールは整列している訓練生たちを前にそう言い放った。
 見学と言われても、いったい何を見学するというのか。漫画だったら、訓練生たちの頭上に大きな『?』が浮かんでいたことだろう。
「これから各警察署に分かれて、実際の勤務の様子を見てもらおうと思う。時間があれば、実際にパトロールなどの勤務について行かせてもらうとよいね」
 そこまでキョーに言われて、やっと訓練生たちも理解した。確かにまもなく卒業を控える身、今後自分が勤務する場所を事前に見ておくのは明らかに役立つはずだ。
 それに、警官が実際にどういうことをやるかを見ることは、訓練生たちにとって不安の解消となる。こうして本当の仕事に触れることで、卒業した時に自分がやることと、そのためには今の自分に何が足りないか、それと必要とされる心構えが分かるに違いない。
 かくして訓練生たちはビルシャス署、セメベルン署、ソアル署、デモンズゲート署と分かれて見学に向かう。
 ではキョーは何をするのかと思いきや、何とカメラを持って訓練生たちの撮影に従事するつもりのようだ。特に何か教えようということは、今回ない模様。
(僕の可愛い生徒たちももうじき卒業。記念に今の姿を撮っておくのもよいだろうからね。色々と撮影してあげよう)
 なるほど、これもまた親心。確かにその日その時その場に生きていたという証となるのだから。
 けれども――キョーのこと、それだけが目的なはずはなかった。
 実際のキョーの行動を見てみよう。まずキョーはビルシャス署へ向かった。訓練生たちはまた細かく分かれ、各所の勤務の様子を見学している。キョーはそんな彼らの姿をカメラで撮影していった。……女性訓練生の割合がかなり多いのはご愛嬌。
 しかしよくよく見ていると、キョーのカメラは訓練生のみならず、何故か現職の婦警たちの方を向いていることもしばしばあった。これはもしかして、授業にかこつけて堂々と現職婦警たちの姿態を記録していたりしますか?
「……働く女性はやはり素晴らしいね……」
 現職婦警を撮影しながら、ぽつりつぶやくキョー。やっぱりだ、ああやっぱりか。
 実はキョー、近頃ずっと考えていることがあった。それは、キョーの生き甲斐、ライフワークといってもいい『セクハラ』についてだ。
 そもそも、セクハラにも色々ある。地位や立場を利用したセクハラ、状況を利用したセクハラ、相手に悟られず行うセクハラ……本当にあれこれあるものだ。
 そしてキョーは思った。ここで自らがすべきことを。それはこの全てのセクハラを纏め上げ、1つにすること……。曰く、セクハラ大統一理論を構築し、婦警の卵たちで証明するということを。
 だが……全ては遅過ぎた。何故ならば、卒業はもう間近に迫っているのだから!
 けれども、キョーは諦めなかった。せめて授業だけでも、授業だけでもセクハラをと。その結果の1つが、今回の見学であるらしい。大統一理論には程遠いけれど、これもまたセクハラだ。
 それはそれとして――実際の勤務の様子を知ることが出来たり、先輩となる現場の警官から配属当事苦労したことや仕事に関する話を聞くことが出来たりして、今回の見学は訓練生たちにとってとても身のある授業となったようである。

●密かに、施される訓練
 各警察署への見学を終えた後――同日夜のこと。警察学校の訓練場所の1つに、一部の訓練生たちの姿が見られた。人数は20人近く。よくよく見てみると、その顔ぶれのほとんどは以前の警備訓練の際に特別に集められた者たちだ。『ケルベロス』なんて名前がつけられていただろうか。
 と、その彼らの前に1人の青年が現れた。警備訓練の際、彼らのほとんどを集めた月村心である。
「待たせたな。全員揃っているか?」
「「「「「はいっ!!!」」」」」
 敬礼とともに心へ大きく返事を返す訓練生たち。心は彼らの顔を順番に見ていった。
「確かに、全員揃っているようだな」
 彼らをここへ集めたのは、警備訓練の際同様にやはり心だった。その時と違うのは、数人新たに加えられているということだ。
 何故にこんな時間にという疑問はあるだろう。しかし日中は警察学校としての訓練があり、またこの件に関してはあまり大っぴらにはされていないこともあって、夜になってしまうという訳だ。
「まずは班分けを行う」
 目的を説明するより先に、心は訓練生たちに向かってそう言った。班はA・B・Cの3班で、各々役割が決められている。
 A班は最前線での突入および戦闘を担当。振り分けられたのは、戦闘能力の高さが評価されている魔皇の訓練生たちだった。
 B班はA班のバックアップや退路の確保といった支援を担当。また負傷者の治療も担当だ。よって振り分けられたのはグレゴールの訓練生、また支援能力を活かせるであろう逢魔や少数のファンタズマの訓練生たちである。
 そしてC班は指揮車両に待機して戦闘指示や突入指示などを担当。要するに頭脳担当だ。ここは直接戦闘することはほぼないので、振り分けられたのは人間およびファンタズマの訓練生たち。また、彼らの護衛のために魔皇とグレゴールの訓練生が1人ずつ振り分けられていた。
 班分けが済むと、今度は各班に武器が用意される。拳銃はどの班も基本装備だ。そしてサブマシンガンがA班とB班に、アサルトライフルがB班とC班に配られる。A班にはショットガンもだ。なお弾丸は暴徒鎮圧用のゴム弾である。
 この班分けにはもちろん意味があってのものだ。ビルシャスやセメベルンといった魔属に制限のかかる場所ではある程度意味合いが薄れるのだが、他の場所であればその限りではないのだから。
 そしてここに至って、心はようやく訓練生たちに今回の目的を告げた。
「目的は1つ……この隊だけで軍の基地を落とせるぐらいの戦闘力をつけてもらう」
 その心の言葉に、無言で顔を見合わせる訓練生たち。心はさらに言葉を続けた。
「それぐらい出来なければ対テロなどは無理だからな。昨日の訓練のことも聞いている。終始押されていたそうだが……?」
 じろりと訓練生たちを見る心。その通りなので、訓練生たちは何も言えない。
「……よって理不尽なまでに厳しく行く。覚悟しとけ?」
「…………」
 訓練生たちから返事がない。
「覚悟はいいか!」
「「「「「はいっ!!!」」」」」
 今度はちゃんと敬礼つきで返事があった。
 実際に行われる訓練の内容は、ビルなどの屋内への突入および戦闘訓練である。犯人役はというと、心が直々に務めるという。……先程の『覚悟しとけ』の意味がよく分かったような気がした。
「訓練開始は10分後。それまでの間に、意思疎通をはかっておくといい」
 心はそう言い残し、訓練場所にある建物の1つへ向かった。残された訓練生たちは、さっそく班ごとにあれやこれやと話し始める。
 10分後、厳しい訓練が始まった。その様子を、離れた場所から数人の男たちが見つめていた。昨日の訓練の時にも居た、警察の高官たちである。
「……入学当初から一部の訓練生を選抜し、教育を施すのがよいのではないか?」
「いやしかし、警察官としての基本を学ぶことも重要だ。基本なくして応用は成り立たない」
「ならば一定期間後に優れた訓練生を選抜するのはどうだろう」
 訓練の模様を見ながら、ああだこうだと話し合う警察高官たち。どうも警察内部で何かが進んでいるようである。

【了】