■世界制服同好会の鍋!■
商品名 アクスディアEX・トリニティカレッジ クリエーター名 高原恵
オープニング
 もうすぐ今年も終わりという12月の半ば。世界制服同好会の会長・高野真里はそれを唐突に思い付いた。
「……お鍋なんてどうかしら」
 唐突な発言に、部室に居た副会長の白山亜美と会計兼書記のサナ・カスケードが思わず首を捻る。
「高野会長。それはいったいどのような……」
 眼鏡を指先で押さえ、亜美が真里へ尋ねた。
「ほら、今年も色々と手伝ってもらったでしょう? その人たちを労うことが出来ないかなって思ってたのよ。で、お鍋」
「それはよい考えだと思いますが、どちらで行われるおつもりですか?」
「ここ」
 真里が床を指差した。どうやら部室でやる気らしい。
「……ここですか」
 亜美が真里に確認をした。
「どこかお店へ行ったり、場所を借りるのもあれだし。何より自分たちでやったら安く済むでしょ?」
「分かりました。ではカセットコンロなどの手配をいたします」
 真里が本気だと分かると、亜美は反対することもなく何が必要か早速算段を始めていた。
「パーティですわね、真里様。クリスマスも近いですし、ケーキや他のお料理もあると楽しいかもしれませんわ」
 わくわくした様子でサナが言うと、真里がびしっとサナを指差した。
「それ採用」
 という訳で――部室で鍋パーティを行うことが決定し、あちこちに連絡を始めた。
 ただし、参加条件が2つ。
 1つは1組につき最低1品の食材か料理を持ってくること。
 そしてもう1つは……参加者はコスプレが必須だということだ。
 ここは世界制服同好会。ただの鍋パーティだと思いましたか?
シナリオ傾向 鍋:6/コスプレ:6(5段階評価)
参加PC ヒール・アンドン
チリュウ・ミカ
ラディス・レイオール
世界制服同好会の鍋!
●ある提案
 鍋パーティ前日のこと。
「パーティを調理実習室でやりませんかぁ〜?」
 世界制服同好会の部室を訪れて、そんな提案をしてきたのはリフィーナであった。今部室にただ1人居てリフィーナに応対していた副会長の白山亜美は、眼鏡の奥の目をパチパチと瞬いてから言った。
「確かにあそこは器具なども充実しており、鍋を行うには適した場所ですが……」
 調理実習室を使おうとするなら使用許可を取る必要があるはずだ。けれどももう明日の話である。許可申請を出しても先に料理系の部なりどこかなりが使用することになっていれば、却下されてしまうことは目に見えている。
 しかしその辺は下調べしてあったのだろう。にこにこと笑顔でリフィーナは答えた。
「大丈夫です、許可はもらえますぅ」
「……そうですか。でしたらそのように、私から高野会長にお伝えしておきましょう」
 亜美はそう言ってリフィーナにぺこりと頭を下げた。
 繰り返しになるが、これが鍋パーティ前日のことである。

●許可申請
 さて、鍋パーティ当日。
 家庭科準備室には女子生徒が集まっていた。
「せんせっ! セーターの袖口ってどう編んでったらいいのっ?」
「先生、先生。ケーキのスポンジってどう焼いたらいいか教えてください」
「ね、先生〜。安くて量のあるパーティ向きの料理ってありませんか〜?」
 女子生徒たちが口々に尋ねる先は、高等部家庭科教師であるラディス・レイオールだ。こんな質問攻めに合うのも季節柄というか、この時期の恒例行事というか……まあいつものことだという噂もありますが。それはともかく。
「あー、はいはい、順番に、順番に質問してください」
 苦笑いを浮かべながら、ラディスは押しかけてきた女子生徒たちに順序よく並ぶよう促した。やがて質問を終えた女子生徒たちも1人2人と減ってゆき、しばらくして全員が帰った所でようやく一段落つくことが出来た。
「はぁ……やれやれ」
 扉に背を向け、額の汗を拭うラディス。普段の授業の時もこのくらい熱心に質問に来てくれれば言うことないのだが、なかなか生徒たちの興味はそちらに向かないようである。
 と、ラディス以外誰も居なくなった家庭科準備室に、また新たな女子生徒が現れた。
「あの〜」
 女子生徒――クリスクリスはラディスに声をかけた。
「あ、はいっ? 今度は何でしょう、ケーキですか? 唐揚げですか? それとも手袋ですか?」
 声をかけられ慌ててラディスが振り返る。けれどもクリスクリスはふるふると頭を振って、こう言った。
「質問じゃなくって、調理実習室の使用許可をお願いしに来ましたっ☆ これ申請書ですっ」
 所定の用紙を差し出すクリスクリス。さっそくラディスはそれに目を通した。使用希望日は今日、使用目的は料理作り、その他項目にも特段不備はない。
「ふむ……。これで問題ないですね。今日はどこも使用する部などはありませんし。終わったら、きちんと後片付けとごみの処理、それと火元の管理をお願いしますね」
 机の引き出しからはんこを取り出し、ラディスは使用許可の申請書に押印する。クリスクリスが所属する『お料理研究会』の顧問をラディスが務めているせいか、非常にあっさりと許可が出されたのだった。
「わーいっ、ありがとうございましたー♪」
 クリスクリスはラディスにぺこんとお辞儀をし、とてとてと家庭科準備室を後にした。
(あとでちょこっと様子を覗いてみますか)
 そんなことを思いながら机に向き直ったラディスだった、が。
「!!」
 不意に背中へぞくっと悪寒が襲ってきた。
「……い、今のは……」
 何だろう、非常に嫌な予感がするのは気のせいなのだろうか――。

●やっぱりですか、やっぱりなんですね
 しばらくして調理実習室をラディスは覗きに行った。中では何やらあれこれと材料を用意しているクリスクリスの姿がある。
「やってますか」
 声をかけ、中へ入ってゆくラディス。
「あ、先生」
 顔だけ向けて答えるクリスクリス。ラディスの視線は食材に向いていた。
(小麦粉に卵、お砂糖、いちご……ああ、ケーキ作りですか)
 と、最初のうちはそう思っていた。ところが、先へ進んでラディスは目を疑った。
(は、白菜?)
 白菜を使ったケーキ作りなど、残念ながら聞いたことはない。他にも何か豆腐とかしいたけとか、おおよそケーキには使わないような食材が並んでいる。
「いったい何を作ろうと……」
 そしてラディスがクリスクリスに尋ねようとした時だった。ひょっこりとリフィーナが調理実習室に顔を出したのは。
「リフィーナっ?」
 驚くラディス。リフィーナはにこにこ笑いながら中へ入ってくる。
「ええと、実はぁ……」
 かくかくしかじかと事情を説明するリフィーナ。それを聞いて次第にラディスの顔色が変わってゆく。
「は、はあ、なるほど、世界制服同好会の鍋パーティをここで……」
 さっきの悪寒はこの警告だったのだろうかとラディスは思っていた。ならば、さっさとこの場を立ち去るに限る。
「分かりましたっ! じゃあ気を付けて楽しんでくださいっ!!」
 話を強引に切り上げ、一目散に調理実習室から退散しようとするラディス。ところが、あと数歩という所でまた現れた者が居る――ヒカルであった。
「お待たせー♪」
 晴れ晴れとした表情で入ってきたヒカルの右手にはハリセンが、一方の左手には男性の衣服の襟首が握られていた。……要するに襟首つかんで男性を引きずってきたということだ。
 その引きずってこられた不幸な男性とは、ヒカルの魔皇にして神魔人学園の美術教師を務めるヒール・アンドンである。しかしヒール、ぴくりとも動かない。どうも気絶してしまっているようだ。
 リフィーナ、世界制服同好会、ヒカル、そしてヒール……これだけキーワードが揃えばもう間違いない。自分に危機が迫っている、そうラディスは確信した。
 その瞬間だった。ラディスの身体をすっぽりと網が包み込んだのは。
「確保完了ですよぉ〜」
 背後からリフィーナが網を投げたのである。それはもちろんラディスを捕獲するために。
「こっちもオーケーだよー。でも今日はちょーっと効き過ぎたみたい」
 ハリセンを持った手でほんの少し罰が悪そうにヒカルは頭を掻いた。
 今日の鍋パーティのため、いつものように美術準備室でヒールを捕まえようとしたのだが……ハリセンで1発叩いた時に不幸にも(幸運にも?)見事に決まってしまい、いわゆる1つのクリティカルヒットな状態になってしまったのだった。もっともそれによって、抵抗されることなくここまで引きずってくることが出来たのだけれども。
「そうそう、今日のパーティですけどぉ……」
 リフィーナがラディスの耳元で囁いた。
「参加者はコスプレ必須ですぅ」
「あぁぁぁぁぁ……」
 それを聞いた途端、ラディスは糸の切れた操り人形のごとく、床へぺたんと座り込んでしまった……。

●大勢でわいわい食べよ♪
 その後、諸々の準備も滞りなく終わり、いよいよ鍋パーティ開催。高野真里やサナ・カスケード、亜美といった世界制服同好会の面々も調理実習室にやってきていた。
「こっちの食材、向こうに運べばいいのかしら?」
 と言って真里が置かれていた皿の1つを鍋のあるテーブルの方へ運ぼうとした時、クリスクリスが慌てて飛んできた。
「ああっ! 先輩、ボクのお菓子は鍋の具じゃないよぉ!」
 真里が運ぼうとしていたのは、鍋に参加しない運動部の者たちに配ろうとして焼いた日持ちする焼き菓子だったのだ。
「え、これ違うの?」
「違うよぉっ!! ほらほら、今日は闇鍋じゃないんでしょ?」
 急いで焼き菓子の載った皿を取り戻し、真里を必死で止めるクリスクリス。ちなみにその格好は白い綿帽子に、ふわふわの白衣装。背中には透き通った羽根までついている。このコスプレのお題はクリスクリス曰く『雪使いの精』。ウインターフォーク、本物の雪娘が雪の精のコスプレ……何か深い。
 これだけだったら綺麗だなで終わったのだけれど、さすがクリスクリス一味違う。『プールの女王』と刺繍された、いわゆる宴会グッズの類のようなたすきをかけていたのだ。
 さて、他の所に目を転じてみよう。調理実習室の隅の方には、どんよりと曇った雰囲気漂う一角があった。そこには猫耳サンタと清楚な猫耳メイドが顔突き合わせて座っていた。
「パーンってきて、気付いたらこんなことに……」
 猫耳サンタのヤドりん(ヒール)がそうつぶやくと、清楚な猫耳メイドのレイディア(ラディス)が力なく頭を振ってこう答えた。
「その方が幸せかもしれませんよ……」
 それはそうだろう、ヤドりんの場合は気絶している間にこの姿だが、レイディアの方はしっかり意識ある状態でこういった姿に着替えさせられたのだから……。
 2人して心の中で『もう嫌……』と泣いているのが傍から見てても分かる。そんな2人を鍋のテーブルへ連れてゆこうとしているのが、ヒカルとリフィーナの魔女っ娘コスプレコンビである。ちなみにヒカルが黄色でリフィーナが水色だというスタイルである。
「ヤードりん♪ お鍋食べよー♪」
「寄せ鍋と石狩鍋の準備が出来てますよぉ〜」
 ああ、魔女っ娘組と猫耳組の対比っぷりが何やら面白くも哀しくあり。まさに陽と陰である。
 さらに他へ目を向けてみよう。真里はといえば白衣の天使、すなわちナースのコスプレをしていた。そしてサナはというと、定番のバニーさん姿。やはり金髪娘がバニーさんになると自然と絵になる。
 で、残る亜美は……と思ったら、いつの間にやらふと姿が消えている。実は鍋パーティに招待していた高等部風紀委員長・御剣恋の着替えの手伝いをしている最中なのであった。果たして2人はどのような格好で現れるのだろう。
「お待たせいたしました」
 少しして、亜美と恋が入ってきた。亜美の格好は何故かどこかの女性騎士といった装い。普段の眼鏡を外し、コンタクトにしてきていた。
「……本当にボク、この格好でなきゃダメなの……?」
 複雑な表情でそうつぶやいた恋の格好は、白を基調とするフリルのたくさんついたまるでお姫さまのような姿。いわゆる甘ロリといった格好である。
「わぁ、似合ってます〜」
「可愛いよねー♪」
「普段とまた違った感じがよく出てるよねっ」
 リフィーナが、ヒカルが、クリスクリスが口々に恋を褒める。すると恋はちょっと頬を赤らめ、ぷいと顔を背けて言った。
「べ、別にボクこれ気に入ってる訳じゃないからねっ。そういうルールだから、し、仕方なくやってるだけなんだからねっ。勘違いしないでよっ」
 この恋の姿を目の当たりにした者たちの頭上に、全く同じ言葉が浮かんでいた。『ああ、これがツンデレなんだ……』と。
「でも、アクセントが足りないよねー?」
 ニヤと笑ったクリスクリス。とことこと近寄って、恋に隠し持っていたたすきをかけた。それには『あんたが委員長』と刺繍されていた。
「これでよしっ☆ えっとねー、神楽会長や御剣先輩が、巨大でカオスな学園をまとめてくれてるからボクたち、安心して無茶出来るの♪ だから、今日はお礼代わりに沢山食べてってね」
 にこっと笑顔でクリスクリスは恋に言った。リフィーナがそれに続ける。
「2種類のお鍋以外にも、おにぎりを用意してありますから、よかったら食べてください〜。あ、でも、具は入っていません〜」
 さすが奥さんなリフィーナ、気が効いている。
「……アルコール類などもないようだし、ありがたくいただくね」
 恋はぐるりと部屋を見回してから言った。やはり風紀委員長、その辺のチェックは厳しいものである。
 かくして皆で仲良く鍋を食べ始める。寄せ鍋にはえびや肉団子といった食材が、ぐつぐつと美味しそうに煮えている。一方の石狩鍋の方も、鮭が食べられるのを今か今かと待っている状態だ。
「食べましょう……食べて時が過ぎるのを待ちましょう……」
 がっくりうなだれたまま箸を手渡し、レイディアはそうヤドりんに言った。
「うう……じゃあ石狩鍋……」
 おやおや、不本意な状態になっても食欲あるじゃないですか、ヤドりん。
 もぎゅもぎゅもぎゅ。美味しく美味しく鍋を食べる一同。と、クリスクリスがやたらと長い時間口をもごもごと動かしていた。
「この、噛めば噛む程、味の出るお肉、何だろ?」
 ちょっと固く、なかなか噛み切れない肉が入っていた。いったい誰が持ってきた物なのだろうと思っていると、クリスクリスの方をちらっと見て恋がニヤッと笑みを浮かべた。
(えっ、今の笑みは何っ? 何、何なのっ、このお肉ーっ!!)
 何かとんでもない物を食べさせられているのではないか――クリスクリスの頭の中は、疑念でぐるぐると回っていた。
 ちなみにそれ、大きなビーフジャーキーだったりするのはここだけの秘密である。

●1人でしみじみ食べようか
 そうやって鍋パーティが行われている頃、ペンション【日向】ではチリュウ・ミカが1人ですきやきを突いていた。
「今頃クリスは鍋パーティ楽しんでるんだろうなぁ……。クリスの素敵な学園生活に乾杯!」
 カップのお酒を掲げた後、こくんと1口飲むミカ。そして奮発して買った高級霜降り牛肉に地鶏卵を絡めて食する。よいお肉はやはり旨い。
 1人で食べても美味しいけれども、きっと大勢で食べたらより美味しくなることだろう。
「あ〜! 肉、焦げてる……」
 こういう風に、肉を焦がすようなこともなく――。

【了】