「魔皇様方。年の瀬のお忙しい所、誠に申し訳ないのですが……お願いしたいことがあります」
デビルズネットワークタワー・アスカロト。サーチャーの逢魔・明菜は集まっていた魔皇たちに向かってそう言った。
明菜といえばここではある有名なサーチャーだ。何しろよく風変わりな依頼を持ってくるのだから。ゆえに、集まった者たちも『ああ、またか』といった様子であったことは否定しない。ところが、その明菜の口から驚くべき言葉が発せられた。
「台湾陸軍中佐・黒珊瑚様の警護をお願いいたしたいのです」
――空気が一変した。
黒珊瑚といえば肩書きこそ台湾陸軍だが、実質ASEANからの派遣である。それを警備するとは、いったいどういう理由からなのか。もっとも、詳しく話を聞くと脱力してしまうことも明菜の依頼では多いのだが……今回はそんなことはなかった。
「この先は、申し訳ありませんが依頼を引き受けると確約された方でなければお話しすることは出来ません」
固い表情のまま深々と頭を下げる明菜。明らかに、今までとは異なっていた。
依頼を引き受けると確約した魔皇たちだけが残ったのを確認してから、明菜は話の続きを始めた。
「30日午後、ビルシャス某所の日本料理店にて会合が行われます。立派なお庭もあるお店だそうです。出席者はASEAN側から黒珊瑚様他、政治家や官僚といった方々など数名。パトモス側からは、パトモス政府とミチザネ機関各々の担当者が出席されます。魔皇様方には、その会合の警護をしていただきたいのです」
明菜の話を聞いた魔皇たちの中で、鋭い者はピンときた。これはもしや、神魔技術製兵器輸入枠拡大についての会合ではないか?
「どうやらASEAN側からの要望を伝える場になるとのことです」
明菜の言葉は推理を裏付けるものだった。となると、翌年にはもう少し本格的な交渉の場が設けられるのであろう。今回はそのための下準備の場だと考えられる。
だが、そういう場であれば普通警察が警護を担当するのではないだろうか。黒珊瑚のプライベートな行動でないことは明らかだし。アスカロトに依頼としてくるのはちょっと妙な感じがある。
魔皇たちがそんな疑問を抱いたことを察したか、明菜がこう言った。
「実は……これは黒珊瑚様よりの依頼なんです。パトモス側だけに警護をお願いするのは申し訳ないとのことで。ですので、魔皇様方はパトモス側の警護の方々と協調を取りつつ、ASEAN側……黒珊瑚様の指示に従っていただくことになります」
なるほど、そういうことか。つまり自分たちは、ASEAN側が用意した警護担当者ということになる訳だ。
「それでは魔皇様方、よろしくお願いいたします」
明菜は魔皇たちに向かって深々と頭を下げた。
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