■【初詣】出店をやろう!■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 高原恵
オープニング
「魔皇様方、ぜひとも手をお貸しください」
 デビルズネットワークタワー・アスカロト。サーチャーの逢魔・明菜が集まっていた魔皇たちに向かってそう言ったのは、大晦日の午後のことであった。
 明菜の言葉の続きを期待せず待つ魔皇たち。もう明菜が風変わりな依頼を持ってくることには慣れていた。そもそも自分に合わなければ引き受けなければよいだけなのだから、別段悪影響がある訳でもないのだし。
 そして明菜の語った依頼内容は、皆の予想通りのものだった。
「初詣の出店のお手伝いをしていただきたいんです。何でも人手が足らないのだとか……」
 ほほう、そうきましたか明菜さん。確かに、初詣といえばずらりと並ぶ出店が付き物という印象がある。客足も多いだろうし、人手が足らないと言われても納得出来る話だ。
 それはともかくとして。どうしてこういう依頼がここに来るんですか、明菜さん?
「……そ、その、どうにか出来ないかと知り合いのテキ屋の方に頼まれてしまいまして……」
 ……なるほど、相変わらず断れなかったんですね。
 で、いつ手伝えばいいんですか?
「ええと……1月3日の朝から夕方まで、お願いいたします。場所はビルシャスにある『佐津姫神社』です」
 『佐津姫神社』はビルシャスにある神社の中で、それなりの参拝客を集めている神社である。パトモス国議会の議員も毎年何人か参拝に来るという話だ。
 さてさて、どの出店の手伝いをしようかな?
シナリオ傾向 ほのぼの:5(5段階評価)
参加PC 彩門・和意
陣内・晶
【初詣】出店をやろう!
●気合いを入れて頑張ろう(By彩門和意)
「何だか物々しい警備ですねえ」
「物々しいですわね……和意様」
 『佐津姫神社』の境内でそのような会話を交わしているのは、彩門和意と逢魔の鈴であった。会話を交わしているといっても、隣接した出店間でということで、普段の会話より少し離れているのだけれども。
「それだけたくさんの参拝客が来るのでしょうかね」
 と和意は自分で言ったものの、どうもそれだけではないように感じられる。何故ならここへ来る途中で見かけたのだが、神社へ近付く車両が検問を受けて荷物もチェックされている光景があったからである。たくさん参拝客が来るからといって、普通はそこまでやらないような気もする。
「そういえば、政治家の方も毎年参拝に来られるそうですわね」
 と鈴が言った。なるほど、それなら検問での光景も納得がゆく。そっちの理由なのかもしれない。
「政治家の人たちも買ってくれるといいんですけどね」
 苦笑する和意。まあさすがにそれはないだろうけれど、政治家を追うマスコミの人間が買ってくれる可能性はある訳で。彼らが買ってくれるだけでも、そこそこの売り上げになるのではなかろうか。
 その出店だが、和意が担当するのはお好み焼き、鈴が担当するのはりんごあめだ。ついさっきまでテキ屋の者にこつを教えてもらっていたのである。
「頑張って売りましょう、鈴さん。繁盛すると特別手当をもらえるかもしれませんしね……」
 などと言う和意は、ねじり鉢巻きに袖まくり姿と気合いが入っている。もっとも焼けた鉄板のすぐ近くに居ることになる訳だから、真冬とはいえども大丈夫なのかもしれない。
「ええ、和意様頑張りましょう」
 にこと和意に微笑みかける鈴。その時、2つの出店の間から鳴き声が聞こえた。
「ル♪」
 この鳴き声は二足恐竜型魔獣殻のアローのものだ。けれども今日のその姿は、風呂敷とお面を被せられた小さな獅子舞。さすがにこの人混み、魔獣殻姿だと目立つ恐れがあるからか変装させていたようである。
「アローくんも頑張りましょうね。あ、アローくん、いくら綺麗でも晴れ着をぱくついてはいけませんわよ」
 アローに注意する鈴。
「ル♪」
 ご機嫌に返事を返すアローであった。

●大切なのは客受けですよ(By陣内晶)
「相変わらず明菜さんは交友関係が広いですねー」
 別の出店でそうつぶやいたのは、着流しの上にガウンを羽織っている陣内晶である。晶もまた出店の手伝いにやってきていたのである。ちなみにベビーカステラ屋だ。
「あ、あのー……」
 明菜の声が聞こえてくる。何やら言いたげだが、さくっと無視して言葉を続ける。
「及ばずながら僕もお手伝いする訳ですが、人に頼んで自分だけ逃げるなんて、そんなことを明菜さんがやる訳ありませんもんねー。はっはっは」
 最後の笑いがわざとらしいのは気のせいです。ええ、気のせいですとも。
「あのー……逃げはしませんけど、そのー……」
 やっぱり何か言いたげな明菜。それでもしれっと無視して晶は話を続けてゆく。
「ああ、僕が勘定や何やをするんで、明菜さんは呼び込みや応対の方お願いしますねー」
「だからそのー……この格好はー……不味いのではないかと思うのですけれどー……」
「そうですか? よーく似合っていますけれどねー」
 恥ずかし気に言う明菜に対し、晶はようやく言葉を返した。その明菜の格好なのだが……巫女服姿である。もう1度言う、巫女服だ。
「似合っているどうこうじゃなくてー……場所がですねー……」
「ええ、ですからその格好で看板娘お願いします」
 神社で巫女コスプレをするなんざいい度胸だ。
「どうあってもこの格好のままなんですね……」
 がっくりうなだれる明菜。そこに晶からの追い打ちをかける一言が。
「このままじゃ普通なので、もう少し胸元を広げるとかこう、客受けを狙って」
「客受けって何ですかー!」
 叫ぶ明菜。いったいどんな客を狙うんですか、晶さん。
「せっかくですから、記念写真もしときましょうか……」
 と言って、どこからともなくカメラを取り出す晶。こうしてまた、明菜の恥ずかしい写真が増えてゆくのであった。

●明菜の受難
「焼き立てのお好み焼きはいかがですか〜!!」
 行き交う参拝客に向かって呼び込みを行う和意。効果はあるようで立ち止まったり、近付いてくる者もそれなりにある。
「ル♪」
 が、一番効果あったのはミニ獅子舞になってるアローのようで、子供たちが真っ先に食い付いてきた。
「はい、こちらはりんごあめですわね。そちらはあんずあめで……」
 そして子供たちへ忙しくあめを手渡す鈴。作り置きしてある物を売るだけだから、焼かなければならない和意に比べると楽な方であろう。もっともお好み焼きはお好み焼きで、暇を見て生地を作っておけば後は焼くだけと言えないこともないけれども。
「おや、あれは?」
 その最中、和意は目にした晴れ着姿の華やかな集団の中に見覚えある顔をいくつも見付けた。神魔人学園・プールの女王を筆頭に、世界制服同好会の高野真里、白山亜美、サナ・カスケード、そして生徒会長の道真神楽という面々。しっかりと保護者もくっついてきていたりする。
「あ、気のせいじゃなかったんだ!」
 と、驚いたようにプールの女王が言うと、和意はにっこり笑った。
「1ついかがですか? せっかくですから大盛りサービスしますよ」
 6人居るのだ、サービスしても全員買ってくれれば十分黒字となるだろう。
「サービスしてくれるって!!」
 和意の言葉に喜び、保護者の方へ振り返るプールの女王。だが保護者はやんわりと窘める。
「さっきも言ったろう? 買い食いはお参りの後でって」
「はーい」
「じゃあまた後で」
 保護者はぺこりと頭を下げてそう言い残し、皆を連れて拝殿の方へ向かってゆく。
 一方その頃、晶と明菜のベビーカステラ屋。
「ベビーカステラ、いかがですかー?」
「明菜さん、男性客と話す時は心持ち前屈みな感じでこう……」
「何をアピールするんですかー!」
 そりゃああれです、明菜さん。胸元開けてるんですから、自ずと分かるかと。
「しかし女性客にはひたすら歯切れよく、笑顔を絶やさないように!」
「両方一緒に来たらどーするんですかー!」
 明菜さん、そんな問題ですか?
「もちろん前屈みかつ歯切れよく笑顔です!」
 それはどこぞのアイドルイメージDVDですかい、晶さん。
「無茶言わないでくださいー!!」
 何だか明菜叫びっぱなしという感じもするが、意外に客足はあるこのベビーカステラ屋。いやまあ、ベビーカステラだからという突っ込みはなしの方向で。
「売り上げ伸びるとボーナス出るかもしれませんよー」
 などと晶が言ってるくらいだから、それなりに売り上げ出ているようである。
 だがこういうことをやっていて、目立たない訳はない。社務所の方から神社の人間が2人明菜の所へやってきた。
「ちょっとあなた。そんな格好で何をしているんですか」
「少しお話を聞かせていただけますか」
「え、え、え? あ、あの、ちょっと、その……」
 助けを求めようと明菜は振り返るが、晶が居たはずの場所はもぬけの殻。誰も居やしない。
「ここでは何ですからあちらへ」
「一緒に参りましょうか」
 明菜の両腕をがっちりとつかみ、ずるずると社務所の方へ引っ張ってゆく神社の人間。……何かこんなシーン、昔のドラマであったような気がしなくもない。
「あ、あのー……そのー……たーすーけーてー……!」
「明菜さん、あなたの尊い犠牲は無駄にはしませんよ」
 悲しそうな目をして引っ張られてゆく明菜の姿を、晶は物陰から見ていた。
 ……あの、もしもし? 右手の手提げ金庫と、左手のカメラは何ですか、晶さん?
「ええ、無駄にはしませんから。明菜さんを助けられなかった以上、せめて写真だけでも残しましょう」
 そう言ってパシャパシャと明菜の写真を撮る晶であった……。

●おみくじ
 その後、参拝に来ていた議員が狙われるなど騒ぎはあったものの、どうにか夕方まで出店を終え、各人は仕事から解放された。ちなみにどの出店も平均以上の売り上げを果たしていたから優秀と言えよう。
「被害がなくてよかったですよね、鈴さん」
「ええ本当にそう思いますわ。せっかくお正月ですもの」
 そう話しながら拝殿へ向かう和意と鈴。アローも後ろからついてゆく。
 正月早々神社の境内で流血騒ぎなど起きた日には、今年1年どうなることか分かったものじゃない。血の1滴も流れることなく事件は解決したことは本当によかった。警備がしっかりしていたこともあるのだろう。
 そして拝殿で各人願をかける。
(どうかひとつ! なにとぞ! 今年こそ鈴さんと結ばれますように……!!)
 これは分かりやすい和意の願い事。一方の鈴の願い事はどうだろう。
(来年もこうして、和意様やアローくんと無事にお参りができますように……)
 これはほんわかした願い事だ。
「ル♪」
 すみません、アローの願い事はよく分かりません。
 それから和意たちと入れ替わりに晶と明菜も拝殿へやってきた。
「たっぷり叱られちゃいました……」
 そう語る明菜はどんよりと暗かった。当然今は普段着姿である。
「おみくじ引いたら、夕食くらいは奢りますよ」
 と言って晶は明菜を慰める。まあ慰めになってるかどうかはともかくとして。だって、明菜の巫女服姿なフィルムはしっかり手元にあるのだし。
 その頃の和意たちはおみくじを引いていた。
「ええと……わたくしは中吉ですわね。和意様はいかがでした?」
「僕も中吉です、気が合いますね鈴さん」
 鈴へ微笑みかける和意。そして互いに仕事運を確認する。
「わたくしの方は、焦らぬが吉だそうですわ」
「こっちは、欲をかかねば順調となってますね」
 どちらにせよ、これまで通りのペースで仕事に励むのがよいのかもしれない。
 そして破魔矢を買ってアローのしっぽに括りつける。
「やはりアローくんには矢がよく似合いますね」
 笑いながら和意が言った。2人の殲騎の名は『二重の虹』、それにつがえるのは矢――すなわちアロー。ちゃんと名前の由来があるのだ。
 さてさて、晶と明菜も各々おみくじを引いていた。
「おや大吉ですか。いやー、今年もいい年になりそうですねー。金運も好調と書いてますよ」
「凶……。全体運が、流れに飲み込まれるっていったい……」
 いやはや、これほどまでに明暗くっきり分かれてしまうとは。
 最後に、おみくじを括る前に和意がチェックしていた恋愛運について触れておこう。
『攻めは裏目に通ずる』
 何だか今年も前途は険しいような――。

【了】