■硫黄島防空■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 ヘタレ提督D
オープニング
サーチャー・アベンチュリンだ。諸君らに任務を伝える。
まずは、状況から説明しよう。

オーストラリア方面から、敵部隊が硫黄島へ侵攻してきた。
硫黄島には海軍の航空基地があり、また付近で訓練中だった魔軍部隊も合流したため、戦力的には我が方が優勢……のはずだったのだが、思わぬ苦戦を強いられているらしい。
というのも、魔軍部隊が造反したために、乱戦になっているというのだ。

詳しい事は不明だが、戦略的な問題から、硫黄島の失陥は避けねばならない。
そこで、魔軍は増援部隊の派遣を決定した。

その増援部隊に先駆けて、状況把握のため諸君らを先遣隊として派遣する。
現地で何が起こっているのか把握し、硫黄島の北東・聟島(むこじま)の上空に待機している増援部隊本隊に伝えてもらいたい。本隊は、諸君らの報告の後に動き出す予定だ。
通信機器は軍が用意する。

報告後は現地部隊に合流して敵を撃滅せよ。
なお、現地では見慣れないパワー級ネフィリムが確認されている。一応、気に留めておいたほうが良いかも知れないな。

諸君らの健闘に期待する。
シナリオ傾向 殲騎戦
参加PC 錦織・長郎
風羽・シン
ロジャー・藤原
硫黄島防空
硫黄島防空

・ロジャー 藤原(w3h484)

 酷い有様だった。
硫黄島の表面には破壊されたゼカリアや殲騎の残骸が転がり、すでに硫黄島基地も炎上して黒い煙をもうもうと噴き上げている。その黒煙はまるで火山の噴火だが、そういえば硫黄島って活火山だから、あながち冗談でもないのか?
 俺は今、先遣の偵察隊として、硫黄島の様子を上空から偵察している。……コハクの『憑操の術』でカモメに憑依して。まさか上空にいるカモメが硫黄島を偵察しているとは、たとえマティアでも見抜けないだろう。この場に本当にマティアがいたら、エラい事になるけどな。
(しっかし、何だろねぇ。混沌……つーかカオス? むしろChaos?)
 二番目と三番目のヤツの違いは発音だ。ちなみに、意味はどれも同じだというツッコミをしたら負けだぞ。ツッコミを入れた奴、勝った俺に十円寄越せ。……などと冗談を、いや、たった十円でもくれるなら欲しいっちゃ欲しいかも知れないが……とにかくそれは置いといて、俺は、眼下……硫黄島基地上空に広がる光景を注視した。
 殲騎が、ゼカリアを襲っている。
 すでに、襲われているゼカリアのほうは十機も残っていない。出撃直前……今からおおよそ一時間半ぐらい前に聞いた話だと、基地に配備されていたゼカリアは三十機以上だそうだから、すでに三分の一にまで打ち減らされているという事か。
 襲っている殲騎のほうは……こちらも十機前後ぐらい。連携も何もあったものではないバラバラな動きで、ゼカリアを攻撃している。全く組織的でないところを見ると、ただ暴れてるだけとしか思えないんだが。
 一応、今回の騒乱に関しては、魔軍の殲騎が反乱を起こしたって話だが……別の可能性について、前回ダーウィンテンプルムを偵察した時とほぼ同じ面子である俺たちは、示唆していた。
 視線を南西方向に向けてみれば、そこには摺鉢山と、その上空に布陣するネフィリムの一団を確認する事が出来る。通常のパワー級数機に加えて、ランドセルを背負っているかのようなパワー級ネフィリム、通称『ピッカピカの一年生』(今命名)が四機。
戦場からやや離れた位置に布陣しているのは、まるでゼカリアと殲騎が戦っているところを冷ややかに見つめているかのようだ。ぶっちゃけ、ちょっと感じが悪いぞ。
 レギオン。聖書に登場する、人に取り付く悪霊。その名が冠せられた装置を、神帝軍はダーウィンで開発していた。コンセプトは『神属の手を穢さない』だそうだから、さしずめ魔属を操る神機装置といったところか。
 だが、ラクして俺たちに勝とうなど、百億光年早いぜ。
(さて、と。こんなもんでいいだろ)
 そもそも、確認するような状況があったとは思えない。出撃前に聞いた話そのままの光景が、硫黄島の上空で展開されているだけだ。
 俺はカモメの身体を翻させると、硫黄島の南西部・摺鉢山方面へと向かった。今回も同行する事になった風羽と錦織は、ピッカピカの(ry)が積んでいると思われる『レギオン』の効果範囲を割り出すべく俺たちとは別に動いており、彼らと合流して、さっさと次の行動に入らなきゃいけない。忙しい事この上無いなぁ、しかし。
 その時、ふと言葉が浮かんだ。作戦前に錦織の逢魔である幾行が言っていた言葉だ。
『しかし、敵軍襲来と来たところに、造反騒ぎ。そこに先行偵察をする僕たちはたった三機ですか……。ある意味、貧乏籤の極地ですね』
 ……ちょっと泣けてきた。
ともかく、どうやって暴れん坊魔皇の皆さんを宥めるか。今はそれを考えよう。

 殲騎を召喚して、風羽機の護衛に就く。ネフィリムの一団からの距離はおよそ三・五キロメートルで、一団を挟んだ反対側には錦織機が待機していた。
 新型の敵、つまりピッカピカ(ry)を狙撃するのが、次の行動だった。聟島にいた救援部隊にはすでに連絡したので、間もなく援軍が来る……むしろ、早く来い。
 俺の仕事は、狙撃を担当する風羽機を護衛する事だ。同じく狙撃を担当する錦織機に護衛は無いが、そこは人数の関係で仕方が無い。頑張れ。俺は応援しているぞ。
『しんくん。距離三五〇〇、直接射撃でいけると思うよ。訓練の成果、出るといいね』
『ほんの数時間しか訓練出来なかったけどな。……ロジャー、護衛ヨロシク』
「オッケー。お任せあれぃ。どんな敵でも撃退してやるよ。でもヴァーチャー級だけは勘弁な」
 通信機を介して、風羽や彼の逢魔の刹那と会話する。
「ドミニオン級は良いんかい」
「その時は、某金属スライム並みの速さで逃げるから良いのだよ」
 俺の逢魔であるコハクのツッコミに答えつつ、俺は真ドリルランスにDEX『真魔炎剣』を付与した。
『いくぜ!』
 気合一つ。風羽機が狙撃を始める。ネフィリム集団の中央で守られるように布陣していたピッカピ(ry)が、黒煙を上げて摺鉢山へと墜落・爆発した。
「いいねぇー。刹那のサポートは完璧だ」
『俺の射撃の腕は無視かよ』
 などとやり取りしていると、遅まきながらネフィリムが動き出す。ピッカ――もう面倒だから新型でいいや――が後退すると同時に、護衛のパワー級がこちらへと向かってきた。数は四機。そんなに多くはない。
「やぁ、また会ったね、マティア神帝軍の諸君」
 俺はそう言ってから、真ドリルランスを構えた。

・風羽 シン(w3c350)

聟島から駆けつけた魔軍の殲騎部隊の参入もあって、戦況は俺たちの優位で動いていた。
錦織の指示で造反……というか『レギオン』にかかった連中は、あらかたDFで拘束され、行動不能に陥っている。ゼカリアも、何とか三機が残存していた。
神帝軍のほうも、残すところは護衛が二機に新型が一機。しかも完全に包囲されているため、彼らが逃げる事は不可能だろう。
勝ちは揺ぎ無い。今ここで新兵器を捕獲する事も不可能ではなく、そうなれば今後の対策も立てられるだろう。
だが、その時だった。新型のバックパックが青白く光り始めたのは。
ぐっ……何だ……?
敵のバックパックが光り始めてすぐ。俺の奥底から、何かが沸きあがってくるのが解った。
「ぐぅっ……ぐっ……!」
 その激しい衝動に、思わず顔を顰めて胸を押さえる。
 しんくん、どうしたの、大丈夫!?
 誰かが俺に声をかけてくるものの、まるで靄が立ち込めているかのようにその声は鮮明ではなく、代わりに俺の頭には、ある思考が浮かんでいた。
 壊したい。壊したい。壊したい。コワシタイ。
 無性に、何かが壊したくて堪らなかった。無性に、何かが壊れるところを見たかった。無性に、何かが壊れる音を聴きたかった。無性に……。
 俺は、狙撃に使ったため残弾が三発しかない一二〇ミリロングライフルを構えて、近くを浮遊している殲騎へ放つ。連続で三発。
 狙いは違わず、三発の砲弾は殲騎に命中した。ペインブラッド型のその殲騎は、力を無くして……まるで人形のようになり、海面へ墜落する。一機撃墜。気持ちいい。
 だが、まだだ。まだ足りない。もっと壊さなければ。破壊させろ――
「!」
 その時、誰かが俺の機体の背中をぶっ叩いて殴りつけてきた。思わず振り返ると、そこにはロジャーの殲騎がいて、手に真ドリルランスを持っている。アレでぶっ叩かれたのか。
『正気に戻ったか?』
 正気……?
 言われて、俺は気付いた。ロジャーにぶっ叩かれてから、先ほどまでの感情……何かを壊したいという衝動が収まっている。
「い、今のは、一体……」
『さぁな。だが、真魔炎剣で正気に戻せる事が確定したわけだ』
 そういえば今回、ロジャーはDEX『真魔炎剣』を使用出来た。この技の効果は……。
「SFでの効果を打ち消す、か」
『卓球……なんてね』
 それはピンポンと言いたいのか。だが、助かった。その上、『レギオン』の効果まで判明するとは。
「……魔属の破壊衝動を増大させる装置、か」
『だろうな。つまり造反じゃなくて、ただ暴れてただけなんだろ』
「神帝軍が離れて見てたのは、巻き添えを食わないため、てトコだな」
 原理が解れば、対応は簡単だ。とは言っても、今回、俺はDEX真魔炎剣を使えなかったが。
『他の連中を正気に戻してくる』
「了解。じゃあ、俺は神帝軍を追う」
『レギオン』に因る破壊衝動に駆られて、すでに殲騎による同士討ちが始まっている。そのために包囲が解け、神帝軍の残存部隊が逃亡を開始していたのだ。
しかし、ロジャー機は頭を振った。
『すでに錦織が追っている。正気に戻してる間、護衛をしてくれると有り難い』
「解った。頼んだぜ」
 俺は真グレートザンバーを構えて、ロジャー機の護衛を開始したのだった。

・錦織 長郎(w3a288)

 あの新型ネフィリムは、酷く鈍足らしい。その鈍足を護衛するパワー級も、速度を落とさざるを得ない。結果的に、僕はすぐに追いついた。真テラーウイングもあるしね。
 硫黄島の南西の海域。僕の後ろには硫黄島があり、そこではロジャー君とシン君が頑張って皆を正気に戻している事だろう。最も、僕もロジャー君の世話になった一人なのだが。
 対策が解ったとはいえ、DEX真魔炎剣など、使える魔皇は大して多くない。やはり、『レギオン』の実物は回収するべきか。それもなるべく万全な状態で。
 ネフィリムは、新型を逃がす時間を稼ぐ気なのだろう、剣を構えて僕の前に立ちはだかった。局地的に見れば一対二なので、僕をさっさと撃墜して逃げようという魂胆だろうが、そうはいかない。
『彫像言』
 ネフィリムの片方が言葉を発し、僕のほうへ向けて手をかざす。下級SFだろう。だが。
「効きませんよ」
 幾行の声。機体の前面に展開された幾行の逢魔能力『氷の壁』は、前面からのDFやSFを無効化出来る。僕の機体に何ら影響は無い。
「残念だったね」
 僕は真ブーステッドランチャーで反撃するが、平行移動しただけで回避された。片方がそのまま近付いてきて、剣を振るう。
「おっと。危ないな」
 後退しつつ身を反らして切っ先を避けると、右からもう一機が剣を構えて突っ込んでくる。連携はまずまずか。
 僕は二機目に対してDEX『真蛇縛呪』を発動する。拘束され、墜落してゆくネフィリム。僕はその敵へ向けて真ブーステッドランチャーを向ける。だが、突如墜落中のネフィリムの機体が輝くと、黒い粒子が周囲へ散って、消えた。
「下級SFの『常衝閃』ですね」
 幾行の声が後ろから聞こえる。DFを一つ中和するSF。なるほど、それなりにやる相手らしい。
「では、戦い方を変えよう」
 僕はそう宣言すると、まず態勢を直した一機目の剣を再び回避し、真テラーウイングの速度を以って、距離を取りつつ大きく迂回するように移動した。
 僕を妨害しているネフィリムと、逃げている新型の間に入り込むカタチだ。僕の正面には硫黄島が見える。
 僕の背後には逃げる新型が飛行しているはずだが、顔を前に向けているため、その姿は確認出来ない。僕の目の前からは、立て直した二機のパワー級がまるで『行かせるか』とばかりに追撃してくる。
そこで僕は真ブーステッドランチャーを発射し、二機の敵機のスレスレを狙った。当然その弾は回避されるが、今の攻撃は撃墜が目的ではない。
……目論見どおりにネフィリムが固まったところで。
「真闇蜘糸」
 DEXを発動する。固まった敵は急いで散開しようとするが、遅い。その時にはすでに、彼らは特殊な網によって搦め捕られ、行動の自由を無くしていた。
 僕は、もぞもぞと網から脱するべくもがく二機のネフィリムへ向けて。
「終わりといこうか」
 DEX真衝雷撃を発動した。

 新型とは言っても、見た目どおり元はパワー級らしい。パワー級と同じ位置にあったコクピットを、真シューティングクローで貫いてやると、新型ネフィリムは動作を停止した。
 真シューティングクローを回収し、海面へ墜落していく新型を支える。……自爆装置や、それに類する物が働く気配は無い。随分と間抜けな話ではあるが、ここで捕獲されるとは露ほども思ってもいなかったのだろう。
魔軍の諜報部員をやっている僕としては、その迂闊さは何かの罠でないかと疑いたくなるものの、結局その意図は掴めない。僕にさえ計り知れない深慮遠謀があるのだろうか。あるいは、そんなモノは存在しないのか。
最も神帝軍の意図がどうであれ、装置自体が無傷の機体を捕獲出来た事は、一先ず喜ぶべき事だ。
「僕たちにとって災いの種だが、分析すれば対抗出来るだろうしね」
 一人ごちつつ、僕は支えている新型ネフィリムを見る。
 ――これ一機のために払った損害は予想以上に大きいが、その価値があるサンプルだと思いたいものだね。
 戦力を三十分の一にまで激減させたゼカリア部隊を思い返しながら、僕は硫黄島上空でロジャー君やシン君と合流し、新東京への帰路に就いたのだった。

 硫黄島南西海域で行動中のネフィリムが目撃されたと報告が入ったのは、作戦から三日後の事だった。

                                       終