■紫夜に天則を砕け■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 ヘタレ提督D
オープニング
こちら『しょうかく』通信室。全部隊、聞こえるか。

敵の指揮官と思しきヴァーチャー級が出現した。
細部は異なるが、背中に背負った装置は間違いなくレギオンだろう。もしかしたら、新型かも知れない。
新型レギオンがどのくらい強力なのかは判らないが、しかしヴァーチャー級を放っておくわけにもいかん。
幸い、敵が後退しているために対策部隊の護衛は手隙となろう。
従って、諸君らがヴァーチャーと交戦・これを撃破せよ。

敵の戦闘力は未知数だが、諸君らならば必ずやり遂げる事が出来るだろう。ヴァーチャーに、レギオンを発動するスキを与えるな。
なお、目標の撃破後は、任意に行動してくれて構わない。

諸君らの健闘に期待する。

……必ず、生きて帰れ!
シナリオ傾向 殲騎戦
参加PC 錦織・長郎
月島・日和
河崎・丈治
真田・浩之
ロジャー・藤原
紫夜に天則を砕け
紫夜に天則を砕け

・河崎 丈治(w3d312)

 いきなり斬りかかってきた敵の剣を、俺はかろうじて、左手に逆手で持っていた真雷光の小太刀によって受け止めた。金属同士がぶつかるような甲高い音が響く。
「おっと。全部が全部素人じゃあないって事か」
 少なくとも、素人ばかりだった今回の敵の中では、この敵の腕前は悪くない部類に入った。小太刀で受け止めている俺に対し、押し切れると思ったのだろう――敵は、剣でそのまま押し切ろうとしている。
……受け止めつつ観察するに、剣と盾を携えたこの敵はパワー級ではなく、またレギオン搭載機のウォフ=マナフ級でもない。新型の敵機らしい……というよりも、背中にウォフ=マナフの毒電波発生装置と同じような箱を取り付けてはいるが、こいつはヴァーチャー級じゃないのか?
その折。
『こちらは空母「しょうかく」だ。各機聞こえるか。敵は、レギオン搭載型のヴァーチャーを繰り出してきた。繰り返す、ヴァーチャーが出撃してきた! 各部隊は……』
 決定だな。
 俺は小太刀を握る殲騎の腕に力を入れさせて、剣を少しずつ押し返し始めた。そのまま新型の胴体に蹴りを見舞い、その反動で後方へと離脱、距離を取る。
「コイツは挨拶代わりだ。受け取ってくれ」
 距離が離れたところで、急に力を受け止める相手がいなくなったために剣を空振りして体勢を崩していたヴァーチャーへ、真ドレッドノートの連射と真クーゲルブリッツのミサイルをしこたま浴びせた。
 だが。
 ヴァーチャーの目の前の空間が球形に歪み、そこで俺の放った攻撃は全て消滅、あるいは爆発してしまった。体勢を立て直すヴァーチャーの後ろから、パワー級が何機か現れる。護衛の機体がいたのか。
「ねぇ、数的に拙くないかしら?」
 後席の逢魔・ミズキが、苦笑しつつ言う。ひい、ふう、みい……おお、ヴァーチャー入れて九機か。さすがに、一機で相手する数じゃないが……ここで釘付けに出来るなら、しておくべきか。
 俺は通信機に向かって言った。
「レギオン付きヴァーチャー? それは俺の目の前にいるぞ。現在地はテンプルム付近。来援を乞う。至急な」
「……今回は、結構仕事が多いわねぇ」
 俺の通信の意味を察したのだろう、ミズキはなおも苦笑して言う。
 戦線は俺の後方だから、しばらく一対九の状態は崩れないだろうが……幾行の言葉でもないが、これは貧乏籤を引いたか……?
「ここが正念場だな」
 敵が散開した。

・錦織 長郎(w3a288)

 レギオン搭載ヴァーチャー出現の報と、河崎君が交戦中であるという報を、僕は空母『しょうかく』での休憩中に聞いた。
 そして、
『対策部隊の護衛は、直ちに河崎大尉と合流、これを援護せよ!』
 指揮官からの命令を忠実に伝える通信も。
 通信が切れるや否や、幾行は大きなため息をついた。
「結局、貧乏籤を引いたわけですか……。それも最悪かも知れないのを」
 最も、貧乏籤云々はいつもの事なので、答えるより先に通信を入れる。
「ロジャー君、日和さん。現在地はどこかね?」
『対策部隊と一緒だ。戦線のやや後方、艦隊寄り』
『命令は聞きましたが……間に合いますか?』
 一度後方の空母まで戻った僕が、二人との合流に間に合うのか、という事だろう。それに関しては……
「戦力の逐次投入になるけど、二人は先に河崎君と合流したほうがいいね」
『同感だ。なるべく早く来てくれ』
 ロジャーの声は真剣で、いつもの軽口は見られない。
「もちろんさね」
『よし……。コハク、祖霊招来で河崎の位置を調べてくれ。それから祖霊の衣を……』
 ぶつん。二人との通信が切れると同時に、僕は新しい魔皇殻を召喚した。
さて、行こうか。
「それにしても、ヴァーチャー級まで持ち出してくるとはね。ある意味本気なのだから、腰を据えて潰そうね。くっくっく……」
 僕の殲騎は、空母の甲板を蹴った。

・真田 浩之(w3f359)

 なるほど、テンプルム攻略戦が行われているとは聞いていたが、大分戦況は有利みたいだな。
 俺は戦線上空を飛行しながら、かなりテンプルムまで近付いている戦況を見やった。この状況ならば、パトモス軍がテンプルムに突入するのは時間の問題だろう。
 ならば俺の任務は、攻撃部隊の先陣を切る事。
 魔皇殻真メビウスリング、魔獣殻リンドブルムを合体、そのまま高高度まで上昇して停止する。
 豆粒ぐらいの大きさに見えるテンプルムを見据えた俺は……その神属の砦へ向かって急降下を開始した。
 機体は音速を超え、俺はそのGに耐えながらもテンプルムを目指し、下で戦う両軍の機体がハッキリ視認出来る頃にDEXを発動する。
「真燕貫閃!」
 対象は……俺の機体の機首だ。人によっては波乗りの特攻とか、そう言う者もいるだろう。DEXを付与された機首は、テンプルムへの激突と共にその壁面を貫き、俺の殲騎ノートゥングをテンプルム内部へと侵入させるのに多大な貢献を果たした。
……リンドブルムを送還し、魔皇殻を召喚。ノートゥング立ち上がらせる。屋根に開いた大穴から日光と屋根の屑が降り注ぐその空間には……。
「……いたか」
 美しい女性の上半身に、グロテスクなゼリー状の卵型下半身。ファンタズマを生み出す大型の天使。マザー。一〇メートルの化け物。
「なっ……」
 突然の侵入に呆気に取られていたようだが、気を取り戻したマザーは侵入者である俺を見据えると、
「たった一機で愚かな……閃光烈破弾!」
 マザーの身体が発光し、眩い光が視界を包むや否や、それは起こった。
 ぐっ……しまった。目が、見えない……!
 マザーの放った眩い光に、俺の視界は奪われてしまった。SFだ。拙い、このままだと……どうにかしなければ。
「ふふふ……じわじわと嬲り殺して差し上げましょうぞ。百雨失楽園!」
 目くらましを受けて思わず膝をついた俺に、マザーが勝ち誇った声を挙げる。
「ぐあっ……!」
 俺を突如襲う衝撃。範囲内の敵へ、定期的に損害を与えるSFだ。
「ほほほほ……」
 マザーの高笑いが耳に障るが、目が見えなければどうしようも……。
いや、待て。
俺の目の前にマザーがいる。これは疑う余地も無い。ならば。
もう一度、やればいい。
俺は再びリンドブルムを召喚し、自身に合体させた。
「無駄な抵抗じゃ。ほほほほ」
 声と共に襲う衝撃。だが……まだだ。俺を倒すには足りない!
「真燕貫閃!!」
 機首にDEXを付与し……
「な、何をする気じゃ!」
 俺はその問いに、一言だけ答えてやった。
「波乗り突撃」
 言いつつ、全速力を出して前方へと突っ込む。
「ぐぎゃあああぁぁ……」
 肉の潰れ、ひしゃげる音に、甲高い悲鳴が重なるが、それもすぐに遠のいて行く。後に残るのは、テンプルムの壁を連続して貫く音だけ。
 俺のやった事は、要するに侵入した時と同じ手だ。マザーに殺されるかあの部屋へ増援の敵が来ないうちに、同じ方法でマザーにダメージを与え、かつテンプルムを突っ切って逃げる。俺に残されたのはそれだけだった。依然目は見えないが、これはもう、カンで行くしかない。
 ……あの一撃だけでマザーを倒せたかどうかは解らないが、少なくとも深手は負わせたはずだ。あとは、パトモス軍の攻撃隊にやってもらおう。
 ふっと、身体が軽くなる。恐らくは外に出たか。
 俺はそのまま、視野が回復するまで適当に飛び続けた。

・ロジャー 藤原(w3h484)

 月島日和(w3c348)の放った真マルチプルミサイルが、ヴァーチャー級の前面で左右に展開する護衛のパワー級へ向かっていった。直後、小規模な爆発が連続する。
『突破を!』
「了解!」
 俺たちは敵の戦列が乱れたところで、一気に突っ切ってヴァーチャーへ接近しようと試みるも……
「くっ!」
 すぐに体勢を立て直され、ボウガンを射掛けられる始末だ。俺は飛んでくる矢を、機体に急制動をかけさせる事で回避する。機体が大きく揺さぶられた。
 早くしないと、あいつにレギオンを発動されてしまう。万が一暴走させられてしまったら骨だ。
 ……その時。
『お待たせしたね』
 錦織の声だ。ようやく来たか!
『遅いぞ』
 河崎の声も苦笑混じりだ。
『あの忌まわしき装置を……破壊しましょう!』
 その月島の言葉には、比喩表現以上の実感が込められているような気がする。彼女は本当にあの装置を嫌悪しているらしい。
「オッケー。じゃあ、発動される前に……」
 四機の殲騎が頷きあい。
 俺たちは、行動を開始した。

『発射!』
『フォックス・ツー!!』
 月島と河崎が、それぞれ搭載しているミサイルを発射する。一部がたどり着く前に爆発する――恐らくSF聖障壁辺りだろう――ものの、それだけでは防ぎきれない大量のミサイルが護衛へと降り注いだ。爆発。
『これはオマケさね』
 続いて錦織がDEX真闇蜘糸を使う。白い糸が、中央に展開する敵を絡めとった。
「いくぜっ!」
 月島機と共に、中央部の戦列の乱れからヴァーチャーへ向けて突入する。左右への展開がアダになったな。
『発射……!』
 さらに月島は、真マルチプルミサイルをヴァーチャーへ向けて撃つ。が、これは一部がSFと思しき防壁に防がれたようだ。残りも回避されてしまう。
 続けて月島はDEXを発動した。
『真六方閃!』
 六つの光が筋となってヴァーチャー……その背中の装置へと殺到する。しかしヴァーチャーは、後退する事によって装置の位置をずらし、そこへ向かっていた真六方閃を盾で受け止めた。盾はほぼ消滅に近い損害を被って投棄されるが、しかし奴も装置もまだ健在だ。
 その間に、俺は奴の右側から回りこんでいた。
「頼むぜ!」
『ああ!』
 途端に、ヴァーチャーがビクンと震えた。飛行状態を保ってはいるが、急にその動きが止まる。悠宇が逢魔能力『重力の檻』で拘束したのだ。
 俺はそれを確認してから、DEX真狼風旋を発動させた。
『くっ……』
『護衛のヤツか……!』
 続いて『凝縮する闇』を……と思ったが、それより早く月島のうめきが聞こえる。続いた悠宇の声から察するに、錦織と河崎の足止めから脱した護衛のパワー級が、月島機へ攻撃をかけたのだろう。
 そのせいで『重力の檻』が解けてしまったのか、ヴァーチャーが再び動き出すも、しかしそれは遅すぎた。
 真カッターシールドを投げ捨てた俺は、今や奴に掴みかかれる位置にまで来ていたのだ。
 ヴァーチャーは接近した俺に対し、輝きだした手で殴りかかってきた。SF閃神輝掌を使ったのだろう。
「ぐぅっ!!」
避けきれる距離でもなく、俺は直撃を食らう。その任を全うした祖霊の衣が粒子となって舞い散り、さらに俺の機体の正面が大きくへこむものの……俺は、両手でヴァーチャーへと掴みかかる事に成功していた。
俺はヴァーチャーの両腕を押さえつつ、告げた。
「背中の立派なモン、使えるなら使ってみていいぜ? ただし、真っ先に暴走した俺の餌食になるのは、目の前にいるあんただがな!」
 言いつつ、DEX真音速剣を発動して真ビーストホーンに付与しようとしたところで……。
 ヴァーチャーの背の装置が、青白く発光を始めた。

 まさか……この状況で起動するとは……!
 俺の頭の中が、赤い色に彩られていく。
 ま、ずい。暴走、するわけには……。
 目の前に靄がかかる。
 壊したい……壊したい……破壊したい……!
 後席で誰かが叫んでいるも、その声は遠く聞こえやしない。
 コアヴィークルのハンドルを握る手が震え。
 壊す……スベテ、コワシテヤ――

『正気に戻れ、ロジャー!!』
 靄のかかった視界が僅かに青くなったかと思うと、氷が砕けるようにいきなり弾けた。後に残ったのは、鮮明な視界と……
「ねぇ、ロジャーってば!」
 コハクの声だけだ。
「コハ、ク……」
「良かった。正気に戻ったんだね」
「俺は……?」
『危ないところだったみたいだな』
 河崎の声だ。
『何言ってるの。あなただって暴走しかけたじゃない』
 苦笑しつつ応じる河崎の逢魔ミズキ。
「ミズキさんが回復してくれたんだよ」
 そうか。ウィンターフォークの『効能の泉』か。
「すまん。サンキュ」
『いいのよ。それより、私たちはと錦織さんは、これから主力部隊へ向かうから。あの趣味の悪い毒電波発生装置、ちゃんと壊しておいてね』
 幾行もウィンターフォークだったな。という事は、主力で暴走している連中を正気に戻しに行くのか。
『護衛の敵も全滅しましたし、あとはヴァーチャーだけですね』
「そういえば、ヴァーチャーの野郎は?」
 暴走しかけた時に手を放してしまったらしい、ヴァーチャーがいなくなっていた。
『それなら問題無いぜ』
 悠宇の声だ。
『絶対に逃がすわけにはいかないからな。主……日和のためにも』
 俺よりややテンプルム方向、背を向けた状態で制止していたのは、あのヴァーチャーだった。悠宇の『重力の檻』か。良い仕事をしている。
「じゃあ、まずはアレから破壊するか」
 俺は真ワイズマンクロックを召喚し、俺のほうへ背中の装置を無防備に晒すヴァーチャーへ向けて放った。

・戦い終わりて。ロジャー 藤原

 気が付けば、もう夕方だ。
 マリアナ上空における、神帝軍との戦いは終わりを告げた。ダーウィンテンプルムはマリアナ沖の海に没し――攻撃隊が内部に突入した時、すでにマザーは弱った状態だったようで、楽々と撃破したらしい――、ヴァーチャーを含むレギオン搭載機も全機が撃墜され、残った神帝軍の兵についても、海軍大尉である河崎の降伏勧告に応じ、投降を始めている。
 俺は殲騎を飛行させながら、テンプルムが没した辺りの海上を見つめ。
「じゃあな。地獄でまた会おうぜ」
「い、いや……神属は、地獄へ行かないんじゃ?」
 …………。
 コハクよ、そんな心無いツッコミは無しにしようぜ……。ほろり。
「いいんだよ。気分だって」
「……それよりさ、ロジャー……私、気分悪いんだけど……」
 今にも拙そうな声を出すコハク。主力武器が真ビーストホーンだったから、頭振りまくりのコクピット揺れまくりだったしなぁ。
「ロジャーが真音速剣なんか使うから……余計……うっぷ」
「いや待てコハクッ、落ち着け! 今空母に戻るから、それまで我慢しろ!」
「もう……ダメ……かも……」
「ギャボーーーッ!?」
 
暮れ行く夕日が、マリアナの海を照らしている。
 
                                        終
 

補足説明
 レギオンは、魔力の数値が+7以上の時、1d100によるパーセンテージロールが発生。魔力の数値に応じた成功値以下の出目で、暴走を回避出来ます。
 なお今回は、

錦織→抵抗成功
月島→抵抗成功
河崎→抵抗失敗
真田→抵抗発生せず
ロジャー→抵抗発生せず

でした。