■【天極】トラック諸島制圧戦■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 ヘタレ提督D
オープニング
サーチャー・アベンチュリンだ。

諸君、緊急の依頼がある。オーストラリア神帝軍が動き出した。
敵は現在、アデレードにあったテンプルムを北上させつつある。恐らくは、パトモスへ向けた進撃であろう。
だが、これを座して見ている謂れは無い。事実パトモスも、海軍を主軸とした作戦『天極』を発動して、積極的にこれを迎撃する構えだ。

アデレードテンプルムは現在、アリススプリングス近辺に留まって、周辺の戦力の集結に務めている。
この空いた時間を利用しないテは無い。
諸君らは洋上にあるイージス護衛艦『あきつしま』と合流し、海軍の主力艦隊に先駆けてトラック諸島を制圧せよ。
トラック諸島を奪う事が出来れば、主力艦隊とは別ルートで進行する予定の補給艦隊と現地で合流、主力艦隊が補給を受けられる。
幸い、トラック諸島には若干の守備戦力が駐留するだけだ。『あきつしま』と共同で、これを叩け。『あきつしま』は慣熟訓練の途中であって乗組員の練度はいまひとつかも知れんが、士気だけは十分に高い。
作戦等は諸君らに一任する。

諸君らの健闘に期待する。
シナリオ傾向 殲騎戦
参加PC 風祭・烈
【天極】トラック諸島制圧戦
トラック諸島制圧戦

●風祭・烈(w3c831)

 灰色の艦体が、轟音を上げながら波を蹴立てて進んでいく。俺は艦首の手すりに掴まりながら風を感じた。
 パトモス海軍の最新鋭イージス護衛艦『あきつしま』。それが、俺が乗っている艦の名だ。軍人でない俺が海軍のイージス艦に乗っているのには、もちろん理由がある。
「烈。もうすぐブリーフィングの時間です」
 決して大きくないながらも俺の耳に声が届くのは、彼女の発声がしっかりしているからなのか。
「わかった」
 俺は声の主……逢魔のエメラルダに短く告げる。
 これから始まるブリーフィング。それは、数時間後には始まるであろう戦いに備えるためのものだ。
 大規模作戦『天極』。その尖兵として、殲騎一騎とイージス艦一隻という限られすぎた戦力でトラック諸島……敵の拠点を攻略し、後続の主力部隊が補給を行う場所を確保しなければならない。
 楽な任務ではないが、引き受けた以上は完遂させる。俺は一度エメラルダに頷いて見せてから、艦内へと向かった。

 今回の作戦はしごく単純だった。
 護衛艦『あきつしま』のミサイルで敵の拠点を破壊し、俺とエメラルダは殲騎に搭乗して艦の護衛に当たる。それだけだ。
 敵に『退魔壁』などのSFを使われたら、殲騎では荷が勝ちすぎる。だから、『あきつしま』に対神魔KEMで攻撃してもらうのが一番早かった。
「質問のある者は?」
 『あきつしま』艦長の声が広くない室内に響く。俺はその部屋に集まっていた数名の軍人を見回し……何やら俯きながら思案顔のエメラルダが目に入ってきた。
「何かあるか、エメラルダ?」
 俺の声にエメラルダは、はっとなって顔を上げた。
「い、いえ。……ただ、伏兵があるかも知れません。気を付けるべきかと」
 なるほどな。いい意見だ。そんな声が部屋を満たし、
「では、以上だな。解散!」
 艦長が解散の声をかける。だが、ふと目にしたエメラルダは、また少し俯いていた。

『13:00。作戦開始時刻だ』
 借り物の通信機から声が流れると同時に、俺はエメラルダに声をかけていた。
「エメラルダ」
「はい」
 彼女が精神を集中すると……次の瞬間、殲騎の腕となり足となる部品が召喚され組みあがっていく。
 一瞬の後には、艦の後部甲板に殲騎ドリルカイザーが姿を現していた。俺はその殲騎へと乗り込み、通信機へと告げる。
「準備完了だ」
『了解。離艦して上空で待機せよ』
『あきつしま』の通信士の指示に従い、俺はドリルカイザーを浮遊させた。
 眼下の後部甲板に設えられたミサイルランチャーの扉が開き、
『攻撃を開始する。当たるなよ魔皇!』
 通信士の警告が早いか、数発のミサイルが上へと垂直に発射される。それらのミサイルは上空で方向を変え、トラック諸島……トノアス島に存在が確認された神帝軍の駐在所へと降り注ぐはずだ。
 『はずだ』という曖昧な表現は、現在の位置からでは目標となるトノアス島が見えないからである。
 続いて、さらに数発のミサイルが発射されていく。発射されたそれらは通常のミサイルと対神魔KEMの混合で、前者は建造物を、後者は駐機しているであろうネフィリムを破壊するためのものだった。仮にエース……強力な敵がいたとしても、駐在所を破壊してしまえば撤退せざるを得ないだろう。
『着弾確認!』
 こちらの初手は、いわば長射程からの奇襲と言える。今頃、遠くトノアス島の敵は慌てているのではないだろうか。
「今回は、出番が無いかも知れないなぁ」
 ミサイルで一方的に敵を叩きのめせる気がする。そうなると、俺たちの出番は無い。
「まだ始まったばかりです」
 エメラルダが俺を嗜める。まだ油断は禁物だと。
「……そうだな」
 俺は頷いて、前方へと目を凝らした。

『敵影を確認。数、四!』
 通信士の声。俺はコアヴィークルのハンドルを握り締めた。
「何が来るかは分からないか?」
『ネフィリムと思しき反応二、種族不明のサーバントが二!』
 さぁ、敵が押っ取り刀で駆けつけてきたぞ。ここからは俺の出番だ。蟹型魔獣殻Gを殲騎へと合体させ、来るべき戦いに備える。
 やがて、前から来る四つの影を見つけた。ボウガンと剣を携えたネフィリムが二騎に……大型の鳥のようなのが二体。
「『あきつしま』は地上への攻撃を続けてくれ。あれは俺たちで叩く!」
 騎体を、『あきつしま』よりやや前方へと進ませた。
「射程内です!」
「いくぜ!!」
 左腕の真ステイクランチャーと左肩の真ショルダーキャノンが、それぞれ巨大な杭と炸裂弾を敵へ向けて吐き出した。密集していた敵は左右へと分かれる事で、その攻撃を回避した。右と左に、ネフィリムとサーバントが一ずつ。
俺はさらに、右の敵へとステイクランチャーを放ち……それから真アクセラレイトドリルで加速・全速で前進を始める。
初手の攻撃も次の攻撃も、俺に当てる意思は無かった。敵を分散させられればそれで良かったのだ。特に、二発目のステイクランチャーは……。
前進を開始した俺は、右の鳥型サーバントへと向かっていた。今までの経験から、どう回避してくるかを予測して……ビンゴ、思ったとおりに避けたな! 当たれぇ!!
鳥型サーバントに接近した俺は、次の瞬間には、真アクセラレイトドリルで敵を粉砕していた。
だが、まだ一体を倒しただけだ。俺は回転するドリルから即座にサーバントの残骸を振り払い、次へと備える。
「……いきます」
 エメラルダが呟くと同時に、俺の殲騎を半透明のヴェールが包み込んだ。セイレーンの逢魔能力『霧のヴェール』だ。戦い慣れているだけあり、上手いタイミングだ。
 直後、俺へ向けてネフィリムから矢が浴びせかけられた。さらに、残存したもう一体の鳥型サーバントが、鋭いクチバシを武器に突撃してくる。だが、そのいずれも当たらない。
「無駄だ!」
 騎体を旋回して、突撃して俺の後方へと抜けたサーバントを正面に見据える。ネフィリムは後回しだ。鳥型サーバントは大回りしつつ飛んでおり、恐らくまた突っ込んでくる気なのは明らかだった。
 真ショルダーキャノンをサーバントへ向けて発射し、回避行動をさせる。
その時、がきんという音がして騎体を揺さぶった。多分ネフィリムの矢がドリルカイザーの背中に当たったのだろうが、蟹型魔獣殻Gの防御力もあって、大したダメージにはならない。
それより、サーバント退治のほうが先だ。俺は鳥型の回避した先へ、アクセラレイトドリルで突入した。ドリルが唸り、鳥型サーバントを砕く。これで二体!
俺は急旋回して後ろへと向く。残った敵……二騎のネフィリムは、恐らく弓での攻撃を諦めたのだろう、抜刀してこちらへ向かってきた。すると、ネフィリムが二騎とも発光し始める。
「SF……恐らく退魔壁ですね」
 エメラルダの声に頷く。
「厄介だが、決して倒せないわけじゃない!」
 逆に、SF使用後の十秒が勝負と言えた。その間ならば、敵もSFを使えない。予見撃などで手痛い反撃を受ける事も、無い。
「真獣牙突(ビーストビート)!」
 俺はDEXを発動した。牽制のショルダーキャノンを撃つ時間は無いが、このDEXならば!
「行けぇぇぇ!」
 空中にいるはずの殲騎がふっと軽くなった気がして、次の瞬間には、最も近い位置にいたネフィリムへと肉薄していた。敵からは、俺が瞬間移動したように見えた事だろう。
「うぉぉぉ!!」
 ドリルの回転する真アクセラレイトドリル、それを突き出すと……急な事に回避も出来なかったらしいネフィリムの胸部が、貫かれた。ドリルに引きちぎられ、その左腕が海面へと落下する。
 ドリルを引き、即座に後退して敵から離れる。かなり強力な一撃だったはずだが、SF退魔壁のせいなのだろう、大損害を受けつつもネフィリムは生きていた。だが、そのネフィリムは俺へ追撃をしてこない。剣を握る右腕は健在のはずだが。
 その時、通信が入った。
『敵拠点の破壊を確認! 繰り返す、敵拠点を破壊した!』
 トノアス島にあった敵駐在所を破壊したという旨の、『あきつしま』からの通信。
 よし、あとは残った敵を倒すだけ……。
 そう思っていたら、敵は突如機体を反転させ、急速に飛び去ってしまった。何だ?
「……撤退した、のでしょうか」
 エメラルダの声。そうか、敵は駐在所を破壊されたために、これ以上のトラック防衛を断念したのか……。

 戦闘は終わった。この海域には、俺たちの他には海上をゆく『あきつしま』の姿があるだけだ。
 ……確かに、俺たちは勝った。だが……。
「何だか、殆ど『あきつしま』に持っていかれてしまった感じだな」
 俺たちのした事と言えば、サーバント二体を仕留めてネフィリム一騎を大破させただけ。他は全て、『あきつしま』がやってしまった。
「神と魔の戦いに人が加わってしまった……。こんな戦い、早く終わればいいのにな」
 そうですね、とやや浮かない声でエメラルダ。
「今では、魔よりも人のほうが有効かも知れません。……戦いが終わった後に、あの力は世界をどのように変えるのでしょうか」
 神と、魔と、人。変わっていく世界の事など露知らずとでも言うように、波は穏やかにたゆたっていた。

                                      終