■だから、そのマンションはペット禁止なんだって!■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 ヘタレ提督D
オープニング
サーチャー・アベンチュリンだ。依頼を持って来た。

あるグレゴールの少女が、ビルシャスでサーバント『グリフォン』を飼っている。
SF『ワード・オン・コマンド』で言う事を聞かせているようだが、生憎と少女の住むマンションはペット禁止だ。

……それは冗談だが、まだ幼い少女にサーバントを飼わせるのは、万が一の場合を考えると危険だろう。少女の気紛れで嗾けられたグリフォンが誰かを害しでもしたら、後で色々と厄介な事になる。
どうにか少女を説得して、飼うのを止めるよう言ってくれ。

それと、あまり大きな声では言えんが……軍の部隊が、万一の説得失敗に備えて待機している。彼らが出てくる事態だけは、絶対に避けねばならない。

なお、グリフォンは強力なサーバントであり、その力を頼みに少女が諸君らを追い払おうとするかも知れない。注意しろ。

……余談だが、件の少女は一人暮らしらしい。9歳の少女が一人暮らしとは、何か理由がありそうだな。

とにかく、諸君らの健闘に期待する。
シナリオ傾向 説得 戦闘?
参加PC 月島・日和
チリュウ・ミカ
ミティ・グリン
アーシア・スタンリー
だから、そのマンションはペット禁止なんだって!
だから、そのマンションはペット禁止なんだって!

・チリュウ ミカ(w3c964)

やれやれ。過去の戦争の爪痕は、こんなところにまで存在しているのだな。私はそう考え、軽くため息をついた。
 私は今、神魔人学園の初等部に来ている。説得する相手……照月という少女の情報があまりにも少ないから、それの収集のためだ。
 照月の担任である男性は、何の関係も無い私たちの面会を当初は断ったが、私の逢魔クリスクリスと生徒会長の道真神楽に面識のあった事が、事態を上手い方向に導いてくれた。生徒の一人とはいえ、道真一族の口利きは、絶大な威力を持っているといったところか。
 担任に会った私は、事情を説明する。照月がグリフォンを飼っているというのは周知の事らしく、担任は別段驚きもしなかったが、彼は彼の知る事を話してくれた。
 曰く、開陽・照月という少女には、両親がいない。二人ともグレゴールで、第二次神魔戦線の際に戦死したそうだ。それ以来、照月の導天使が彼女の保護者代わりを務めているらしく、何度か保護者面談にも顔を出しているらしい。そちらのほうへはアーシアたちが向かっているので、彼女らに任せておこう。
 照月は学校にもきちんと来ているが、担任が言うのには、他の子と遊んでいるのをついぞ見た事が無いらしい。恐らくは、友達がいないのだろうと。そして、それはグリフォンという恐怖の存在に起因するのではないかと。
 そして、これが一番重要なのだけど。グリフォンは、照月の両親が健在な頃から飼われていたという話なのだ。これに関しては、担任も『確証は得られないのだが』との前置き付きであったが……。

 それから少しのち。話を聴き終わった私たちは、照月のマンションへと向かっていた。
 ……実は、私たちは学園へ赴く前に、ミティと一緒にデビルズネットワークタワーに立ち寄っていた。今回の話を持ってきたサーチャーと話し、二つの確認をするためだ
『グリフォンを確保した軍は、「彼」を実験や戦争の道具に使わないよな?』
『照月が「彼」に会えるよう、軍へ働きかけをしてくれるよな?』
 それに対してサーチャーは頷いた。軍へのツテが無い以上、その首肯を信じる以外に私の出来る事はない。
 これで、私の集めるべき情報は出揃った。
「あとは、彼女が部屋に入れてくれるか、か……」
 何ともなしに、私は歩きながらそう呟いていた。

・アーシア スタンリー(w3j539)

「それで、何の用かしら。もうすぐ出勤の時間だから、手短にお願いしたいのだけれど」
 今アーシアは、キッチェと一緒に照月ちゃんの導天使ハーミズさんを訪ねていた。幸い出勤前だったらしく、少しだけとはいえお話も聴けそう。
椅子に腰掛けて、テーブル越しにハーミズさんと向かいあう。お互いの自己紹介が終わったところで、アーシアの右隣に座るキッチェがお茶菓子を差し出し、それを待ってからアーシアは話し始めた、なの。
「えっと、照月ちゃんの事です、なの。離れて暮らしているのは、苦しい事じゃありませんか?」
 アーシアの言葉を、
「失礼を承知で申し上げます。魔皇と逢魔の関係のように、主と深い絆を結んだ導天使様。あなたも、照月様と一緒にお暮らしになられたいのではありませんか?」
 キッチェが補足してくれる。
「……」
「アーシアにもキッチェがいて、アーシアのする事にぶつぶつ文句言いながら、でもとても親身に世話を焼いてくれる。だからきっと、ハーミズさんも照月ちゃんに対して同じような気持ちなんだと思うの」
 改めて言われると恥ずかしいですね、とキッチェ。一方のハーミズさんは、それを無言で聴いている。
「……照月ちゃんと別居する事になったのも、あのサーバントをペットにしたせいじゃないの……?」
「グリフォンではなく、ご自分が傍にいるとお伝えになりませんか?」
 ハーミズさんが一緒に暮らしてくれれば、グリフォンと照月ちゃんを別れさせても大丈夫。アーシアたちはそう思ったから。だから。
 でも、ハーミズさんは頭を振った。
「違うのよ。私があの子と別居しているのは、グリフォンのせいではないの」
 え……? 違うの? それじゃあ、どうして……。
「私が別居しているのは、ここが職場に近いからよ」
「お仕事に、近いから?」
 アーシアの言葉にハーミズさんは頷いて。
「そう。あのマンションからだと、出勤に不便なの」
「そ、それだけ……ですか?」
 別居の理由に面食らいつつ、キッチェが質問した。
「それだけとは失礼じゃないかしら」
「し、失礼しました。しかし、どういう?」
 ハーミズさんは一拍置いてから。
「……誰が、九歳の少女一人しか住んでいないマンションの家賃を払っていると思ってるの?」
 あ……そういえば……。照月ちゃんが払ってるとも思えないから……。
「家賃。学費。その他諸費。全部、保護者代わりの私が払っている。そういう事。……仕事場に近い分あの子の家からは遠いし、しかも多忙で全然会いに行けなくて、あの子には悪いと思ってるわ。でも、私もこれが精一杯なの」
 別居は、グリフォンのせいじゃなかったんだ……。でも。
「一緒に住んで、近くに働きに行くのじゃダメですか? なの」
「家賃高いのよ、あのマンション。だから、今の給料でないとね。……転居ってテもあるだろうけど、あの子は絶対に承諾しないだろうし」
 どうして承諾しないんだろう? そうアーシアが質問しようとした時に、
「さて、そろそろ時間よ。仕事に行ってもいいかしら」
「あ、はい。いきなりお邪魔してしまい、申し訳ありませんでした」
 立ち上がるハーミズさんとキッチェ。
「あ、あの、その前に」
「はいはい、早く出てちょうだいな。遅刻ギリギリの時間なんだから」
「あ、あう……」
 完全に質問するタイミングを失っちゃった……。アーシアとキッチェは、追い立てられるように玄関から外へ出た。アーシアたちに続いて外に出てきたハーミズさんはドアに施錠してから、アーシアたちのほうを向いて、
「赤の他人であるあなたたちにお願いするのは、筋違いかもしれないけど……あの子の事、お願いね」
 ハーミズさんは、そう言い残して歩き去ってしまった、なの。
「……行きましょう、アーシア様」
「なの……」
 それからアーシアたちも、照月ちゃんのマンションへと向かう事にしたの……。

・ミティ グリン(w3g263)

“ハーミズさんに、様子を見てくるよう頼まれた”。
 そう伝えただけで、件の少女はボクたちを家の中へと招き入れた。
 
――ボクらは、学園での聞き込み・ハーミズ本人への聞き込み・マンション周囲などでの聞き込みを経て、照月のマンションのエントランスに集まっていた。各員の集めた情報を伝達・整理するためだ。
マンション周囲への聞き込みを行ったのはボクらで、あのマンションはここがビルシャスと呼ばれる前から建っていた事などを知った。
グリフォン殺害のために待機している軍の部隊のほうは月島が抑えようとしてくれたらしいけれど、部隊の指揮官は聞き入れなかったらしい。しかも『諸君らの説得が失敗したと判断したら、速やかに突入する。それが命令だ。変えさせたければ、上層部に掛け合ってくれ』との回答付きとか。
ともあれ、これから説得を行うわけなのだけど、肝心の照月が見ず知らずであるボクらの話を聴いてくれるかどうか、という点に疑問を抱いたのは、月島の逢魔・悠宇だった。
アーシアの逢魔・キチェルがお茶菓子を渡す事を提案したけど、それではボクらが見ず知らずの他人である事に変わりは無い。
そんな時、ボクの逢魔・マイが提案した。
『……ハーミズさんの知己の人間を名乗っては如何ですか』と。
 実際に面識があるのはアーシアとキッチェの二人だけ。その点においては明らかに嘘だけれど、アーシアたちはハーミズ本人から『あの子をお願い』と言われていたらしいので、いい……のかな?
 それで今、ボクらは各々リビングに立ち、目の前でグリフォンを撫でる照月の姿を見てる、というわけ。

「わぁ☆ 『ぐりふぉん』って格好良いねっ♪ ねえねえ、テルちゃん。この子、名前なんて言うの? 好きな食べ物は何?」
「あのね、このコは『ぐりりん』っていうの。好きなものはお肉だよ☆」
 チリュウの逢魔・クリスクリスは、好奇心一杯といったふうにグリフォンを近付いて眺めている。……早速意気投合してないか?
 その時、嬉々としてグリフォンを見せる照月へ、チリュウが声をかけた。
「照月。一つ、お願いがあるのだけど」
「お願い?」
 照月がチリュウに向いて、首を傾げる。
「ぐりりんを、私たちに引き渡してほしい」
「何で?」
 チリュウは、無邪気そのものの目で問いかける照月へ近付くと、
「『ぐりりん』が、お前の大事な存在なのは判った。ただ、お前が『彼』の本当の主人……いや家族としてSFなど使わずに 接せられる様になるのが一番じゃないか?」
 頭を撫でながら、優しい声を出した。チリュウの言葉が難しいのか、照月は彼女を見つめたまま答えない。恐らく、その意味を考えているのだろう。
「だから、そのためにはまずお前が、一人の人間として成長しなくちゃな?」
「……?」
「『ぐりりん』のことは心配するな。うちの逢魔も『ぐりりん』を気に入ったようだし、お前が好きな時に会いに行けるよう、私たちが努力する。だから……」
 チリュウは一度そこで言葉を区切り。
「だから、お前も学校の友達の事や、お前が感じた美しい物の話を『ぐりりん』にしてあげられるようになって欲しい」
 そう言って微笑みかけるチリュウの顔は――さながら、母親のようだった。母親が娘を優しく諭している。そう感じたのは、何もボクだけではないはず。
 しかし。
「ぐりりんの事……どこかに連れてっちゃうの?」
「そう」
「……ダメ! ぐりりんは、照月のずっと傍にいるの!」
 『お前が好きな時に会いに行けるよう』。この一節で、私たちがグリフォンをどこかへ連れていくのを悟ったのだろう。照月は聞き入れなかった。
 その照月へ向け、ボクは一歩前に出る。
「照月ちゃんは、第二次神魔戦線の頃にはグレゴールになってたんだったよね。なら、この子がどれだけ大きな力を持ってるかは、分かってるよね?」
照月は、ボクを睨みつけて答えない。
「ちょっと爪にひっかける程度でも、今のボクくらい真っ赤なボロ切れに出来るだろうし、例え照月ちゃんにその気がなくても、それが出来る生き物が身近にいる事が周りの人達に取ってどれくらい怖い事か、それも分かるんじゃないかな」
「……」
「これまでは大丈夫だったのかも知れない。でも、この先何かあった時、失われるのは照月ちゃん以外の誰かの命と、この子の命。照月ちゃんは、それを秤にかけられる?」
 厳しい事を言っているのは、承知の上。チリュウの説得で済めば、口を挟まないつもりだったのだけど……。
「だから、照月の力で言う事聞かせてるもん!」
「いや、それは……」
 チリュウが言葉を発しかけるが。
「ダメなものはダメ! ぐりりんを照月から取ろうなんて、そんなの絶対ダメ!」
 それを遮って、照月は顔を真っ赤に駄々を捏ねる。どんな正論も、今の彼女には通じそうにない。
 照月は撫でるチリュウの手を振り払い、ボクらから離れてグリフォンを嗾ける。
「ぐりりん、あのお姉ちゃんたちを追い払って!」
 これは拙い方向に進んでいる……。皆がそう感じた時だった。

・月島 日和(w3c348)

 きっかけは、悠宇がぽつりと呟いた一言だった。
 
 
「あの子、寂しいのかな」
 
 
 寂しいのかな。
 私は、悠宇のその一言に気付かされた。どうして、もっと早くに気付けなかったのだろう。
 照月ちゃんは、寂しかったんだ。両親はおらず、保護者代理の導天使も多忙。友達も居なくて……。そんな状況で九歳の彼女が縋れるものは、恐らく両親の遺したグリフォンだけだったのではないか。
 アーシアさんがハーミズさんから聴いた『転居を承諾しない理由』。これは推測に過ぎないけれど、恐らくこの家は、照月ちゃんが両親の戦死前から住んでいたのではないか。両親との思い出の家、だから離れたくないのではないか……。
「ありがとう……悠宇」
 だとすれば。私が言うべき事は。
「ねぇ、照月ちゃん?」
 彼女に話しかける。なるべく優しく。
「なに!?」
 怒り心頭に発する、という表現がしっくり来る怒りっぷりの照月ちゃんへ、私は微笑みながら告げた。
「お姉さんと、お友達になろう?」

 お友達。その言葉に、照月ちゃんは喚くのをピタリと止めた。
「お友……だち……?」
「そう。お友達に」
 呟く照月ちゃんに、重ねて言い聞かせる。その私の言葉に、いち早く賛同したのはクリスさんだった。
「うんうん。テルちゃん、クリスともお友達になろうよ!」
それに続くように、皆次々と賛同していく。
「アーシアたちとも。ね、キッチェ」
「そうですね……。照月さんが宜しければ」
「俺もな」
 アーシアさんに、キチェルさんに、悠宇。次々と『友達になろう』と言い始めた私たちを、照月ちゃんは驚愕の面持ちで見回すのみ。
「ふっ……。仕方ないな」
 チリュウさんも、思わずといったふうに笑みを漏らした。
「……主」
 最後に、ミティさんの斜め後ろに控えているマイさんが声をかけると、
「……解った。ボクもね」
 彼女は、ニコリと微笑んだ。それは心からの笑み。
「ホントに……ホントに、照月のお友達になってくれるの?」
 私たちへ問いかける照月ちゃんのそれは、疑っている事を隠さない真っ直ぐな声。純粋な子なんだろうと思う。
 だから。
「ホントに。でも、それには一つお願いがあるの」
「なに?」
「このマンションでは『ぐりりん』を飼ってはいけないルールなの。お姉さんたちの知り合いに預けたいのだけれど、良いかな? ……大丈夫。『ぐりりん』には、いつでも会いにいけるから」
「でも……」
「その代わり、『ぐりりん』に会いに行けない日は、お姉さんたちとお話をしようね?」
 だから、悪循環によって発生したこの状況を、終わらせてあげないといけない。
 彼女のために。
 
 ―――――
 
結局、照月ちゃんは渋々ながらグリフォンを手放す事を承諾した。あれ以来、私たちは、足しげく照月ちゃんの家へと通って、彼女とお話をしている。
でも、それもきっと長くは無いと思う。
なぜなら、照月ちゃんには学園にたくさんの友達が出来たみたいだから……。

                                     終