■老朽輸送船奪還■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 ヘタレ提督D
オープニング
サーチャー・アベンチュリンだ。
早速だが、パトモス軍からの依頼を伝える。

中国へのゼカリア輸出のため待機していた輸送船が、何者かに強奪された。
相手は恐らくテロリストの類だろう。強奪犯にゼカリアの整備・維持が出来るとは到底思えんが、これを座視しているわけにもいかない。

対象となる輸送船は台湾方面へ向かったとの事で、ASEAN+1の領海に踏み込まねばならない可能性がある。
現在、外交ルートを通じて領海における戦闘行動の許可を要請中だが、何せ急な事だ、間に合うとは到底思えん。

つまり諸君らの任務は、対象が台湾領海に入る前までに、輸送船の拿捕・ゼカリアを奪還する事にある。
事件発生から数時間は経っているが……それほど高速でもないので、殲騎ならば追いつくのは容易だろう。輸送船の航路は不明だが、恐らく九州神帝軍をなるべく避けようとするだろうから、それを念頭に作戦を立ててくれ。

それでは、諸君らの健闘に期待する。
シナリオ傾向 戦闘、殲騎戦?
参加PC 天剣・神紅鵺
佐嶋・真樹
老朽輸送船奪還
老朽輸送船奪還

●天剣 神紅鵺(w3d788)

 ヴリル・フューラー。
 それが、私が彼らに対して名乗った名である。
 私は今、テロリストの制圧下にあるパトモス海軍の輸送船『みしま丸』の船橋にいた。
 情報屋から『輸送船強奪』事件の情報を仕入れた私は、遠からずパトモス軍が奪還に動くと見て、それに先んじる形で強奪犯と接触することにした。
 超高速移動を可能とする真魔皇殻『真機界統ベシ虚構ノ蝕翼』の力を活かし、私は無事、彼らとの接触に成功する。場所は対馬海峡……チェジュ島の沖合い。時刻はまだ昼だった。
 そうして、私は彼らに仮面と偽名を以って接触し、船橋で数名の強奪犯――『覚醒する世界』と名乗った――の銃口に晒されながら、彼らのリーダーと会っている……というわけだ。

「それで、フューラーとやら。貴様は、我々に味方するというのか?」
 リーダーは、四十絡みの顎鬚を蓄えた男だった。見た目の印象から言えば、古強者だがあまり賢くない……といったところか。
「敵の敵は味方というのでもないが……まぁ、信頼してくれなどと言う気は無い。互いの利害関係が一致している間は撃たない程度の関係で十分だ」
 私がそう言うと、リーダーは唸る。
「……裏切りはしないだろうな?」
「不審だと思ったら、後ろからでも好きに撃つといい」
 素直に撃たれてやる気は無いがな。
 私の言葉に、リーダーはまたも唸って考え込む。
「…………そこまで言うのなら、貴様に協力を頼もう」
 随分と考え込んだ後、彼はようやく、そう口にした。随分と遅い決断だな。
「ああ。私の事は、使い捨ての傭兵と思ってもらって結構だ」
 そう付け加える。
「ところで貴様、何が狙いだ?」
「狙いなど無い。私は世のテロリストの味方。それだけだよ」
 リーダー以下、船橋にいる強奪犯の誰もが訝しがる。その言葉を理解出来ないといった顔が船橋に並んでいるが、今の言葉に額面以上の意味は無かった。
「最も……」
 そういえば、言い忘れた事がある。
「最も?」
「報酬を強く要求はしないが、もしくれるなら、積荷から私が使った分の弾を補充させてもらいたいとは思っている」

●佐嶋 真樹(w3l289)

 遅い……!
 私は殲騎暁の中で悪態をついた。
 今回、輸送船奪還任務を引きうけ、魔軍の傭兵十一名と共に『みしま丸』を目指した……のはいいものの、同行する味方の殲騎が通常の速度しか出せず、テラーウイングと燕型魔獣殻『霞』で速度強化した私に追随出来なかったのだ。
 結果、こちらも彼らに合わせて飛ばなければならない。
 サーチャーの情報によると、そう遠くにまでは行っていないらしい。それが不幸中の幸いだ。今回同行させた、真ニードルアンテナ装備の『直感の白』二人が、我々のやや前方に出て索敵をしている……それに期待しよう。
 だが……。
「無視すればいいものを……」
 傀儡がたった三機。テロリストに分捕られたところで、その維持が可能とは思えない。敵が傀儡を強奪するメリット……それが見出せなかった。ならば、そんなものは放っておいてもいいではないか。
……そう思ってから、私はさらに考え。
「テロリストの目的はゼガリアそのものではないのか?」
まだ、Asean+1領海内での戦闘許可は通達されていない。
ASEAN+!領海で戦闘させること……。それこそ、テロリストの目的なのかもしれない。事をパトモスとASEAN+1の外交に発展させる気ではないか。
もし、そうだとすれば。
私は、出発前に軍から貸与された通信機をオンにした。
「こちら佐嶋機。テロリストをASEAN+!領海に絶対に踏み込ませるな。間に合わないようなら輸送船ごと沈める」
 外交問題と傀儡三機。どちらが大切か、火を見るより明らかだろう。
 その時。
『目標を発見! 八時の方向、チェジュ島沖合いを航行中!』
 通信機から流れる声。私は一旦考えを止めて、八時方向……北に向かっている我々に対して南西に当たる方角を見た。
 まだ肉眼では確認出来ないが、この方向に目標がいる。
「各機、進撃速度を速め、一気に追撃する!」
 号令すると、他の魔皇から返事が入る。……とは言いつつも、相変わらず速度は大して速くない。
 私は決断した。
「私が先行して足を止める。その間に続け」
 了解の声が入ってくる通信機には以後気をやらず、私は機体を風と同化させた。

 見えた。
 前方に、輸送船『みしま丸』。その後方を護るかのように展開する殲騎が六機。間違いない、あれがテロリストの戦力だろう。
 高速で飛びつつ、機体は真グレートザンバーを構える。手に馴染む重さだ。
 全力で飛びつつDEX真狼風旋を発動。機体が瞬時に加速する。加速直後に、私のすぐ後方で何かが水柱を立てた気もしたが、それはすでに一秒も過去の事。
 五秒後には、私は殲騎のうちの一機――残酷の黒だった――の近くまで接近し、グレートザンバーを振るっていた。右上からの袈裟懸け。一撃でペインブラッドの胸部に深い切れ込みが入る。相対したまま後退しようとする敵へ、返す刀で左からもう一撃。次いで大きく振りかぶって一刀両断に。
 ここまでで、発動から六秒。あと十三秒ある。最低でも二機は仕留められ……
「……っ!?」
 その時、機体に衝撃が走り、私は思わず体勢を崩してしまった。
「くっ……」
 私は直感的に機体を後退させた。直後、私のいた位置を何かが掠め、海面に突き刺さって水柱を立てる。
 上か!
 私はすぐに、船の方向の上空を見た。そこには何も……いや。恐らく日の光を浴びたのだろう、何かが一瞬だけ光って見えた。
「当たるものか……っ」
 はっきり見えた。降ってきたのは砲弾だ。私はその三発目を回避すると、上空へ向け全速力を出した。
 味方はじきに追いつく。十一対五ならば勝てるだろう。ならば、私は上空に陣取っていた厄介な敵を相手するべきだ。あの長射程は先に潰さねば。

 ……追いつけない!
 上空に布陣していた厄介な敵を追い始めて、すでに五分以上が経とうとしていた。真テラーウイングに鳥型魔獣殻の速度強化を加えて、こちらはかなりの速度になっているはずなのだが……あの敵……禍々しい形のペインブラッドは、悠々と反撃しながら距離をとってくる。
 一度、DEX真狼風旋を使ったのだが、それでも速度は同等だった。ただし、その時は敵も反撃してこなかったから、こちらのDEX使用時と敵の最高速度が同等なのかも知れない。
 だがしかし、奴の放つ砲弾も、こちらには当たらない。完全に膠着状態だ。このままでは少し拙い。
『これより、攻撃を開始する!』
 その時、通信が入る。味方がようやく到着したのか。
「ガンスリンガー隊、厄介な敵を叩く。援護せよ」
『了解!』
『任せたまえ』
 味方の二機の孤高の紫が応答する。相手が逃げ続けるならば、追い込んで逃げられないようにするまでだ。
 私は再びDEX狼風旋を発動し、敵ペインブラッドへ向けて急接近した。急速に詰まっていく互いの距離は、しかし敵が全速を出した事で縮まらなくなる。
 だが、それでもいい。こちらに向かっているガンスリンガー隊のほうへ追い詰められれば……。
「……!?」
 しかし、奴の目が光ったかと思うと、私の機体は急に動かなくなった。さらに、水面へ向けて落下を始める。
これは……DF蛇縛呪か!
『また会ったな、小娘。君なんぞの相手をしている暇は無いのだよ。残念だったね』
 通信機に声が入ってくる。聞いた事のある声だが、私はそれを無視。
『第二次大戦前辺りから残ってるような船を、傷付けたくは無いのでね……。では、失礼』
 奴は……天剣とかいうテロリストはそう言い残し、私を放って船のほうへと向かった。
「弱い犬ほど、よく吠える」
だが、それを食い止めたい私の考えとは裏腹に、我が殲騎暁は落下を続け、ついには大きな水柱を上げて着水したのだった。

●再び天剣 神紅鵺

『傭兵! 何をしている、もう持たんぞ!!』
「すぐに行く。持ち堪えろ」
 強奪犯のリーダーのあげた悲鳴に近い声が、通信機から入ってくる。私はそれに答えつつも、心の中で嘆息した。やれやれ、テロリストのリーダーにしては随分とお粗末だな……。
 だが、色々なものを無視して超音速航行を可能とする『真機界統ベシ虚構ノ蝕翼』の力を存分に活かせば、高度五〇〇〇メートルへの到達と交戦中の敵を玖参式百足砲改の射程内に収める事は、十数秒もあれば達せられる。
……あの小娘との交戦で、百足砲の弾を大分使ってしまったが、それでも三〇発は弾が残っている。これだけあれば十分だ。
 高度五〇〇〇に到達した私は、味方と交戦している敵をスコープ内に収め、その未来位置を予測して発射。衝撃で怯んだ敵に、味方が反撃を始める。
 しかし、敵の数は多かった。『みしま丸』のほうを見れば、テロリストの殲騎部隊を突破したのが二・三機。船に乗り移ろうとしているのか、牽制攻撃と思しき攻撃しかしない。
「そうは問屋が卸さない」
 私は高速で降下すると、二〇〇メートルの距離から、敵機のうち一機へ真蛇縛呪をかける。束縛されて墜落し始める敵へ、百足砲の一二〇ミリ砲弾をしこたま撃ち込んだ。敵の殲騎はぼろきれのようになって、そのまま水面に激突した。
 突然味方が撃墜されて戸惑ったのだろう、『みしま丸』に迫る敵のうち一機が、その場に滞空して同僚の叩き込まれた海面を見つめた。そしてすぐに反転して船を追おうとするも、その一瞬が命取りだ。距離は多く見積もっても三、四〇〇、外す距離ではない。
 私は真ヘレティックテンタクルの触手に百足砲を預けると、別の触手からアヴェンジャー改を受け取る。
 そして、その引金を引いた。
 轟音。
 次いで、次の対象となった殲騎――ニードルアンテナを装備したピュアホワイト――が、対神魔処理を施された三〇ミリ弾をしこたま食らって、腕を、脚を、頭を千切れさせる。
 バラバラになって落ちていくピュアホワイトは放っておいて、最後に残った敵を追撃する。
 ただ、敵が『みしま丸』に近付きすぎている。背後から撃てば誤射の危険があった。
 全速を出して、敵の正面に回りこむ。敵はクロムライフルを撃ってくるも、超音速のこちらに当てられるはずもない。
 そして、発射。
 だが、それは横に動いた敵の片腕を破壊するだけに終わった。
 敵を追って銃口を横へずらそうとした、その時。
「……何!」
 突然、轟音と共に海面が炸裂した。ビーストソウル……奴だ。海面から飛び上がって来た佐嶋機の突撃に、私の対応は一瞬遅れる。だがその一瞬で、奴は真グレートザンバーの間合いへと踏み込んでくる。DEX狼風旋でも使っていたのだろう。加えて、水中からの奇襲とは……。
 一撃を何とか避けるも、私はそれで態勢を崩した。返す刀に対応しきれない。
「ぐっ……」
 咄嗟に盾とした、真ヘレティックテンタクルの触手何本かが斬りおとされる。
 続けて、袈裟懸けが来た。またも触手が斬りおとされるが、佐嶋機がグレートザンバーを振り切ったその一瞬に、私は超音速を発揮していた。そのまま後退する。
 だが。
 佐嶋機は、私を追わなかった。
 急に反転すると、『みしま丸』のほうへと向かう。私から見れば微々たる速度だが、現在位置は船に近い。
 急いで急停止し、真ヘレティックテンタクルから百足砲を受け取って前方の佐嶋機へ向けた。
 が、直後に、背に数度の衝撃が走る。
「何だ……?」
 敵のガンスリンガーであった。二機、私を足止めしようとクロムライフルを連射してくる。厄介だが、貴様らに付き合っている暇は……
「……何だと?」
 超音速が発揮出来ない。今さっきの被弾で真機界統ベシ虚構ノ蝕翼が損傷したのだと理解する間に、視界内の佐嶋機は、『みしま丸』へ向けてショルダーキャノンを放っていた。
 奪還は無理と見て沈める気か。
 大戦中……七〇年も前に建造された老朽輸送船に、ショルダーキャノンを防げる装甲が備えられているわけもない。
魔皇殻から放たれた弾をしこたま食らった『みしま丸』は、炎上しながら左へと傾斜していく。その甲板上にいるゼカリアもずり落ちて……いや、ゼカリアが起動しているではないか。
 三機のゼカリアは傾斜する甲板から飛び立ち、飛行を始めた。恐らく、台湾の方角へだろう。
『傭兵、聞こえるか』
 通信が入る。しかし、相手の声は聞いた事がない。
「聞こえる。さっきまでのリーダーはどうした?」
『死んだ。私が今はリーダー代行だ』
「そうか。それで?」
『我々は台湾領海へ向かう。援護を頼む』
「わかった」
 そう伝えて、私は通信を終えた。
 さて、まずは食い下がる邪魔なガンスリンガーを撃破しなければな。

●後日、パトモス魔軍による報告書より抜粋

輸送船『みしま丸』が『覚醒する世界』と名乗るテロリストに奪取された事件について、我が魔軍は殲騎十二機を以って奪還作戦を敢行。
結果として輸送船『みしま丸』を撃沈し、また確認されるだけでゼカリア一機と殲騎六機を撃墜・撃破したものの、ゼカリア二機がASEAN+1領海内へ侵入。我が軍は交戦を断念した。
なお、本作戦における我が軍の損害は次のとおり。

殲騎五機撃墜。
魔皇四名戦死、一名重傷。
逢魔五名戦死。

                  終