■【天極】補給船団護衛■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 ヘタレ提督D
オープニング
サーチャーのアベンチュリンだ。

諸君、緊急の依頼がある。オーストラリア神帝軍が動き出した。
敵は現在、アデレードにあったテンプルムを北上させつつある。恐らくは、パトモスへ向けた進撃であろう。
だが、これを座して見ている謂れは無い。事実パトモスも、海軍を主軸とした作戦『天極』を発動して、積極的にこれを迎撃する構えだ。

すでに、第一陣として別働隊がトラック諸島の攻略に向かっている。
そこで諸君らには、トラック諸島へ向かう補給船団の護衛を依頼したい。主力となる機動部隊とは別ルートでトラックを目指す補給船団だが、これを失ってしまうと、以後の作戦に支障を来す恐れがある。
航路としては呉を出航後に南下、パラオ付近を経由してトラック諸島へと向かう。パラオ自体は中立国だが、神帝軍が戦力を伏せている可能性が高く、油断は出来ない。
そのつもりで、用心して事に当たってほしい。

諸君らの健闘に期待する。
シナリオ傾向 殲騎戦
参加PC ロジャー・藤原
【天極】補給船団護衛
 補給船団護衛

●ロジャー・藤原(w3h484)

 パラオ周辺海域、一日目、十二時。
 海賊が船の護衛だなんて皮肉だなぁ。俺は内心でそう思って、密かに苦笑いする。
 再び動き出したオーストラリア神帝軍と戦うため、パトモスは軍事作戦を開始した。作戦名『天極(てんきょく)』。俺は今、それを支える輸送船団の護衛に従事していた。
八隻の輸送船を、護衛艦二隻と輸送艦二隻、ゼカリア二騎に殲騎一騎で守っている。
敵がいるとしたら、近くの島に隠れるか水中に潜むか。その二つのうちどちらかだろうと俺は踏んでいた。それを踏まえた上で、護衛の連中に作戦を提案する。
そういうわけで、俺は今、上空から敵の奇襲を警戒しているというわけだ。俺の眼下の輸送船団……輸送艦『おじか』の甲板上には待機のゼカリアが、また俺には見えないが水中にもゼカリアが一騎、奇襲を警戒しているはずだった。相互の連絡は、借りた通信機から行う手はずになっている。
「いないな……」
 雲一つ無いパラオの快晴。敵と思われる存在は確認出来ない。通信機が沈黙している事から、水中も異状は無いのだろう。
「コハク、そっちはどうだ?」
 俺の逢魔のコハクは、祖霊招来で周囲に何か無いか調べているはずだった。
「ううん、無いみたい」
「無いか……」
 祖霊にまで聞いたのだから、まず間違いは無いだろう。本当に待ち伏せがあるのか……そう思ってしまう。
「ねぇ、本当にいるのかな?」
「さぁなぁ。まぁ、いないならいないで結構な事なんだが」
「そうだねぇ」
 その時、通信が入った。
『藤原とやら。そろそろ交代の時間だ』
 お、そろそろそんな時間か。えぇと、上空の次は……水中か。
「了解。すぐ行くぜ」
 俺はもう一度だけ付近の空域を見回してから、次の配置へ向かうため殲騎の高度を下降させたのだった。

パラオ周辺海域、一日目、二十時。
 今は、パラオ最大の島バベルダオブ島の沖合い数十キロメートルを航行中だったか。すっかり日も落ちた海域を進む船団。俺たちは、そのうちの一隻である輸送艦『おじか』の甲板上にいた。
 今の俺たちは『待機』……要するに休憩中だ。夜の海に映えるのは船団の照明だけで、その他には月明かりがあるだけ。船が波を掻き分ける音だけが響く、快晴で静かな夜だった。
 警戒中のゼカリアからは連絡は無い。
「祖霊のほうも反応無しだってさ」
 コハクからも異状無しが告げられ、俺は密かに息をついた。
「ねぇ、ロジャー」
ん?
「何だ?」
「レギオンとかいう神輝装置……今回も居るのかな」
 以前、俺が関わった戦いで登場した神輝装置『レギオン』。魔皇の闘争本能を肥大化させ、暴走に持ち込むという魔属同士を殺し合わせるための装置。
「開発していたダーウィンテンプルムは落ちたが……可能性はあるかもな」
 だとしたら厄介だな。専門の治療部隊が必要になる。
「そう、だよね」
「そうだって」
 ……。会話終了?
「まぁ、今回は今までに無い大戦争だから、そのあたりの対策はしてあるだろうさ。気楽にいこうぜ」
 沈黙を払おうと、俺は勤めて明るく言う。
「そうかな……」
「そうだって!」
 ……。あれ、デジャヴ?
「おーい。あんまり悩みすぎるなよ? 悩むとハゲるって昔から言うだろ。まだ若い身空でツルっぱげになりたくなかったら……」
「ねぇ、ロジャーは心配にならないの? 自分が暴走したらとかさ」
 いつになく真剣なコハクの声。俺は、おどけた口調はそのままに言ってやった。
「まぁ、そうなったら文字どおり叩き直してもらうなりすればいいしな。暴走しないようにする対策法もあるみたいだし、その前に毒電波発生装置を使わせないという手もある」
「……」
「打つ手はたくさんあるわけだ。それに、今ここで悩んでも仕方無い。だろ?」
「うん……」
 少し明るくなったコハクの声に、俺は笑ってみせた。
「だから悩むな。悩むとハゲ……」
「さっきから聞いてれば……ハゲハゲ言うな!」
 
ごすっ!!
 
 
 二日目、二時。
 俺は上空の警備を始めていた。船団の上空、快晴の夜空を飛んで周辺を警戒する。
「コハク、どうだ?」
「祖霊のほうは……うん、何も無いみたい」
 相変わらずか。このままいってほしいが……どうだろうな。
『異状無し、そちらはどうか』
 水中のゼカリアからの通信だ。
「異状無し。もう帰って寝ていいか?」
 寝るな! というコハクの突っ込みを笑いながらスルーする。
『あんたはまだ寝ちゃダメだ』
「何でだよ?」
『俺のほうが先に帰って寝るからだよ』
 あはは、と二人で笑いあう。
「じゃあ、また後でな」
『おう。定時連絡終了』
 ……。
 先ほどの定時連絡を終えてから、さらに一時間が経過しても、状況に変化は無かった。
 船団は、もうすぐパラオの海域……正確にはパラオ領海を抜けようとしている。この先には、敵の潜伏出来そうな島は無いし、水中に潜むとしても広大な海原から船団を探すのは難しい。
 もうすぐ、安全な海域に入れる。そう思った、その時。
 ざばぁん、ざばぁん。大きな音がしたと思ったら、いきなり船団の輸送船が、くすんだ色の何かに取り付かれた。あれは……タコの足か!
 巨大なタコが輸送船に取り付いて、転覆させようとしている。
『げぇっ! 伏兵だ!』
 どこからか、そんな通信が入った。
 くそ、水中の警戒は気付かなかったのか!? そう思った直後には、俺はDEX真狼風旋(ハウンドヘイスト)を発動して、輸送船に取り付くタコ……クラーケンへと肉薄した。通常の四倍のスピードだ。三倍どころの騒ぎじゃない。
 そのまま、真カッターシールドを起動。クラーケンの足を切断しにかかる。
「今日の晩飯は茹蛸だな!」
「サーバントを食う気か!」
 戦闘中にも突っ込んでくれるコハクに、俺は密かに安心する。良かった、昨日の事は引き摺ってないみたいだな。
 カッターシールドがクラーケンの足を切り落とす。だが、他にも足は絡まっており、転覆は時間の問題に思われた。
 ならば、根っこを断つまでだ! 俺は殲騎・藤原専用ディアブロを水中へと突っ込ませる。
「タコの体は……あれか!」
 船に巻きついているクラーケンの本体へ接近を試みる。絡みつくので精一杯なのか、妨害される事も無くクラーケンへと肉薄した俺は、カッターシールドを敵の体に押し当て、起動させ、その体を切り裂く。
 少しして絶命したクラーケンは、輸送船への拘束を解いて、力なく水中へと没していった。
「ふう。輸送船は無事か?」
「無事みたいだけど……待って、新手の……これは、ネフィリム! 数は三騎!」
 コハクが、新手を見つけて報告してくる。祖霊に教えてもらったのだろうか。
「おい、今度はネフィリムが来るぞ!」
 俺は通信機に怒鳴るが早いか、騎体を水上へと戻していた。視界に、海面スレスレを飛行するバリアブルネフィリムが見える。
 こちらも迎撃の準備を整えるが……ゼカリアが一騎足りないな。
「もう一騎のゼカリアは?」
『二番機は……どうやらやられたようだ』
 二番機……今のシフトでは水中を警戒していた奴だ。くそっ。
『こちら旗艦「くまの」、対空戦闘準備完了!』
『こちら「のしろ」。同じく!』
 船団護衛は、準備万端。さぁ来い、ネフィリム!

 密集する船団。その左側に護衛艦艇と俺たち。バリアブルネフィリムは海面スレスレを、一騎を先頭に、二騎がその左右後方に付く形で飛行している。船団が左側面を突かれているカタチだ。
俺は、前進してくる敵が射程内に入った一瞬を見計らって、DEX真旋風弾(スケイルシュート)を放った。三つのかまいたちがネフィリムへと向かい、命中する。威力は低いが、敵は真旋風弾を避けようとしたのだろう、隊列が乱れた。
『主砲、撃ちー方始め!』
 護衛艦も攻撃を開始する。それを避けるためか、敵は散開した。一騎が一旦上昇し、残り二騎が左右から突っ込んでくる。
 俺は、真デヴァステイターを撃ちつつ、右から来る敵機への接近を試みた。だが。
「ロジャー、向こうのほうが速いよ!」
 速度が違いすぎる。接近もままならない。
だが……手はある。
船団の左側に壁を作るかのように一列になっている護衛艦を迂回して輸送船へ肉薄しようとしている敵に対し俺は、
「真狼風旋!」
 速度四倍。二十秒限定。しかし、二十秒もあれば十分だ! 船団に接近しようとする敵の前に割り込む。
「てぇい!」
 急制動をかけつつ人型へ変形しようとしていたネフィリムへ接近し、真ビーストホーンで一突きにした。肩の翼っぽい部分が折れて海面へ落下する。当たりはしたが、逸れたか。
 未だ戦意は衰えていないのだろう、ネフィリムは抜刀しようとするが、そうは問屋が卸さない。左手の真カッターシールドで攻撃すると見せかけつつ、右手に所持していた真デヴァステイターをネフィリムへと押し当て……三点バーストを叩き込んだ。
 風穴を開けられたネフィリムは、さすがに機能を停止して着水、爆発。
 続いて次の敵……そう思った時。
「拙い、ネフィリムが!」
 コハクが緊迫した声を出す。視線を船団に向けると、左から迂回していたネフィリムが人型に変形・抜刀して輸送船へ攻撃しようというところだった。
「くっ、しまっ……!」
 刹那、攻撃しようとしていたネフィリムが弾けた。何が……と思惟を廻らせるより早く。
『艦砲が命中! 撃墜!』
 そうか、護衛艦の主砲が命中したのか。一瞬だけ安心して、俺はすぐに緊張を取り戻した。
「残りのネフィリムは?」
 上空へと向けられた視界には、どこかへ飛び去っていくネフィリムの姿。……撤退、したのか?
 俺は密かに、安堵の吐息を漏らすのだった。

 船団は予定より一日ほど遅れてトラック環礁へと入り、ここに輸送船護衛は完遂されたのだった。

                                     終