■【背徳の遺産】廃墟調査■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 黒風
オープニング
「皆様、お久し振りです。早速ですが、調査の依頼が入っております」
 サーチャーのミスリは集まった魔皇達への挨拶もそこそこに、依頼の話へと入る。
「最近発見された廃墟の調査。大まかに言ってしまえばこうですね」
 問題の廃墟は森の中にひっそりと佇んでおり、その存在はつい最近まで明らかになっていなかった。以前のスライム出現に際して周辺の調査を行った結果、発見されたらしい。
「外から見た感じでは何かの研究所の様にも思えるとありますが、同時に壁に不可解な穴が開いているそうです」
 何者かが開けた穴なのか。そう考えると、安全とは言い切れない。穴を開けたものが居なくなっていたとしても、野生のサーバントが入り込んでいる可能性もある。だからこそ、こちらに依頼が回されたのだ。
「どうやら、まだ破棄されてからそれほどの時間が経っていないようですね。穴から入り込むのが無難でしょう」
 扉のロック等はまだ稼動している可能性がありますから、と付け加えた後、ミスリは魔皇達に一礼する。
「それでは、よろしくお願いします」
シナリオ傾向 調査 戦闘の確率:低
参加PC 錦織・長郎
彩門・和意
月村・心
橘・沙槻
【背徳の遺産】廃墟調査
●資料
「情報は一切無し、か。どうやら、存在自体が徹底的に秘匿されていたようだね」
 錦織・長郎(w3a288maoh)が肩をすくめる。長郎は例の建物について事前の調査を行っていたのだが、有力な情報どころか些細な情報ですら全く無いと言う有様であった。
「まあ、無いものは仕方がないね。現地でどうにかするとしようか」
 このままこうやっていても情報は得られないであろうと判断した彼は、早めに切り上げて現地調査の準備を開始する。

●潜入
「表立った危険は迫っていない、とは言っていますわ」
「なかなかに微妙な結果ですね」
 鈴(w3b332ouma)から祖霊招来の結果を聞いた彩門・和意(w3b332maoh)はその言葉に苦笑いを浮かべた。祖霊からは聞きたい事が聞けるとは限らないので、この分では建物内でも何度か使わねば望んでいた効果は得られないだろう。
 そして、和意らの傍らでは橘・沙槻(w3f501maoh)が壁面に開いた穴を詳しく調べていた。
「確かにこれは、溶解によって開けられた穴のようだな」
 断面となっている部分が、溶かされた物であると言う事を如実に物語っている。そこから沙槻が出した結論は、事前にそうではないかと言われていた事が事実であったと言う事。
「この建物はサーバントを改造したり強化したりするための研究施設だったんだろうな」
「恐らくは、ね」
 建物を眺めつつ吐き出された月村・心(w3d123maoh)の言葉にサウスウィンド(w3f501ouma)が同意する。いや、正確には同意の言葉を発したのがサウスウィンドだけだっただけであり、その意見に異を唱える者は居なかった。
 そして、幾行(w3a288ouma)は相克の痛みによって神属の存在を確かめるが、痛みは感じられない。
「どうやら、神属は居ないみたいですね。少なくとも、感じ取られる範囲内では」

 かくして、外部の調査が一通り済んだ後、長郎は幾行を抱え上げ、空へと舞い上がる。
「僕達は、上から調査させてもらうよ」
「おや、そうですか。お気を付けを」
 少々複雑そうな表情をしつつも、和意が声を掛け長郎らを見送った。和意は全員固まってを希望しようとしていただけに、無理もない事だろう。
「んじゃ、俺達も行こうぜ」
 心のその言葉を合図に、魔皇達は建物内部へと侵入した。

●地上部分
 穴から内部に侵入した魔皇達が最初に見たものは、入ってきたものと同様の穴が点在している光景であった。所々に弾痕の様なものも見受けられ、此処で戦闘があったのであろう事が窺える。恐らくは、穴を開けた存在との戦闘が。
 また、照明が点きっ放しになっていたので内部は明るく、明かりの心配はなさそうだ。
「やはり電気が通っているのか……。俺達は先に、セキュリティのコントロール室を探してくる」
「おう、そうか。そんじゃ、一緒なのは最初の部屋までだな」
 沙槻の言葉に、心が答える。和意は更に分散する事になるのかと危惧もしたが、致し方あるまい。長郎とも連絡は取れる様になっているので、連絡を密に取っていくしかない。
 そして、最初の部屋に着いた所で、彼らは再び分かれて行動を開始した。

 一方、屋上から通用口の扉を破って内部へと侵入した長郎と幾行は、三階のあまりの綺麗さに驚きを隠せなかった。照明が点きっ放しで静寂に包まれているのは一階と同じなのだが、こちらはまるで何事も起きていないかのように、使われていた時そのままの姿を残している。
「綺麗すぎじゃないですかね」
「全くだね」
 二人はお互いの意見に同意しつつ、手近な部屋から調べだす。本来は沙槻らと同様にコントロール室に先に行きたかったのだが、内部資料が手に入らなかったのでこうする事にしたのだ。
「コンピュータなんかはしっかりと電源を落として、ロックも掛けられてますね」
「しかし、書類とかはそのままだね。コンピュータを弄くる余裕はあったが、書類を処分する余裕は無かった、と言った所か」
 幾行の調べた結果も照らし合わせ、長郎が一つの考えを浮かべる。三階までには、此処を廃墟とした存在は来なかったのだろうと。
「しかし……何も無い無難な建物と報告書に書ければ良いねえ。状況からして無理だろうけど」
「でしょうね。結果として貧乏籤を引きそうな気が……」
 二人のぼやきにも近い言葉は、やはりその通りとなって返ってくる事となる。調査が進む事によって。

 四頭のブルードッグが背を向け一目散に逃げ去っていく。沙槻らは捜索の途中でこの集団と遭遇したのだが、特に苦もなく追い払えた様だ。この様なサーバントが居ると言う事は、彼らが危惧していた存在はこの場には居ないと判断出来るだろう。野生の種と言うものは、危険には敏感なものだ。
 やがて、沙槻は管理室と書かれたプレートが付けられた扉を発見する。
「此処だな。しかし、ロックはされたままか。……仕方ない」
 直後、響き渡る轟音。ロックを解除する手段は無いに等しい為、沙槻はその扉を破って中へ入ったのだった。
「今動いてるセキュリティは、扉のロックと監視カメラ位のものみたいね。でも、一応両方落としておくわ」
 部屋に入ってすぐにサウスウィンドがコンピュータを操作し、セキュリティをダウンさせる。出来れば何らかのデータも欲しかった所なのだが、此処にはそう言ったものは無い様だ。
「終わったわよ」
「こちらも済んだ所だ。本格的な調査に入ろう」
 サウスウィンドが済ませるのとほぼ同時に、沙槻も連絡と記録が完了した。二人は、そのまま付近の部屋から調べていくのが良いだろうと判断し、管理室を後にする。

「見つかるのと言ったら、その辺に居そうな普通のサーバントのデータばっかだな」
「こっちの資料にもめぼしいものは見付かりませんね。鈴さんは何か見付けてませんか」
「いえ、特にありませんわ」
 心がコンピュータを調べ、和意が資料を漁り、鈴が周囲の様子をスケッチする。彼らはこの様に役割分担をして調査を行っていた。
 一階にあったコンピュータはロックが掛けられていなかったので、こうやってその場で見る事も出来るし、データを持ち出す事も簡単だ。それどころか、殆どのパソコンは電源が入りっ放しで放置されていたので、よほど緊急の事態だったのだろうと推測する事も出来る。
 しかし、この階のパソコンはほぼ全て調べたのだが、核心に迫れる情報は無かった。データの取出しが完了した心が、先に発見したものを振り返る。
「一階の部屋は此処で最後だしな。とすると、やっぱ地下か……」
「でしょうね。他の方もそろそろ一通り済んでるかもしれませんから、連絡してみますよ」
 地下への入り口――と言っても、それは開けられた穴だったのだが――は既に発見しており、和意の意向で地下の調査は後回しにしているのだった。和意が分かれた者達に連絡を取り、かくして、一同は地下へと向かう。

●地下 〜背徳の研究〜
「これは……」
 その言葉は、誰から発せられたものだったか。地下へと降りた一同が見たものは、地上で見たものとは全く異なる、本当に同じ建物の中に存在するのかと疑いたくなる光景だった。
「これは、培養槽か何かかね」
 長郎が目の前に在る筒状の物に目を見やる。小さな物が十、大きな物が四つ。それらが所々に置かれていた。全て割れていて、中身が残っている物は一つとしてなかったが。
「こっちには研究日誌がありましたよ。えーっと……『魔皇達との交戦記録より、No.42の迷彩強化の有用性はそれほどではなかったが、No.43の敏捷強化とNo.44の遠距離攻撃は有用である事を確認。今後は、この二種を中心に研究を』……だそうです」
 和意が書かれていた内容を読み上げると、記録を採っていた沙槻とサウスウィンドの眉がピクリと動いた。間違いなく、自分達が過去に戦った相手の事だとの確信を以って。
「……それにしても、報道カメラマン志望ではなかった筈なんだが……」
 しかし、その事を隠すかのように、苦笑し、呟く沙槻。以前の依頼の事は秘匿扱いなのだ。尤も、今もそうなのかは定かではないが。
 一方、此処のコンピュータも起動したまま残されていたので、こちらは心と長郎が調査している。その途中で、心の表情が一層鋭さを増した。
「こいつは……」
「どうしたね? もしかして、例の黒いスライムとやらの情報を見付けたのかね?」
「……ああ」
 長郎の問いに、心はゆっくりと頷いて答える。彼の目の前のモニターには、以前戦ったスライムのデータがはっきりと映し出されていた。
「しかし、あれで未完成だったみたいですよ」
「……何?」
 そこへ和意が口を挟んでくる。彼が言うには、あのスライムの刺突は全方位に同時に行える様にするのを目標としていたのだという。
「……ったく、もしかしたら、あれ以上厄介になる所だったのかよ」
 その言葉を聞いた心がごちる。あれでも結構厄介だったのによ……と考えると、思わず言わずにはいられなかったのだ。
 そうしている内に、コンピュータのデータは取出しが完了する。後はその他の調査なのだが、他を調べている者達にはどうしても気になる事があった。
「此処で研究されていたのは、今まで確認された分で全てなのでしょうか……」
 皆が抱いた疑問を口にしたのは鈴だ。培養槽は十四あるのだが、現在確認されているのは四体。明らかに数が合わない。その疑問は長郎が先に調べたコンピュータのデータを知らせる事で解決したのだが、同時にそれは淡い希望を打ち砕かれる結果ともなった。
「残念ながら、しっかりと十四体の研究と改造を行っていた様だ。全てスライムの様だね。内三体は倒されたとあり、あの黒いのを含めても、十体が未確認と言う事になるかな」
 その言葉は、最大で十体のスライムが放たれてしまったと言う事を意味している。背徳の研究によってその生を歪められたスライムが。予想はしていたものの、やはりかと全員が肩を落とす。
 しかし、これではっきりした。この研究所は自分達の手によって生み出した存在によって壊滅させられたのだと。
「自業自得、かしらね」
 サウスウィンドの言葉には誰もが同意したであろう。同情する気など起ころう筈もない。
 これでやる事は一通り済んだので、心と幾行がデータを持ち帰る為に詰め込んでいる。これらはデビルズネットワークに回して解析してもらうつもりらしい。
 解析が終了すればまた分かる事がいくつかあるかもしれない。しかし、改造されたスライムが野に解き放たれたであろうと言う事が、いつまでも魔皇達の頭にこびりついて離れなかった。