■【Creature Tamer】魔獣の進行■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 黒風
オープニング
 傍目にはあまりにも異様な光景だった。それらは一様に爬虫類の様に見えなくもないが、炎をまとっていたり、羽が生えていたりと明らかに通常の生物ではない。それらが一堂に集まっているのだ。
 そして、それらの中心に位置する女性――豊島香織は、これからの事に頭を巡らせる。
「魔皇達が来てからが今回の本番……。さて、ちゃんと来てくれるかしらね」
 来なかったら村を落とすだけだけどね、などとも考えつつ、香織はサーバントに指示を出す。着実に、決められたルートを進む為に。

「緊急の依頼です。と言っても、時間にはそれなりに余裕がありますが」
 サーチャーのミスリが開口一番に告げる。その依頼の内容は、山間部を進行するサーバントの群を撃退するというものだ。
「確認されているサーバントは、四種のエレメンタルビーストが各二体ずつの計八体です」
 それらが、全て同じ方向へと向かっていると言う。
「予測される進行ルートを割り出した結果、その先には周囲を山に囲まれた村があります。恐らく、目的地はそこでしょう」
 やはりこれは自然な動きとは思えないので、グレゴールが居ると考えられます、とミスリは付け加える。しかし、依頼としては追い返してしまえばそれで良く、グレゴールと無理に戦う必要は無いのだと言う。どうするかは任せるとの事だ。
「依頼内容はこれで以上ですが……少々お待ちください」
 内容を一通り述べた後、ミスリは別の資料を漁りだし、取り出したそれらを魔皇達に手渡す。
「以前に似た様な依頼が出た時のグレゴールについて調査しておきました。今回も関係しているかもしれませんので、情報をお渡ししておきます」
 それには、豊島香織が九州の神帝軍所属のグレゴールである事、普段の戦闘はサーバント任せなので本人の戦闘能力は未知数等と言ったデータが事細かに記載されていた。
 グレゴールの情報はこれで良いだろう。しかし、ミスリには一つ、気掛かりな点がまだあると言う。
「今回は中途半端に目立つ行動をしているのですよね……。事前に発見出来たのもその為なのですが、村を攻めるのなら前回の様に直前まで露見しない方が好都合でしょうに」
 果たして、その事が意味する事とは……。
シナリオ傾向 戦闘
参加PC 錦織・長郎
彩門・和意
月島・日和
月村・心
桜庭・勇奈
近衛・紗那
【Creature Tamer】魔獣の進行
●待ち伏せ
 周囲に草木の少ない、開けた場所。彩門・和意(w3b332maoh)が戦場として見出したのがこの場所だった。「ここなら、周囲への被害も少なくて済むでしょう」とは本人の談である。
 各人が思い思いに敵を待つ中、近衛・紗那(w3k729maoh)は道中に村で聞いた事が気になっていた。住民に何故狙われるのかと訊ねまわったのだが、誰一人としてその理由を知らない、つまりは明確な狙われる理由と言うものが分からないからだ。
「直接、聞いてみるしか……ないんでしょうか……」
 結局の所、その意図は誰も知らない。故に、それを知るには直接問い質すしかないだろうと言う結論に至った。
 そして、暫く経った頃、森の向こう側からこの場に似つかわしくない存在が見え始めてきた。言うまでもなく、豊島香織に使役されているサーバント達だ。
「やって来たからにはそれなりの事を支払って貰ってお帰り願おうね……。尤も、命を支払ってくるなら最高なのだかね、くっくっくっ……」
「……まあ、貧乏籤を相手に引いてもらう様、頑張ろう」
 サーバントの姿を確認した錦織・長郎(w3a288maoh)と幾行(w3a288ouma)は臨戦態勢に入る。もちろん、他の皆も万全の状態で迎撃出来る様、それぞれ準備を行っている。
 準備が終わる頃にはサーバント達はすぐにでも仕掛けられる距離にまで近付いてきていたが、これなら万全の状態で始められる。そう思った魔皇達が改めて敵の姿を見た時、誰もが一瞬あっけに取られたかのような表情を浮かべた。今回も隠れているのではと思われていたグレゴール、香織の姿がサーバント達のすぐ後ろに堂々とあったのだから。
「やっぱり来てたのね。それじゃ、始めましょうか」
 香織は全て予定通りと言わんばかりの態度で即座にサーバントをけしかけてきて、それが戦闘開始の合図となった。

●地と空の戦い
 それぞれ四体ずつの空の敵と地の敵に対応する為、魔皇達もまた地と空に分かれる。そして、真っ先に空を翔け、敵へと向かっていくのは月村・心(w3d123maoh)だ。
「まずは、目の前の連中を何とかしねえとな!」
 最も近くに居たララディを狙い、心は真サンダーバードアックスを振るう。月島・日和(w3c348maoh)が付与した真魔炎剣の炎が揺らめき、その攻撃はララディを捉える……筈であった。
「! っと!」
 横からの、ウイバーンの尾の攻撃。ララディを守るかのようなタイミングで割り込んできたそれを心はなんとか避けるが、同時に攻撃の機会を失ってしまった。
「やっぱり四体だと早くに対処は出来ないですよ〜」
 ノルン(w3d123ouma)が黒き旋風を使い一体のララディの動きを鈍らせ、更にキャノン砲と化した金剛夜叉での援護射撃を行ったものの、流石にカバーし切れない。
 とは言え、後一人誰かが援護していればさっきの一撃は決まっていただろう。心は改めて周囲の状況を確認する。
「くそ、こっちの援護は……!」
 そう言いかけ、気付いた。空中の四体に対処しているのは自分とノルンしか居らず、他の皆は地上の敵の対処に回ってしまっていると。
「あらあら、そんなので大丈夫かしら?」
「うっせえ! 俺達だけでも倒してやらあ!」
「そうですよ〜」
 クスクスと笑い、挑発するかの様な香織の言葉に心達は正面から返し、再度敵に向き直る。ノルンのサポートが効果的に働くとは言え、二対四。今のままでは厳しい戦いになるかもしれない。

 一方、地上の方は空とは逆に人数超過とも言える状態だった。なにせ、魔皇逢魔総勢九名である。
「それじゃあ、ちゃっちゃと片付けちゃいましょうか」
「これ以上は進ませねえぞ!」
 その中で最前線に立っていた和意と桜庭・勇奈(w3i287maoh)が、共にスモールヒドラへと向かっていく。和意には鈴(w3b332ouma)の祖霊の衣が、勇奈にはハリエット(w3i287ouma)の獣の鎧が付与されており、二人とも防御力は高い。
 集中させてなるものかと一体のサラマンダーがそちらへと向かおうとするが、そちらは悠宇(w3c348ouma)の重力の檻で押さえ込まれる。更に、もう一体のスモールヒドラは日和、紗那、鈴の三人が相手取り、最後の一体のサラマンダーは長郎が空中から攻撃を仕掛け、ハリエットが水晶の召喚で纏めて攻撃し、幾行が幻影の吹雪で場を整える。
 数の比がそのまま魔皇達の有利となり、地上の敵はほぼ完全に分断出来た。後はこの状況を保ち撃破するだけである。
 しかしそれでも、香織が余裕の表情を崩す事はなかった。

●撃滅
 日和の放つ六条の光線がスモールヒドラの体を貫き、その上で紗那のランスが真六方閃によって開いた穴に差し込まれ、内部から魔弾が放たれる。
 スモールヒドラは一瞬統率されたそれとは違う動きを見せたが、すぐに反撃を仕掛けてきた。紗那はそれをスモールヒドラの体を蹴り、反動でかわす。
「やっぱり、この能力は好きになれない……」
 その様子を見た日和が呟く。真魔炎剣の炎はSFからサーバントを解き放つ力も持つが、香織はすぐに再支配してしまい、一瞬の事にしかならない。
 しかし、それでも隙は出来る。日和と紗那の反対側から、鈴が腕カバーと化した魔獣殻で一気に噛み砕いた。スモールヒドラはその攻撃により、苦し紛れのように暴れだした。
「見た目に違わず、タフな様ですわね」
 感触は十分であり、深手を負わせたのには間違いないが、スモールヒドラはまだ動いている。とは言え、もう限界である事は明らかだ。
「これで、終わりよ」
 再度接近した紗那が真テンタクラーガーダーと真ヴァリアブルワイヤーの攻撃を見舞う。脆くなっている部分を的確に狙ったその攻撃で、スモールヒドラはどうと音を立てて崩れ落ちた。

 長郎は思ったよりも悠々と進められていた。幾行の吹雪の空間はサラマンダーに効果は無かったのだが、香織はワード・オン・コマンドの再使用に追われているおかげで、真蛇縛呪による捕縛が成功したのだ。
 こうなってしまえば後は特殊能力と、心達が足止めし切れていないウイバーンやララディの邪魔にさえ気を付ければ問題は無い。真狼風旋を使いつつ、長郎は確実にサラマンダーの命を削り取っていく。
「こっちも、そろそろ終わりだね!」
 止めの真パルスマシンガンの銃弾が次から次へとその身体に穴を穿ち、サラマンダーは動きを止めた。
「ここは案外楽に済んだかな」
 幾行は後方に待機したまま、サラマンダーの撃破を確認する。炎の弱体化は見て取れなかった為、自分が出る機会は無いままであった。

「行かせるかよ!」
 勇奈の魔皇殻から放たれるは、真空の刃。高い威力を持つそれはスモールヒドラの岩を砕き、内部にまで達する傷を負わせる。
 更にそこに追い打ちを掛けるは、和意。燕貫閃を付与したドリルランスは先の勇奈の攻撃によって付けられた傷を更に深いものへと変えた。
「いくら硬くたって、集中攻撃には耐え切れないでしょう?」
 連続攻撃により深手を負ったスモールヒドラはどうにか反撃を試みるが、無常にもディフレクトウォールによって阻まれる。
 そして、その隙に接近した勇奈は今度は真燕貫閃を付与した真ドリルランスを突き立てた。スモールヒドラの注意がそれで勇奈に向くが、そうすると今度は和意が突き立てる。この繰り返しだけで、かなりのダメージが与えられていく。
「結構単純なんだな……」
 その様子を見た勇奈は軽く苦笑する。こんなやり方で相手はどちらかに集中する事が出来なくなっているのだ。香織が具体的な指示を出していないと言うのが大きいだろう。
「まあ、良いじゃないですか、楽に済むならそれで」
 和意の言葉に、勇奈はまあなと返す。そうしている間にもスモールヒドラの傷は増えていき、やがて二体目のスモールヒドラも地に伏せる事となった。

 そんな他の地上組と違った状況になっているのが、悠宇とハリエットの二人だ。サラマンダーは悠宇の黒き旋風と重力の檻で動きを止められてはいるのだが、如何せん攻撃手段が少なく、攻めあぐねている。更に、サラマンダーの動きは止められていても、上空からの攻撃がある。その為、ただ他の者達が倒し終わるのを待っていれば良いと言う訳でもなかった。
「それでも、待つしかないんだよな」
「そう、ですね」
 上空から仕掛けてきたウイバーンの攻撃を悠宇はかわし、ハリエットが水晶の召喚で牽制する。攻撃手段に乏しい二人には、上空からの攻撃に耐え、サラマンダーの動きを止め続けるので精一杯なのだ。
 とは言え、もう既に何体かのサーバントは深手を負っている。もう少し耐えれば、目の前の敵を仕留めた者達が駆けつけてきてくれるであろう。

 終始優勢な地上と違い、空中の敵を相手している二人は苦戦していた。こちらもまた数の違いがそのまま優位となっている。
「ええい、この!」
 心は真サンダーバードアックスは一体を振るうが、その一撃は空を切った。先程から近距離を飛び回られている為、攻撃がやり難い。と言うのも、敵は心よりノルンを積極的に狙うので、心がなかなか攻めに行けないからだ。ノルンも、ウイバーンを一体キャノン砲で仕留めたものの、接近されてからは満足に攻撃する事が出来ず、そのまま魔獣殻は時間切れとなってしまった。
 それでも黒き旋風や重力の檻でノルンは必死にサポートを行っているが、数の差を埋めるまでには至らない。
「それでも、もう暫く持ちこたえられればなんとかなりますよね〜」
「……癪だけどな」
 ほぼ防戦一方となっている為、地上の敵を相手取っている者達が援護に来なければ攻撃に転じる事は出来ない。だから二人は、ひたすらに耐え、その時が来るのを待つしかなかった。
 そして、お互いの消耗が激しくなってきた頃、突如ウイバーンが呪縛の光に絡め取られる。
「お待たせ」
 それは、紗那が放った真蛇縛呪。突然のDFに、他のサーバントの動きもが一瞬止まった。
「隙あり! もらったああぁぁ!」
 この機を逃すものかと、心は真獣牙突で一気に突撃し、それに反応する事が出来なかったララディの首に真サンダーバードアックスの刃が喰い込み、断ち切る。
 これで、残りは二体。数の優位も逆転し、後は労する事もなく残りのサーバントも殲滅する事が出来た。

●仕組まれた戦い
「やるじゃない、相変わらず」
 サーバントが全滅したのを確認し、魔皇らを賞賛する香織。人を喰うかの様なその言動に怒りを滲ませる魔皇達だが、ここは一旦抑え、じりじりと包囲していく。しかしそれでも、香織は余裕の表情を崩さない。そこにあるのは、何らかの策か、それとも絶対の自信か。
「遠路はるばる、愉快な仲間達との同伴出勤、ご苦労様です」
  まず最初に仕掛けたのは和意。ただし、出したのは手ではなく口である。挑発し返され香織の眉が一瞬動くが、すぐに戻った。
「愉快な仲間達……ねえ。まあ、そういう事にしておいてあげるわ」
 香織はあくまでも余裕の姿勢を崩さない。この分では失言を狙うのは難しいだろう。
「何で……こんな事をするんですか……」
 次に動いたのは日和。香織は彼女の真剣な眼差しをも受け流すが、それでも質問には答える。
「……いいわ、今回の目的だけは教えてあげる。目的は、あなた達の力を測る事」
 その言葉に、日和はえっ、と驚いた様な表情を見せた。今更魔皇の力を測る意味は無い、そう考えていたから。
「魔皇って個々によって強さも戦い方もまるで違うでしょ? だから、汎用的なデータを利用するよりもこうやって細かい情報を得た方が役に立つと踏んだ訳よ」
 日和の疑問にも答えるかのように、香織は続ける。
「……やっぱり、あんたは嫌いだ。断固阻止してやるからな!」
「ああ、自分は高みの見物って言うその根性も気に入らねえ! 叩きのめしてやる!」
「逃がしはしないわ」
 それらの言葉を聞き、勇奈と心が魔皇殻を構え飛び出した。同時に、紗那も真テンタクラーガーダーを蠢かせ、横から仕掛ける。
「せっかちねえ……。今日はこの辺りでさよならしようと思ってたのに」
 香織は慌てる事無く手を掲げると、身体全体からまばゆい光を放った。
「ぐああ!?」
「うあ!」
「きゃああ!」
 その場に居た者全員が思わず目を伏せた光が止むと、仕掛けていった三人がやられているのが目に映る。
「マジかよ……」
「ああ〜、大丈夫ですか〜?」
 驚愕する者、心配する者がそれぞれ居る中、香織のした事をいち早く察知した長郎はその力に苦笑するしかなかった。
「閃光烈破弾とは……参ったね」
 この様な状況を生み出せるのはこれしかないとの考えから至った答え。それは同時に、魔皇達に大きなためらいを生み出す。敵の力は想像以上なのだと言う事を思い知らされたのだから。
「ご名答。じゃ、用は済んだ事だし、失礼させてもらうわね」
 香織はそう告げ、悠々と帰っていく。魔皇達はその姿を苦々しく見つめる事しか出来なかった。

「……結局、逃げられちゃったね」
「仕方がない事ですわ」
「あのままやり合っていたら、不利だったのはこちらでしたし」
 幾行の呟きに、鈴とハリエットが返す。他の皆は、倒された三人の介抱をしたりして、撤収の準備をしている。
(たとえどんなに強かろうとも、黙認は出来ないし、妨げないといけない……。より良い道を探すのを乱させない為にも……)
 勇奈を介抱しつつ、日和はその想いを胸に馳せる。その様子を見た悠宇は、やはり相性が悪いんだなと再認識した。お互いが相容れないと言う事を、改めて確認させられた故に。
 サーバントは倒し、村への被害は未然に防ぐ事が出来た。また、断片的ながらも香織の力を知る事も出来た。魔皇達は、この苦々しい気持ちをいつか昇華させるべく、今は帰路につく。