■【Creature Tamer】輸送阻止■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 黒風
オープニング
「緊急の依頼です」
 魔皇達を取り急ぎ集めたサーチャーのミスリは、集まったのを確認するや否や依頼の説明に入る。
「目標はネフィリム三機と多数のサーバントです。それらが現在サルデス東部上空から日本アルプス方面へと飛行中です」
 サーバントの多くは巨大な檻に入れられ、その檻を運んでいるサーバント、そしてそれらを指揮するネフィリムと言う編成になっている様だ。
「編成の仕方からして、この部隊がサーバントを輸送する部隊である事には間違いないと思われます。また、九州神帝軍の部隊である事も確認が取れています」
 では、何の為の輸送なのか。一人の魔皇が訊ねると、ミスリは別の資料を取り出し、魔皇達へと手渡した。
「実は、以前現れたグレゴールの豊島香織が潜伏されていると思われる場所が日本アルプスなのです」
 暫くの間捜索が行われたのだが、山脈の連なる日本アルプスの自然に隠れてしまい、また動きがなかったので未だ発見出来ていないのだと言う。
「輸送されているサーバントの多くが香織が好んで使役する魔獣や精霊です。十中八九、間違いないでしょう」
 輸送を許してしまえば、また以前の様に侵攻が行われるだろう。それは防がなければならない。
 そして、この事は同時にチャンスでもあると言う。
「輸送を行っているグレゴールは地図なり何なりで潜伏先の情報を持っている筈です。これを奪取する事が出来れば、こちらからの攻勢が可能となります」
 動きが途絶えていたのは恐らく動きたくても動けないから、つまりは戦力が不足しているからであろう。このタイミングで潜伏先を掴めばかなり有利になる筈だ。
 ただし、奪取するとなると、当然ただ撃破するよりもはるかに難しくもなる。
「まず、撃破してしまうと情報はまず手に入らなくなるでしょう。次に、三機のネフィリムの内どれに情報を持ったグレゴールが搭乗しているのかは分かりません」
 つまりは、確実に情報を手に入れるには全てのネフィリムを撃破してしまう事無く戦闘不能にしなければならないのだ。
「奪取するかどうかの判断は魔皇様方にお任せします。ですが、輸送だけは必ず食い止めてください」
 どうかよろしくお願いします、と一礼し、ミスリは魔皇達を送り出した。
シナリオ傾向 殲騎戦 輸送阻止
参加PC 彩門・和意
礼野・智美
月島・日和
真田・浩之
ミティ・グリン
桜庭・勇奈
【Creature Tamer】輸送阻止
●ズレ
「依頼内容はあくまでも輸送の阻止であり、潜伏先の特定は可能であれば、です」
 サーチャーのミスリが困った顔で一組の魔皇と逢魔に話す。他の魔皇達が出発した後にやってきた真田・浩之(w3f359maoh)とイルイ(w3f359ouma)であったが、どうも認識にズレが生じている様だ。
「そうなのか? じゃあ、どうするかな」
 浩之は一度考え直し、イルイと打ち合わせる。それでも彼等は最初に考えていた通りに動くと早いうちに決め、具体的な行動の話に入る。その中で泳がすと言った単語が出てきて、ミスリの表情に不安の色が浮かぶ。
 打ち合わせが終わり、ミスリの表情に気付いた浩之は退出しつつ告げていく。
「……なに、俺の殲騎は十分早いさ」
 間に合うさと言いたかったのだろうが、やはりズレている。
 浩之達が退出した後、一人になったミスリは大きく息を吐いた。

●発見
 日本アルプスの上空を、五騎の殲騎が飛ぶ。その中の一騎、アシュナードのコックピット内で月島・日和(w3c348maoh)が険しい顔をしていた。その様子を背後から見ている悠宇(w3c348ouma)は日和の心境を察する。
「あのグレゴールにサーバントが渡れば、きっとまた何か起こす。そんな事は、絶対に……」
「ああ、絶対に防がないとな。その為にも、なんとしてもここで輸送を阻止しておかないと」
 突然背後から入った合いの手に日和は一瞬驚いた様な仕草を見せるが、すぐに落ち着いた様な姿勢になる。
 そして、日和達と同じ考えの者は、他にも居る。
「魔皇呼ぶ為に村襲うような上級シャイニングフォース使う奴に僕を与える訳にはいかない」
 ブレイズのコックピット内、礼野・智美(w3b872maoh)が一人呟く。その言わんとしている事は、日和達とほぼ同じだ。
 やがて、先頭を進んでいるノーフォークに搭乗した桜庭・勇奈(w3i287maoh)がある事に気付く。それは、日本アルプスをもうすぐ越えると言う事。つまりは、敵の輸送部隊が近くにまで来ていると言う事。
『皆、もうすぐだ! 準備は良いか!?』
『ボク達はこれから準備に入るよ』
 勇奈の問いかけに飛の中からミティ・グリン(w3g263maoh)が答え、飛は高度を上げて雲の中へと消えていく。他の魔皇達は飛を見送った後、準備は出来たとばかりに騎体を更に前へと向かわせる。
 その先の遠くの空に、黒い点の様なもの――ネフィリムとサーバントが姿を現していた。

●接触
 障害物らしい障害物が殆ど存在しない空では、こちらから見えると言う事は相手からも見えていると言う事。三機のネフィリムは殲騎の存在を察知したのか、陣形を組みだした。
「向こうも気付いたようですね。ならば、正面からいきましょうか!」
 二重の虹のコックピットで彩門・和意(w3b332maoh)が咆える。それを合図としたように、四騎の殲騎もまた動き出した。
 まず前へと出たのはブレイズ。そのすぐ後ろにノーフォーク、二重の虹、アシュナードと続く。一方、輸送部隊も三機のネフィリムが前に出る形で迎撃体制を取っている。
「ネフィリムを行動不能にさせれば霊鳥もコントロールを失うと思います」
「そうだな。私達はまずネフィリムを狙う!」
 ユフィラス(w3b872ouma)の呼びかけに智美が答え、ブレイズが真シルバーエッジを構える。後僅かでお互いの有効射程に入る。魔皇達の緊張感は否応無しに高まった。

 一方、雲の中に隠れたミティはと言うと……困っていた。
「…下が、見えませんね」
「うう、言わないでよ」
 マイ(w3g263ouma)のツッコミにミティががっくりとうなだれる。梅雨空の雲は確かに飛の姿を隠してくれたのだが、同時に飛の中からは下の様子が全く分からなくなってしまった。
「高度、下げるしかないなぁ」
 このままでは戦闘に加わる事すら難しいので、敵が見える高さまで高度を下げていく。しかし、分厚い雲によってギリギリまで降りねば前方が全く見えないと言う状態ではあったものの、相手との高度差を縮められたのは二人にとって幸運だったのかもしれない。

●止めるべく
「くそ、後少しだと言うのに!」
 剣を装備したネフィリムに搭乗したグレゴールが、自分達目掛け飛来してくる殲騎を見て憎々しげにこぼす。お互いの距離は徐々に縮まってきており、まもなく戦闘に入る事は明らかだ。
「グレゴール豊島の潜伏先を抑えられるならその方がいいです。できるだけ撃破ではなく戦闘不能にさせる方向で対処しましょう」
「ああ」
 再びのユフィラスの呼びかけ。それは、智美の考えていた事と同じ。
 互いの有効射程に入った瞬間、銃を装備していたネフィリムから銃弾が撃ち込まれるが、ブレイズはそれをやりすごしつつ剣のネフィリムへと斬りかかる。
「くっ!」
 ネフィリムは鋭い剣戟をかろうじて受け止め、剣と剣とが擦れ合い巨大な火花が生まれた。この一撃こそ受け止められたものの、いずれは当てられると智美は確信する。そして、他の魔皇達も各々の狙う相手と交戦に入った。
「そんな程度では止められませんよ」
「結界も、何度張ろうと無駄ですわ」
 二重の虹は、槍を装備したネフィリムから放たれた光破弾をランスシューターで弾き飛ばしつつ突撃する。苦し紛れに使われた聖障壁も鈴(w3b332ouma)の魍魎の矢が貫き、消散した。
「このまま……」
 いけば有利な超接近戦に持ち込める。和意がそう考えた時、銃のネフィリムが二重の虹へと攻撃してきて突撃が一時中断する事となった。
「くっ……」
 アシュナードの中で日和の表情がこわばる。銃のネフィリムを狙うつもりでいたのだが、肝心の相手はひたすら逃げながら攻撃してくるので、機動力に勝っていてもなかなか接近する事が出来ない。真マルチプルミサイルで弾幕を張ろうとしても、ピンポイントで聖障壁を張られ上手くいかないのだ。
 このままでは埒が明かないと判断した悠宇は、すぐに行動を切り替えた。
「止まれ!」
 悠宇の発生させた重力場がネフィリムを捉え、その動きを止める。これでようやく近付く事が出来る。
「おのれ……霊鳥は先に! 輸送を優先さ……」
「させるかよ!」
「!」
 銃のネフィリムが指示を出そうとした所に、ノーフォークが一羽の巨大霊鳥へと斬りかかる。真獣刃斬によって生まれた真空の刃は霊鳥の羽を捉え、大きく傷付けた。
「もしこれらのサーバントを入手できなければ、あのグレゴールはしばらく大人しくしている筈……ここは輸送を阻止しませんと」
 ハリエット(w3i287ouma)は周囲の様子を見極めつつ、ノーフォークへと獣の鎧を付与する。これで、霊鳥相手に後れを取る事もないだろう。
 そして、もう一方の霊鳥は。
「行くよ。久々の秘剣、稲妻魂魄落としー!」
 真衝雷符を巻き付けた巨大な太刀を構えた飛が一気に急降下してきて、太刀を叩き付けると同時に真衝雷符を発動させ、雷撃をも与える。頭上からの一撃を避ける事が出来なかった霊鳥は大きくバランスを崩し、高度を落とした。
「…出来れば、ずっと使わないでいてくれた方が良かったと思います」
「上手く行ったんだからいいじゃん」
 マイペースに突っ込むマイに対し、ミティは機嫌が良さそうである。間髪入れずもう一方の霊鳥に真闇蜘糸を放ち絡めとっている辺り、抜け目はないようであるが。

 そんな戦場の様子を一騎の殲騎が遠くから眺めているのは、浩之のノートゥングだ。
「……気になるのか?……浩之」
「まぁ……な。あれから暫くだったからな」
 彼らなりに思う所があるのか、浩之の視点は一騎の殲騎を捉えていた。
「会っても話す事も無い。息災であればそれでいい」
 そこまで言って、浩之はそれはそうと、とイルイへと向き直る。
「イルイ」
「なんだ?」
「あまり強く抱きつかれると……む、胸が……な」
「……ば、ばばばっ!?」
 直後、イルイから鉄拳制裁が下され、ノートゥングはコントロールを失い落下していく。この二人、一体何をしているのか……。

●輸送阻止
「輸送を優先させてきましたか……」
 なら、と和意がネフィリムの相手よりも霊鳥の撃破を優先させようとした所で、彼はある事に気が付いた。槍のネフィリムの相手をしていたブレイズもまた、霊鳥を優先させようとしていたのだ。そして、アシュナードは銃のネフィリムの無力化にこそ成功したものの、距離が離れていてすぐに駆けつけられる状態ではない。
 これにより、一瞬ではあるが決定的な隙が生まれてしまった。
「このまま任務を果たせぬよりは!」
 生まれた隙を突いて剣のネフィリムは光破弾を撃ち出す。まばゆく輝く光弾は殲騎を素通りし、ミティの一撃によって墜落しかけていた霊鳥の持つ檻、それを閉じていた鍵を破壊した。
「しまった!」
 その声はどの殲騎からだったか。檻が勢いよく開けられ、中に居た多数のサーバントが飛び出してきた。二十体を超えるそれらは、全て空を飛べるサーバント。
「空を飛べる種とそうでない種とに予め分けていたと言う事ですか」
 ハリエットが飛び出したサーバントを見て、そう分析する。それなら空ける際の手間が少なくなり、損害も減る可能性がある、と。
 そして、敵の数が大幅に増えた事で魔皇達は対処が難しくなる。殲騎に乗った今なら一体一体は大した敵ではないが、数が多いと誰もが考えた。ただ一組の魔皇と逢魔を除いては。
「こういうのは趣味じゃないんだけど、戦い、殺す為に用意された君達を解き放つ訳にはいかない……。ごめんね」
 先ほどまでの上機嫌はどこへいったのか、ミティが静かに告げる。そして、最も近かった為に多くのサーバントが向かっていた飛から、破壊の雷が放たれた。真衝雷撃は空気を焦がし、竜巻と真空波を巻き起こして全てを飲み込む。後に残されたのは、無残に焼け焦げズタズタとなった多数のサーバントの死骸と、空中に佇む飛のみであった。
「そんな……」
 起死回生を狙って開放させたサーバントを一瞬で全滅させられ、呆けた様に声を出すグレゴールであったが、彼に呆けている暇などない。眼前に標的を戻したブレイズが迫っているのだ。
「しまっ……」
「さあ、覚悟してもらうぞ!」
 ブレイズは体勢を立て直す暇を与えず、真音速剣を発動し幾度となく斬りつける。これまでにも手足を重点的に狙われていたネフィリムはこれによって完全に制御を失い、墜落していった。
 そして、残された剣のネフィリムには二重の虹ががっぷりと組み付いている。
「くそ、離せ!」
「残念ながら、そういう訳にはいきませんよ」
 剣も振るえぬほどの超接近戦において、二重の虹は魔獣殻のアローを接合する事で生まれた爪や尻尾で攻撃を加えていく。更に、鈴が祖霊の衣を付与し直したので防御も万全である。
 攻撃の手を封じられたネフィリムは徐々に損傷していき、やがて他の二機と同じ運命を辿る事となった。
 そして、残った霊鳥も今まさにノーフォークがトドメを刺そうとしている。
「お前等なんかに手加減してやる必要なんかこれっぽっちもあるものか!」
 既に風前の灯である霊鳥へと真燕貫閃での一撃が突き込まれ、霊鳥は力なく地へと落ちていった。

●情報入手
「サーバントの取り逃がしはなさそうですわ」
 鈴が祖霊から周囲の危険は神に属する者である事を聞き、和意へと伝える。それを聞いた和意は慎重に自らが墜とした剣のネフィリムのコックピットハッチを開き、中のグレゴールへと告げた。
「潜伏先の情報、渡していただけますか?」
「……悪いな、俺は持っていない」
 グレゴールはその一言のみを告げると、後は黙り込んでしまう。どうしたものかと和意が考えていると、遠くから日和と悠宇が向かってきているのが見えた。
「銃持ってた奴は情報を持ってなかったみたいだ」
「そちらはどうですか?」
「こちらも持っていなかったようですわ」
 悠宇と日和の言葉に鈴が答える。あちらは勇奈達が見ていてくれているのでこちらの様子を見に来たらしい。
「となると、持っているのは剣を持っていた相手と言う事になりますね」
 日和が、いや、誰もがその答えに至るまでに、時間は掛からなかった。

 智美は既に残骸の様になっているネフィリムへと足を向け、そのすぐ後ろではユフィラスが奇襲に備え待機している。真音速剣によってボロボロとなっているハッチをこじ開け、智美は中のグレゴールとファンタズマに静かに告げた。
「抵抗しても無駄だ。大人しく情報を渡してもらおうか」
「やはり、それが狙いか」
 グレゴールが苦々しい表情を浮かべるが、彼らに出来る事はこれぐらいだ。たとえ地図を切り刻んだとしても、魔皇達にはそれを修復する術がある事を知っているから。
 観念した様に、グレゴールは二枚の地図を智美へと渡す。
「物分りが良くて助かるぞ」
 地図を受け取った智美はそれを更にユフィラスへと渡し、ユフィラスがしっかりとしまい込んだ。


 後日、サーチャーが受け取った地図を元に調査を行い、豊島香織の潜伏先の特定に成功した。これより、魔皇達は反撃に転じる。