■【背徳の遺産】地下に潜むモノ■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 黒風
オープニング
 かつての神魔戦線によって廃墟と化し、人一人存在しなくなった地下街に一匹の野犬が入り込んだ。恐らくは、住処でも探しているのだろう。
 適当な場所はないかと歩き回る野犬に、透明な『モノ』が少しずつ近付いていく。音も立てずに、じわじわと。
 そして、野犬に充分近付くとソレは一気に襲い掛かり、たちまちの内に体内へと取り込んだ。
――――
 野犬は必死に吠えるが、その鳴き声は外へは響かない。やがて、野犬は跡形もなく消滅した。

「地下街跡地に二体のゼラチナスキューブが確認されました。これの排除をお願いします」
 サーチャーのミスリが、手元の資料を確認しつつ魔皇達へと状況を説明する。
 発見した密からの情報によると、通常ではあり得ない速さで移動し、捕食していたと言う。
「恐らくは、例の研究所で改造されたサーバントでしょう」
 あの研究所で研究されていたサーバントの内、ゼラチナスキューブは二体。もしその二体があそこで作られたものなら、資料に載っている二体で間違いないとミスリは付け加える。
「この二体はどちらとも防御能力を重視したものの様ですね。速度等はおまけ程度のものだと思われます。ただ……」
 これら二体は防御能力を高めた所までは同じなのだが、その方向性は違うのだと言う。
 一体は斬撃や打撃、銃撃等の物理的な攻撃に対する耐性を、もう一体は炎や衝撃波、光線等の魔法的な攻撃に対する耐性を持たせたものであるらしい。
「それぞれが得意とするタイプの攻撃には絶対的なまでの防御力を誇りますので、どちらへの耐性を持っているかを見極め、反対のタイプの攻撃を行う必要があるでしょう」
 ただし、一つだけ問題がある。二体とも外見はほぼ同じであり、見ただけではまず区別がつかない。実際に戦って感触で確かめてもらうしかないらしいのだ。
「厄介なサーバントではありますが、確実に排除してください。よろしくお願いします」
 そう言い、ミスリは一礼して締め括った。
シナリオ傾向 戦闘 特殊サーバント戦
参加PC 彩門・和意
礼野・智美
月島・日和
音羽・聖歌
橘・沙槻
【背徳の遺産】地下に潜むモノ
●死の待つ地下へ
 ゼラチナスキューブが確認されたのは、破棄された地下街。当然の事ながら、電気は通っていないので内部は暗く、静まり返っている。魔皇達はこの中に存在するサーバントを撃破するべく、一歩一歩地下へと足を踏み入れていった。

●捜索
 地下街を明かりもなく捜索するのは心許ない。そう考えたか、真朧明蛍の灯りを頼りに捜索を行っているのは音羽・聖歌(w3c387maoh)、礼野・智美(w3b872maoh)、ユフィラス(w3b872ouma)の三人だ。
 この三人、と言うよりは聖歌と智美の間に張り詰める空気はかなりピリピリしている。どうも、色々と押し問答があった末に聖歌が連れてこられる事になったらしく、その所為か時折更に空気が張り詰め、そのたびにユフィラスが間を取り持つと言う状態が何度か続いている。
 この様な状態でまともに捜索が出来るかどうかは少々疑問だが、それでも捜索は続けられていく。

 真朧明蛍を使い先を進むもう一つの集団は、月島・日和(w3c348maoh)、悠宇(w3c348ouma)橘・沙槻(w3f501maoh)、サウスウィンド(w3f501ouma)の四人で構成されている。彼等の間にも張り詰めた空気が流れていたが、それは智美らのそれとは違う張り詰め方であった。
「後始末に困るようなもの、どうしてわざわざ作るのかしらね……理解に苦しむわ」
 周囲を警戒しつつ、サウスウィンドが呟く。それを聞いていた沙槻が頷き、そうだな、と続ける。
「手に余るようなものを作ってどうなる……とは思う。だが、既に自分達にできるのは、それらが人に被害を出さないうちに、それも極力秘密裏に片付けること位だ」
「……そうですね。人に害を及ぼさないように、私達の手で何とかしましょう」
 沙槻の言葉に、日和が同意する。そんな彼らを横目に、悠宇は一人キョロキョロと辺りを見渡していた。
「空中に逃げられそうな所はないか……」
 彼はいざと言う時に緊急回避を行える場所を探していたのだが、外に出られそうなほどの巨大な穴は見当たらない。
 そして、彼はもう一つ引っ掛かりを感じていた。
「何か、忘れてる気がするんだよなぁ……」
 それが何かは思い出せない。しかし、大事な事であった気がする。
 それは程なくして思い出される事となった。彼ら自身に降りかかった事態によって。

 これまでの二班とは別の場所を捜索しているのは、彩門・和意(w3b332maoh)と鈴(w3b332ouma)の二人だ。彼らは照明の付いたヘルメットや懐中電灯の明かりを頼りに捜索を行っている。
「此処には居ないようですね。やはり、移動はしているようです」
 密がゼラチナスキューブを目撃した場所を訪れ、シュリケンブーメランを投げてみた和意であったが、手応えがなかったので此処には居ないのだと判断した。
「となりますと、探し回らないといけませんわね」
 和意の声に答えつつも、鈴は警戒を緩めない。と、その時、悲鳴にも近い声が彼らの耳に届いた。
「和意様!」
「出たようですね、行きましょう!」
 その声を聞くや否や、二人は声のした方向へと駆けだした。

●誤算
 それは、気取られぬ様、静かに、しかし確実に、彼らの元へと近付いていた。そして、彼等は気付けなかった。だから、気付いた時には、遅かった。
(しまっ、た……)
 ゼラチナスキューブに張り付かれ、その内部へと閉じ込められたサウスウィンドは、酸に体を焼かれながらも脱出しようともがく。しかしその行為は、まるで空気をかいているかの様に意味を成さない。
 背後から現れたゼラチナスキューブは一切の音を立てる事なく、最も後方に居たサウスウィンドへと襲い掛かったのだ。沙槻らが敵に気付いたのは、彼女が襲われた直後である。
「くそ、サウスを出せ!」
 状況に歯噛みしつつも、沙槻は真戦いの角笛で衝撃波を生み出し、ゼラチナスキューブへと撃ち込んでいく。
「とにかく、一刻も早く助け出しましょう!」
 日和も真マルチプルミサイルを召喚して攻撃しているが、効果の程が全く分からない為、攻撃方法を切り替えるべきかで非常に悩んでいる。効果の程が分からないのは、沙槻の戦いの角笛の衝撃波や真六方閃も同様だからだ。
 元々ジェルタイプのサーバントは攻撃がどの程度効いているのかが分かり難い。その為、どちらの攻撃が有効なのかの判断がつき難くなっている。
「こっちは多分来ていない。そっちを優先してくれ!」
 もう一体のゼラチナスキューブが来ていないかを目を凝らして警戒している悠宇が叫ぶ。その声を聞き、日和と沙槻はより一層目の前のゼラチナスキューブへと集中していった。

 一方、もう一体のゼラチナスキューブは智美、ユフィラス、聖歌の所へと現れていた。もう一方と同様に後方に居た聖歌が奇襲を受けたが、こちらは真テラーウィングのおかげでどうにか脱出に成功している。
「こいつがなかったらと思うと、ぞっとしないな」
 聖歌は先程の事を思い浮かべつつも、真蛇縛呪を放つ。放たれた光は蛇の様にゼラチナスキューブへとまとわりつくが、一瞬で霧散してしまった。
 同様にユフィラスが黒き旋風を放つが、こちらも結果は同様で、一瞬で消されてしまう。
「こちらは魔法に強い方なのでしょうか」
「まだ確信が持てん。もう少し確かめるぞ」
 智美は、ユフィラスの言葉に答えつつも蒼き炎をまとった剣を手に、ゼラチナスキューブへと斬りかかる。そして、彼女の手に残る僅かな手応え。
「おそらく、こっちが魔法に強い方で合ってるぞ!」
 それは、直感のようなもの。それでも、ユフィラスは即座に用意していた赤いペンキをゼラチナスキューブ目掛けて投げ入れた。
「これで、大分戦い易くなったな」
 投げ入れられたペンキはゼラチナスキューブの一部を赤く染め上げ、敵の位置を明確に写しだす。それを見て、借り受けた雪月華を手に聖歌がほくそ笑んだ。

 日和・沙槻らの班も、確信は持てないものの敵の耐性について目星が付いてきた。マルチプルミサイルを当てた時に、敵の体が水に強い風を当てた時と似た動きをしていた事に気付いたのだ。
「こちらが、物理攻撃に対して強い方なのでしょうか」
「恐らく、としか言えないが……悩んでいる時間はない」
 日和の疑問に答えつつ、沙槻は幾度目かの真六方閃を放つ。サウスウィンドを助け出す為にも、可能な限り早く倒す必要がある。その為には、悩む時間さえ惜しい。
 と、その時、後方から飛来した網がゼラチナスキューブへと絡みつく。
「どうも、お待たせしました」
 その網――闇蜘糸を放ったのは和意だった。声と音を頼りに辿り着いた彼は続けざまにゼラチナスキューブへと接近し、蒼き炎をまとったドラゴンヘッドスマッシャーを打ち込む。
「これは、大変な事になっていますわね」
 和意に少し遅れて現れた鈴は即座に状況を把握し、備える。自らも攻撃に加わる瞬間を見極めるべく。

●撃破、そして救出
 和意らが合流してからは、有利に戦闘を進める事が出来た。ゼラチナスキューブは闇蜘糸を振り払い、更に獲物を取り込もうと這いずってくるが、魔皇達は後退しつつ戦う事でそれを許さない。
「予想はしていたが、やはり突っ込んでくるのか」
「とにかく、時間がありません。急ぎましょう」
 沙槻と日和がほぼ同時に真六方閃を放つ。耐性を見破った今、耐性を持たない攻撃を繰り返してサウスウィンドを一刻も早く助け出さなければならない。
 そして、和意は再度闇蜘糸を放ちゼラチナスキューブへと絡みつかせつつ、魔炎剣を纏ったドラゴンヘッドスマッシャーで攻撃していく。
「これなら効くようですからね」
 魔炎剣の炎によるダメージは微弱で、デアボリングコレダーの雷撃は中のサウスウィンドにもダメージがいく可能性がある。その為、闇蜘糸をメインとせざるを得ない状況だ。
 それでも、魔皇達によって次々と放たれる攻撃によって、ゼラチナスキューブにはダメージが次第に蓄積していく。外見上では全く分からないが、それは間違いない。
「やっぱり恐らくだが、もう一体の方は近寄ってきてないな。こうなってくると、もう一つの班が戦ってるって事だろうか」
 魔皇達が攻撃を続けている間も、悠宇は周囲の警戒を続ける。しかし、もう一方のゼラチナスキューブが現れる気配がない為、次第にもう一方の班が戦っているのではと思えてくる。
 戦いが長引いてはきたが、もう少しで倒せる。そう信じ、日和は最後の真六方閃を撃つ。
「これで……」
 これで倒せなければ、攻撃の効率が格段に落ちる。倒れて、と願うが、ゼラチナスキューブは未だ倒れてはいない。
 駄目なの、と思ったその時に、これまでずっと様子見をしていた鈴が動いた。彼女が放った魍魎の矢は、真六方閃にかろうじて耐えていたゼラチナスキューブに止めを刺す。それによってゼラチナスキューブは崩壊し、サウスウィンドはどうにか救出された。
「良いとこ取りですか」
「わたくしを切り札としたのは和意様ですわよ」
「はは、そうですね」
 一息ついて安堵した和意は鈴と話をしている。その空気は、先程までとはうって変わって軽い。そして、サウスウィンドは沙槻らが介抱していた。
「……命に別状はないみたいだな。少しの間、安静にしておいた方が良いだろうが」
「ありがと……。癒しの歌声も使えないから、きつかったわ……」
 それだけ言うと、サウスウィンドは目を閉じる。傷を負った体を休める為に。

 一方、智美、聖歌、ユフィラスの三人の戦いはほぼ一方的だった。三人とももう一方と同様に後退しながらの戦いではあったが、ペンキのおかげで敵の位置が分かり易くなっているので接近戦もある程度やり易い。
「聖歌さん、瓦礫がありますので気を付けてください!」
「おう!」
 ユフィラスは進行方向にある障害物を探し、それを二人に伝える。これにより、二人は戦闘に集中する事が出来た。
 そして、智美は真獣刃斬を放ち、聖歌は雪月華で幾度となく斬りつける。それでもゼラチナスキューブの動きは鈍らないが、ダメージは確実に与えられている筈だ。
「それにしても、タフな奴だぜ」
「改造されたサーバントだからな」
 聖歌も智美も敵のタフさに少々辟易してきてはいるが、攻撃の手は休めない。後どの程度かは分からずとも、倒せないと言う事などないのだから。
 やがて、もう何度目か分からないほどの攻撃の後、一瞬敵の動きが鈍った様に感じた。
「智!」
「ああ、後少しの様だ。決めるぞ!」
 それを見逃さずに察知した二人は一気に勝負に出る。智美は残っていた最後の魔力を使って真燕貫閃を発動し、聖歌は雪月華を大きく振りかぶる。
 DFによって威力を高められた突きが入るのと、全力で雪月華が叩き付けられたのは、ほぼ同時。それらを受けたゼラチナスキューブは不意に動きを止め、やがて崩れ落ちていった。
「思っていたより苦戦はしなかったな」
「きっと、作戦が上手く嵌ったんですよ」
 ユフィラスが二人を労う。地下街の中は未だ暗いが、この中に存在していたサーバントは、確かに排除されたのだ。

●静寂
 地下街は、先程までの喧騒が嘘であるかのように静まり返っている。魔皇達はそれぞれがゼラチナスキューブを撃破した後に集まり、お互い撃破した事を確認していた。
 そんな最中、日和は先の戦闘があった場所の方に少しだけ振り向き、肩を落とす様な仕草を見せる。
(あれが神魔大戦の置き土産だなんて、情けない)
 その想いが言葉として紡がれる事はなく、彼女の胸の中へとしまわれた。
 やがて、確認も済み魔皇達はそれぞれの帰路へつき、地下街はただ静寂のみが支配する世界へと戻っていく。

 残る改造サーバントの数は、まだ、多い。