■【Creature Tamer】サーバント攻撃■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 黒風
オープニング
「まったく、輸送の手間を変に省こうとするからこんな事になるんじゃないの……」
 幾重にもカモフラージュされた隠れ家の中で、豊島・香織が状況を確認しつつ、呆れたように零す。幾度かに分けて輸送すれば発見される確率も低く、また万が一発見されてもリスクが少なくて済んだだろうに。
「済んだ事を言ってもしょうがないけど……問題はこれからよね」
 香織は前回の輸送失敗の後に再度の輸送を要請したが、テンプルム側は魔属の攻撃でなかなか輸送出来る状態にならないとしている。
「そんな状況でも任務は続行しろとか言ってくるんだもんね……。本当、うちの大天使様は何考えてるのかしら」
 それはともかく、この場所も既にパトモス側に割れている可能性は高いと考え、香織は残された戦力を確認する。
 サーバントが二十体前後、パートナーであるファンタズマ、そして自分。
「何時攻めてきてもおかしくないわ……。それに備えておかないと」
 一通り確認すると、香織はファンタズマが居る奥の方へと歩いていった。

「グレゴール、豊島・香織の潜伏先が判明しました。今回はここに攻撃を仕掛けていただきます」
 サーチャーのミスリは、集まった魔皇達への挨拶もそこそこに依頼の話へと入る。
「相手は攻め込むには戦力が足りないのか、ここ数ヶ月の間まるで動きを見せていません。輸送を阻止したのが効いているようですね。攻めるのならば、今でしょう」
 とは言うものの、まだ敵戦力はそれなりに残っているものと思われる。そこで、ミスリはまず敵戦力の減衰を目的とした依頼を出した。
「まず、今回は主にサーバントを撃破していただき、敵戦力の減衰を図ります。そして、敵戦力が充分に落ちたら、決戦です」
 相手は戦力の補充が難しいが、こちらは少し期間を空ければ回復する。それを利用するのだ。
 ただ、注意点がいくつか、とミスリが付け加える。
「まず、以前戦った時とは状況が違いますので、豊島・香織が最初から戦闘に加わってくる可能性は充分にあります。また、ファンタズマが居る可能性もあり、相手も襲撃を警戒してトラップを仕掛けているかもしれません」
 ファンタズマはグレゴールほどではないにせよ、それなりの強さでしょう。攻め入る立場とは言っても、決して有利とは言えないことを頭に置いておいてください、と告げ、ミスリは頭を下げた。
「それでは、よろしくお願いします」
シナリオ傾向 戦闘 サーバント攻撃
参加PC 彩門・和意
礼野・智美
月島・日和
月村・心
ミティ・グリン
東雲・風伯
クロウリー・クズノハ
【Creature Tamer】サーバント攻撃
●侵入
 時刻は草木も眠る頃、魔皇達は豊島・香織が潜伏する施設の入り口の前に集まっていた。
「入り口はここだけみたいですね」
 他に出入り口がないか調べていた月島・日和(w3c348maoh)が皆に話す。周囲には他に出入り出来る様な場所は発見出来なかった。
「こちらも、大した情報は得られませんでしたわ」
 祖霊招来を試していた鈴(w3b332ouma)だが、こちらも芳しくはない。祖霊は「強大な力を持つ神の者とその僕が近くに居る」としか教えてはくれなかった。
「大物が大入り……御師様!! オナカイタイ、な?」
「……」
「嘘ですって、真顔で観ないで下さいよ。照れます」
 その更に後ろでは、朝霧(w3k525ouma)と東雲・風伯(w3k525maoh)が何やらやり取りをしているが……これは置いておこう。
 事前の調査がほぼ済んだ結果、目の前の扉から入ってみるしかないと言う結論となった。
「よし、じゃあ行こうか」
 そう言って、礼野・智美(w3b872maoh)が入り口の扉に手をかける。彼女を先頭として、魔皇達は中へと入っていった。

 内部には、通路が続いていた。通路は並んで歩くには三人程度が限度で、少しずつ下へ向かっている。
「そこにトラップが一つありますよ」
「ああ、済まない。……しかし、これで一体何個目だ?」
 ニードルアンテナの効果で目ざとく罠を発見する彩門・和意(w3b332maoh)が警告し、智美がそれを避けるか解除して皆がそれに続くと言うやり方で先へと進んでいた。しかし、トラップ自体は簡素で対処も容易い物が多い分、張り巡らせていると言わんばかりの数が仕掛けられており、少々辟易してきた。
(「…機械的な物は、ありませんね……」)
 物によっては罠を取り込もうかと考えていたマイ(w3g263ouma)も、取り込もうと思っていた類の罠が見受けられない事を確認し、後ろに控えている。

 やがて、魔皇達が曲がり角を曲がると、一つの扉が見えた。その扉の前には一体のキメイラが控えており、魔皇達を確認するや否や咆哮をあげ、火を吐いてくる。逃げ場のない狭い道で吐かれた炎は前に居た数人を焼いた。
「門番って訳か!」
「この先が本拠地の可能性が高そうだな!」
 智美と月村・心(w3d123maoh)は炎に身を焼かれながらも慌てる事なく、それぞれの剣を構えてキメイラへと斬りかかる。更には後方からもクロウリー・クズノハ(w3l327maoh)が獣刃斬で援護を入れ、キメイラはあっけなく倒された。
「よし、行こうか」
 キメイラを倒した事を確認した智美は、その先にある扉に手をかけ、ゆっくりと開いた。

●気付かれた攻撃
 扉が開かれたその瞬間、魔皇達目掛けて多数のブレス攻撃が撃ち込まれた。
「が、う……」
「智美!」
 最前列に居た為に集中的に攻撃を受けた智美が膝をつき、ユフィラス(w3b872ouma)が智美の元へと駆け寄る。智美はどうにかまだ戦える状態ではあったが、いきなり深手を負ってしまった。
「ようこそ、魔属の皆さん。歓迎するわ」
 そこへ奥から現れたのは、グレゴール、豊島・香織。すぐ後ろには彼女のファンタズマも控えている。
「気付かれていた、と言う訳か」
「そう言う事。門番のおかげでね」
 クロウリーの言葉に香織が応える。彼女らは、門番の咆哮によって襲撃を感知し、僅かな間に迎撃耐性を整えていたのだ。どちらが張ったのかまでは分からないが、光翼陣系のSFも張られているらしく、魔皇達は体が重く感じる。
 それでも、と言わんばかりに魔皇達は素早く次の行動へと移った。悠宇(w3c348ouma)やノルン(w3d123ouma)、ユフィラスは即座に重力の檻でそれぞれ一体ずつ敵の動きを止め、カレン(w3l327ouma)は忍び寄る闇で牽制する。鈴は和意へと祖霊の衣を掛け、他の者達はそれぞれの獲物を携えた。
「HAHA、始めようか!」
 風伯の放った真撃破弾が引き金となり、本格的な戦闘へと突入した。

●短期決戦
 魔皇達は、砲撃を行う者と接近して戦う者とに綺麗に分かれる形となる。
 日和は風伯と同様に真撃破弾を放つが、こちらはサーバントの足元を狙い、何体かのサーバントを上へと弾き飛ばす。
「狙い撃ちですよ〜」
「撃ちまくりです」
「…好機、ですね」
 そこへ飛び交うのは、ノルンや朝霧の魔獣殻の砲撃やマイの銃撃。聖なる力場の影響によって当たり辛くなってはいるが、当たらずとも牽制にはなる。その隙に接近戦を仕掛けられれば良いのだ。
「HAHA、やはり祭りの開始は派手に行かないとな」
 更には、風伯は暴君の名が冠された散弾銃を放って更なる弾幕を形成し、そう容易くは抜かせぬ状況を作り上げる。
 その一方で、彼らより更に後方の鈴が魍魎の矢でファンタズマを狙い撃つが、こちらは不可視の障壁によって遮られた。
「恐らくは、聖障壁の類……。用心深いですわね」
 SFの種類については目星が付くが、どちらが使ったかまでは判別する事が出来ない。それでも、と鈴はすぐに二発目を使うつもりで身構えた。

 接近戦組は、後方からの弾幕を援護としてサーバントへと斬りかかっていく。智美と心はそれぞれの翼をはためかせ、一直線に突き進んだ。
「叩き落させてもらうぞ!」
 智美の真シルバーエッジが一体のグリフォンの翼を薙ぐ。落とすまでには至らなかったが、シルバーエッジに付与していた真魔炎剣によりSFが解けた事もあり、グリフォンに隙が生じた。
「害獣駆除に参りました、ってな」
 そこへ、グリフォンの上方へと回り込んだ心が真フェニックスブレードを突き立てる。串刺しにされたグリフォンは力を失い、そのまま落ちていく。
「サーバント数匹でも街を襲う事は出来るだろうし、飛行ユニットだけで一撃離脱とかされると大変だしね。まずは、出来る限り足の速い敵から減らさないと……」
 ミティ・グリン(w3g263maoh)もまた翼を使い戦場を駆け巡っているが、こちらは低空飛行だ。真蛇縛呪で地面へと落としたウイングドラゴンに真衝雷符を貼り付け、そのままの勢いで離脱していく。
 符の雷撃を受けたウイングドラゴンは動かぬ体で必死にもがくが、やがて後衛からの砲撃を受け、息絶えた。

 無論、サーバントとて無抵抗ではない。牙や爪、ブレスで仕掛けてくるが、魔皇達はそれを避け、防ぎ、耐え凌ぐ事で攻撃を途絶えさせない。
 また、後衛へと攻撃しようとしていた何体かのサーバントは、クロウリーとカレンが押し止めている。
「ぬおりゃあああ!」
「クロウ様、後ろはお任せくださいませ」
 戦意が高揚しているクロウリーはジャンクブレイドを振り回してスモールヒドラの岩を削り取ると言うよりは叩き砕き、カレンがそれを援護する。即座に倒す事は叶わないが、確実にダメージを蓄積させていく。

 サーバントとの戦いは優勢に運び、このまま押し切れるか、と思った魔皇達であったが、終わりは唐突に訪れた。一人別方向へと攻撃を仕掛けていた和意が弾き飛ばされ、後衛の者達のすぐ傍を通って壁へと叩きつけられる。突然の出来事に、後衛の動きが止まった。
「和意様!?」
「一応大丈夫ですよ、鈴さん。ですが、足止めすらままならないとは……」
 鈴はすぐさま和意の元へと駆け寄り、和意の怪我を確認する。和意は普通に返答が出来、戦闘不能とまではいっていないが、ダメージはかなり酷い。
 皆が和意の居た方向を見やると、そこには眩いまでの光を放ち鞭を持つ香織と、彼女のファンタズマが落ち着いた、余裕とも取れる表情を浮かべているのが見て取れた。

●撤退
 和意は香織の足止めをしようとしていた。聖抗障壁が鈴の魍魎の矢で破壊され、障害らしい障害がなくなった和意は一気に肉薄し、ショットオブイリミネートを撃ち放つ。しかし、それらの弾丸は退魔聖空壁で守られた香織に傷一つ付ける事も叶わず、またファンタズマも香織に庇われ銃弾が届かなかったので、全くの無傷だ。
 そして、香織は反撃と言わんばかりに鞭を振るう。轟閃神輝掌により大幅に強化されたその一撃は祖霊の衣を易々と打ち砕き、その上で和意に深い傷を負わせた。更に立て続けにファンタズマが放った烈光破弾により、和意は吹き飛ばされ、また一時的ながら閃光により視力も奪われた。
「相変わらず、ナイスなタイミングよ、シズク」
「あなたのサポートが、わたしの役目ですから」
 香織はファンタズマの方へと向き直って話しかけ、シズクと呼ばれたファンタズマは表情を変える事なく、淡々と答える。そして、香織は再び魔皇達の方へと向き直り、手をかざした。
「やべぇ!」
「いけない……」
 それが何を意味するかに気付いた心と日和が声を上げ、皆に警告する。
「これで!」
「防御なのですよ〜」
 それを聞いた悠宇とノルンは即座に凝縮する闇を生み出し、他の者達もまた各々身構える。

 次の瞬間、光が空間を包み込んだ。

「ぐああ!」
「あう!」
 香織の放った閃光烈破弾は黒い靄をまるで何も無いかのように貫き、その場に居た全ての魔属を等しく撃ち抜く。ダメージを負っていた和意と智美、そして魍魎の矢により消耗していた鈴が倒れ、多くはダメージには耐えられても閃光で目をやられ、戦闘の継続が困難となった。運良く無効化する事が出来たのは、ノルン、ミティ、風伯の三人のみだ。
「間に合わなかったかぁ……」
 殲騎を盾代わりに使おうとしていたミティだが、殲騎の構築には少々時間が掛かる。閃光烈破弾はそれより早くに撃ち出されたので、盾として使用する事は出来なかった。
 残りは三人。既に撤退を考えるには充分な状態であったが、風伯はそれでもまだ撤退を考えていなかった。
「HAHA、やってくれる」
 風伯は、続けざまにまだSFを行使しようとする香織へと、空ノ欠片の急加速を以って一直線に突き進む。彼の持つ暴君の刃には真魔炎剣が付与されており、当たれば香織に掛かっているSFを消す事が出来る。高速で繰り出す風伯の一撃。しかしそれを、香織は難なくかわした。
「速くても、向かってくる事が分かってれば、ね」
「な……」
 一瞬驚愕で目が見開かれるが、それで諦める彼ではない。頭の中では冷静に計算を続け、再度の攻撃を仕掛ける為に一度距離を取る。
 その時に、ミティとノルがは仕掛けた。ノルンは黒き旋風を放ち、ミティは先程同様、通り抜けざまに衝雷符を貼り付けていく。どちらも実質的な効果こそ望めなかったものの、香織の気を一瞬だけ引いた。その隙に、風伯が再び突撃する。
 一瞬の交錯。その後に、風伯はそのままの勢いで投げ出され、地面を何度も弾け飛び、壁に当たってようやく止まった。
「な、ぜ……」
 その一言だけ発し、風伯は気を失う。彼の持つ暴君からは魔炎が消え失せていた。
「い、今のは一体〜」
「多分、予見撃系のSFだと思う」
「ご名答、兆常予見撃よ」
 先程の出来事を理解しようとするノルンとミティに、香織は自ら明かす。シズクの常衝閃によって真魔炎剣を消し去り、香織が轟閃神輝掌と兆常予見撃の合わせ技で迎え撃ったと言うのだ。絶大な防御力を誇る黒金夜叉を持っていなければ、風伯は即死していただろう。
「こうなっちゃうと、まず無理かな……だけど!」
 この状況下にあっても、ミティはせめて最後に一撃をとばかりに、香織へと向かう。
「あら、まだ来るのね……」
 そう言い身構える香織を見て、ミティは急制動をかけ、逆に後退しつつ真撃破弾を撃ち放った。
「反応を予測して裏をかくの、は!?」
「残念」
 一瞬得意気な表情をしたミティだが、その表情はすぐに驚愕へと塗り替えられる。香織は真撃破弾をものともせずに突っ込んできて、彼女に肉薄していた。その速度は、テラーウィングの速度を大きく超えている。
 肉薄した香織は鞭の一撃をミティへと見舞う。轟閃神輝掌が未だ残るその一撃を受け、ミティもまた壁へと叩きつけられた。戦闘の継続は辛うじて可能ではあるが、それはあまりにも危険だ。
「わ、私一人になっちゃいましたよ〜」
「…これまで、ですね」
 ノルンの声を聞いて状況を察したマイが、撤退を促す。それに異を唱える者は居らず、魔皇達は目が見えない中必死で動けぬ者を担ぎ、撤退していく。香織やサーバントがそれを追ってくる事はなかった。

●苦い思い
「これでは、再攻撃は無理ですね……」
 意識を取り戻した和意は、考えていた再攻撃を諦めた。視力が回復したので戦闘可能な人数こそ回復してはいるものの、閃光烈破弾のダメージは大きく、今行けば今度こそ命の保障はない。
「くそ……」
「攻撃の機会はまたある筈です。その時に……」
 悔しがる智美にユフィラスが話しかける。悔しがっているのは彼女だけではないが、智美が一番悔しがっているように見えた。
(「失敗、してしまいましたね……」)
 闇夜の空を見上げ、日和が漠然と思う。倒せたサーバントの数は三体程度であり、目標には届いていない。悠宇はそんな日和の心境を察してか、ただ静かに隣に座っていた。

 かくして、魔皇達は帰還する。敗北という、苦い記憶を残して……。