■逃走犯捕縛作戦■
商品名 アクスディアEX・セイクリッドカウボーイ クリエーター名 黒風
オープニング
 きっかけは酔っ払った上での喧嘩だった。しかし、酔っ払ってしまっていた『彼』は歯止めが利かなかった。そして、やりすぎてしまった。
 『彼』は自分がした事に気付き怖くなり、逃げた。


 今回の仕事は、暴れ回った末に逃走した魔皇を逮捕する事。
 容疑者の名前は樋沼 康義。20歳前後で身長は170cmほど、やや色黒で身体つきはがっしりしている。
 容疑者はビルシャスの居酒屋で酒を飲んだ末に他の客と喧嘩をして、結果としてその相手に重傷を負わせ逃走した。その際、店をメチャクチャにしてもいる。
 居場所だが、現在はデモンズゲートに隠れている事が確認されている。彼の逢魔もデモンズゲートに居り、合流すると恐らく扇動し、逃がそうとするだろう。まだ、お互いに居場所が分かっていない様なので多少時間に余裕はあるものの、そうなる前に容疑者を逮捕してもらいたい。


 デモンズゲートの路地裏の一角に『彼』‥‥樋沼 康義は隠れ、悩んでいた。
「どうする‥‥? いや、でも‥‥」
 答えは、まだ出ない。樋沼は、買ってきた酒を一口飲み、気分を紛らわせた。
シナリオ傾向 捜査 捕縛 戦闘の可能性あり
参加PC 月島・日和
月村・心
桜庭・勇奈
星崎・研
逃走犯捕縛作戦
●それぞれの捜索
「いらっしゃいませ」
 店に入ると同時にかけられる声。月島・日和(w3c348maoh)はデモンズゲート内のバーへと来ていた。樋沼が出入りするのではないかと踏んでの張り込みである。
「アルコール抜きでお願いします」
「かしこまりました」
 注文しつつ席に着く日和。革ジャケットを着てにパンツ、ブーツを履き、髪を帽子の中に入れてサングラスまでかけると徹底的な変装を行っている為、捜査を行っていると気づく者は居ないだろう。
「お待たせいたしました」
 日和の前に先程注文した飲み物が置かれる。後は、容疑者が現れるのを待つのみだ。
 一方、日和の逢魔である悠宇(w3c348ouma)は店の外に居た。彼は身を隠しつつ、周辺の様子を窺っている。
「さて、果たして来るかな‥‥?」
 悠宇は人の流れを見ながら、呟く。

「この男を見た事ないか?」
 通りすがりの逢魔に樋沼の顔写真を見せつつ、月村・心(w3d123maoh)が訪ねる。
「うーん‥‥ごめんなさい、見てないわ」
「そうか、悪かったな」
 逢魔に礼を述べつつ、心は愛車のV−MAXに跨り、次のポイントへと向かう。
「情報屋は役に立たなかったしなぁ‥‥」
 心は情報屋にも当たってみたのだが、事件の規模が小さい為、これと言った情報は得られなかったのだ。
 まあいいさ、と思いつつ彼はバイクを加速させる。
「逃げられると厄介な事になるかもしれんからな。捕まえてくることが第一だが、必要とあれば‥‥それ相応の処理をさせてもらうぜ」

 建物の隙間を縫い、烏‥‥いや、烏型の魔獣殻が飛び、一鳴きした後に主である星崎・研(w3l090maoh)の肩へと止まる。研は魔獣殻のナハトクレーエも捜索を手伝わせているのだが、どうやらまだ見付かっていない様だ。
 研は裏通りを中心に捜索しているのだが、手掛かりすら掴めていない。事件を知った時に一緒に居た者達にも協力してもらっているのだが、そちらもまだ見付かっていない様だ。
「手掛かり無し‥‥か。次の所を探しましょうかね‥‥」
 そう言い、別の場所に向かって歩き出す研。しかし、微妙に歩きにくそうである。その理由はと言うと。
「‥‥頼むから、捜査の時は離れててくれないかな」
「いやでーす」
 逢魔の貴沙羅(w3l090ouma)が研にぴったりとくっ付いたままなのである。これでは歩きにくくて当然だろう。
 一行に離れようとしない貴沙羅に内心でため息をつきつつ、研は改めて次の場所へと向かっていった。

●樋沼の逢魔
 桜庭・勇奈(w3i287maoh)とハリエット(w3i287ouma)は樋沼の逢魔を探していた。同じシャンブロウと言う事でハリエットがシャンブロウのたまり場に行って情報を集めてみたのだが、成果は芳しくない。
「そもそも、情報少なすぎだよなー。種族しか分かってないなんてさ」
「それでも、探さねばなりません。此処に居るのは間違いないのですから」
 ハリエットの言葉に分かってるよ、と返す勇奈。今は路地裏を探しているのだが、こちらも芳しくはない様だ。あまりにも手掛かりが少ない為、ついイライラが募ってしまう。
 路地裏での捜索でも収穫が無かったので、二人はひとまず人通りの多い場所へ出て、次の捜索地点を探す。
「あの‥‥ちょっといいでしょうか?」
 その時、後ろから声を掛けられ、振り返る。そこには、一人の女性のフェアリーテイルが居た。
「何?」
 勇奈が聞き返すと、そのフェアリーテイルは遠慮気味に話す。
「樋沼さんの逢魔を探してる方々‥‥ですよね?」
「そうだけど‥‥」
 フェアリーテイルは一つ一つ言葉をゆっくりと吐き出す。返答する勇奈の胸の中では、期待が膨らんでいた。
「それでしたら、多分、私と一緒に住んでる子の事じゃないかと‥‥」
「本当!? お願い、すぐに会わせてよ!」
「え、ええ、いいですけど‥‥」
 その言葉を聞き、思わずフェアリーテイルの手を取り、顔と顔がぶつかりそうになる位に近付く勇奈。フェアリーテイルの方はと言うと、勇奈の行動に目を丸くして驚いていた。
「でも、誰に聞いたのですか?」
 そこへ口を挟んだのはハリエットだ。彼女の疑問も当然であろう。
「たまたま、シャンブロウの方達が喋っていたのを聞いたんです。それで、もしかしたらと思って‥‥」
 フェアリーテイルの返答になるほどと頷くハリエット。ともあれ、こうなってくると後は時間が惜しい。
「それじゃ、案内をお願い出来るかしら」
「はい」
 そうして、彼らは樋沼の逢魔と会うべく歩き出した。

 暫くの後。二人は無事に樋沼の逢魔と出会えた、のだが。
「‥‥まだ、子供なんですね」
「そうなんです」
 ハリエットの言葉に先程のフェアリーテイルが答える。ハリエットの視線の先に居るのは、まだ小学校低学年程度の年齢であろう女の子のシャンブロウ、つまりは樋沼の逢魔である。
 聞く所によると、樋沼には逢魔も一緒に食べていけるだけの経済力が無かったので、樋沼の逢魔が慕っている彼女が彼女の魔皇と一緒に世話をしているらしい。尚、魔皇の方は現在は不在の様である。
「ねーねー、お姉ちゃん。この人達、だーれ?」
 そして、樋沼の逢魔はと言うと、突然の来訪者である勇奈とハリエットについてをフェアリーテイルに聞いていた。
 それには勇奈が答え、続けて協力してもらえないかを頼む事となった。
「まず、君のお名前を教えてもらえないかな?」
「お名前は綾乃だよ」
「えっと、それじゃ、綾乃ちゃん。実は、君の魔皇様が悪い事をしちゃったんだ。無理矢理捕まえるのは心苦しいから、君からも大人しく捕まってって言ってもらえないかな?」
「魔皇様が!? ‥‥もう、会えなくなっちゃうの?」
 勇奈の言葉に涙ぐむ綾乃。これに対し、勇奈はそんな事ないよと返す。
「確かにちょっとの間は会えなくなっちゃうかもしれないけど、君に協力してもらえたらまたすぐに会える様になるよ」
「‥‥本当?」
「本当さ。だから、お願い出来ないかな?」
 本格的に泣かれてしまっては話を聞いてもらう事も出来なくなる為、勇奈は身長に言葉を選ぶ。それに対する綾乃の答えは。
「‥‥うん、分かった」
 了承の返事。勇奈がほっとした所にハリエットが話しかけてくる。
「どうやら、樋沼はマメにこの子に会いに来てたみたいです」
 本来は優しい人なのかもしれませんね、と付け加えると、その場に一時の沈黙が訪れた。

●発見
 日和がもはや何件目かも分からないバーで張り込みをしていた時、ようやく樋沼を発見した。正確には、日和がではなく、外で見張っていた悠宇が発見したのだが。無線から樋沼は店の前まで来たのだが、付近をうろうろするだけで店に入る気配が無かったと言う悠宇の声が聞こえてくる。
 日和は連絡を受けるとすぐに代金を払って店から出て悠宇と合流し、樋沼の尾行を開始する。人気の無い裏通りに入った所で接触するつもりなのだ。

 心も樋沼へと接近していた。地道に聞き込みを続けた結果、ようやく目撃情報を得られたのである。
目撃があった地点へと、心はバイクを走らせる。
「さて、それじゃ、捕まえるとすっか!」
 スピードを上げても咎められはしない。心はバイクを更に加速させていき、目標地点へと向かって行った。

 研達は人数にも頼って虱潰しに探した結果、まだ調べていない場所はかなり少なくなっていた。未だに研にくっ付いている貴沙羅を尻目に、研は次に調べる場所を考えている。
「今居る場所から近い場所と言えば‥‥あの辺りとか‥‥」
 彼らもまた少しずつではあるが、樋沼へと近付いていっている。

●接触、そして
 エンジンの音が止まる。心は目撃情報があった裏通りへと到着したので、バイクを降りてそこから先へは歩いていく事とした。
 少々歩いていると、今しがた同じ裏通りへと入ってきた男の姿が目に入る。間違いないな、と確認してから心はその男に接触した。
「樋沼 康義だな」
「‥‥そうです」
 心の質問に樋沼は落ち着いて答えた。ある程度は覚悟していたのだろう。
「おとなしく自分の罪を認めて連行されるなら何もしない。ただし‥‥逃げるために無用な破壊や殺生をするってんだったら‥‥俺は容赦はしねぇ! 地獄の果てまでテメェを追いかけるからな、覚悟しやがれ!」
 心が警告の意も込めて発する言葉を樋沼は黙って聞いている。そこへ新たに接触してきたのは日和達である。
「この世に生きている限り、思い通りにならない事や、飲んで憂さを晴らしたくなるような事もあると思うけれど‥‥自分が多少なりとも力を持っている事を決して忘れてはいけないのだと思うんです。自分がどんな時、どんな場所でなら力を振るってもいいのか‥‥考えて自制が出来なければ、他者に不要の不安を与えたりする事を忘れてはいけない。そうである為にも‥‥あなたには罪を償っていただかなければならないんです、樋沼さん」
 心の様子を見て確認は不要だと判断したのだろう、日和はすぐに説得に入る。一方で、悠宇は日和の後方で樋沼が逃げ出さない様に警戒している。
 沈黙が辺りを支配する。樋沼に動き出す様子は見られず、やがて少しずつ口を開き始めた。
「‥‥この数日、俺は悩み続けたよ‥‥」
 どうすれば良いかなんてすぐに分かったのにな、と言った所で、不意に背後から声が掛けられる。
「魔皇様!」
「‥‥綾乃?」
 樋沼の逢魔である綾乃である。傍らには、勇奈とハリエットの姿もある。
 綾乃は、とてとてと樋沼に近づき、半泣きになりながらも訴える。
「魔皇様は悪い事をしちゃったんでしょ? だったら、逃げないでよ! 会えなくなっちゃうのは嫌だよ‥‥」
 それだけ言うと、綾乃は遂に泣き出してしまった。それを見て、樋沼は自嘲的に笑う。
「ああ、俺が馬鹿だったよ‥‥。待っててくれ。俺はちゃんと罪を償ってくるから‥‥」
 樋沼はそれだけ言うと、連行されていった‥‥のだが。
「やーっと見つけたよ! 大人しくお縄に‥‥って、あれ?」
「もう‥‥終わっちゃってるね‥‥」
 大声と、それに相反する様な小声が発せられる。遅れてやって来た、貴沙羅と研であった。
 場の空気が一瞬硬直する。‥‥が、やがて何事も無かったかのように再び動き出した。
「せめて、何かリアクション返してよ〜!」
 恥ずかしさのあまりか、貴沙羅は研の陰に隠れて蹲ってしまった。そんな彼女を尻目に、樋沼は連絡を受けやってきたパトカーに乗せられ、連れて行かれる。綾乃は、その様子をずっと見守っていた。

 余談であるが、この後立ち直った貴沙羅が研の晩餐会に皆を呼び、何人かがその招待に応じたらしい。その際、貴沙羅は研に甘えた挙句、寝てしまい彼を困らせたとか何とか‥‥。