■【神魔狂奏曲・外伝】フィギュアになりたくない2■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 とりる
オープニング
 旧仙台市内某所。築20年のくたびれたアパート。
「ぐへへへへへへ…」
 グレゴール・千葉は狭いワンルームの自室で専用ショーケースに飾られた大量のフィギュアを眺めて下品な笑みを浮かべていた。
「ついに…ついに…僕のコレクションが完成したんデブ!!」
 思わず小躍りしてしまう千葉。だらしない腹肉が揺れる。
 ショーケースのフィギュアは巫女さん、婦警さん、ナース、シスター、獣耳っ娘、悪魔っ娘、メガネっ娘…そしてメイドさん。などなど多種多様の萌え要素を網羅していた。
「げへへへ…」
 千葉はショーケースの中からメイドさんのフィギュアを取り出す。
「ミカちゃん…やっと僕のものに…ぐふふ、君も嬉しいだろう…」
 はぁはぁしながらメイドさんのフィギュアを撫で回す。
「(いや…やめて…触らないで…!)」
 フィギュアを下向きにしてスカートの中のチェックも忘れない。
「ミカちゃん…ミカちゃん……んっ!?」
 千葉は背後に気配を感じて振り返る。
 そこには豊満な肉体をしたボンテージ姿の女性と薄いヴェールを纏っただけの金髪の美少女の姿。
「小寺!何しに来たんデブ!」
 楽しみを邪魔された千葉は怒りをあらわにして叫ぶ。
「例のデータを受け取りにきたのよ。しっかし、あんたも好きねえ。そんなお人形さん遊びなんかよりこっちのほうが断然いいのに」
 グレゴール・小寺はファンタズマ・グローリアのあごを優しく掴んで自分のほうを向かせると唇を奪った。
「んっ、んんんん〜!」
 最初は少し抵抗したが、グローリアはすぐに恍惚の表情を浮かべる。
「……」
 その光景に千葉は思わず見とれてしまう。
「…ううううううるさいデブ!三次女は黙っていろデブ!データならそこの机の上のディスクに入っているデブ!それを持ってさっさと出て行けデブ!」
「つれないわねえ。まあいいわ、それじゃ」
 ディスクを手に取ると小寺はグローリアを連れてさっさと部屋を出て行った。
 バタンと閉まるドア。
「……ぐへへ、ミカちゃん……」
 邪魔者が退散したのを確認すると、再びフィギュアを愛で始める千葉。
 そう、この部屋にある全てのフィギュアは生身の人間、もしくは逢魔が千葉の開発したオリジナルシャイニングフォース、人形聴言<フィギュアレイト>によってフィギュアに変えられてしまったものだった…。

 小寺はグローリアを連れてコツコツとブーツの音を鳴らしなら夜道を歩く。
「あいつはもう、ダメね…」

 ところは変わってデビルズネットワークタワー・アスカロト。
 いつものようにサーチャー・クラヴィーアが頭を下げる。
「GDHPの捜査によってグレゴール・千葉の潜伏先が判明しました。旧仙台市郊外にある古いアパートのようです。しかし、その周囲には強力なサーバントが配置されており、GDHPもうかつに出が出せない状況です」
 千葉はああ見えてもテロリストの幹部らしい。先日、軍からもたらされた情報によって判明した。オークの他にも自衛のためにサーバントを使役していたようだ。
「配置されているサーバントはラーミア、スキュラ、ヴァルキューレ、メドゥーサ。どれも強力です」
 全て女性型なのは千葉の趣味だろうか。
「魔皇様方はこれを倒し、メイドのミカさんや他の攫われた女性達を救出してください。恐らく千葉とも戦闘になるでしょう。どうか、お気をつけて」
シナリオ傾向 救出 生身戦闘 シリアス風味
参加PC ヒール・アンドン
チリュウ・ミカ
【神魔狂奏曲・外伝】フィギュアになりたくない2
●ある一つの結末
「あそこか…」
 物陰に隠れて様子を窺っていたチリュウ・ミカが小声で言う。
 視線の先にあるのはボロアパート。グレゴール・千葉の潜伏先だ。
 入り口付近では報告にあったラーミア、スキュラ、ヴァルキューレ、メデゥーサが警戒している。
「…よくもまあこれだけの数を…」
 ヒール・アンドンはいかにもうんざりといった顔だ。どれも強力なサーバントなので厄介極まりない。
 ちなみにヒールはネコ耳、ネコ尻尾、肉球グローブと肉球ブーツの完全ネコセットを装備。ついでに服も女物だ。これから戦闘に赴くとは思えない出で立ちである。
「ヒールさん…その格好…」
 逢魔・クリスクリスがじとーっとした視線を向ける。
「ち、違うんです!この格好は魔皇殻に合わせて仕方なく…!」
 あせあせしながら言い訳するヒール。しかし説得力は皆無。
「ちょっとヒール、あんまり大きな声を出さないでよ。気付かれちゃうよ」
「あ、ごめんなさい…」
 逢魔のヒカルに静止されてしまった。慌てて口を塞ぐヒール。
「神魔の最終決戦以来だな。真魔皇殻を装備するのも。…久々に、私は怒ったぞ。今回は全力で行く」
 チリュウのほうのミカは心の中で静かに怒りの炎を燃やしていた。メイドのミカを必ず助け出すという決意と共に。
「しかし…入り口は完全に固められていますね…強行突破は難しそうです…」
「確かに、突破できたとしても挟み撃ちにあっちゃうよ」
 ヒールの言葉にヒカルが付け加える。
「ちっ、用意周到な奴め…」
「ただのおデブさんじゃなかったんだねー…」
 舌打ちするチリュウのほうのミカとうーんと考え込むクリスクリス。
「では、打ち合わせ通りに」
「そうするしか無さそうだな、頼む」
「はい」
 頷くと、ヒールは真ワイズマンクロックを召喚。思考による操作ですすーっと地面スレスレを移動させ、サーバントの近くで起爆。ドーンという爆発音が上がる。それにサーバントは少なからずダメージを受け、怯んだ。
「今です!」
「おう!」
 続けてチリュウのほうのミカが真魔力弾を放った。黒色の魔弾がサーバントに吸い込まれてゆく。集中的に攻撃を受けたヴァルキューレは膝を突いた。
 その隙にヒールが突撃。真シルバーエッジで最も厄介と思われるメドゥーサを斬りつけ、ついでに真六方閃を発動。まともに喰らったメドゥーサは地に伏した。
「まず1匹!」
「続いていくよ!」
 ヒカルが逢魔能力の水晶の召喚を使用。両手を上空にかざしたと同時に、地面から黒水晶の棘が出現、サーバントの身体を貫く。先に大ダメージを受けていたヴァルキューレ、4体の中で一番耐久力の低いラーミアはそれがトドメとなったようで、ばたりと倒れた。
「すごいですねヒカル」
「えへへん。あたしだってやるときはやるんだよ♪」
 ヒールの言葉に得意げに答えるヒカル。
「これで終わりだ!」
 チリュウのほうのミカが真闇影圧を発動後、真ワイズマンクロックをぶつけてスキュラの息の根を止めた。この間、一分にも満たない。魔皇達の連携は見事だった。
「はあ…はあ…これで…全部…」
 さすがにDEXの連続使用は堪えたようで、チリュウのほうのミカは少し辛そうな表情を浮かべる。
「ミカ姉、大丈夫?」
 クリスクリスは心配そうにチリュウのほうのミカの顔を覗き込む。
「大丈夫だこれくらい。それよりアパートに突入…」
 そのとき――
「なにごとデブ…」
 グレゴール・千葉がのそりと姿を現した。特徴的なオタクファッションは健在だ。
「現れましたね…」
「自分から出てくるなんて、好都合だよ!」
「そうそう!」
 ヒール、ヒカル、クリスクリスが声をそろえる。
「はあ…はあ…ふう、お前…自分のしたこと、判ってるか?」
 息を整えつつチリュウのほうのミカはキッと千葉を睨みつける。
「またおばさんデブか…いい加減にして欲しいデブ」
 うんざりした様子の千葉。
「黙れ!ミカは返してもらうぞ!」
 チリュウのほうのミカは叫びつつブレイブハートを召喚した。
「うるさいデブねえ…ミカちゃんはもう僕のものなんデブよ。だから…さっさと消えるデブ!!」
 千葉はいきなりチリュウのほうのミカに向かって烈光破弾<スパーキングショット>を放った。
「…っ!?」
「あぶないっ!」
 クリスクリスが咄嗟に前に出て氷の壁を張り、烈光破弾を防ぐ。
「ふん、やるデブね。雪ん子ちゃん」
「そりゃどーも。でもあなたなんかに褒められても全然嬉しくないよっ!」
 クリスクリスは舌を出してあっかんべーをした。
「…見た目に侮っていましたけど今回は侮りませんよ…」
 ヒールは警戒しつつ真・萌える猫耳で衝撃波を放ち、千葉の衣服を破壊した。全裸になる千葉。
「ひ、ヒール…あんなのの服、破壊しないでよね!直視出来ないでしょ!?」
 両手で目を塞ぐヒカル。
「しまった…。男の服なんて破壊するものじゃないですね…狙いやすくはありますけど…」
 目を逸らしつつ汗を垂らすヒール。
「ふ、ははは…面白い魔皇殻デブね……」
 ゴゴゴゴゴと怒りのオーラを発する千葉。
「それならいいデブ!こちらも本気でいくデブ!」
 千葉は腕にカードリーダーのような物を取り付け、腰のベルトのカードホルダー(これらは神機武具だったため破壊を免れたようだ)からカードを二枚取り出し、スリットに連続で通す。
『聖甲冑<ホーリーキュイラス>』
『月光剣<ムーンライトソード>』
 発せられる無機質な合成音。すると…千葉の身体が発光する黄金の全身鎧に包まれ、手には同じく発光する長剣が出現した。
「なっ…!?」
 思わず驚きの声を上げる魔皇達。
「ふふ、これはかつて仙台のグレゴールが使用したシステムを僕なりに改良した物デブ。初めて使うがテストには丁度いいデブ。お前達は僕を怒らせた…覚悟しろデブ!!」
 そういうと千葉は襲い掛かってきた。
 次々と繰り出される斬撃。それをヒールは真シルバーエッジでなんとか受け続ける。
「ぐっ…!」
「あははははは…!!その程度デブか!ネコミミ魔皇さん!!」
「この野郎!」
 真魔力弾を放つチリュウのほうのミカ。
「そんなもの効かないデブ!」
 千葉は魔障聖壁<メガレジストフォース>を使って防いだ。これで6分間は千葉自身もシャイニングフォースを使用できなくなる代わりに全てのダークフォースを無効化されてしまう。
 尚も繰り出される斬撃の応酬。それを受け続けたヒールの真シルバーエッジは耐久力の限界を向かえ、ついには砕けてしまう。
「しまっ…!?」
 万事休すかと思われたが――
「そこまでね」
 千葉の背後で声。そして、電撃を帯びた鞭が振るわれる。
「があああああ!!!?」
 バリバリバリという音と共に千葉が膝を付く。
「こ、小寺…貴様…何故…?!」
 そこに佇むのはボンテージ姿の女性。グレゴール・小寺だ。
「これでお終いって言ったのよ…もう…いいの」
 小寺は動けない千葉からカードリーダーを取り外し、踏み砕く。
 それと同時に霧のように消滅してゆく鎧と剣。
「どういうことだ?お前達は仲間じゃないのか?」
 チリュウのほうのミカが問いただす。
「仲間…一応そうなのかもね。この男は、元々はこんなのじゃなかったのよ。優秀な研究者だった。こんなものに執着するようになったのは洗礼を受けてグレゴールになってから」
 小寺はチリュウのほうのミカにメイドのミカのフィギュアを手渡した。
「僕…は…」
 びくびくと痙攣しながら呟く千葉。
「この子も悲しがってる。いい加減、目を覚ましなさい」
 小寺のファンタズマ・グローリアが幼い少女を連れて現れた。
 少女の背中には白い翼が生えている。…ファンタズマだ。
「コル…ネット?!」
 驚きの表情を浮かべる千葉。
「この子は千葉のファンタズマ、コルネット。千葉がこんなだから長い事インファントテンプルムに軟禁されていたんだけどね…ほら」
 メイド服を来た小さな天使がもじもじしながら前に出てくる。
「千葉様…もうそのようなことはお止めください…。あの…やっぱりわたしでは…わたしではダメなんでしょうか!」
「………」
 少女の悲痛な願いに流石の千葉も声を失った。
「こんな小さな子が、あんたのために懇願しているのよ?何か言ったらどう?」
「コルネット…僕は…俺は…私は……間違っていたのか……」
「千葉様…!」
 メイド服の少女…コルネットは千葉に駆け寄り、コートを羽織らせた。
「ふっ…こっちは解決…ね」
 微かに笑みを浮かべる小寺。
「待て!そのまま逃げるつもりじゃないだろうな!」
 チリュウのほうのミカが大事そうにメイドのミカの人形を抱えて叫ぶ。
「ふふ、ただで見逃してもらおうってんじゃないわよ。はいこれ」
 小寺はディスクが納まったケースをヒールに差し出す。
「これは…?」
「軍に渡して。きっとこの戦いを終わらせる鍵になるはず」

 そして――
「それじゃあね、もう会うこともないだろうけど」
 ばいばいと小寺が手を振った。
「どこへ、いくんですか?」
 クリスクリスが尋ねた。それに対してコルネットに寄り添われた千葉が答える。
「どこか…人目の付かないところでひっそりと暮らすことにするよ。それから…」
「それから?」
「ミカちゃん…いや、メイドのミカさんに伝えておいて欲しい。本当にすまなかった、と」
 その千葉の顔は今までの下卑なものとは違う、爽やかな笑みだった。

 こうして、フィギュアにされた人々はすべて救出され、グレゴール・千葉の暴走によって引き起こされた一連の事件は解決したのだった。