■【神魔狂奏曲】傷跡■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 とりる
オープニング
 パトモス軍仙台基地・副司令室――
 高槻博士は膨大な量の書類に目を通しながら副官の報告に耳を傾けていた。
「ヴァルキリーナイツ第二小隊、目標の捕獲に成功しました」
「よくやったと伝えて」
「はっ。ですが重傷者一名、死者一名、被害は甚大です」
「そう…」
 高槻博士は冷たくそれだけ言った。
「本国に人員の補充の要請をして」
「既に行ったのですが…これ以上人員は回せないとのことで…」
「ちっ、あの業突く張りのジジイどもめ…国外に目を向ける前にまず国内の問題をどうにかしなさいよ…!」
 机をドンと叩く。書類が散らばった。
「…まあいいわ。あの子を使う。手続きをして頂戴」
「了解しました。新型サーバント出現地点の調査はどうされますか?」
「第三小隊は」
「人的被害は出なかったものの、機体の損傷が激しく、しばらくは…」
「……」
 高槻博士は顎に手を当てると数秒だけ考え込む。
「なら魔皇達にやらせて。すぐにデビルズネットワークに連絡を」

 所は変わって宮城県西大崎。突如として現れた異形の軍勢によって蹂躙され、廃墟と化した街…。
 グレゴール・川村は、そんな惨憺たる光景の町並みを事後調査がてら見物していた。
「ふむ…上々のようですね…」
 緒戦でゼカリア一個中隊を壊滅させたのだ。戦果は十分だと言って良い。
「しかし…」
 川村は瓦礫の街を歩く。
「愚かなものだ、人類とは。か弱すぎる。やはり我々神属に統治されるべき」
 ふと、大きなコンクリート片の下から人間の手が出ていたのが目に映ったが、川村は気にも留めなかった。
「ふふふっ、愚か…実に愚か!!」

 デビルズネットワークタワー・アスカロト――
 集まった魔皇達へ向けてサーチャーのクラヴィーアが説明を始める。
「パトモス軍から依頼が入りました。内容は先日の新型サーバントの出現地点と思われる宮城県西大崎・東大崎付近の調査です。まだサーバントが残っているかもしれませんので、くれぐれもお気をつけて。それではよろしくお願いします」
 そう言って、クラヴィーアは頭を下げた。
シナリオ傾向 調査 戦闘
参加PC 風祭・烈
【神魔狂奏曲】傷跡
●瓦礫の街
 修羅の魔皇、風祭・烈とセイレーンの逢魔、エメラルダは敵の新型サーバントの進攻ルート上に位置し蹂躙された東大崎の街を歩いていた。
 二人はこれまで神帝軍残党グループによって引き起こされたサーバントによる襲撃事件の場所に規則性が無いか調べ直し、予め調査地点を絞り込んで調査を続けていた…が。
「瓦礫ばかりで何も無いな」
「ええ、ここはただの進攻ルートだったみたいですわね」
 大して成果は得られなかった。しかし…この惨憺たる光景を見て烈は想う。
「酷いな、奴らは何も変わらなかったという事か。自らを神の使徒と妄信し、人を導く代わりに意に沿わぬ者を力で蹂躙し、目的のために血の代償を要求する」
 神帝軍の出現から始まったこの戦い。それによって数多の生命が失われた。
 烈は心の奥から湧き出てくる怒りの感情を抑え付けるかのように拳を握り締める。
「いいえ、烈。それは一部の者だけです。インファントテンプルムの声を聞き、魔属や人間との融和を実現させた神属も大勢居ります。今、事を起こしているのは旧体制の亡霊…時代の流れを認めることの出来ない、悲しい者達…。どうか、神属全てを恨まないで。もっと物事の全体を見てください」
 握り締められた烈の拳を白く滑らかな美しいエメラルダの両手が包む。
「…すまない。どうも俺はすぐに熱くなってしまうな」
「ふふ、それも烈の魅力でもありますけれど」
 微笑むエメラルダ。そして二人は次の目的地、西大崎を目指した。

●モールホール
 西大崎に到着した烈とエメラルダ。彼らはそこであるものを発見した。
 直径20メートルほどもある巨大な穴である。
「やはり、奴らは地中を通って移動していたか」
 これならば今までの神出鬼没さも納得がいく。
「入って…みますか?」
「もちろんだ。エメラルダ、ライトとロープは持っているか?」
「ええ、ございますわ。クラヴィーアさんからお借りしたサバイバルキットの中に入っていたはずです」
 二人は自分達の腰をロープで結び、ライトで照らして穴の中へ向かう。
 内部の斜面は緩やかだった。二足歩行の甲冑型に合わせての事だろう。
 ロープは必要なかったかもしれない。
 100メートルほど進むと…。
「行き止まり?」
「そのようですわね」
「さすがに、いきなり敵の本拠地にまで繋がっているということは無かったな」
 撤退する際に内側から塞いだのだろう。
 しかし、これで敵の移動方法が判明した。大きな収穫だ。
「巨大なモグラのようなサーバントでもいるのでしょうか」
「もしくはミミズとかかな」
「……はうっ!もう、やめてください、烈」
 巨大なミミズを想像したエメラルダの背筋に寒いものが走った。
「ははは。まあ、あり得ない話ではない。地上に出るぞ」
「はい」
 烈が先に出てエメラルダの手を引く。そのまま二人は調査を続行した。

●遭遇
 烈とエメラルダは市街を丹念に調べながら進んでゆく。
「東大崎よりも更に被害が大きいな…」
 ここは新型サーバントの出現地点である。
 進攻を始める前に制圧を行ったと考えられる。
ほとんどの建物が全壊、もしくは半壊していた。
復旧するまでにはかなりの時間を要するだろう。
 真っ先に迎撃に出て壊滅したゼカリア中隊の物と思われる残骸も確認できた。
 二人は、先へと足を進める。
 すると…
「エメラルダ、隠れろ!」
「っ!」
 烈が小声で言った。
 すぐさま瓦礫の陰に身を隠す。
 エメラルダが恐る恐る前方を覗いてみると…
「オーグラ、ですわね」
「ああ。たぶん強化型だな」
 数十体の強化型オーグラが闊歩していた。警戒でもしているのだろうか。
 そうなると…
「近くにグレゴールがいるかもしれないな」
「ええ、もう少し近づいてみましょう」
 二人は物陰に隠れながら見つからないようにして進んでいく。
「いた…!」
 バーコード頭にスーツ姿の男性の後ろ姿が見えた。
 周りにはウイバーン、サラマンダー、スモールヒドラを従えている。どれもエレメンタルビースト。強敵だ。
「うかつに手を出すと危険だな…」
 烈の額に一筋の汗が伝う。
 今回は二人だけの任務である。無茶は出来ない。
「ええ、少し様子を見たほうが良いですわ」
 退路を確認しつつエメラルダが言う。
 しばらくして…
「動きが無いな…」
 グレゴールと思しき男…外見からすると報告にあった川村という男だろう。
 辺りをぶらぶらと歩いているだけで特に何かをしている様子は無い。
「時間の無駄かもしれませんわね」
「ああ、長居は無用だ」
 二人がその場を離れようとしたその時。
「いい加減コソコソ隠れていないで出てきたらどうです!」
「!?」
「私が気付いていないとでも思いましたか?ふっ、舐められたものですね」
「ちぃっ!」
 烈はエメラルダの手を引いて走り出したが…
「逃がしません」
 あっという間にオーグラの集団に包囲されてしまった。
 視認していたよりも数が多かったようだ。
「ぐっ…エメラルダ、俺から離れるな」
「はいっ」
 川村のほうを睨みつけエメラルダを庇う烈。
「そんなに逃げようとしなくてもいいじゃないですか。ねえ、魔皇さん」
「……ここでなにをしていた?」
 川村の言葉を無視し烈が問う。
「なにをですって?ただの見物です」
「見物だと…?!」
「はい」
 川村は頷く。
「でもこの殺風景な街を見ているのもそろそろ飽きてきた頃なんですよねえ」
「この街をこんな風にしたのは貴様らだろう!」
 烈が怒りを込めて叫ぶ。
「おお、怖い怖い。…ま、そんなことはどうでもいい。というわけで暇ですし、少し遊びませんか?」
「なに?」
「お手合わせ願いたい、そう言ったんです。もちろん一対一ですよ。紳士的にね」
「信じられるか!」
「ふむ…ならばこうしましょう。あなたが私と戦うことに同意してくだされば、逢魔さんの安全は保障します。どうです?悪い条件ではないと思いますが」
「……」
 烈はエメラルダの顔をちらりと見る。
「烈!そんな言葉に騙されてはダメ!」
「……分かった、貴様と戦おう」
「ほう、物分りがいいですね」
「烈!」
「いいんだ。エメラルダ…お前さえ無事なら俺は…」
「それでは約束どおり」
 川村がパチンと指を鳴らすと、サーバントが包囲を解いてゆく。
「エメラルダ、お前は下がっていろ」
「でも…」
 烈は不安そうなエメラルダの頬に手を当てる。
「大丈夫だ。だから、下がっていてくれ」
「……分かりました」
 主の真剣な顔にエメラルダは頷いて後方に下がった。
「これで望み通りか」
 烈が川村を見据えて言う。
「ええ、ただし全力で闘っていただかないと困りますね。あっさり死んだらつまらない」
 黒ブチ眼鏡に手を当てて川村は嘲笑した。
「その心配は無用だ!!」
 烈は全ての魔皇殻を召喚。真アクセラレイトドリルドリルのブースターを最大に噴かして突撃する。
「ふっ。なんと直線的な攻撃。見切るのは容易い…が、聖抗障壁<メガホーリーフィールド>!」
 烈の突撃は見えない障壁によって阻まれた。
「ぐっ!!」
 烈は一旦下がり真ステイクランチャーを連続で撃ち込む。
 次々と打ち出される杭が段々と障壁にダメージを与え、ついには貫いた。
「ほほう、なかなかの攻撃力ですね。ではこちらからもいきますよ!」
 川村の拳がまばゆく発光する。閃神輝掌<スパーキングフィンガー>だ。
 次々と繰り出される打撃。烈はそれをドリルで受け続ける。
「はーはっはっはっ!どうしましたぁ!!」
「(このままでは…!)」
 烈は真音速剣を発動してドリルの乱舞で応戦した。
 ぶつかり合う拳とドリル。この時点では…互角。
「やりますねえ!!これならどうですかあ!!浄輝閃化<メガピュアリファイ>!!」
 川村は片手で打撃しつつもう片方の手から小さな光弾を飛ばした。烈はそれをモロに受けてしまう。
「ぐああっ!?…ううっ、だが!!」
 真音速剣を発動してから7・8・9・10秒。続いて真燕貫閃を発動。再度ブースターを付加して突撃をかける。
「喰らえぇぇぇぇぇっ!!!!」
 雄叫びと共に先ほどよりも数段威力の増したドリルの乱舞が川村を襲う。
 川村は光る拳で受け続けるが…じりじりと後退してゆく。
「…!?面白いじゃないですか!!これは使いたくなかったんですけどねえ!!兆予見撃<メガフォーリサイト>!!!!」
 川村の額に閃光が迸る。そして、両者は弾き飛ばされた。
 瓦礫を突き破り、辺りが煙に包まれる。

 ……

 ……

 煙が晴れると、立っていたのは川村だった。
「ぐっ…はあっ…」
 瓦礫に埋もれ、血を吐き出す烈。
「……」
 川村は無言で自分の頬に付いた傷を撫で、血をぺろりと舐める。
 一丁裏のスーツもボロボロだ。
「ふ、ふふ…ふはははははは!!!!」
「なにが…おかしい…」
「…私の予想以上でしたよ、魔皇」
 川村は不敵な笑みを浮かべる。
 そして、烈に向かってフラッシュメモリを投げてよこした。
「なんだ…これは…」
「うちの拠点の位置情報。その他諸々です。それをどう使うかはあなた方次第」
「なぜ…そんなものを…」
「ふっ、何故でしょうね。私にも分かりません。…それでは、私はこれで」
「ま、まて…」
「楽しかったですよ、魔皇」
 川村はどこかから現れたスフィンクスに跨ると、飛び去っていった。
「烈!大丈夫ですか烈!」
 事の成り行きを後ろで見守っていたエメラルダが慌てて駆け寄ってきた。
 清水の恵みで烈の傷を癒す。
「すまないな…サーバントは?」
「グレゴールと一緒に去って行きました」
「そうか…」
 烈は川村が去っていった空を見上げる。
 その手には先ほどのフラッシュメモリが握られていた…。

 空を駆けるスフィンクスの背の上――
「彼なら…もしかすると彼らなら…呪縛を…ギアスを解いてくれるかもしれませんね…」
 そう、川村は小さく呟いた。