■【神魔狂奏曲】突入■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 とりる
オープニング
 パトモス軍仙台基地副司令室――
 高槻博士は書類で埋め尽くされたデスクの上の、かろうじて自分の周りだけ確保されたスペースに突っ伏していた。
「……」
 手には大容量のフラッシュメモリ。博士はそれを手で弄ぶ。
「……」
 これは先日の調査で魔皇が持ち帰った物だ。何でも敵のグレゴールから受け取ったそうな。これは一体どういうことだろう。魔皇が敵と繋がっていた?まあ、そんなことはないと思うが…。内部に裏切り者が居た?可能性はある。敵も一枚岩ではないのかもしれない。
「……」
 博士は無言のままフラッシュメモリをパソコンのUSB端子に差し込む。
 先に徹底的に解析したところ、ウィルスの類は発見できなかった。
 代わりに記録されていた物は…
 ディスプレイに様々な情報が表示される。
「……」
 敵新型サーバントの詳細な能力。
「……」
 そして、敵の拠点と思われる位置情報だった。
 何のつもりだ…普通に考えれば罠だが…。
 サーバントの能力に関しては捕獲したサンプルのデータと照らし合わせてみた結果、信用に足る物だということが判った。
 問題は…敵の拠点。
 博士は思考する。しばらくして…がばっと起き上がった。
「いいじゃない。罠だろうが何だろうが、乗ってやろうじゃないの」

 そして調査の結果、記録されていたデータの通り栗駒山の地下に地中型テンプルムが存在する事が判明したのだった…。

 デビルズネットワークタワー・アスカロト。
 サーチャーのクラヴィーアが集まった魔皇達に話し始めた。
「作戦内容を説明します。宮城県栗原市にある栗駒山の山中、地下100mの地点に地中型テンプルムが存在する事が判明。第二次神魔戦線時に召喚されたものと思われます」
 マティア神帝軍によって召喚された多数のテンプルムのうち一つがこの地に身を潜めていたのだ。地中型は珍しく、そのため発見が遅れた。
「神帝軍残党グループの拠点と見てまず間違いないでしょう。我々はここに攻勢をかけます。まず本隊が陽動を仕掛け敵守備戦力を引き離し、その隙に別働隊が内部へ侵入。感情エネルギー集積所の破壊やマザーの撃破、コントロールルームの掌握を行います」
 今回の作戦は2つの部隊に分かれて行われる。こちらは別働隊だ。
「魔皇様方にはマザーを倒していただきます。感情エネルギー集積所の破壊とコントロールルームの掌握は高槻博士直属の特殊部隊が当たります。魔皇様方は地上の入り口から侵入後一直線にマザールームを目指し、目標を撃破してください。作戦の説明は以上です」
 言い終えると、クラヴィーアは真剣な面持ちで魔皇達を見据えた。
「マザーの動きは鈍重ですがアークエンジェルクラスに変わりありません。強力なSFを使ってくるはずです。くれぐれも油断をなさらぬよう。それでは、お気をつけて」
シナリオ傾向 テンプルム攻略戦 生身戦闘 対マザー
参加PC 礼野・智美
風祭・烈
【神魔狂奏曲】突入
●終焉へのカウントダウン
「司令部より別働隊へ。イビルアイの掃討を確認。これより作戦はフェイズ3へ移行する。別働隊は目標上空へ到達と同時に降下を開始せよ。繰り返す、別働隊は目標上空へ到達と同時に降下を開始せよ」
 群れを成して飛ぶ複数のヘリコプター。AH−1S『コブラ』に護衛されたUH−1Jの内部。オペレーターからの通信が聞こえる。どうやら陽動は無事に成功したようだ。これでレーザーが飛び交う真っ只中降下しなければならないといったような最悪の事態は無くなった。まあ、そんなことになる前に作戦は中止になっただろうが。とりあえずほっと胸を撫で下ろす魔皇達。そしてすぐに皆、出発前に渡されたテンプルム内部の構造図見ながらの最終確認作業に戻った。そんな中、礼野・智美が口を開く。
「マザーを倒さないとどんどん残党グレゴール増えるわけだし。マザーは耐久力高いから…一気に突破、全員でマザーに攻撃、が理想だよな」
 今から突入するのは敵の本拠地なのかもしれないのだ。まともに全ての相手にするわけにはいかない。
「今回はクロムブレイドを選択ですか」
 逢魔のユフィラスが今回の装備について問う。
「そうだ、今回は耐久力も考慮した方がいい。防御は考えなくて攻撃主体で…先陣を切って戦えるように」
「俺の装備は決定打に欠ける。頼りにさせてもらうぞ」
 ヘリのローター音と振動を身体で感じながら風祭・烈は正面に座る智美の顔を見据え、不敵に笑う。今回、彼が選択した魔皇殻は突破を最優先にした物だ。
「ああ、お前の期待に答えられる様に背一杯やるよ」
 智美も笑みを浮かべる。
 二人は何度も依頼を共にし、戦友と呼び合える仲になっていた。
 しかしそれは解っていても女性というのはすべからく嫉妬深いもので、隣に座る逢魔のエメラルダはほんの少しだけ眉をひそめた。だが烈は気付かない様子。
「て、敵の拠点ですからグレゴールもかなり居ると思いますけど…もし『誰かが残って対応しないといけない』場合はどうされます?」
 エメラルダの正面に座っていたユフィラスだけはそれに気付き、話の流れを変えようと切り出す。
「相手から指定がない限り私が残る。情報を渡されたのは風祭だ。神帝軍残党が一枚岩でないのなら敵のグレゴールも、風祭なら何とかしてくれる、と思ったんだろうし…私はお眼鏡に適わなかったみたいだからな」
 智美は苦笑しながら言った。
「それは違う。ただの偶然だと思うぞ。前回の任務が俺とエメラルダの二人だっただけだ」
「謙遜するな。敵のグレゴール…確か川村といったか…と、戦ったのだろう?少なからずお前が認められたのは確かだ」
「そうかな…」
 烈は困ったような表情を浮かべる。
「まあそれはともかく、エメラルダは回復能力を持っているから多数の皆の傍に居るほうがいい。ブリーフィングで説明のあった強化型オーグラは以前、鳴子に出たのと同型だろうから脳や心臓を潰す事。グレゴールやファンタズマのシャイニングフォースは抵抗を試みる。マザールームへ行く道を塞ぐ敵以外は無視、全て倒すのではなく邪魔する者のみを排除する、という方針でいいだろうか?」
「ああ、それで異論は無い」
「わたくしもですわ」
 烈とエメラルダは頷いた。
 その直後――
「目標上空へ到着しました。魔皇と逢魔の方々は降下の準備を」

 今回の作戦はヘリボーンによって行われる。
 智美、烈、エメラルダはグローブを手に嵌め、ヘリから降ろされたロープを伝って滑り降りてゆく。飛行が可能なナイトノワールのユフィラスだけは別だ。
 地上に降りた4名は装備を確認する。エメラルダは武器の貸し出しを希望したので比較的扱いやすく装弾数の多いサブマシンガン、P90が支給された。軍用のジャケットを着込み、予備のマガジンも携帯している。対グレゴール及びファンタズマ戦が想定されるので中身は無論、対神魔弾だ。そんなとき、鋭利な蝙蝠のような翼を広げヘリから降下してくる複数の人影があった。
「あれが、サッキュバスか」
 烈が言った。
 それはインプの女性逢魔のみで構成された高槻博士直属の特殊部隊、通称“サッキュバス”である。全員が飛行出来るインプであることから、それだけで錬度の高さが窺い知れる。サッキュバスの隊員たちは次々と地上に降り立ち整列を始める。今回魔皇達と作戦を共にするのは総勢32名だ。そしてその内の一名が魔皇達のもとへ歩いてくる。
「初めまして。私が隊長のガーネット大尉です。今日はよろしくお願い致します」
 そういって彼女は軽く頭を下げた。魔皇達も会釈する。
「私は以前密をしていたんです。ご一緒できて嬉しいわ、魔皇様」
 うふふと笑う彼女。しかしその顔は漆黒の仮面に隠されていた。彼女らが装着しているのはエステルの強化型、サンダルフォンシステムという。仮面と同じく漆黒のボディースーツで女性らしいほっそりとしたウェストラインが特徴的だ。胸部はアーマーに覆われている。余談だが、これはメタトロンシステムを効率化・量産化したものである。
「本当なら仮面を外して素顔をお見せしたいところだけど、今はそのような時間はありません。そちらには対マザー戦を想定した、重武装の第三分隊10名を回します。支援はお任せください。それでは、参りましょう」
 ガーネット大尉が部下に指示を下すと各々が行動を開始した。魔皇達もそれに続く。

 魔皇達一行は巧妙に木々で偽装されたネフィリム用のシューターから侵入していく。地中型のテンプルムなのでシューターも垂直式だ。例によって飛行できない智美、烈、エメラルダはラペリングロープを使って降りていく。
 格納庫に到着。しかしネフィリムの姿は無い。
「戦闘で出張っているのかな?」
 智美が疑問を口にした。
「そのようです。こちらには好都合ですね。察知される前に出来るだけ進みましょう」
 ユフィラスの言葉に3人が頷いた。

 事前に頭に叩き込んだ最短ルートを駆け抜ける。途中、何度か下級グレゴールに遭遇したがこれはサッキュバスの隊員がスモークとサーモセンサを用い、混乱している隙に対神魔ナイフで他に連絡される事なく“処理”した。
 が、やはりマザールームに近づくにつれて敵の数も増え、戦う事を余儀なくされる。そのうち強化型オーグラの集団に出くわしてしまった。かなり密集しており足止めをするつもりらしい。
「くっ、相手をしている暇はないというのに!」
「しかしこうまで密集されていては…仕方ありません!」
 智美は真クロムブレイド、ユフィラスは日本刀・雪月華で接近戦を挑み首を刎ねてゆく。
「邪魔だぁぁぁっ!!」
 烈も真アクセラレイトドリルで心臓を貫く。エメラルダは効果的な武装が無いため回復に専念する。
 サッキュバスの隊員達はバレットM82通称“バレットライフル”を使用。12.7mm弾で次々とオーグラの頭部を吹き飛ばす。本来これは対物ライフルで反動が大きくバイポッド無しでの射撃では命中は期待できないが、そこはパワードスーツのおかげだ。
 隊員のうち二名はバレルタイプの大型弾倉を背負い、M134ミニガンを腰溜めに構えて射撃。オーグラの身体を再生も許さぬほどバラバラに引き裂いてゆく。こんな大それた物を使用するのは以前の戦闘でパトモス軍が標準装備する分隊支援火器・ミニミ軽機関銃が通用しない事が判明したためだ。
「穴が開きましたわ!」
 エメラルダが叫ぶ。
「よし!一気に突破するぞ!」
 烈は真メタルアクセラレーターを用い縦横無尽に通路を駆け抜ける。エメラルダ、智美、ユフィラスも続く。途中、光破弾<シャイニングショット>が飛んでくるが防御に任せて無視。SFを放ったグレゴールにエメラルダが至近距離からP90の対神魔弾を叩き込む。グレゴールは鮮血を撒き散らして倒れた。
「…っ!?」
 それは普段あまり直接的な攻撃には参加しないエメラルダにとって衝撃的な光景だった。頭では解っていても動揺してしまう。自分が殺したのだ。この手で。
 そのとき、震える肩を逞しい手でそっと抱かれる。烈だ。
「すまない。お前にこんなことをさせてしまって。慣れろとは言わない。今は、耐えてくれ」
「はい…烈のためならば。それより急ぎましょう」

 マザールームに到着した一行はただちに攻撃を開始する。
 目標はもちろん、無数のファンタズマの卵に囲まれた中央に鎮座する…巨大な女性の上半身にぶよぶよとしたスライムのような下半身…マザーである。
「おお…!なんということ…!汚らわしい魔の者がこの神聖な部屋に入るなど神を冒涜する行為ぞ!万死に値する!」
 マザーの声に呼応して多数のファンタズマが襲い掛かってきた。
「黙れ!神を語るテロリストめ!!」
 烈は先制でバスターライフルを使用。ファンタズマをなぎ払った後、コアヴィークルを召喚、突撃する。真音速剣からの真獣刃斬で一気に道を開く。
「神帝の亡霊よ!消え去れ!」
 智美が肉薄して真両斬剣を叩き込む。退魔聖壁<メガレジストデビル>で威力は軽減されたが、それでも効果はあった。
 サッキュバスの隊員達もミニガンでファンタズマを蹴散らし、84mm無反動砲(カールグスタフ)を肩に構えてマザーに撃ち込み、魔皇達を支援する。
「ギャアアアッ!!ぶ、無礼者ぉぉぉっ!!」
 マザーは悲鳴を上げつつ烈光破弾<スパーキングショット>で応戦してきた。
「やらせません!」
 ユフィラスは凝縮する闇を発動。かざした掌に黒い発光体が現れ、範囲内に黒い靄が発生。烈光破弾は吸い込まれてゆく。
「お、おのれぇぇぇ!!」
「これで終わりにするぞ!いけ!エメラルダ!!」
「はい!てぇぇぇぇぇいっ!!」
 エメラルダは鳥型魔獣殻・迦楼羅をメタモアームズ形態、超巨大な炎を纏った二つの刀に変化させ、マザーに向けて必殺の一撃を叩き込んだ。
「グアアアアアッ!!消える?!このわたくしが消えるというのか!?汚らわしい魔の者どもに倒されて!!嫌…嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
 耳を劈く断末魔を上げてさらさらと灰になり消滅してゆくマザー。残ったファンタズマも苦しそうにもがき、ばたばたと落ちていく。
「た、倒したのでしょうか…?」
「ああ。よくやったな、エメラルダ」
 へなへなとその場に膝を着くエメラルダの肩にぽんと手を置く烈。
「コントロールルームの掌握、感情エネルギー集積所の破壊も成功したようです」
 無線機を片手にユフィラスが言った。
「よし、さっさと撤収するぞ」
 智美が入り口に引き返そうとした時――
「いやあ、お見事お見事」
 パチパチパチという拍手と共に中年男性の声が聞こえた。
「!!?」
 皆が一斉にそちらを向く。
 そこには、バーコード頭に黒ブチメガネ。くたびれたスーツ姿のサラリーマン風の男が立っていた。
 グレゴール・川村である。
「やはり現れたか…川村!!」
 烈がしっかりと見据え、ドリルを構えて言い放つ。
「しかしおかしいですわ。マザーを倒したのに苦しんでいる様子がありません」
 エメラルダは警戒心をあらわにした。
「貴様!何故平気でいられる!」
 智美も真クロムブレイドを構える。
「さあて、何故でしょうねえ。それよりもです、私とお手合わせ願えませんか、魔皇さん方。その数ならばちょうど良いハンデでしょう。フフフ…」
 川村は不敵な笑みを浮かべ、ファイティングポーズを取る。
「残念だが貴様の相手をするつもりは無い!」
 烈はエメラルダを連れ、その場を離れようとするが…
「そう簡単に逃がすとお思いですか?」
 魔皇達の前に大量の強化型オーグラが現れる。
「ちっ!追いついてきたか!」
 川村と無駄話をしている間に追いつかれてしまったようだ。
「さあ、私と戦っていただ…ぐぁっ!!?」
「川村先生、お痛が過ぎましたね」
 川村の腹には、光の槍が深々と突き刺さり、貫通していた。
 背後には黒髪のショートカットの美しい少女の姿。年の頃は…18くらいだろうか。
「秋…山…?!」
 驚きの表情を浮かべる川村。
「そういうことです。ここの場所やサーバントのデータを流したのは貴方でしょう。気付かれないとでも?」
 秋山と呼ばれた女性の隣にはメガネをかけた知的な顔立ちの青年が立っていた。
「北口…っ!!」
「これは罰です。貴方にはここで果てていただきます」
 秋山はSF・聖突槍<シャイニングジャベリン>を再び放った。
 今度は川村の胸部を貫通する。
「がはっ!!?」
 川村は血を吐き、崩れ落ちた。
「な、なんだ?仲間割れか?」
 目の前の光景に動揺する魔皇達。
「あなた達も…」
 秋山が再びSFを発動しようとするが…北口と呼ばれた男に静止された。
「いや、君が手を下すまでもない。いいか、よく聞け魔の者。マザーの死に呼応してこのテンプルムは間もなく爆破される。死にたくなければとっとと尻尾を巻いて逃げる事だな。…逃げられればな!」
 狂気の笑みを浮かべる北口。魔皇達は既に強化型オーグラの集団に包囲されていた。
「くそっ!」
 烈はエメラルダを庇いつつ舌打ちする。
「いくぞ、秋山」
「はい、北口様」
 二人のグレゴールは姿を消す。
「このままでは…」
 汗を垂らすユフィラス。既にマザー戦で力を使い果たしている。サッキュバスのほうも弾薬がほとんど残っていなかった。
 絶望感が漂い始めたが――
 突如としてオーグラたちが炎に包まれた。もがき苦しみ次々と消し炭になってゆく。
 それをやったのは…川村の操るサラマンダーだった。
「行け…魔皇達よ…この無意味な戦いを…終わらせてくれ…。そして彼女を…解放し…」
「川村…」
「いいから行くぞ風祭!今しかない!」
 智美が叫ぶ。
「あ、ああ!」
 烈は顔をしかめながら、エメラルダの手を引いて走り出す。
 …こうして、魔皇達とサッキュバス隊はなんとか脱出に成功した。

 大爆発を起こし高々と黒煙を上げるテンプルム。
 その上空を飛び去ってゆく二騎のバリアブルネフィリムがあった。
 一騎は白銀、もう一騎は漆黒だ。
「よろしかったのですか?」
「ああ、構わない。奴の裏切りも想定の範囲内だ。マザーは惜しかったが…失っても支障はない」
「……」
「それより始まるぞ…狂気の宴が!ふふふ、ははははははははっ!!」
 高笑いを上げる北口。そしてその直後、爆破されたテンプルムの残骸の中から、軍団規模のサーバントが出現したのだった…。