■【神魔狂奏曲・外伝】メイドさんを守れ!■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 とりる
オープニング
「いってらっしゃいませ、ご主人様。お帰りをお待ちしていますv」
 にこやかな愛らしい笑顔で最後のご主人様を送り出すメイド姿の女性。

「ミカちゃーん今日はもう閉めるから、外回りのお掃除をしてきてちょうだーい」
「はーい」

 そう、ここは旧仙台市内に店を構える、とあるメイド喫茶であった。
 二度の神魔戦線で荒廃した世の中でもオタク文化はしぶとく生き残っていたのである。

「よいっしょっと」
 箒と塵取りを手に外へ出たメイドのミカ(年齢不詳)。すると…

「ぐへへへへ、ちょっとそこのメイドさん、いいデブか?」
 現れたのはぽっこり出たお腹に脂ぎった顔。服装はもうすぐ秋だというのに汗の染みたよれよれのTシャツ(しっかり裾は中に入れている)、小汚いジーンズ。背中にはポスターが突き刺さったパンパンのリュック。
 “いかにも”なキモオタである。しかし職業柄こういった客の相手は慣れていたミカなので…

「申し訳ありませんご主人様、今日はもう閉店でして…明日、またご来店ください」
 にっこり営業スマイル。だが…

「げへへへへへ、そんなこと言わずに僕たちと遊ぼうデブよ」
 いきなりミカの手首に掴みかかるキモオタ。

「ちょ、や、やめてください!」
「抵抗するデブね。それなら…」

「ブヒブヒブヒブヒブヒ!!」
「!?」
 キモオタの背後からでっぷり太ったオークの集団が現れた。
「ぐへへへへへ、もう逃げられないデブよ」

 じりじりとミカに迫るオークたち――
 必死に手を振り払おうとするが物凄い馬鹿力で離れない。
「こ、来ないで…」
「ハァハァ…ハァハァ…ハァハァ…」
「ブヒブヒブヒブヒブヒ!!」
「……い、いやああああああああああっ!!!!」

 ――数分後、悲鳴を聞き駆けつけた店長が路地裏で汗と唾液でぬるぬるべとべとになった、変わり果てた姿のミカを発見したのだった。


「旧仙台市内でメイドさんが襲われるという事件が発生しました」
 サーチャーのクラヴィーアが大真面目に話し始めた。

「犯人は俗に言うオタク風の格好をした男で、複数のオークを連れていたそうです。恐らくグレゴールだと思われます。そして調査の結果、仙台テンプルム所属の男性グレゴールは全員白でした。…もともと、そっち系の方が多いですしね」
 クラヴィーアは反らせた手の甲を顔の横に持っていくジェスチャーをしながら最後だけぼそっと言った。まあ気にしないでおこう。(ぇ

「以上のことから察するに、神帝軍の残党による犯行と思われます。魔皇様方はこの!この女の敵を!なんとしても捕まえてください!!死なない程度であればどんな手段を用いても構いません!お願いします!!」
 …やけに熱の入った口調のクラヴィーアであった。
シナリオ傾向 ギャグ 戦闘 メイドさん
参加PC ヒール・アンドン
チリュウ・ミカ
草壁・当麻
クロウリー・クズノハ
【神魔狂奏曲・外伝】メイドさんを守れ!
●戦の前に

 メイドさんが襲われてしまった痛ましい(?)事件を解決すべく、魔皇と逢魔が問題のメイド喫茶に集まっていた。
「はぁ?奴が再来店してミカちゃんを指名した時の身代わりぃ?すると何か?わたしに声かけたのは、単に名前が理由かっ!」
「いや、知らないし!というかあなた誰!」
 襟首を掴んでメイド喫茶の店長に詰め寄っているのはチリュウ・ミカである。
「店長、私がお願いしたんです」
 そこに出てきたのは襲われた当人、メイドのミカ。なんとか復帰したようだ。まだ精神的にはすぐれないようだが…
「私と同じ名前なんですよね、チリュウおば…いえ、お姉さん。来てくれてありがとうございます」
 ぺこりと頭を下げるメイドのミカ。途中何か聞こえた気もするが気にしないでおこう。
「そうだよ。たまには人助けもいいじゃない。ねっ?」
 逢魔のクリスクリスがにこりと二人のミカに微笑みかけた。
「まあ…仕方ないな。お姉さんに任せておきたまへ!」
 どんと胸を叩くチリュウのほうのミカ。やる気は出たようだ。

「…なにゆえ私はこんなところに居るのでしょう…」
 猫耳猫グローブ猫尻尾と猫フル装備のヒール・アンドンが不安げな表情で言った。
「…すごく嫌な予感がするのですが…」
「大丈夫だって!そんなことないよ!」
 逢魔のヒカルが満面の笑みで答えた。手には何やら紙袋を持っている。
「あ、ヒールはこれに着替えてきてね」
 紙袋を手渡すヒカル。
「…やっぱり嫌な予感…いえ、悪寒が…」
「さーさー早く着替えた着替えた!」
 ヒカルはヒールを更衣室へとぐいぐい押して行くのだった。

「あらら、来るところまで来ちゃったねぇ、この国は」
「ぬるぬるべとべとになるらしいですが、頑張ります。精一杯頑張ります」
 呆れたような…いや、ある意味悟ったような表情の草壁・当麻と、健気にもやる気を出しているのはその逢魔のスズである。
「ぬるぬるべとべと!?」
 スズの言葉にメイドのミカが反応してぷるぷる震えている。…相当酷い目に遭ったのだろう。
 その様子を見て若干の不安を覚えるスズ。

「カレン、この日の為に特注した衣装だ。受け取ってくれ」
 クロウリー・クズノハが珍しく真面目な表情で逢魔のカレンに包みを渡した。
「あらあらまあまあ、一体なんでしょう。…いえ、察しはつきますけれど」
「これを着てせいぜいがんばってくれ。俺に囮は無理なんでな」
 バシーン!!カレンの鉄扇が唸った。
「ぐお!?」
「せいぜいだなんて、ひどいじゃないですかクロウ様!このわたくしの身が危険に晒されてもよいと?」
「…いや、そんなことは微塵も思っていない。その…なんだ…心配…している」
 ほのかに頬を赤らめるクロウリー。
「うふふ、そうですか。それではがんばってまいりますわ」
 嬉しそうなカレンである。
 ――そして、魔皇と逢魔は来るべき大いなる敵(キモオタとオーク)に備えてそれぞれ準備を始めたのだった。

●お帰りなさいませ♪ご主人様(はぁと)

「…やっぱり私が囮なのですね…」
 しくしくと涙を流すヒール。そう、そこには見事な猫耳メイドの姿があった。
「女性が襲われるわけにはいかないでしょ♪」
 満足げなヒカル。メイド服の着付け・メイクなどは全て彼女によるものである。

「お帰りなさいませ、ご主人様♪……とかでいいのか?うう、身体が痒い」
 メイド服を着込んだチリュウのほうのミカが自らが発した言葉に身体を捩って悶える。
「なかなか様になっていると思うよー」
 クリスクリスも同様にメイド服を着ている。だがシックなデザインのミカのメイド服に比べ、こちらはフリルたっぷりの可愛らしいデザインながらも胸元が強調され、かなりセクシーである。

「な、なんだかやっぱり不安になってきました…」
 戦い(?)を前に冷や汗をかくスズ。やはりいざ囮をするとなると緊張してくるのだろう。
 スズは普段からメイド服を着用していることもあり、さすがに着こなしている。
「大丈夫、俺が守ってやるよ」
 そんなスズの肩にぽんと手を置く当麻。
「ふっ、今夜は悲鳴を聞きたい気分だ…もちろん敵の、な」
 日本刀・紫鏡を磨きながら、なにやら殺る気まんまんのようである。

「………」
 クロウリーはそんな仲間達の様子をぼんやりと見つめていた。
 すると――
 バシーン!!唸る鉄扇。
「ぐばあ!?…な、なにをするカレン?!」
「クロウ様!今他のメイドさん達に見惚れていたでしょう?まったくもう!!」
「俺はただ見ていただけだが…」
「嘘おっしゃい!この浮気者!」
「浮気?なんのことだ??」
「……」
 はあ、とため息をつくカレン。これ以上言っても仕方ないと判断したようだ。

「よく分からんが、そろそろミカ嬢が襲われた時間だ。俺は屋根で待機している」
「あ、あたしもいくよー。それじゃ、がんばってねヒール☆」
 そういってメイド喫茶の屋根によじ登ってゆくクロウリーとヒカル。


 数分後――
「……来たか」
 今まで瞑っていた目を開き、日本刀・紫鏡に手をかける当麻。
 そう、“奴”が現れたのだ。

「段腹のコロネ体型、横にするとゴロネ体型、ゴロ寝してるとさらに、コロネ体型!」
 意味不明なことを口走りつつ例のキモオタが暗闇の中から姿を見せた。
「お?今日はなんだか賑やかデブね。ひょっとしてなにかイベントをやっているデブか?!」
 たくさんのメイドさんの姿に目を輝かせるキモオタ。やはりオタク…そういうイベントには目が無いのだろう。

「イベント…そうだな、ある意味イベントかもしれないな」
 キモオタの前に仁王立ちするチリュウのほうのミカ。
「ああ、おばさん、メイドのミカちゃんはいるデブか?指名したいのデブが」
「……ご指名ありがとうございまぁす。ご主人さま☆ミカでぇす♪」
 ぴくぴくとこめかみに青筋を浮かべながらにっこり微笑むチリュウのほうのミカ。
「だからおばさんじゃなくてメイドのミカちゃんを…ん?おばさんもなかなか…ふむ、メイド長といった感じデブね。気に入った。ババァ結婚してくれデブ!!」
 ――プチッ。←何かが切れる音
「……誰がおばさんじゃコラァーッ!!ババァでもねえーっ!!それにわたしは既婚者だー!!」
「デブー!!?」
 ついにブチ切れたチリュウのほうのミカの鉄拳を受けて吹っ飛ぶキモオタ。

「ななな何するデブか!父さんにも殴られたことないのに!」
 頬を押さえながら立ち上がるキモオタ。
「……もしやお前達!魔皇デブね!」
 グレゴールに物理攻撃は効かない。しかし魔皇の攻撃となれば話は別だ。そのくらいキモオタでも知っている。チリュウのほうのミカの殴りはしっかりダメージが入っていたのであった。

「あぁん?そういうことだ!ぼっこぼこにしてやんよ!!」
 マジギレモードのチリュウ・ミカ35歳(人妻)。
「あーあ、やっちゃったー」
 その光景を見ていたクリスクリスがあちゃーといった感じになる。

「ゆゆゆ許さないデブ!出て来い!ハレハレで愉快な仲間たち!」
 ブヒブヒブヒ!!
 軽快なリズムに合わせて踊りながら登場するでっぷり太ったオークの群れ。

「ふふふ、出てきたなオークどもめ」
「いっくよー!」
 クロウブレードを構えたクロウリーと、事前にヒールから受け取っていた真シルバーエッジと自前のハリセンを握り締めたヒカルが勢いよく屋根の上から飛び降りた。

「さーて、やっと出番かね。お前は下がっていろスズ」
「はい、わかりました」
 逢魔のスズを下がらせ、日本刀・紫鏡を抜く当麻。
 そして、乱戦が始まった――

●女の子になっちゃった!?

 メイド喫茶前は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
 あちらこちらでオークが宙を舞っている。
 主に暴走したチリュウのほうのミカやクロウリー、ヒカルが大アバレしているせいなのだが…
「…あううう、なんだかとんでもないことに…」
 隅っこのほうで縮こまっている猫耳メイド、ヒール。
 ちょんちょん。ヒールの肩がつつかれる。
「…なんですか?って、うわぁ!?」
「げへへへへへ、こんな所にいたのデブね。探したデブよ」
 目の前にいたのはキモオタ。慌てて飛び退くヒール。
「可愛い猫耳メイドさんデブね…ハァハァハァ…」
 じりじりと迫る。
「やややめてください!私は男!男なんですぅ!」
「…ほう、そうデブか。ふーん……ならこれを食らうデブ!」
 キモオタの指から光線が放たれヒールに命中した。
「きゃー!?…って、あれ?なんともない??」
「本当にそうデブか?今のは僕が開発した簡単性反転<イージー・セクシャライズ>というオリジナルSFデブ!30m以内の1対象の性別を半日ほど反転させる効果があるデブよ!」
「な、なんだってー!?」
 慌てて自分の股間に手をやる。…そして、さーっとヒールの顔から血の気が引いていく。
「無いー!!!!」
「げへへへ、これで問題ないデブね…」
「や、やめて……いやあああああっ!!」
 ヒールの叫びが夜の街に虚しく響いた…


「どうした!?」
 しばらく経って、ヒールの悲鳴を聞きつけて当麻がやってきた。
 するとそこには…身を横たえ、ぬるぬるべとべとになった、変わり果てたヒールの姿があった。
「なんてひどいことを…」
「そこのおにいさぁーん」
「うわああ!?」
 物陰からぬぅっとキモオタが現れた。
「……ふっ、君か。君の血なんか見ても嫌悪感しか湧かない、が……」
 日本刀・紫鏡に手をかける。しかし…
「せっかくだからお兄さんも実験台になってもらうデブよ!簡単性反転<イージー・セクシャライズ>!!」
 再び放たれる怪光線。ばっちり当麻に命中。
「ぐあああ!?って、なんともない?」
「ぐへへへ、本当にそうデブか?」
「こけおどしか!この…んっ?」
 何か身体に違和感がある。心なしか胸も重たいような…
「ほい、鏡デブ」
「あ、どうも」
 鏡を受け取って自分の姿を見てみる当麻。
「……なんじゃこりゃあああ!!?」
 絶叫する当麻。鏡に映っていたのは黒髪ロング(巨乳)の大和撫子であった。
「服装がちょっと残念デブが、まあ成功みたいデブね。というわけで…」
 じりじりと迫るキモオタ。
「や、やめろ…来るな…」
「げへへへへへへへへへ」
「き、きゃああああああ!!」
 再び響く哀れな乙女(?)の悲鳴。

●熱戦

「んっ?今何か聞こえたか?」
「ええ、聞こえましたね」
 あらかたオークを倒し終えたクロウリーが顔を上げた。
 クロウブレードにこびり付いた血を払い、カレンと一緒に悲鳴のしたほうへ走る。
 するとそこには――
「これは…」
「ひどいな…」
 ぬるぬるべとべとになったヒールと、どこかで見たような気もする黒髪の美女が倒れていた。

「…っ!?」
「ほう、やるデブね」
 またしても物陰から現れカレンを狙ったキモオタの手を叩き落とすクロウリー。
「クロウ様…ありがとうございます」
「いや、いい。…これは貴様の仕業だな?」
「その通りデブよ!…うーん、こっちのお兄さんはちょっとゴツすぎて好みじゃないデブねえ」
「なにをわけの分からないことを言っている!始末はつけてもらうぞ!」
 クロウブレードでキモオタに斬りかかるクロウリー。
 だが――
 キモオタは素早い動作で背中のリュックから丸めたポスターを抜き放ち、それを受け止めた。
 抜く際にブゥンという効果音が聞こえたのはきっと気のせいだろう。
「なん…だと!?」
 驚きを隠せないクロウリー。
「ふっ、甘いデブね」
 キモオタは咄嗟に閃神輝掌<スパーキングフィンガー>をポスターに付加してクロウリーの攻撃を受け止めたのだった!
「太ってもグレゴールというわけか。面白い…」
「オタクは伊達じゃないデブ!!」
「いくぞ!」
「来いデブ!」
 凄まじいスピードで何度も切り結ぶ二人。

「はあはあはあ…」
「ふうふうふう…」
両者の実力は拮抗しており、一向に決着が付かない。

「ふう、残念ですけれどお二人とも、そろそろ…」
「ん?」
「は?」
「両成敗させていただきます!!」
 バシバシーン!!二度唸る鉄扇。
「ぐばあ!!?」
「げべえええ!?」
 地に倒れ付す二人。

「あぁん?ここにいやがったのか!!ぶっ潰す!!」
「はうーオークの汗と血でべとべとだよー」
 オークを全滅させたチリュウのほうのミカとクリスクリスがやってきた。
「つまらぬものを斬ってしまった…あれ?そういえばヒールは?」
 満足げな顔のヒカルも一緒である。

「形勢…逆転だな」
 クロウリーが立ち上がる。
「ううう…デブ。こうなれば仕方ない!逃げる勝ちデブ!!」
 そういうとキモオタは一目散に逃げ出した。

「ああっ!!待てこらー!!」
「嫌デブよー!!愉快な仲間たちパート2!出ろー!!」
 ブヒブヒブヒ!!
 再び現れるオークの群れ。

「ちっ、まだ残っていたのか」
「はっはー!僕の名前は千葉!グレゴールの千葉デブ!覚えておくがいいデブー!!」
 そういうと、キモオタ…千葉の姿は見えなくなった。

「逃がしたか…」
「でもまあ、あれだけやればもう来ないのでは?」
 残念そうなチリュウのほうのミカにスズが言う。
「そういえば当麻さんの姿が見えないのですが…どなたか知りません?」
「ヒールもいないよー!」

 そんなこんなで、戦いは魔皇たちの勝利に終わった。
 約二名の尊い犠牲が出たが、気にしないでおこう。きっとそのほうが幸せだ。
 ちなみに、それから問題のメイド喫茶に千葉が現れることはなかったという。