■【神魔狂奏曲・外伝】ミカの誕生日■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 とりる
オープニング
 旧仙台市内に店を構える、メイド喫茶フェルマータ。
 1ヶ月ほど前にちょっとした(?)事件があったのだが、現在は平穏を取り戻していた。

「そういえばミカちゃん、もう少しで誕生日よねぇ」
 給仕から戻ってきたメイドのミカに、店長がカウンターでコーヒーを淹れながら言った。芳しい香りが鼻腔をくすぐる。
「え?…ああ、はい。そうです。すっかり忘れちゃってました。えへへ」
「えへへじゃないわよ。年頃の女の子なんだから、ちゃんとお祝いしないと。ミカちゃんは彼氏とかっているのかしら?」
「うー、店長ー知ってて聞いてるでしょー!」
 ミカがじとーっとした目で店長を見る。
「あはは、ごめんなさい。それならお店でお誕生会をしましょう」
「そ、そんな悪いですよ。みんな忙しいですし…」
 指を合わせながらもじもじするミカ。
「遠慮することないわよ。ミカちゃんはなんてったってうちの1番人気なんだから。ね?あ、そうだわ。この前お世話になった魔皇さん達も呼んで、お店を1日貸切にしてパーティをしましょう!それがいいわ!」
 1人で盛り上がっている店長に苦笑いを浮かべるミカ。
 でも内心は色々と気遣ってくれる店長の気持ちがとても嬉しかった。
「常連さんにも招待状を送って…料理にケーキに…それからそれから…」
「店長、私も手伝います!」
 にっこり笑顔を浮かべるミカであった。

「そんなわけで、メイド喫茶フェルマータからメイドのミカさんのお誕生会へのお誘いが来ました」
 デビルズネットワークタワー・アスカロトの一室でサーチャー・クラヴィーアが口を開いた。
「魔皇様方も毎回戦いばかりでは疲れるでしょうから、たまには息抜きをしてみてはいかがですか?きっと、ミカさんも喜ぶと思いますよ」
シナリオ傾向 ほのぼの デート
参加PC チリュウ・ミカ
クロウリー・クズノハ
【神魔狂奏曲・外伝】ミカの誕生日
●二人の事情
 某所(日本列島のどこか)――
 綺麗に整頓され、そこに立つ者が几帳面だと判る清潔なキッチン。
 コップに青と赤のおそろいの歯ブラシが置かれた洗面所。
 生活感の溢れる、まるで新婚のカップルが暮らしていそうなそこは…そう、魔皇クロウリー・クズノハと逢魔・カレンの愛の巣…いや、二人はそこまでの関係には至っていない。魔皇(逢魔)以上恋人未満…カレンはクロウリーに恋心を抱いているのだが、バトルマニアで超の付く鈍感君なクロウリーは未だにその健気な想いにはちっとも気付いてはいない。非常に嘆かわしい。見ている側としてはヤキモキさせられる、そんな二人の住処であった。(長)

 …こほん、場所はその寝室である。二つの枕が並んだダブルベッドでカレンは寝込んでいた。
 先日のラージアント退治の依頼で無理をした所為で、本来虫が大の苦手なカレンは体調を崩してしまったのだ。
「大丈夫か、カレン?」
 ベッドの横に座り、その顔を覗き込むクロウリー。
「はい、申し訳ありません。クロウ様」
 身を起こしながら弱弱しくそれに答えるカレン。
「いや、いい。無理をさせて悪かったな」
「いえ…」
「ところで具合はどうだ?」
「おかげさまで楽にはなりましたが、まだ…」
「そうか…」
 クロウリーはうーむといった感じであごに手を当てる。
「それではやはり俺一人で行く事になるか」
「本当にすみません…」
 しゅんとするカレン。
「気にするな。確かに残念ではあるが、俺が精一杯祝ってくる」
「お願いします。あと、これをミカさんに」
 カレンは枕元を指差す。そこには綺麗にラッピングされた包みが二つあった。
「わかった。お前はゆっくり休んでいろ」
「ありがとうございます、クロウ様」
 主の気遣いは素直に嬉しく思う。しかし自分も一緒に行くことが出来ないのは残念で仕方がない。そう思いながら、カレンは横になり静かに目を閉じた。

 玄関。
「それじゃ、行ってくる」
「いってらっしゃいませ〜お気をつけて〜」
 寝室から響く、か弱いカレンの声を背にクロウリーは招待状とプレゼントを握り締め、家を後にするのだった。

●ペンション【日向】にて
「おーい、クリス。仙台まで遊びに行くぞ☆」
「え、なになに〜?」
 チリュウ・ミカの声に逢魔のクリスクリスが廊下をとてとてと走ってくる。
「これだ!」
 チリュウのほうのミカがじゃーんと手紙らしき物を見せる。
「ふむふむ……メイドのミカさんのお誕生会への招待状かぁ〜!」
「そういうことだ!」
 きっとキモオタグレゴールを撃退したお礼のつもりなのだろう。
 自慢げに笑うチリュウのほうのミカ。

「でもどうやって祝ってあげよう?」
「若い娘の好みなんて知らん」
 クリスクリスの問いにきっぱりと言い放つチリュウのほうのミカ。
「正直だね…ミカ姉…」
 苦笑するクリスクリス。
「ただプレゼントをやるだけというのもつまらんしなあ」
「そうだねえ」
 腕を組んで悩みこむ二人。

 ……(思案中)……

 ……(思案中)……

「そうだ!」
 ぽむと手を叩くチリュウのほうのミカ。
「なにか思いついた?」
「ふっふっふっ、ちょっと耳をかせ」
 今ここには二人しか居ないのだから内緒話をする必要はないのに…と思いつつ耳を向けるクリスクリス。
「ごにょごにょ」
「うん」
「ごにょごにょごにょ」
「うんうん…いい考えだと思うよ☆」
「だろぉ!」
「でもボクはちょっと無理かなあ…」
 自分の胸に目をやるクリスクリス。たゆんたゆんと揺れる二つの大きなそれは、一部の女性にとってはかなーり羨ましい悩みである。
「…まあ、そうだな」
 チリュウのほうのミカは何かに納得した。
「だからボクはお菓子を作ることにするね♪」
「よぉーし!そうと決まれば膳は急げ!準備開始だ!」
 チリュウのほうのミカはさっそくクローゼットをガサゴソやり始めた。
「うふふん、材料を買ってこなくっちゃ♪」
 クリスクリスはメイドのミカの喜ぶ顔を思い浮かべながら楽しそうに買い物へ出かけるのであった。

●はぴば
「いやいやー、本日はお招きいただきありがとう!」
「こんにちわー☆」
 大荷物を抱えたチリュウのほうのミカとクリスクリスがメイド喫茶・フェルマータを訪れた。
「チリュウお姉さんにクリスさん、いらっしゃいませ。来てくれたんですね」
 メイドのミカが笑顔で出迎える。
「ところでその荷物は一体…」
 首をかしげるメイドのミカ。
「ふふふ、これはあとのお楽しみだ。まあ楽しみにしていてくれ!」
「そうだよ〜」
「なんだか分かりませんが、そうします」
 3人がそんなやりとりをしていると…
「邪魔をする」
 続いてクロウリーが現れた。
「あ、クロウリーさんも来てくれたんですね。うふふ、嬉しいです」
 にっこり笑うメイドのミカ。
「お、クロウリーも招待されたのか。そういえば前回一緒だったな。久しぶり。…そうだ、いい話があるんだが…」
「ん、なんだ?」
 チリュウのほうのミカがクロウリーにごにょごにょと耳うちする。
「ふむふむ…分かった。いいぞ。喜んで引き受けよう」
「よぉーし!ちょうどここに予備の衣装がある。これに着替えてくれ」
 チリュウのほうのミカが紙袋を差し出した。
「うむ」
 それを受け取ると……クロウリーは突然その場で服を脱ぎ始めた。
「きゃー!?」
 メイドのミカが慌てて両手で目を覆う。
 店内で誕生会の準備をしていた他のメイドさん達からも悲鳴が上がる。
「なにをしてるんだこのバカ!!」
 ゴガン!!
 ミカがクロウリーの頭に思いっきりげんこつを食らわして止めに入る。
「……痛い」
「クロウリーさん、ここで着替えちゃまずいよー」
 クリスクリスも頬を染めつつ両手で目を覆っていたが指の隙間からしっかり見ていた。
「あははははは!失礼した!それじゃあ準備があるんでちょっと待っててくれ!更衣室を借りるぞ!」
「え、ええ。構いませんけれど…」
 頭に大きなたんこぶを作ったクロウリーの首根っこを掴んでずるずると引きずっていくチリュウのほうのミカ。
「ごめんねー」
 クリスクリスも謝りながらそれに続いて店の奥へ引っ込む。
「…いきなり賑やかになったわね。やっぱり呼んで正解だったわ。なんとも逞しい肉体…うふっ」
 その様子を遠くから見ていた店長がメイドのミカの隣に並んで言った。
 どうやら店長はクロウリーのことを痛く気に入ったようだ。色んな意味で。
 ちなみにこの店長、女言葉を使っているが、立派な男である。(ぇ
「ははは、そうですね…」
 まだ赤らんだ頬をぽりぽりとかきつつ、苦笑いするメイドのミカであった。

●お帰りなさいませ、お嬢様
「ミカお嬢さま、お誕生日おめでとうございます。今日1日はわたくしがお傍に仕えさせて頂きます。何なりとお命じ下さい」
 メイドのミカの前で恭しく一礼したのは燕尾服に身を包んだ執事姿のチリュウのほうのミカであった。メガネをかけ白い手袋も着けており、まさに男装の麗人といった感じである。
「おめでとうだよー♪」
 クリスクリスは前回の依頼の時に着た可愛らしくもセクシーなメイド服に身を包んでいた。胸のサイズの関係で燕尾服が入らなかったためだ。
「…おめでとう。これはカレンからのプレゼントと手作りの菓子だ。受け取ってくれ」
 クロウリーはというと、チリュウのほうのミカと同じ燕尾服なのだが…どうもサイズが合わなかったらしく、筋肉が盛り上がりぱっつんぱっつんになっていた。髪のほうは普段はぼさぼさであったが今はちゃんと撫で付けられオールバックになっている。きっとチリュウのほうのミカがセットしたのだろう。
「ええと…チリュウお姉さん、クリスさん、クロウリーさん、ありがとうございます。わあ!カレンさんのプレゼントは綺麗なチョーカーですね。嬉しいです」
 思いもがけない祝福のされ方にちょっとだけ戸惑いつつも、喜びをあらわにするメイドのミカ。
「ミカお嬢様、まずはこちらの蒸しパンと紅茶をどうぞ。たぶんお口に合うかと存じますが」
「あ、はい。ありがとうございます。もぐもぐ…うん、とっても美味しい!」
「えへへ、ミルクとレーズンたっぷりの蒸しパンだよ。お料理クラブ在籍は伊達じゃないんだからっ♪」
 予想通りのメイドのミカの反応に嬉しそうなクリスクリス。頑張った甲斐があるというものである。
「紅茶も美味しい…淹れ方、上手ですね。チリュウお姉さん」
「ありがとうございます」
 ペンション【日向】のメイド長(自称)の名も伊達ではなかった。

 で、クロウリーはというと…
「きゃあ!筋肉もりもり!」
「うわあ…ぴくぴく動いてる…(大胸筋が)」
「すごく…太いです…(腕が)」
 他のメイドさん達に囲まれてきゃあきゃあ言われていた。
「いや、おい。待て。こら、つつくな!」
 もう揉みくちゃだ。
「いやん!あなた達だけずるいわ!アタシにも触らせて!」
 店長が割り込んでくる。いやな予感のするクロウリー。
「きゃー!!なんて逞しい!もう最高!抱きついてキスしちゃうわ!んー…」
 迫る濃ゆい店長の顔。腕やら脚やらはメイドさんに掴まれていて動けない。大ピンチだ。
「うわー!?やめろぉー!!」
 店内に響くクロウリーの悲鳴。流石のバトルマニアもオカマちゃんには敵わなかった。南無。

 一方その頃――
「はっ!?」
 今まで眠っていたカレンがベッドから飛び起きた。
「なんでしょう…この胸騒ぎは…もしやクロウ様に何かが?まさか浮気とか?!」
 さすがは女の勘…いや、スピリットリンクのせいかもしれないが。
「……あの甲斐性なしのクロウ様に限ってそれはないですね。ふにゅう…」
 再び眠りに付くカレン。

 場所はまたフェルマータに戻る。
 一通り奉仕を終えたチリュウのほうのミカがメイドのミカの肩を揉んでやっていた。
「ミカは普段、こんな幸せを多くのご主人さまに贈ってるんだよ。いつもお疲れさま〜」
「ありがとうございます。本当に嬉しかったです。私、本当に幸せです。皆に分けて上げたいくらい」
「何言ってるんだ。今日はおまえの誕生日だぞ?」
「うふふ、そうでしたね。あ、そこ…気持ちいい」
「ここか。もみもみ」
「…ミカお姉さん」
「ん、なんだ?」
「私、これからも頑張りますね。ここに来るご主人様が皆幸せになれるように。こんなご時世ですから」
「そうだな…」
 窓の外を見つめるチリュウのほうのミカ。世界は未だ混乱の中にある。人々は普通に暮らしているように見えても、神魔戦線で少なからず大切なものを失ってしまった。だからこそ、娯楽が必要だ。
「がんばれよ」
「はい!」
 最上級の笑みを浮かべるメイドのミカ。
 そんなこんなでメイド喫茶・フェルマータの楽しい夜は更けていった…。