■【神魔狂奏曲】虫の唄■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 とりる
オープニング
コロコロ…コロコロ…
リーンリーン…リーンリーン…

 秋の夜に響く虫の声。それはとても風情があり、良いものだが…

「蔵王山の麓…旧川崎町にある、みちのく杜の湖畔公園に虫型のサーバントが現れました」
 黒髪のナイトノワール女性23歳(彼氏募集中)、サーチャー・クラヴィーアが切り出した。

「それらは秋の虫…コオロギやスズムシ、キリギリスといったものなのですが、サイズが大きいのです」
 虫といってもサーバントだ。小型の種類でも人間の子供くらいはある。

「現在はまだ被害は出ておらず、利用客からはそのままでも良いという声もあるのですが、どれも肉食なので一般人にとっては極めて危険です」
 いつサーバントが利用客に牙を剥くか分からない。これから秋の行楽シーズンを迎えるに当たって、運営側としては問題は早めに片付けておきたいのが本音だ。

「というわけで魔皇様方は虫型のサーバントを退治してください。サーバントの数は不明ですが目撃情報の多さから、かなりの数がいると思われます。それに…例の神帝軍残党グレゴールが関わっている可能性もあります。くれぐれもお気をつけて。それでは、お願いします」
シナリオ傾向 サーバント退治
参加PC 彩門・和意
礼野・智美
月島・日和
クロウリー・クズノハ
【神魔狂奏曲】虫の唄
●朝靄

 うっすらと朝靄のかかった早朝、コスモスの花が咲き乱れる公園に魔皇たちが集まっていた。目的は虫型サーバントの駆除である。予定より魔皇の人数が少なかったため、今日1日公園を封鎖して行うことになった。

「巨大コオロギ、鈴虫、キリギリス…子供の好きそうな虫ばっかりなんて…」
「…アスはともかくエリは好奇心旺盛ですからね。二人の耳に入る前に始末しなくては…」
 礼野・智美とその逢魔のユフィラスが言った。アスとエリとは智美の養子とその逢魔の愛称だ。
「牡丹だと時間制限ありますし…虫だと生命力強いですから弓は効果薄いような…逢魔の短剣は最後誰が使ったんでしたっけ…」
「あれだと相当接近しないときつくないか?アスの雪月華借りていった方がいいんじゃ」
「そうですよね…いつもの人が裏にいるとしたら、また増援来そうな気もしますし…」
 智美の言葉に納得したユフィラスは、日本刀・雪月華の柄を握った。例の神帝軍残党グレゴールを警戒してのことだ。

「いやあ、前回は赤いネフィリムに手も足も出ない上、救援対象の試作機に救われて。面目ない事この上ないですね、はっはっはっ」
「和意様、挽回の機会はきっとすぐに訪れますからどうか落ち着いて下さい」
 半ば自棄気味(?)の彩門・和意を逢魔の鈴が宥めた。
「大丈夫ですよ鈴さん。今回は憂さ晴らし…いえ、リベンジといきましょうか!」
「……」
 本当に大丈夫なのかな…と不安になる鈴であった。

「子供ほどの大きさの虫…それって虫って言うんでしょうか。秋の虫もあのサイズで鳴くからこそ虫の音は風流、と思えるのでしょうけど、そんな大きなサイズで鳴いたら鳴き声が破壊音波並みとかそんなことはないのでしょうか」
 月島・日和が疑問を口にした。
「でかい虫の鳴き声なんてちっとも風流じゃない。…と、思ったが、どうも違うようだぞ」
 逢魔の悠宇がそれに答える。公園の担当者に尋ねてみたところ、虫型サーバントの鳴き声は通常のコオロギなどとそう変わりはないそうだ。だからこそ、近隣からの苦情も無かったというわけである。和意などは耳栓を用意していたが、どうやらつける必要はなさそうだ。

「そんなことは関係ない。サーバントなら退治するのみ!ふんふんふんふん!!」
 物凄い速度でスクワットをしているのはクロウリー・クズノハである。
「まあ、肉食だそうですから、放っておくわけにはいきませんわよね」
 メイド服に身を包んだ逢魔のカレンが付け加えた。そう、利用客に被害が出てからでは遅いのだ。
「よし!準備運動完了!そんじゃいくか!!」
 カレンにタオルで汗を拭いてもらいながら、クロウリーが気合の入った声で言った。それが合図となって、魔皇たち一行は行動を開始した。

●駆除

「せぇぇいっ!!」
 和意が燕貫閃を付加したドリルランスでラージクリケットの胴体を貫く。
 身体に大穴を開けられたラージクリケットは体液を撒き散らしながらしばらくもがいた後、ぐったりと動かなくなった。
「はあっ!」
 続いて鈴が大鎌を構えて、跳躍しようとしたグラスホッパーの脚を刈る。
「…ごめんなさい」
 そして、動けなくなったグラスホッパーの頭部を斬り落とし、止めを刺した。

 虫型サーバントを発見するのは容易だった。もともと身体が大きい上に公園内は手入れが行き届いているので背の高い雑草などは無く、隠れる場所があまりないのだ。
 サーバントはちょうど寝入る時間帯だったのかあまり動く様子もなく、先制攻撃を仕掛けることも出来た。

「虫だけに生命力が高そうだからな…一撃で決める!!」
 ユフィラスの忍び寄る闇で動きの鈍ったラージベルリングを智美が真両斬剣を付加した真シルバーエッジで文字通り一刀両断する。悲鳴を上げる間もなく絶命するラージベルリング。
「やはり数が多いですね…僕も行きますか…!」
 上空で様子を窺っていたユフィラスが日本刀・雪月華を手にもう一体のラージベルリングへ躍り掛かる。連続で繰り出される斬撃。4〜5発ほど喰らったところで、ラージベルリングは倒れ付した。

「害になる可能性がある以上、気の毒ですが排除させてもらうしかありません…」
 日和も悠宇の忍び寄る闇で弱った敵を真・水炎による近接攻撃で葬っていた。
 せめて苦しまぬようにと出来うる限り一撃で…
「仕方ねえよ。こいつらはサーバント、本来この世に存在するべきじゃないものだ」
 気後れしがちな日和を励ましながら真リッピングウィップを振るう悠宇。
「…うん、そうよね。気にしても仕方ないよね…」
(まったく、優しすぎるんだよ、お前は)
 浮かない顔の魔皇を気遣う逢魔であった。

「どりゃあああああっ!!」
 そんな魔皇がいる一方で、日本刀・クロウブレードを手にラージクリケットの群れに突撃してばっさばっさと斬り倒しているのはバトルマニア・クロウリーである。こちらはそんなことはまったく意に介さず殺戮の限りを尽くしている。サーバントの体液にまみれて戦う姿は正に戦鬼であった。
「……さーて、ここら一帯はこれで終わりか?」
 死屍累々の山を築いたクロウリーが言った。
「お、終わりましたか?うっ、クロウ様…くしゃいです」
 木陰からもそもそと出てきたのはカレンである。カレンは虫が苦手なようで、忍び寄る闇を放ってからは木に隠れていた。
「おうよ!うん?臭いとな?失礼だな!ほれっ!」
 体液まみれのクロウリーが鼻をつまんでいるカレンに向かってラージクリケットの頭部を放り投げた。
「きゃー!!いやー!!」
 わたわたと逃げ出すカレン。
「あっはっはっはっはっ!!」
 大笑いするクロウリー。

「……」
「まあ、感じ方は人それぞれだわな」
 無言の日和の肩に手を乗せる悠宇。

「うーん、この分だと手分けした方が早いかもしれませんね」
「公園はかなり広いですし、サーバントの数もかなりいるみたいですし」
 和意と鈴が提案した。湖畔公園は約10エリアに分かれており、そのほとんどで虫型サーバントが目撃されている。この調子でやっていると日が暮れてしまうかもしれない。

「そうだな。賛成だ」
「見たところサーバントはそれほど脅威でも無いみたいですからね。忍び寄る闇があれば無抵抗も同然ですから」
 智美とユフィラスが頷いた。

「それでは、定期的に無線で連絡を取り合うということで」
 コアヴィークルに跨りながら日和が言った。

「了解だ」
 めそめそ泣いているカレンの頭を撫でて慰めてやりつつ、クロウリーも頷いた。

●憤怒

「こちら彩門。サーバントの掃討が完了しました」
『了解です。こちらももうすぐ終わりますので、少し待っていて下さい』
「分かりました。オーバー」
 結局サーバントが片付いたのは既に夕方。今のは湖畔のひろばを担当していた和意と、隣の水のひろばを担当していた日和との通信だ。
「やっと終わりましたね、和意様」
「ええ、まったくどこからこんなに湧いて出たんだか。もうくたくたです」
 和意がその場にへたり込みながら嘆く。すると……湖畔のベンチに座って読書をしている少女の姿が目に映った。一瞬見間違いかと思ったが、そうではなかった。
「鈴さん、公園の管理側に連絡を入れましたか?」
「いえ、入れていませんが。今日いっぱいは封鎖されているはずですけれど…」
 急に立ち上がる和意。そうだ。まだ客が入っているはずは無い。となると…
「ねえ君、今日は公園はお休みなんです。無断で入ったら怒られますよ」
 少女に話しかける。
「……」
 しかし反応は無い。ずっと本の字面を追う目だけが動いている。
「それに今はサーバントが出ていて危険なんです。さあ、早く出ましょう」
 少女の手を引く和意。
「…離して」
「っ!?」
 和意の手は人間の少女らしからぬ力で振り解かれた。やはり…
「あなたは誰です?」
「……私は」
 セーラー服を着た眼鏡の少女が本を閉じて口を開いた。ショートボブの髪が揺れる。
「…私は朝霞(あさか)。グレゴールの朝霞…」
「思ったとおりだ。例の神帝軍残党グレゴールの一味ですね!あなたには色々聞きたいことがある!!」
 和意が嬉しそうに叫ぶ。そう、仇敵に出会えたような笑みを浮かべて…
「和意様…」
 その様子を、鈴が心配そうに見つめる。

「あなたが聞きたいのは、純白のネフィリムと赤いネフィリムについて?」
「…!?なぜそれを?!」
「純白のネフィリムに乗っているのは秋山…。赤いほうは後藤…こっちはもう“処理”されたけど…」
 それだけいうと、朝霞と名乗った少女は立ち去ろうとする。
「待て!まだ聞きたいことは山ほど…」
「…もうあなたに教えることは無い」
 少女の様子が豹変する。先ほどまでの無表情とは違い、瞳には明らかに怒りの色が見えた。
「…あなたは私の子供達を殺した。許さない」
「子供達?虫型サーバントのことですか?」
「…そう。あの子達は何もしていない。人を襲ったりもしていない。なのにあなた達は殺した。許さない。聖刺弓<シャイニングボウ>」
 少女の手に光の弓矢が出現する。
「くっ!鈴さん、皆に連絡を…!」
 少女の只ならぬ様子に、一旦鈴と共にその場から走って離れようとする和意。
「もうしました!すぐに来るそうです!」
 少女は二人に向かって連続で光の矢を放つ。SFを警戒して展開しておいたディフレクトウォールでなんとか防ぐが…
「…逃がさない」
 二人の目の前に地中から複数のラージアントが出現する。
「なっ!?」
 突然のことで反応が遅れた。先行していた鈴にラージアントの牙が迫る。
「……どっせええいっ!!」
 鈴に襲い掛かろうとしていたラージアントの頭に日本刀が振り下ろされた。ひしゃげるラージアントの頭部。
「むっ、意外に硬いな。叩き切れると思ったんだが」
 クロウリーである。カレンもまた鉄扇で果敢にラージアントに挑んでいた。
 彼らは湖畔のひろばに近い、憩いの森を担当していたのですぐに駆けつけられたのである。
「大丈夫ですか?!」
 続いて日和と悠宇も到着した。
 真旋風弾を放って3体のラージアントを仕留める日和。

「うお、なんじゃこりゃ。今度は蟻か?」
「これはラージアントですね…群れで行動するはずです…厄介ですよ…」
 やや遅れて智美とユフィラスも到着する。

「……」
 眼鏡の少女、グレゴール・朝霞はゆっくりと魔皇たちを見回した。
「…今日はこれだけ?」
「そうだが?お前が今回の犯人ってわけか」
 智美が答える。
「…なら、ちょうどいい」
 朝霞がそう呟いた次の瞬間、地響きと共に地中から次々とラージアントの群れが出現した。その数、50は下らないだろう。
「これは!?」
「また豪勢だな…」
「囲まれると危険です!必ず二人以上で戦ってください!」
 それぞれの得物を構える魔皇たち。
 朝霞もまた再び手に光の弓矢を作り出し、魔皇と逢魔に向けて放とうとするが…
『朝霞様、お迎えに上がりました』
 突如として空から舞い降りる3騎のパワー級ネフィリム。
「…!?私はまだ戦える」
『朝霞様にお怪我があっては困ります。さあ…』
 地に跪き、手を差し出すネフィリム。
「私が負けるとでも?誰の命令?」
『北口様です。どうか、ご理解ください』
「…そう、あの人が…」
 その名を聞くと、朝霞の瞳から怒りの色が消えた。
 ゆっくりとネフィリムの手に乗る朝霞。
「待て!…くっ、邪魔だ!!」
 和意が叫ぶがラージアントをどうにかすることだけで精一杯でそれどころではなかった。
 そうこうしているうちに、飛び去ってゆくネフィリムの編隊。
「くそっ!!」
 和意の悔しげな叫びだけが、夕焼けに染まる秋の空に響くのだった…