■【神魔狂奏曲】虫の女王■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 とりる
オープニング
「みちのく杜の湖畔公園の地下にラージアントの巣が存在することが明らかになりました」
 クラヴィーアが険しい表情で口を開いた。
 前回、魔皇たちが虫型サーバントの駆除を行った際に地中からラージアントが出現したのだ。
 そして調査の結果、地中深く、かなり入り組んだ構造の大規模な巣の存在が判明した。

「ラージアントは群れで行動し、人を襲います。このままでは周囲に被害が出ることは確実ですので早急な対処が必要です。魔皇様方はこの巣に突入し、最深部に居ると思われるラージアント・クイーン(女王蟻)を撃破してください。尚、巣の規模がかなり大きいため、今回はパトモス軍神機装鎧小隊との共同作戦になります。そして音紋による調査の結果、ラージアントの推定個体数はおよそ5千。非常に多いです。巣の内部では激しい遭遇戦になると思われます。くれぐれも、お気をつけて」
 そういって、クラヴィーアは深々と頭を下げた。
シナリオ傾向 突入作戦
参加PC 彩門・和意
礼野・智美
月島・日和
風祭・烈
黒江・開裡
月村・心
ミティ・グリン
クロウリー・クズノハ
【神魔狂奏曲】虫の女王
●ブリーフィング
「あー、俺は神機装鎧小隊隊長の佐藤・武だ。階級は少尉。よろしく頼む!」
 佐藤少尉はぶっきらぼうに挨拶しながら、ラージアント・クイーンを討伐すべく集まった魔皇達を見回すと、ニカッと笑った。年の頃は21。まだ若干幼さの残る顔立ちだ。
「そいじゃ、今回の作戦概要に付いて説明するぞ。まず俺達神機装鎧…めんどいからハガイ小隊でいいや。が、3個分隊に分かれて突入する。これはあれだな、お前達に敵が集中しないようにするための陽動も兼ねている。そして俺達が敵を引き付けている間に、お前達は最短ルートで巣の最深部を目指してくれ」
 彼らに細かな指示を出そうとしていた魔皇もいたようだが、共同作戦とはいえ彼らは軍人だ。彼らに命令を下せるのは彼らの上官だけである。まあそれでも簡単な要請であれば聞き入れてくれるだろうが。
「で、これがマップと通信機だ」
 佐藤少尉は魔皇に1人につき1つずつ携帯端末と無線機を手渡した。
「その端末に巣全体のスキャンデータが入っている。赤い線で示されているのが最短ルートだ。それに従って進んでくれ。現在位置も表示されるんで迷うことは無いだろう。迷ったらよほどの方向音痴だ。俺は迷子の迎えには行かんからな?」
 冗談めかして佐藤少尉が言う。顔は笑っているが実は真剣だ。
「と、ここまでご丁寧にお膳立てしてくれたのは高槻博士だ。俺も博士の命令でここに来ている。ったく、人使いが荒いよなあ、あの人」
 ぶつぶつと文句を言う佐藤少尉。…ここまで正確な巣のデータが得られたのは博士のお陰のようだ。
「ちなみにバッテリーは予備を大量に用意してあるので稼働時間の心配はしなくていい。あと、お前達には二名の隊員を同行させる。“ケツ”は守ってやるから安心してくれ」
 また笑う佐藤少尉。聞いていたようにくだけた性格のようだ。

「パトモス軍が全面的にバックアップしてくれるというわけか。思ったよりもスムーズにいけそうだな。しかし…巨大蟻の巣で女王蟻退治…。この歳になって御伽噺のガリバーの気分を体感出来るとはね」
 巨大蟻の巣に突入というのは心踊るものがあるのか、微かに目を輝かされているのは黒江・開裡である。
「いつまでも子供心を忘れないというのは悪いことではないですよ。誰かさんみたいに中身が全部子供でも困りますけれどっ。…それとどうでもよいのですが、“ケツ”って…もう少し…言葉をですね…」
 軍隊式の下品な言葉に頬を染めつつ抗議するのは開裡の妻であり逢魔のクレイメーアだ。

「昔、何度か巨大昆虫に襲われるパニック映画を見た事があるんだけど…、まさか自分が登場人物になるとは思わなかったよ」
 ミティ・グリンは開裡と同じく、おとぎばなしか映画の主人公にでもなったかのような気分になっていた。
「…まだまだ余裕そうですね」
 それを逢魔のマイが冷静に突っ込む。
「多分SFで制御してるんだろうけど、公共の場所で外来種の放し飼いとか、迷惑行為以外の何者でもないよね」
「…軍だけで処理出来ない程の規模の事件を、迷惑の一言で片付けるのはどうかと思います」
「んもう、わかってるよ。とにかく、一般人に被害が出る前に片付けなくちゃね!」
 気合を入れ直すミティ。二つに分けた金色の髪がサラサラと風になびいた。

「残党聖鍵戦士に使われても厄介だし、蟻がビルシャスまで行った日には大惨事だぞ…こっちだって子供いるんだ、人襲う危険性がある以上退治する!」
「増援が出る前に女王アリ退治が理想。他の蟻も叩き潰せるだけ叩き潰したいです」
 大切な人を守るため、意気込んでいるのは礼野・智美とその逢魔のユフィラスだ。
「今回も雪月華借りてったほうがいいと思うぞ。後【忍び寄る闇】頼むな」
「働き蟻なら効果ありそうですよね。ナイトノワール4人参加ですからある程度なら動きを封じられますでしょうか?数が多いので油断は出来ませんが…」
 智美からの要請に頷きつつ、日本刀・雪月華を握り締めるユフィラスであった。

「よろしくお願いします。今回の作戦は僕達が要のようですね。責任重大だ…」
 ハガイ小隊の面々に挨拶をしつつ、彩門・和意は緊張に顔を強張らせていた。過去にラージアントの巣を攻略した経験はあったが、今回は規模がかなり大きい。
「和意様、あまり気負わないほうがいいですよ。後ろにはパトモス軍の方々がついてくださるようですし」
 主の手を握り締め、気遣う逢魔の鈴。
「そうですね…ビビっていてもしょうがない。男は度胸だ!」
「ええ、頑張りましょう」
 力強い主の言葉に微笑む鈴。

「この巣を作らせたのは前回現れたグレゴールの少女なのでしょうか…秋の虫のサーバントもそれのカモフラージュで…」
 月島・日和は神妙な面持ちで思考を廻らせていた。虫型サーバントの背後にいたグレゴールの少女、朝霞。彼女が今回の事件の元凶なのだろうか。
「あれこれ考えていても仕方ないぞ。今は女王蟻を倒すことだけに集中すればいい」
 逢魔の悠宇がそう諭す。
「…うん、そうだね。考えても仕方ないね。今はやるべきことをやらなきゃ」
 ぐっと拳を握る日和。

「今度は巨大蟻か!」
「すごい数みたいですね…大丈夫でしょうか…」
 バトルマニアことクロウリー・クズノハと、メイド服から秘書服に着替えたカレンである。
「敵が目の前にいれば倒す!それだけのこと!ふんふんふんふん!!」
 激しく腕立て伏せを始めるクロウリー。
「クロウ様、まだくしゃいです…」
 鼻を押さえるカレン。前回虫型サーバントを退治してから2日ほど経っていたのだが、どうやら服は着替えていないようだった。
「着替えてくださいまし」
「ん?ああ、分かった」
 カレンから着替えを受け取ると、その場でおもむろに服を脱ぎ始める。
「……ん?どうしたカレン、なぜ後ろを向いている?」
 顔を背けているカレンの顔を覗き込むクロウリー。すると…
 ごすっ!
「ぐばああ!!?」
 鈍い音を立ててクロウリーの顔面にカレンの拳がめり込んだ。昏倒するクロウリー。
「クロウ様のバカー!!着替えるならどこか見えないところにしてください!!もう知らない!!」
 赤らめた顔を両手で隠し、走り去るカレン。

「おーい、作戦が始まるまでには帰ってこいよー」
 その様子を呆れ顔で見ていたのは月村・心だ。
「デカイ蟻ねえ…殺虫剤でも噴いて駆除すれば早いんじゃねぇのかとも思うが…」
「そんなもんでサーバントを倒せたら軍隊はいらんぞ」
 重パワードスーツ・ハガイを着込んだ佐藤少尉がぬぅっと現れた。
「うおっ!?…驚かせるなよ。しかし思っていた以上にゴツイな、ハガイってのは」
「ゴツイだけじゃないぞ。パワーもすごい。コイツならドラゴンともやり合える!」
 ふんぞり返る佐藤少尉。
「ホントかあ?まあ、頼りにさせてもらうぜ」
「はっはっはっ!任せておきたまえ!」
 …ちょっと不安になる心であった。

「流伝の泉で初めて受けた依頼もラージアント退治だったな。あの頃と比べて、俺は変わったのかな」
 風祭・烈が感慨深そうに言った。
「変わりましたよ。あの頃に比べると烈は逞しく、心強くなりました」
 逢魔のエメラルダはそんな烈を見て優しく微笑む。
「そう言ってくれると嬉しいよ。エメラルダの期待に添えるようにしないとな」
「うふふ、ちゃんと守ってくださいましね」
 嬉しそうなエメラルダであった。

「隊長!各分隊から連絡!突入準備が完了したとのことです!」
 小隊付下士官が威勢良く佐藤少尉に告げた。
「よぉーし、それじゃあ作戦開始だ!蟻退治といこうぜ!各員の健闘を祈る!」

●突入
「最深部までもう少しですね」
 各々のライトに照らされたラージアントの巣の中で和意が言った。作戦は今のところ順調である。特に問題もなく最短ルートを進んできていた。
「しかし拍子抜けだな。もっと数がいるものと思っていたが」
 心が呟く。ここに来るまでラージアント数十匹との散発的な戦闘しかなかった。魔皇が8人、それに加えて逢魔が7人もいれば楽勝だった。それにハガイを装着した隊員2名が背後を守ってくれている。
「ハガイ隊の陽動が上手くいっていると思いたいですけれど…そう甘くは無いでしょうね」
 制圧した通路の側面の穴を順次土嚢で封鎖していたのも効果があったのかもしれないが油断は禁物、といった感じで日和が釘を刺す。
「それじゃ、先を急ぐとしますか」
 開裡がそう言ったそのとき――
 ゴゴゴゴゴ…!
 振動が通路全体を揺さぶる。
「な、なに?」
 ミティが不安そうな声をあげる。
「この通路に向かってラージアントの大群が移動してきています!その数約1000!」
 ハガイ隊員の一人が叫ぶ。
「なんだって?!」
『ザザー…おーい、聞こえるか?こちら佐藤』
 佐藤少尉からの通信だ。
『そっちに団体さんが移動中だ。通路で相手にするのは自殺行為。その先に開けた場所がある。そこでお出迎えをしてやれ。…ちっ、こっちにも来やがった』
 佐藤少尉の声の後ろでは20mmガトリングガンの射撃音が響いている。
『というわけでこっちも手一杯。残念ながら援護には行けない。死んでくれるなよ!以上、通信終わり!』
 そういって通信はプツンと切れた。
「急いだ方が良さそうだな…」
 額に汗を流しつつ智美が言う。
「走るぞ!」
 烈がエメラルダの手を引いて走り出すと、全員がそれに続いた。

●混戦・激戦
 数分ほど走ると、開けたホールのような場所に出た。小さな体育館ほどの広い場所だ。
「地下にこんなに広い場所があるなんて…」
「確かに、ここなら相手にしやすそうだな」
 周りを見回して驚いた様子のクレイメーアと、真パルスマシンガンを構える開裡。
 …ほどなくして、ウォーリアー級を先頭にしたラージアントの大群が出現した。
「出やがったな!化け物蟻どもめ!」
 心が叫ぶ。それと同時に、二機のハガイから有線誘導式ミサイルが発射され、炸裂した。
「いきます!!」
 続いて日和が真マルチプルミサイルを放つ。連続して巻き起こる爆発。飛び散るラージアントの肉片。
 それでもなおラージアントの大群は突き進んでくる。
「ユフィラス!」
「悠宇!」
「クレイメーア!」
「カレン!」
 魔皇がそれぞれナイトノワールの逢魔の名前を叫ぶ。主の声に答え、逢魔達は忍び寄る闇を発動。ラージアントの大群を禍々しい闇が包み込む。そして、白兵戦が始まった。

「カレンはやらせんぞ!どりゃあああああ!!」
 右手にクロウブレード、左手にジャンクブレイド、頭にビーストホーン、背中にシュリケンブーメランと、完全武装したクロウリーが突撃し動きの鈍ったラージアントをばっさばっさと斬り裂いてゆく。
 キシャー!!
 ウォーリアー級の尖った顎がクロウリーの頬をかすめる。しかしクロウリーは出血を気にもせずにビーストホーンによる頭突きでウォーリアー級の頭を潰し、両手の剣で胴体を切り刻む。
「クロウ様…」
 虫嫌いなカレンはクロウリーの背後で守られつつ、祈るしかなかった。

「せいっ!てやあっ!」
 ミティは真衝雷符をラージアントの頭部に貼り付け、起爆し、一匹ずつ確実に倒していた。
「おおっと危ない!」
 中距離から飛んでくる強酸を避けつつ真ロケットガントレットを放ち、同じく頭を潰す。
「…紙一重で避けるのは危険です。もっと余裕を持ってください」
 マイが偽シルバーエッジでラージアントを捌きつつ淡々と言った。
「大丈夫、無理はしないよ!」
 また一匹、ラージアントの頭部が爆ぜた。

「感覚器官さえ潰せば…!」
 智美が真デヴァステイターの3点バースト射撃で近づいてくるラージアントの触覚や目を狙い撃った。
「はあああああっ!!」
 そして身動きの取れなくなったラージアントの頭を真シルバーエッジで叩き割る。
「やりますね。でも僕だって!」
 ユフィラスも負けじと智美の横で日本刀・雪月華を振るっている。

「酸だー!!」
 開裡がウォーリアー級から放たれた強酸に向かって叫ぶ。
「そんなことはいいから避けてくださいー!!」
 クレイメーアも叫ぶ。
「分かってるって。言ってみたかっただけだ!」
 真魔炎剣を付加した両手剣・血の復讐者で防ぐ。
 ついでに真シルバーエッジでウォーリアー級を両断。その反し刃で隣にいたワーカー級も斬り裂く。
「数だけいたってね」
「まったく…心配させないで下さい」
「ははは、すまんすまん」
 頬を膨らませるクレイメーアに開裡は笑いかけた。

 十数分後――
 ホールには骸と化した夥しい数のラージアントが転がっていた。

「流石に疲れましたね…」
 ドラゴンスタッフで只管ラージアントを焼却処分していた和意が嘆いた。
「ああ、だがあまり休んでいる暇はない。第二波が来るかもしれないからな」
 智美が真シルバーエッジにこびりついたラージアントの体液を拭いながら言う。
「そうですね…確かにこのような大群に何度も来られたらこちらが持ちません」
「そういうわけだ、いくぞ」
 智美の合図で、魔皇達はラージアントの死骸を避けながら最深部を目指した。

●虫の女王
「ここか…」
 魔皇たちは何度か戦闘を潜り抜け、ついに最深部に到達した。
 先ほどのホールよりも広い、小規模のドーム内のような空間。
 周りは卵や蛹で埋め尽くされ、そして中心には最優先撃破目標、ラージアント・クイーンが座していた。大きさはウォーリアー級の数倍はあるだろう。
「こいつを倒せばいいんだな!いくぜ!!」
 まず心が動いた。真インフェルノウィングの熱風で内部を焼き払う。燃え上がる卵や蛹。
 それに気付き、数十匹のウォーリアー級と、子を燃やされ怒り狂ったクイーンが襲い掛かってきた。
「ウォーリアー級は頼むぜ!俺はクイーンをやる!」
 心は飛翔し突撃する。
「ああ!任せろ!」
 それに答えたのは両手に真クロムブレイドを構えた烈である。
「引き受けたからには一匹たりともエメラルダの下へはいかせられなくてな、ここで通行止めだ!!」
 後方に控えたエメラルダの勇躍の歌声が響く。
 その歌声に後押しされ、烈は鬼神の如き戦いぶりをみせた。
 烈が動くたびにウォーリアー級が次々と倒れ伏す。

 真狼風旋で機動力をアップさせた心がクイーンの節々を狙って何度も攻撃を加える。
 それに耐えかね、クイーンは悲鳴を上げる。
 そして心は真燕貫閃を付加した真フェニックスブレードと真ホルスジャベリンの突きをクイーンの腹に叩き込み、止めを刺した。
 断末魔を上げ、ズシーンという地響きと共に地に沈むクイーン。
「…でかすぎるのも考えモンだな?」

 その後、魔皇達やハガイ隊は無事脱出し、巣は爆破処理された後に工兵部隊が埋め立てた。
 皆の憩いの場である公園は魔皇達の働きによって守られたのだ。