■【神魔狂奏曲】プレリュード■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 とりる
オープニング
 しんしんと雪が降り積もる。
 用水路のあちこちからは湯煙が上がり、硫黄の香りが漂う。
 山間の温泉郷、そこは宮城県鳴子町。
 浴衣姿に木のサンダルを履いた一組のカップルの姿があった。
「たーくん、温泉気持ちよかったねーやっぱり露天風呂は最高だよねー」
「そうだね、ゆーちゃん。天然ものは違うよ」
「もうお肌もぷりぷりのすべすべ。うふふ、触ってみる?」
「え、ええ!?あ、後でね」
 その時…
「きゃー!?」
 甲高い女性の悲鳴。
 ガアアアアアア!!!!
 続いて獣のような雄叫び。
「な、なに?」
 驚いた彼女が周りを見渡す。
 そこには3mはありそうな体躯の巨人が暴れまわり、逃げ惑う人々の姿があった。
「何だ…アレ…?と、とにかく僕たちも逃げ…」
 刹那――
 隣に居た彼女の身体が吹き飛ばされ、ガードレールに激突した。
 ぐったりと動かなくなる彼女。白い地面が赤く染まってゆく…。
 突然現れたもう一体の巨人が彼女を殴り飛ばしたのだ。
 彼氏にはその様子がスローモーションのように見えた。
 状況が飲み込めずにその場に呆然と立ち尽くす彼氏。
「避けろ!!」
「えっ?」
 振り向いたその先に巨人の拳が迫っていた。
 …が、その拳は彼氏に届くことはなかった。
「うつけ者!なにをしている!」
 目の前に先ほどの巨人が倒れている。腹には大穴が開いていた。
 そこからどくどくと血が溢れて……
「そうだ!ゆーちゃん!!」
 彼氏は慌てて彼女へと駆け寄り呼吸の有無を確認する。
 …まだ息はある。安堵する彼氏。
「一刻も早く女を抱えてこの場を離れよ!」
「あなたが助けてくれたんですか?」
 自分を助けてくれたのは白銀の鎧を全身に纏い同じく白銀の仮面を被った人物だった。
「ああ」
 仮面の人物は短く答える。
「あ、あなたのお名前は…?」
「……メタトロン。機甲天使メタトロンとでも名乗っておこうか」
「機甲…天使…」
 その姿はまさに…
「そんなことは如何でもよい。まだ敵は残っている。早く!」
「は、はい!」
 彼氏は彼女に応急処置を施すと、抱え起こして足早に去って行った。
「まったく、保養のつもりがこれか…」
 巨人は二体だけではなかった。今しがた倒したもので十数体目。
 視認しただけでも百体近く居るだろう。
 メタトロンはふう、と息を吐く。
「…参る!!」
 時間は、あまり残されていなかった…。


「鳴子温泉郷にサーバントの集団が現れました。魔皇様方は直ちにコアヴィークルで現場へ向かい、これを全て排除してください」
 サーチャー・クラヴィーアが口を開く。
「サーバントの種類はオーグラと思われます。ですが、体躯が通常のものより大きいようです。変種かもしれません。注意してください。油断の無いようお願いします」
 オーグラ――オーガ種の中でも最高位に位置するなかなかの強敵である。
 魔皇にとってはさほど問題ではないが人肉を好んで食すため、人間にとっては大いなる脅威に他ならない。
「周囲が山で、しかも雪が降り積もっているため、避難や救助がままならない状況です。時間はあまりありません。どうか、お願いします」
シナリオ傾向 強化サーバント戦
参加PC 礼野・智美
月島・日和
音羽・聖歌
風祭・烈
ミティ・グリン
クロウリー・クズノハ
【神魔狂奏曲】プレリュード
●急行
 デビルズネットワークから依頼を受けた魔皇達は列を成してコアヴィークルをで走らせていた。山肌に囲まれた雪原の上を駆け抜けてゆく。
「聖歌、神無、来てくれて感謝する。無茶を言ったのは分かってるけど、人命優先だ!」
 コアヴィークルのハンドルを握りながら礼野・智美が音羽・聖歌とその逢魔の神無に向けて謝礼を述べた。
「智!お前神無がサーバント嫌いなの分かってて言ってんのか!?」
 声を荒げる聖歌。
「だから分かってるって言ってるだろ…!十分承知してるさ!けど一刻を争うんだ、私はどうしても1対多数だと不利だし、確実な回復方法を持っているのはうちでは神無だけだ、頼む、力を貸してくれ!!」
 智美が頭を下げる。滅多な事では頭を下げたりはしない智美が、だ。
「…智美さんが頼むなんて言うの久しぶりに聞きましたよ。私の事はユフィさんが守ってくれると言ってくれてますし、人命第一です。行きましょう、聖歌」
「…ああ、解ったよっ。神無がそういうならなっ」
 微笑む神無。聖歌はばつの悪そうに渋々頷いた。
「お願いしますね…」
 ユフィラスは出発前に急いでプリントアウトしてきた鳴子温泉の地図を握り締めながら、静かに、神妙な面持ちで呟いた。
 ともあれ急がなければならない。魔皇達はコアヴィークルの速度を上げるのだった。

●鋼の天使
 普段は静かな温泉街は、悲鳴と怒号――阿鼻叫喚の渦に包まれていた。
 全ては突如として出現した人喰い鬼、オーグラの為である。
 人間を捕食対象としか認識していない異形の生物達は次々とその場に居合わせた人々を蹂躙していく…
 かに思えたが、ただ1人、戦う者がいた。
 全ては愛すべき市民のため。孤独な戦いを続けていた。
 冷たい鎧に身を包み、白銀の仮面に素顔を隠した鋼の天使。
 彼女の名は――機甲天使メタトロン。
「はあああっ!!」
 彼女は拳を振るう。かけがえの無い命を守る為。
「せやあああっ!!」
 彼女は脚を蹴り出す。己が信念を貫く為。
「(私は誓ったのだ、人を守ると。守って見せると。インファントテンプルムに…そして、姉上に…)」
 繰り出される彼女の拳や蹴りにオーグラは次々と倒れてゆくが、一向に減る様子は無い。
「はあ…はあ…くっ」
 そう、数が多すぎるのだ。いくら彼女が強かろうとも100体近くいるオーグラ全てを倒せるはずもない。
「だが…私は負けるわけにはいかんのだっ!!」
 メタトロンが叫んだその時――
「機甲天使メタトロン、俺以外にもあんな物好きがいるとはな」
「貴女は1人ではありませんわ」
 後ろから声。
「なにっ?」
 メタトロンが振り向くと、そこには不敵な笑みを浮かべたライダースーツ姿の青年と、エメラルドグリーンの美しい髪をもつ女性が佇んでいた。
 風祭・烈と逢魔・エメラルダである。
「助太刀に来た」
「……ふっ、そうか。信じてよいのだな?」
「ああ」
 烈は頷く。
「ならば、当てにさせてもらおう!!」
 メタトロンは再び拳を握り締めオーグラの集団へと向かってゆく。
 烈も真グレートザンバーを召喚し、それに続いた。

「機甲天使か…。ねえ、マイ。ボク達も今度ああ言うのやってみない?セーラー服着て、お面被って」
「…そう言うヘヴィなのはミティ1人でやって下さい」
 その様子を後方で見ていたのはミティ・グリンと逢魔のマイだ。
「…それよりミティ」
「うん、わかってるよ。ボクたちもいこっ。もう他の皆も行動を始めてる」
「ええ」
 ツインテールを風になびかせてミティは走り出す。
 マイも愛銃のミニミを抱えて後を追った。

「でぇぇぇい!!」
 烈が気合とともに真グレートザンバーを振るう。その刃はオーグラの肩に深々と食い込みそのまま片腕を切り落とす。しかし…
 肩口から切り落とされた腕はみるみるうちに再生してしまった。
「なっ…!?」
「気をつけろ。こやつらはただのオーグラではない。再生能力を持っている。一撃で倒さねば瞬時に回復してしまうぞ」
 メタトロンが跳躍し鉄拳でオーグラの頭部を砕きながら言った。
「それはまた…厄介だな…だが!!」
 今度はザンバーを水平に構え渾身の力を込めオーグラの心臓に突き刺した。ズシーンと音を立てて倒れ伏すオーグラ。
「流石に脳や心臓を潰されては再生できないだろう」
「そういうことだ。…ん?」
 メタトロンの仮面の内部、彼女の網膜に投影されているエネルギー残量・残りの稼動時間が1分を切っていることに気付く。
「もう時間が無い…ならば残りのエネルギー、全て貴様らにくれてやる!!」
 オーグラの集団を指差してそう言い放つとメタトロンはおもむろに、ベルトのバックルに付いている三つのボタンのうち一つを押した。
 すると…彼女の両腕に黒い光の粒子が収束し始める。
「ゆくぞ!!」
 大きく跳躍。
「重力拳<グラヴィティフィスト>!!」
 着地と同時に両腕を突き出す。二体のオーグラの腹にメタトロンの拳が勢いよくめり込む。
「爆・発!!」
 次の瞬間、二体のオーグラは内側からバラバラに砕け散った。
「まだだ!」
 オーグラの血と体液を浴びながら続いてメタトロンはバックルの三つのボタンのうち二つを同時に押す。
 すると今度は彼女の脚がバチバチッとスパークし始めた。
「私の市民にこれ以上手出しはさせん!!」
 メタトロンは4枚の翼を広げ上空へと舞い上がる。
「吹き飛べ!!稲妻脚<ライジングスマッシュ>!!!!」
 帯電した脚を向けたまま滑空しオーグラの群れに突っ込んだ。辺りにドドーンという雷鳴が轟く。
 …煙が晴れたあとには、焼け焦げたオーグラ十数体の死骸とメタトロンの姿があった。
「すごいですわね」
「ああ…」
 烈と、負傷者の治療を行っていたエメラルダは呆気に取られた。
「ふふっ、まあアレだ。必殺技という奴だな」
 得意げに言うメタトロン。ヒーローに憧れる烈はちょっと羨ましいと思ってしまった。
 その時――
 ピコンピコンピコン。アラームが鳴りメタトロンの胸の宝石のような飾りが赤く点滅しだす。
「…すまぬが時間のようだ。あとの事は任せる。そなた達ならやり遂げてくれると信じているぞ」
「ああ、任せておいてくれ」
「では…頼んだ」
 メタトロンは再び4枚の翼を広げて飛び去っていった。
「…さて、まだオーグラは残っている。行くぞ、エメラルダ。彼女が守ろうとしたものは俺達が守らなきゃな」
「ええ、わたくしも同じ想いです」
 二人もまた、走り出す。

●憤怒
 月島・日和と逢魔・悠宇は逃げ惑う人々に小学校の校庭へ避難するよう呼びかけつつ、コアヴィークルで役場に向かっていた。町内全体へ案内放送を流してもらうためだ。
「(なぜ今になってサーバントが大量に発生したのかしら…しかもこんな山間の町に…)」
「日和!」
 タンデムシートの後部座席に乗っている悠宇が叫ぶ。
 目の前には今にも観光客らしき女性に襲い掛からんとするオーグラの姿が!
 日和ははっと我に返り、コアヴィークルのスピードを上げてオーグラに突進させる。
 弾き飛ばされるオーグラ。間を置かず日和は真・水炎を召喚し、すれ違いざまに倒れているオーグラの首を刎ねた。事前に無線機を全員に配っており、先ほど烈からの連絡で既にオーグラに再生能力があることは皆が把握していた。
「大丈夫ですか?」
 コアヴィークルを降り、襲われかけて腰を抜かしている女性に手を差し伸べる。
「ひ、ひぃっ!近寄らないで!!」
 女性は日和の手を跳ね除けて一目散に逃げてしまった。
「……」
「日和…」
 悠宇が心配そうに声をかける。
「ううん、いいの。化け物扱いされているのは慣れているから。あの人が無事ならそれで…。それより急ぎましょ」
「ああ」
 二人は再びコアヴィークルに跨る。

 役場に到着すると、コアヴィークルを送還して急いで中へ駆け込む。すると――
 ぷーんと立ち込める嫌な臭い。今はもう嗅ぎ慣れてしまった、甘ったるい血の臭い…。
 役場内は血の海と化しており、辺りにはオーグラが喰い散らかしたと思われる人間の内蔵や肉片、骨などがいたるところに散らばっていた。
「なに…これ…」
「こりゃひでぇ…」
 役場は重要設備が揃っているため、真っ先に狙われたようだ。
 吐き気を堪えつつ二人は生存者が居ないか探して回る。
 通路の角に差し掛かるとなにやら音が聞こえてきた。
 バキッ…ポリ…クチャクチャクチャ…
 何かを租借する音…嫌な予感が頭をよぎる。
 急いで角を曲がると、そこは…
 複数のオーグラが今まさに人間を喰らっている場面だった。
 見るもおぞましい光景。カニバリズム。
 二人に気付いたオーグラの一体が口に含んでいた人間の腕をぺっと吐き出し、こちらへ向かってきた。
「おい日和!」
「……」
 日和は黙ったまま。
「なにしてんだ!早く魔皇殻を召喚しろ!」
「……」
 日和は俯いたまま。
 立ち尽くした日和にオーグラの拳が迫る。
「…お前達が…お前達が皆をぉぉぉっ!!!!」
 日和は真・水炎を召喚すると凄まじい速度で自分に迫っていたオーグラの腕を切り落とす。そのまま心臓を貫き、止めを刺した。
「絶対に!絶対に赦さない!!」
 瞳に涙を浮かべながら日和は残り数体のオーグラへ向かっていく。
 泣きながら首を刎ね、刃を心臓に突き刺す。…殺戮が、始まった。

 数分後…
「うっ…ううっ…」
 泣きじゃくる日和を悠宇が慰める。
「なんで…なんで私ってこんなに無力なんだろうね…魔皇になっても…罪も無い人たちが殺されるのを助けられなかった…ううっ…」
「違う、違うよ。日和が悪いんじゃない!」
「悠宇…」
「悪いのはサーバントを放った奴らだ。俺らは…来るのが遅かっただけだ…くやしいけどな…。それより今は放送室を探そうぜ。これ以上犠牲者を出さないためにも」
「う、うん…ぐすっ」
「それともう泣くな。強くなるんだろ?」
「…そうだね…わかった…」
 涙を拭うと、日和は立ち上がった。これ以上死者を出してはならない。日和は固く心に誓った。

●鬼退治
「時間を掛けてられないから急ぐよ。まずは…力一杯、踏みつぶーす!いっけー!」
 殲騎に乗ったミティが騎体を垂直降下させる。
 グチャッ!
 着地地点に居た数体のオーグラが殲騎の下敷きとなって絶命した。
「…まあ、幾らオーグラでも殲騎に踏まれても平気、なんて事は無いと思いますけど…」
 マイが呆れ顔で言う。有効といえば有効だが…可愛い顔してなんともアレな手段を思いつくミティであった。
 そして殲騎を送還したミティとマイは白兵戦に移行する。
 真シャドウオーブで隙を作りつつ、真デアボリングコレダーを心臓に叩き込みショック死させていくミティ。
 一方マイはミティの背中を守っていた。ミニミをフルオートで射撃しオーグラを牽制する。
 しかし銃弾はオーグラの分厚い皮膚で止まってしまうらしく大した効果は見られない。
「マイ、もうちょっとがんばってね!」
「…はい。しかしミティ…えげつない倒し方をしますね…」
「だってこの方が効率いいんだもん。こいつら再生するし一撃で倒さないと!」
「……」
 無言で射撃を続けるマイ。
「んもう!」
 可憐な二人だが、立派なソルジャーであった。

 その頃、クロウリー・クズノハと逢魔・カレンはというと…
「ここは通さん!ふんふんふん!!」
 右手にクロウブレード、左手にジャンクブレイドを持って高速スクワット。
 一通りオーグラを片付けたので病院付近を警戒していた。
 だがその異様な様子に一般人もその場所は避けて通っている。
「クロウ様…一体なにをしているやら…」
 メイド服を着たカレンは黒き翼を広げてその様子を上空から見ていた。
 逃げ遅れた人がいないか探していたのだ。

●暗躍
 そして智美とユフィラス、聖歌と神無は…
 旅館が集中する区域で残存するオーグラの殲滅と負傷者の救助に当たっていた。
「神無は私が守りますから智美は聖歌と組んで迎撃して下さい。多分その方が早くオーグラを退治できると思います」
 ユフィラスの言葉に智美と聖歌の二人が頷く。
 智美と聖歌は協力してオーグラの掃討に、ユフィラスと神無は負傷者の救出に向かった。

「斬!」
 智美が真シルバーエッジを軽やかに振るい、オーグラの首を刎ね飛ばした。
「今度はあっちだ!」
 聖歌から指示が飛ぶ。
「了解」
 二人は連携して確実にオーグラを始末していた。
 聖歌がテラーウィングで上空からオーグラを探し、智美がそれを倒す、という具合だ。
「でりゃあっ!!」
 今度は真両斬剣を付加して一刀の元に斬り捨てる。
「…力や体力で女に劣ると言ったら少々複雑だが、ありゃ女じゃねぇよなホント」
 やや低空を飛ぶ聖歌がぼそっと呟く。
「何か言ったか?」
 智美はじとーっとした視線を返す。
「いいや、何も」
「ところで残りは?」
「今ので最後みたいだ。この辺りには見当たらない」
 すたっと着地する聖歌。
「そうか…」
 しかし智美は浮かない表情…
「で、何を警戒してるんだ、智?」
「…最近、サーバントを操る強硬派神帝軍残党がいる。恐らく今回もそいつらの仕業だろう。当然導天使も現れる可能性があるから…」
「って、待て智美!お前それは言ってなかったぞ!!」
「はっはっはっ!!」
 その時突然、笑い声が響いた。
「なんだ?!」
「おい、見ろ!あれ!」
 聖歌の指差す方向…旅館の屋根の上に見慣れぬ人影があった。
 バーコード頭に黒ブチメガネ。くたびれたスーツ。擦り切れて底の薄くなった革靴。
 それは…どう見ても中年サラリーマン。
「き、貴様は誰だ!」
「ふふふ、私ですか?私は川村、グレゴールの川村です」
「グレゴールだと?!」
 真シルバーエッジを構える智美。
「この騒ぎはお前の仕業か?」
 聖歌が警戒しつつ尋ねる。
「その通り。どうでしたか?強化型オーグラの手応えの程は」
「散々てこずらせられたよ。ご丁寧に再生能力まで付けやがって」
「ははは!それはトロルの遺伝子を組み込んであるからですよ。どうやら有効だったようだ。しかしあなた方に全て倒されてしまいましたね」
 グレゴール・川村はニヤリと笑う。
「まあ…歩兵としては十分ですかね…さて、帰って北口に報告しますか」
 川村が指をパチンと鳴らすと突然、人間の上半身に獅子の身体を持ち、背中に鷲の翼が生えた巨大なサーバント――スフィンクスが現れた。
「今回のデータは大変役に立ちました。あなた方には感謝しなくてはなりませんね、それでは」
 川村が背に跨ると、スフィンクスは飛び立っていった。
「待て!」
「よせ」
 聖歌がテラーウィングを広げて後を追おうとするが智美に制止された。
「今の疲弊した私達では、グレゴールと戦うのは無理だ。皆と合流し、この事を報告しよう」
「くっ、わかった…」

 こうして山間の温泉街で起こった事件は魔皇達の働きによって終息を向かえた。
 本当なら温泉に入りたかったが、死傷者は少なからず出てしまった為、それ所ではない。
 魔皇達は後始末を手伝い、帰路に着くのだった。