■【神魔狂奏曲】オーバーチュア■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 とりる
オープニング
「な、なんだこいつらは…」
 モニターに映る異形の軍勢。警告音がコクピットに鳴り響く。
「一個中隊が…こうもあっさりと…」
 信じられない。
「ほ、本部に連絡…」
 次の瞬間、巨大な瞳から発せられた一条の光が、ゼカリアを貫いた。

 パトモス軍仙台基地・司令本部――
「一体何が起こっている!」
 作戦参謀の中佐の怒号が飛ぶ。
「旧大崎市方面に展開していたゼカリア131中隊がアンノウンと交戦後、消息を立ちました」
「アンノウンはそのまま南下。旧仙台市方面へ進攻中です」
「推定される目標は…当仙台基地と思われます」
 オペレーター達が次々と現在の状況を告げる。
「くっ、司令が不在のこの時に…副司令は何をしている?」
「3日前から地下に篭って出てきません」
「またか…」
 元々研究者である高槻博士が地下に篭るなど仙台基地では日常茶飯事だった。
 しかも一度篭ると最低1週間は出てこないのである。
 となれば機動力に富む博士直轄の部隊、ヴァルキリーナイツは当てに出来ない。
「他に動かせる部隊は?」
「最も近いのは柴田駐屯地です。とても間に合いません」
「ぐうう…」
 このままでは仙台基地が戦場になってしまう。それだけはなんとしても避けたい。
「ええい、こうなればデビルズネットワークに連絡だ!出撃要請を出せ!」


「魔皇様方、よくぞお集まりくださいました」
 黒髪のナイトノワール、サーチャー・クラヴィーアが集まった魔皇たちへぺこりとお辞儀をし、説明を始める。
「依頼の内容は旧仙台市へ向けて進攻中の正体不明の敵の迎撃。情報部の見解では新種のサーバントではないかとのことです」
 新種のサーバント…そんなものを保有しているのは恐らく…
「敵は大隊規模と推測。これによってゼカリア一個中隊が壊滅しています。出来る限りの情報は資料に纏めてお渡ししますので、しっかり目を通しておいて下さい。それではお願いいたします。時間が経てば味方の増援が到着するはずです。無理はしないで…」
シナリオ傾向 未確認サーバント戦 殲騎戦
参加PC 礼野・智美
美森・あやか
月島・日和
音羽・聖歌
風祭・烈
ミティ・グリン
桜庭・勇奈
【神魔狂奏曲】オーバーチュア
●戦の前に
 市街を防衛していたゼカリア中隊を蹂躙した異形の軍勢は田園地帯へと足を進めていた。
 地響きが轟き、高速のサイ型を先頭に多数の口型、甲冑型と続く。
 旧大和町周辺。ここが、戦いの地となる。ここで食い止めなければほぼ確実に旧仙台市内への侵攻を許してしまうだろう。

 別働隊として動いているミティ・グリンと逢魔・マイを除く12名の魔皇と逢魔たちは殲騎を召喚し、此処に陣を敷いて待ち構えていた。
「力のあるものが、ない者に対してこんな振る舞いに出る、弱いものいじめのようなやり方は大嫌いだ…」
 桜庭・勇奈が殲騎・ノーフォークのコクピットの中で嘆いた。…こんな事が起こると、大戦がすぎてやっと静かな生活を得られるはずだったあの人が、また戦場に出てこざるを得なくなる。それはとても腹立たしいことだ。直に文句を言ってやりたいくらいである。
「勇奈、感情を表に出しすぎです。もっと自制心を持って」
 逢魔のハリエットが怒りをあらわにする彼をなだめた。
「わかってるよ。俺だってもう子どもじゃないんだ。今はまず、この状況をなんとかしないと…」
「ええ、そうですね…」
 彼の言葉にハリエットが頷く。

「これだけ大量のサーバントを集めてコントロールしてくるなんて…背後にはかなりランクの高い神属がいるんじゃ…」
 月島・日和は殲騎・アシュナードの中で操縦桿を握り締める。背後に居ると思われる神属の存在を警戒しているのだ。神帝軍の残党グループ…サーバントの他に彼らも現れるかもしれない。一層の注意が必要だ。
「日和、毎度の事だが肩肘張りすぎるなよ?今回は敵が多いんだ。少しのミスが命取りになるかもしれないぜ」
 生真面目すぎる主を心配する逢魔の悠宇。
「わかってる」
「いいや、わかってない」
 日和の言葉を悠宇が即座に否定する。
「まったく困った物だな、うちの魔皇様にも」
「きゃっ!」
 悠宇がタンデムシートの後部座席からおもむろに手を伸ばし日和の肩を揉みほぐす。
「これで少しはリラックスできたか?」
「んもう、悠宇のえっち」
「お、おい!俺はそんなつもりじゃ!」
 わたわたと戸惑う悠宇。
「ふふ、でもありがと」
 かすかに笑みを浮かべる日和。どうやらリラックスできたようだ。

「……4人に援護を頼んだ弱い自分が一番嫌いだ……」
 殲騎・ブレイズのコクピットに礼野・智美は突っ伏していた。いわゆる自己嫌悪というやつだ。
「…今回の依頼、失敗したら人にかなり被害が出るの明白ですから皆さん納得の上ですし…私は、的確な判断だったと思いますよ?」
 その様子を後ろから見ていた逢魔・ユフィラスがフォローに回る。
「ユフィ、悪い。今回無理する」
 がばっと顔を上げる智美。
「カノンとカースソングを守る為でしょう?覚悟の上です」
 ユフィラスはいつもと変わらぬ笑みを浮かべる。
「そうよ、こっちだって覚悟は出来てるんだから」
 殲騎・カノンに搭乗する美森・あやかから通信から入った。
「…ごめん。あやかが戦うのあんまり好きじゃないの知ってるし、私も極力あやかには戦って欲しくないんだけど…今回、先見えないから…」
 智美はいかにも申し訳なさそうな声で答える。
「今日が乱夜もあたしも仕事が休みで良かったわ。あたしだって月華ちゃんやエリちゃんに戦わせるのは嫌だし、人を守りたいし、智ちゃんや聖歌君を守りたいのよ。だから智ちゃんも気にしないで」
「助かる…」
 智美はコクピットの中ではにかんだ。
「…だから乱夜もお願い、力を貸してね」
「当然だ」
 あやかの言葉に超絶美形のインプの逢魔、乱夜も頷く。あやかは自分の最愛の人なのだから、お願いをされたら断る理由など微塵も無いのだ。
「また助っ人要請かよ。智も苦労してんだな…」
「敵の規模が増えているんです、仕方ありません」
 今度は殲騎・カースソングを駆る音羽・聖歌とその逢魔の神無からの通信だ。
「聖歌に神無…すまないな…私にもっと力があれば…」
「智美さんの判断は正しかったと思いますよ?私達でどの位お役に立てるかはわかりませんが…人に被害が出るかもしれないのに、何もしないままでなんていられませんし」
 聖歌の後ろから神無が身を乗り出す。
「……ありがとう」
「聞いたか?ありがとうだってよ。…まあ、智が俺達だけでなくあやかに頼んだ時点でよっぽどの大事だけどな…大丈夫か、神無?」
「殲騎越しですから、大丈夫ですよ…頑張りましょう」
 神無は本来サーバントが苦手なのだ。だが今はそんなことを言っている場合ではない。
 静かに、決意を固める神無であった。

「さて、敵さんがおいでなすったようだぞ」
 風祭・烈が殲騎・ドリルカイザーのコクピットから、展開する他5騎の殲騎に事前に用意しておいた無線機で通信を送る。
 前方を見渡すと平野の向こうから横一列になり土煙を上げて急速に接近してくる何かがあった。…それは恐らく、情報にあったサイ型だろう。
「…エメラルダ、怖くはないか?」
 烈が後ろに居る美しい髪と容姿をしたセイレーンの女性、エメラルダに前を向いたまま話しかける。
「ふふっ、なにをおっしゃるかと思えば。怖い訳がありませんわ。烈と一緒なのですもの」
「そうだったな」
 エメラルダの透き通るような声を聞き、烈の瞳に闘志が宿る。歴戦の勇者の顔がそこにあった。
 そして、戦いが始まる。それはとても長く苦しい、厳しい戦いが…

 一方その頃、ミティ・グリンと逢魔のマイは…
「地平線の向こうを攻撃するのは観測とか通信とかが大変な筈だし、そこまで手間はかけてないと思うんだよね。多分、遠くても10キロ程度の範囲内にいる筈だし、その程度の距離ならボク達にはすぐの筈だよ」
「…そうだとよいのですけれど」
 彼女ら二人は最も脅威と思われる未確認の砲台型を片付けるため、発見されないように敵の進行ルートを迂回し、コアヴィークルを高速で走らせていた。
「…ところで、砲撃役に護衛が付いていたらどうするのです?」
 マイが尋ねる。
「そりゃ…、少しなら頑張って倒して、無理そうなら引っ掻き回して、砲撃の邪魔に専念だね!」
「…そんな大雑把な作戦で大丈夫なのでしょうか…」
 やれやれといった感じで頭を振るマイ。まあいつものことなのだが。
「さて、他のみんなが砲撃に晒される前に倒さないと。責任重大だねっ。飛ばすよっ!」
 コアヴィークルの速度を最大まで上げるミティ。
「…ちょ、まっ!?」
 マイが振り落とされそうになるのにも気付かぬまま、ミティは爆走するのであった。

●迫り来る壁
「サイ型を目視で確認。その数20」
「喰らえ!!」
 智美のブレイズが迫り来るサイ型の目を狙って真デヴァステイターを3点バースト射撃。それに続きあやかのカノンが鳴弦の弓を、日和のアシュナードが真マルチプルミサイルを、烈のドリルカイザーが真ショルダーキャノンを、勇奈のノーフォークが真パルスマシンガンをそれぞれ放つ。火線が集中し、爆炎が立ち昇る。
「やったか…?」
 だが…煙の中から変わらぬ姿・数のサイ型の集団が姿を現した。
「何っ!あれだけの攻撃を受けて無傷だと!!」
「真魔皇殻が効かないなんて…!?」
 驚きの声を上げる魔皇達。サイ型は目前にまで迫っていた。
「仕方ない!白兵戦に移行する!突破を許してはダメだ!」
 ドリルカイザーは蟹型魔獣殻のシールドを展開し受け止めようとする。
 ドオオオン!!
 凄まじい激突音。
 ドリルカイザーは渾身の力で堪える。
「なんてパワーなんだ…!」
 じりじりと押されて後退してゆくドリルカイザー。
「だが…!」
 ドリルカイザーは真アクセラレイトドリルに真燕貫閃を付加し、やはり目を狙う。口でも良かったが、そこは固く閉じられていた。
 サイ型はこれを頭部で受け止めた。甲高い音を立てて外殻の一部が削り取られる。初めて大きな傷をつけるも、貫くには至らない。
「DEXでも貫けない?!」
 サイ型の太く鋭い角での攻撃を避けながら烈は顔を歪めた。
 ふと、サイ型の集団が進軍を止め、殲騎を包囲し始める。どうやら狙いを自分達に変更したようだ。こちらにとっては好都合ではあったが…
「このままではジリ貧だ!」
 聖歌のカースソングが起死回生の突撃を仕掛ける。一直線にサイ型の集団へと向かっていき、真衝雷撃を放つ。そしてすぐさま上空へ離脱。
「どうだ?」
 聖歌が効果を確認しようとしたその時――
 幾筋もの光がカースソングの騎体を貫いた。
「なっ…」
 そのまま体勢を崩し墜落してゆくカースソング。
「聖歌ぁー!!」
 智美が叫ぶ。
「例の砲台型!?大丈夫ですか聖歌さん!返事をして!」
 あやかが騎体を墜落したカースソングへと向ける。
「…ぐ、痛つつ…大丈夫だ。なんとか生きてる」
 騎体を起こしつつ聖歌が答えた。
「損傷チェック。敵の光線は各部を貫通。損傷率60%。テラーウィングと右腕をやられただけです。まだいけます」
 神無がカースソングの状態を報告した。
「無闇に高度を上げると砲台型の餌食か…抑えつけられた感じだな」
「ミティさんから連絡があるまで飛行は控えた方が良いですね」
 言ったのは智美と日和だ。
「それよりも今はこっちが問題だよ!!」
 勇奈がサイ型の突撃を避けながら悲鳴を上げる。真パルスマシンガンを乱射するが堅牢な装甲に弾かれるのみ。
「諦めるな!必ずどこかに弱点があるはずだ!」
 サイ型を牽制しながら烈は思考した。これほどまでの前面装甲を持っているんだ…どこか…どこかに弱点が…待て、“前面”装甲…?突撃に特化したサーバント…
「ならば!!」
 ドリルカイザーはサイ型の突撃を避けると後ろに回りこみ、真ショルダーキャノンを撃ち込む。断末魔を上げて崩れ落ちるサイ型。
「矢張り!!…皆聞け!こいつらは後ろ、尻が弱点だ!そこを狙うんだ!」
 烈の言葉に呼応する魔皇達。
 反撃が始まった…。

●奇襲
 所は変わってミティ達。カースソングが一斉砲撃を受けた頃。
「マイ、今の見た?!」
「…ええ、敵の砲撃ですね…皆さん無事でしょうか…」
「場所は分かったよね?」
「…はい、発射地点は特定しました」
「急ぐよー!!」
 最大速度でかっ飛ばすミティ。
 マイがまたも落ちそうになるがそんなことを気にしている場合ではなかった。
 一刻も早く砲台型を倒さなければ味方がやられてしまう。
 ……ほどなくして、鎧騎士を思わせる甲冑型数体に護衛された砲撃型らしき影を発見した。そのまま後ろへ回り込もうとするが…甲冑型が反応し、一斉にこちらを向く。
「見つかった?!」
「殲騎を召喚します」
 二人が乗るコアヴィークルを中心として瞬く間に組みあがっていく殲騎・飛(フェイ)。
 真狼風旋を発動して機動力を上げ、一気に距離を詰める飛。
 甲冑型が剣や突撃槍を構えて向かってくるが無視して後ろに回りこむ。まずは第一目標の砲台型だ。
「…うげっ」
 ミティが心底嫌そうな声を上げる。
「…これは…」
 甲冑型に守られていた砲台型…その姿は、一言で言い表すならば…巨大な目玉であった。
 低空を浮遊する目玉のような醜悪な物体。6mサイズのものが三体、3mサイズのものが六体いた。
「こいつらが…!」
 躊躇わず真パルスマシンガンを乱射。銃弾を受け6m級を囲んでいた3m級が破裂。6m級が此方を向く。光線の発射態勢に入っている。…やられる!
 ミティは構わず乱射を続けた。光線の照射を受け、コクピットが揺さ振られる。
 数秒後、ダメージが限界に達した6m級も破裂した。
「表面装甲が融解。高熱により騎体各部に深刻な異常が発生。損傷率90%。戦闘の続行は不可能と判断」
 マイが淡々と告げる。
「ぐぅ…」
 かなり貰ってしまった。その間にも甲冑型は包囲を狭めている。
「逃げるよ!!」
 飛は迷わず真テラーウィングを広げ、その場を即座に離脱した。

●戦いの果てに
「マイさんから連絡!砲台型の撃破に成功!しかし許容以上のダメージを負ってしまったため、そのまま離脱するそうです!」
 ユフィラスがそう告る。
「そうか…それは良かった…」
 しかし疲労の色が濃い智美。
 飛を除く6騎の殲騎は烈の機転によりサイ型の殲滅に成功。だがその直後、遅れて到着した多数の甲冑型と口型との乱戦に突入してしまった。そしてそれは今も続いている。
 ブレイズの真シルバーエッジは何度も硬い甲冑型の装甲を斬りつけたため、強度が限界に達し折れてしまっていた。今は倒した甲冑型の剣を奪って戦闘を続けている。
「皆気を抜くな!気を抜くと口型に取り付かれるぞ!」
 甲冑型をドリルで貫きながら烈が声を上げる。
 ドリルカイザーの装甲もあちこちが欠けていた。口型に最も注意を払っていたものの、数が多く俊敏なため何度か取り付かれてしまっていたのだ。
「くっそー!鬱陶しい!近寄るなー!」
 ノーフォークが真衝雷撃を発動させ騎体に喰い付いていた複数の口型を焼き殺す。
「はあ…はあ…これで何度目だよ」
「今は耐えるしかありません、がんばって」
 ハリエットが勇奈を励ます。
「皆さん、もう少しで援軍が到着するはずです!なんとか踏ん張りましょう!」
 神無が癒しの歌声を使用し傷ついた殲騎を癒す。
 だが…疲労までを取り払う事は出来ない。
「はあっ!!」
 アシュナードは真マルチプルミサイルや真撃破弾を使って弾幕を張り続け、押し寄せる敵をせき止めていた。それゆえに一番負担が大きいはずだが…
「ここを…突破されるわけには…」
 後ろには一般人の暮らす街がある。これらのサーバントに攻め込まれたらひとたまりも無いだろう。
「気を強く…持たないと…」
 DEXを連発していたため、日和の魔力は尽きかけていた。一瞬、気が遠のく…
 そのとき、弾幕を突破してきた甲冑型が目前に迫っていた!既に剣を振り上げている!
「日和!!」
 悠宇が叫ぶ。日和は回避しようとするが…
「だめ、間に合わな――」
 ドオオオン!!
 甲冑型が吹き飛ばされた。
 日和には何が起こったのが理解できなかった。
「ご無事ですか?」
 どこからか通信。
「えっ…?」
「こちらヴァルキリーナイツ第三小隊隊長、三浦大尉です。援軍に参りました」
 後方には160mmバスーカを構え、急速に接近するゼカリアの姿があった。
 重武装のゼカリア3機がそれに続いている。
「菊地機、これより援護に入ります!烈さん、大丈夫ー?」
 聞き覚えのある声に烈は微苦笑した。
「ああ、少し危なかったがな」
「へへっ、あとはボクたちに任せて!」
「菊地少尉、私語は後に。まずは敵を片付けますよ」
「了解!」
「ゼカリア二個中隊も間もなく到着します。よくぞ持ちこたえてくださいましたね。高槻博士も感心していましたよ。まあ、あの人がこんな話を見逃すはずがありませんが」
 微笑む三浦大尉。
 こうして、魔皇達の苦しい戦いは一応の終わりを見せた…。