■【神魔狂奏曲・外伝】フィギュアになりたくない■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 とりる
オープニング
 近頃、旧仙台市内でナースや巫女さんが相次いで行方不明になるという事件が発生。
 仙台テンプルムやGDHPは必死に捜査を続けていたが一向に手がかりが掴めないでいた…。
 それはさておき、場所はメイド喫茶フェルマータ。
「ミカちゃーん、そろそろお店を閉めるから外回りのお掃除をしてきてちょうだーい」
「はーい、わかりましたー」
 店の奥から店長の声。それに答え、箒を手にふりふりのエプロンを揺らしながら外へ出たのはメイドのミカである。
 大きな栗色の瞳、同じく栗色のサラサラのロングヘア。ぷっくり膨らんだ淡いピンク色の唇。この店で人気No.1の美人メイドさんだ。ちなみに年齢はヒミツ。
「ふふふ〜ん♪」
 鼻歌を口ずさみながらゴミを掃き集めるミカ。すると…
「ちょっとそこのメイドさぁーん」
 ぬぅっと表れる黒い影。
「あ、申し訳ありません。今日はもう終わりなんです。また明日お越し下さい、ご主人様…って、きゃー!?」
 言いながら振り向くとそこに立っていたのは…見覚えのある脂ぎった顔。
 忌まわしい記憶が蘇りミカは思わず悲鳴を上げた。
「あ、あなたは…」
 ぷるぷると震えながら後退るミカ。
「いきなり悲鳴を上げるとは失礼デブね。せっかく迎えに来てあげたというのに」
「む、迎え…?」
 そう、彼女の前で下品な笑みを浮かべているのはグレゴール・千葉。去年の秋ごろにミカを襲った張本人だ。魔皇達の活躍により一度は退けられたが、また性懲りも無く現れたのだ。
 千葉の意味不明な言葉にミカはますます怯えた表情を見せる。
「ぐへへへへ、ついに研究が完成したんデブ。やっと君と一緒になれるんデブ。さあ僕と来るデブよ!」
 千葉がじりじりと迫る。ミカは壁際に追い詰められてしまう。もうダメかと思ったその時――
「待てぃ!!」
 凛とした声が辺りに響いた。
「何デブ!?」
「えっ…?」
 二人が声のした方…店の屋根を見上げると、そこには白銀の全身鎧と仮面を身に身に纏った人物の姿があった。
「な、何者デブ!お前は!」
「貴様に名乗る名前は無い!とうっ!」
 仮面の人物は言い放つと跳躍し、千葉とミカの間にすたっと着地した。
「私の市民に手を出すな!外道め!」
 びしぃぃっと千葉を指差す。
「ぐっ…!」
 その雰囲気に圧倒されてしまう千葉。
「良い所で邪魔が入ったデブ…覚えてやがれー!デブー!」
 スタコラサッサと逃げ出した。
「…大丈夫か?」
 仮面の人物は腰を抜かしてしまったミカに手を差し伸べる。
「あ、ありがとうございます。助けていただいて…」
「いや、構わん。これも私の使命だ」
「え、えーと貴女のおなま…」
 ピコンピコンピコン。ミカの言葉を遮るようにアラームが鳴り、仮面の人物の胸の宝石が赤く点滅しだす。
「すまぬが時間のようだ。また奴が現れるかもしれぬ。くれぐれも気をつけよ。ではさらばだ!」
 そういうと、仮面の人物は4枚の翼を広げて飛び去っていった。
 純白の羽根が一枚ひらひらと舞い降りる。ミカはそれを拾い、夜空を見上げた。
「もしかして、天使様が助けてくださったのかしら…」

 所は変わってデビルズネットワークタワー・アスカロト。
 集まった魔皇達に向けてサーチャーのクラヴィーアが頭を下げる。
「旧仙台市内にあるメイド喫茶フェルマータからの依頼です。内容はメイドのミカさんの護衛。ストーカーまがいのグレゴールが出没しており、危険なので守って欲しいとのことです。それでは、どうぞよろしくお願いします」
シナリオ傾向 ギャグ 戦闘
参加PC チリュウ・ミカ
藤宮・深雪
【神魔狂奏曲・外伝】フィギュアになりたくない
●作戦会議
 メイド喫茶フェルマータ――今回メイドのミカをグレゴール・千葉の魔の手から守るために集まったのは、二人の魔皇と一人の逢魔であった。
「久しぶりだな、ミカ。大丈夫だったか?あと…あまり思い出したくないだろうが事情を聞かせてくれないか。奴を捕まえるのに情報が必要なんだ」
 腕を組みつつ最初に口を開いたのは『ペンション【日向】』の魅惑の人妻メイド長こと、チリュウ・ミカだ。
「またあのおデブさん来たんだーほんと懲りないねー。まったくぅ!」
 グラマーさんなウインターフォークの逢魔、クリスクリスもぷうと可愛く頬を膨らませている。
「ミカお姉さん、クリスさん、来てくれてありがとうございます。…ええと、大丈夫です。どこのどなたかは分かりませんが仮面をつけた天使様が助けてくれたので今回は何もされていません。襲われた状況は…前と同じですね。夜に外回りのお掃除をしていたときです。あとなにか…研究が完成したとか、迎えに来たとか言っていたような…」
 顎に手を当てながらメイドのミカが事情を説明していく。
「そういえば今、仙台市内で連続行方不明事件が起きているようですね。デブさんの研究というのが、事件と関係しているのでしょうか…?」
 言ったのは丸メガネをかけ白衣を纏った優しげな雰囲気の女性、藤宮・深雪だ。深雪はメイドのミカを先に自宅まで送り届ける事を提案したが「ミカちゃんは一人暮らしだからかえって危険だわ」というフェルマータの店長の言葉で却下された。
「藤宮さんもありがとうございます。そうですね…確かに、なにか関係があるのかも…」
 メイドのミカが深雪にぺこりと頭を下げた。
 そして二人そろってうーむと考え込む。
「まあそっちは別として、今は千葉を捕まえる事が先決だ。クラヴィーアは囮作戦を推奨してたが…私もクリスも奴に顔が割れてるんだよなー…」
 チリュウのほうのミカは困った顔で頭をぽりぽりとかきつつ深雪のほうに目をやる。
「…ええっ!?私ですか?!」
 驚いた様子で声をあげる深雪。
「しょうがないよーボクたちじゃ警戒されちゃうだろうしさー。ね?お願い、深雪さん」
 両手を合わせてお願いのポーズをとり上目遣いで見上げるクリスクリス。こうまでされては断る事は出来ない。
「うむぅ…仕方が無いですね…」
 深雪は渋々頷く。
「一人では心細いか?うーん…ま、クリスなら若いだけ私よりも誤魔化しが効くか…それじゃ、私とミカでコーディネートしてやろう♪囮は多いほうが良い!」
 にっこり笑顔でノリノリな様子のチリュウのほうのミカである。
「ボクも囮をやるのぉ?まあいいけどさーミカ姉なにか企んでない?」
「ソンナコトハナイゾ」
「思いっきり棒読みなんだけど…」
 ちょっぴり不安になるクリスクリス。
「それでは、深雪さんには私の代えのメイド服をお渡ししますね。着替えもお手伝いします」
 そうして女性4名は更衣室へと消えていった。
「顔を隠すためにマスカレード付けて〜胸を強調したフリフリのメイド服着せて〜仕上げに腰紐〜」
「ちょっとミカ姉!衣装は可愛いけど…キワド過ぎない?」
「いいのいいの、せっかくだからこれくらいやらないと」
「うわあ、深雪さんって着痩せするタイプだったんですね。私より大きい…」
「んっ、ミカさん!そんなところ触らないで!そ、それより…ウェストが…きつい…」
「大丈夫大丈夫♪」
 そんな会話が更衣室から漏れ聞こえてくる。
「……はあ、若いって、いいわねぇ〜」
 感慨深げに溜息をつく店長だった。

●いざ決戦!
 陽が沈み辺りも暗くなった頃、メイド喫茶フェルマータの前に二人のメイドさんが陣取っていた。
 胸が極端に強調されたメイド服に身を包み顔にはマスカレードを装備した何とも耽美な雰囲気を醸し出しているクリスクリスと、メイドのミカに借りた衣装がワンサイズ小さかったのか豊満なボディラインが露わになってしまい“私、脱いだら凄いんです”的な深雪だ。(謎
「さ、それじゃ店の回りのお掃除しつつ、お前の能力で奴を見つけろ!私は陰から見守ってやるから♪」
 店の壁の陰にコソコソと隠れているチリュウのほうのミカがクリスクリスに向かってぐっと親指を立てる。
「『仮面メイド・クリス』って何! 囮は仕方ないけど相克の痛みも使うのぉ?う〜。ヤだな…あれ使うと3日は痛いんだよ…」
 うなだれるクリスクリス。だがこれから起こる事を考えればそんなこともしていられない。しゃきっと姿勢を正し、表情を引き締める。
「あうう…服がきついです…それに動きにくい…」
 深雪はぱっつんぱっつんな衣装に頬を染めてもじもじしていた。
「お互い大変だけど…頑張ろうね、深雪さん。はい、これ箒」
 クリスクリスが箒を差し出す。
「ありがとうございます。それでは、お掃除をしてデブさんが来るのを待ちましょうか」
 こうして二人は店の前を掃き始めた。
 数十分後…
「はうっ!?」
 突然クリスクリスが声を上げた。胸を押さえ、その場にうずくまる。
「どうしました?!」
 慌てて駆け寄る深雪。
「胸が痛い…よぉ…奴が…来たんだ…!」
「なんですって?!」
 ウィンターフォークの能力、相克の痛みだ。神属が近づくと痛みによって知らせる効果がある。
「うう…あうっ…はあ…はあ…(ミカ姉、後はよろしくだよ〜)」
 息を荒げて苦悶の表情を浮かべるクリスクリス。痛みが強くなっている。奴がどんどん接近しているのだ。クリスクリスは腰紐を引いてチリュウのほうのミカに知らせた。
「来たか。しかし…胸を押さえ苦悶するメイド…ふむ。これは新しい萌えかも…」
 物陰から顔を出しぼそりと呟くチリュウのほうのミカ。確かに今のクリスクリスにはエロスを感じさせるものがある。なんというか…背徳感のようなものだろうか。
 そしてそんなことをしているうちに奴が姿を現した…。
「デッデデブデブデッブデブデブ♪…おやあ、可愛いメイドさんが居るデブねえ」
 その巨体に似合わず鼻歌を歌い軽快にスキップをしながらグレゴール・千葉が現れた。
 脂ぎった顔、汗の染みたよれよれのTシャツ、ポスターが刺さったリュック姿は健在だ。
「せっかくだから僕のコレクションに加えてあげるデブよ!」
 千葉が二人に襲い掛かろうとしたその時!
「おーっと待ちな!うちの可愛い逢魔に手出しはさせないよ!」
 物陰から颯爽とチリュウのほうのミカが出てきた。
 クリスクリスの前に仁王立ちし、二つのディフレクトウォールを展開する。
「そうです、簡単にはやらせません」
 深雪もファイティングポーズを取る。
「いつぞやのおばさんじゃないデブか。…ふ〜ん、ほほう。これは囮というわけデブね。卑怯な手を使うデブ!」
「お前に言われたくない!…なんでミカを狙ってる?しつこい男は嫌われるぞ!」
「おばさんに話す舌は持たないデブ!!いでよ!愉快な仲間達!」
 千葉がぱちんと指を鳴らすと、予め潜ませておいたのか大量のオークが現れた。
 その陰に隠れて千葉の姿が見えなくなる。
「くっ!やはりサーバントを用意していたか」
 デアボリングコレダーを召喚するチリュウのほうのミカ。
「用意周到ですね…」
 深雪も真グレートザンバーを召喚する。
 そして、戦闘が始まった。
 が、オークは下級サーバント。魔皇の敵ではない。あっという間に、数分で片が付いた。死屍累々の山が出来上がる。
「これで終わりです!」
「所詮時間稼ぎだったな」
 魔皇殻を千葉に向ける二人。
「ぐうう…!」
「このまま大人しく捕まってくれるのなら手荒な事はしません。さあ、どうします?」
「そうだ、怪我はしたくないだろう?」
「…くそおおおおおっ!!!!」
 千葉は激昂した様子でいきなり殴りかかってきた。
「あくまで抵抗しますか!」
「それなら!!」
 深雪が真グレートザンバーの峰で滅多打ちにし、チリュウのほうのミカがデアボリングコレダーを叩き込む。勝敗は、一瞬で決まった。崩れ落ちる千葉。
「ぐふっ…」
「さて、洗いざらい吐いてもらおうか」
「研究の内容や行方不明事件との関わりについて、知っている事を話してください」
「……」
 沈黙する千葉。
「おい!黙っていないで何か言え!」
「くくく…ははははは!!」
 突然狂ったように笑い声を上げる千葉。
「な、何がおかしいんですか?!」
「ふふふ…そこのおばさんが言ったようにこれは時間稼ぎなんだよ…そう…時間稼ぎ…!」
 千葉の身体がみるみるうちに崩れ、表面がぶよぶよしたゲル状の物体に包まれた人型に変わる。
「なっ?!こいつは!」
「ドッペルガンガー!?」
「ふへへ…そうさ…今頃…ご主人は……」
 そう言い残し、ドッペルガンガーは力尽きて動かなくなった。
「チリュウさん!」
「ああ、ミカが危ない!」
 二人は急いでフェルマータに駆け込んだ。

 数分前、フェルマータ店内――
「いや…来ないで…」
「ぐへへへ…助けは来ないデブ。逃げられもしないデブよ」
 グレゴール・千葉によってメイドのミカが壁際に追い詰められていた。
「研究が完成したって言ったデブよね?僕のコレクションの最後を埋めるのがミカちゃんなんデブ!」
「な、なにを言っているの…」
 恐怖の表情を浮かべ怯えるミカ。
「さあ…僕と一緒に来るんデブ!……人形聴言<フィギュアレイト>!!」
「きゃーーー!!?」
 千葉がミカに向かって手をかざすと、ミカの身体が光に包まれた。
 …そして光が消えると、ミカが立っていた場所にはミカそっくりの姿をした、12分の1サイズのメイドさんのフィギュアが転がっていた…。
「げへへ…コンプリート…デブ」
 それを拾い上げ、下卑な笑みを浮かべる千葉であった。

 チリュウのほうのミカと深雪が駆けつけると、店内には他のメイドさん達と店長が倒れていた。
「大丈夫か!しっかりしろ」
 チリュウのほうのミカが店長に駆け寄る。
「うう…ああ…ミカちゃんが…ミカちゃんが…」
「ミカがどうしたんだ?!」
 店長はチリュウのほうのミカの耳元で力なく呟くと、再びがくりと気絶した。
「ミカが……攫われた!!?」