王城寺原演習場――
三つの町と村にまたがる、全国に5つしかない旧陸上自衛隊の大演習場である。
その歴史は古く、1878年に旧陸軍の演習場となり、戦前から様々な演習が行われてきた。
二度に渡る大戦、そして神魔戦線を経た今でも、それは続いており……
ズシンという震動と共に象牙色のゼカリアが着地した。
『はいはい上出来ー。次いくわよ』
「ま、待ってくださいよー。もう疲れましたぁー、少し休憩をですね」
『ばーか、なに言ってんの。何のためのテストパイロットよ。ちゃんと仕事しなさい。じゃないとおやつ抜きにするわよ。それでもいいのかしらぁ?』
「えぇーそれは困りますぅー!」
がしゃがしゃと両手を振るゼカリア。慌てたパイロットが一緒になって動かしているらしい。
「まったく、緊張感のかけらもないですね…」
後方で待機している82式指揮通信車の中で溜息をつく秘書官兼オペレーターの中尉。
今の会話はパトモス軍旧仙台基地副司令、高槻・文子博士と、試作機・MET−01のテストパイロット、萩原・月乃少尉によるものである。
MET−01の機動実験のため、この演習場を訪れていた。
「じゃあ次行くわよ。テストプランB−3、用意…」
文子が言いかけたそのとき――
「ちょっと待って下さい!センサーに反応が!」
「なに?またサーバントでも出た?」
「はい、その通りです。演習場内に多数の生体反応を確認。MET−01へ向かってきています」
(…半分冗談で言ったつもりだったんだけどねえ…)
『ひょえー!どどどどうしましょー!!』
スピーカーから月乃のすっとんきょうな声が響く。
「ええい、うるさい!とにかく実験は中止!あんたはとっとと下がれ!…中尉、すぐに護衛部隊を出しなさい」
『ふわぁーい』
「了解しました」
レーダーには敵を示す赤い光点が物凄い勢いで増大していく様子が映し出されていた。
「あと、至急援軍を要請してちょうだい。…そうね、デビルズネットワークがいいかしら」
「旧陸上自衛隊王城寺原演習場にて機動実験中の試作機が襲撃を受けました」
サーチャー・クラヴィーアが真剣な表情で切り出した。
「ゼカリア一個小隊が護衛に付いていますが敵の規模から察するに壊滅は時間の問題と思われます。魔皇様方はこれの救援に向かってださい」
サーバントによる物量戦術…白石の一件と同じ手口だ。
「敵は多数のサーバントです。まだ確認されてはいませんが、必ず近くに指揮官の神帝軍残党グレゴールが居るはずです。恐らくはネフィリムに搭乗していると思われます。可能であればこれを見つけ出し、優先的に撃破してください」
指揮官のグレゴールさえ倒してしまえば、サーバントの統率が無くなり、戦いが少なからず有利になるはずである。
「試作機はとても貴重なものです。必ず守り通してください。以上です」
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