■【神魔狂奏曲】群狼■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 とりる
オープニング
 11月も終盤…冬の足音はもうすぐそこまで来ている。
 小雪の舞う旧仙台市内。所は台原森林公園。その名の通り緑が溢れ交通の便にも恵まれたその公園は、普段はジョギングなどをする市民で賑わっていたが近頃は急激に冷え込んで来たため、人影はまばらである。
 そんな中、昼下がりの散歩を楽しむ一組の親子の姿があった。
「ねえママー!みてー!ゆきのけっしょー!」
 毛糸の手袋の上に乗った新雪を母親に見せる小さな女の子。寒さにも負けず元気にはしゃいでいる。
「あら本当。綺麗ね」
 微笑む母親。その様子に、女の子も嬉しそうに笑った。
「えへへー…んにゃ?」
 その時、女の子はある異変に気付いた。

「ほらほら!これがいいんでしょ!」
「きゃうん!ああん!おやめくださいぃ!小寺様ぁ!」
「小寺様じゃない!女王様とお呼びなさい!」
「はううううん!!」
 黒いレザーのボンテージに身を包み、その豊満な肉体を惜しげもなく晒した女性がファンタズマと思しき背中から純白の翼を生やした美少女(こちらも身体に薄い布を巻いているだけでほぼ全裸)を鞭でビシバシ叩いていた。

「ねーねーママー!なんであのおねーさんたちははだかなのー?さむくないのかなー」
「…しっ!見ちゃいけません!」
 母親は女の子の目を両手で覆うとその場から足早に立ち去ろうとする。
 だが…
「あらぁ?せっかく人がショーをやってるのにどこへ行く気ぃ?」
 先ほどのボンテージ姿の女性が目の前に立っていた。
 少し距離があったはずだが、いつの間に移動したのだろう。
「やめてください。そんなハレンチなこと…子どもに見せるわけには…」
 ビシィ!
 地面に鞭が打たれた。
「ひっ!」
「うふふ、逃がさないわよ。うちの子たちもお腹を空かせているしねえ」
 ピィーと女性が口笛を鳴らすと、茂みから狼のような生物が複数表れ、親子を取り囲んだ。
 グルルルル…
 低い唸り声を上げる狼達。
「ま、ママぁ…」
 怯える女の子を抱き締め必死に守ろうとする母親。
 ボンテージ姿の女性が再び鞭を放つと、狼達は一斉に親子へ飛び掛った…。


「緊急の依頼です」
 差し迫った表情のサーチャー・クラヴィーアが状況の説明を始める。
「旧仙台市青葉区にある台原森林公園に狼型のサーバントを率いたグレゴールとファンタズマが現れ、周辺にいた市民を襲っているとの情報が入りました。魔皇様方は至急現場へ向かい、サーバントの排除に当たってください。可能であればグレゴールやファンタズマの撃破もお願いします。…それでは、くれぐれもお気をつけて」
シナリオ傾向 対グレゴール・サーバント戦
参加PC 彩門・和意
月島・日和
風祭・烈
月村・心
ロジャー・藤原
クロウリー・クズノハ
【神魔狂奏曲】群狼
●謎のヒーロー現る?
「おーほっほっほ!お行きなさい!我がしもべ達!」
 グレゴール・小寺がビシィ!っと鞭を振るったのを合図に親子へ飛び掛る狼達。
 母親は死を覚悟し女の子をぎゅっと抱き締め目を瞑ったが……
 何も起こらなかった。恐る恐る目を開けてみる。
「怪我はないか?」
 凛とした透き通るような声。目の前には白銀の装甲を全身に纏い、同じく白銀の仮面を被った、特撮物のヒーロー番組から抜け出してきたような人物の姿があった。声とボディラインからかろうじて女性だということが判別できる。
 周りを見回してみると狼達が身を横たえ、口から泡を吹き出しピクピクと痙攣している。どうやらこの人が倒したようだ。
「は、はい。大丈夫です」
「ならばすぐに離れるがよい。ここは私が引き受ける」
「あ、あの…助けていただいたんですよね?どうもありが…」
「礼などはよい。早く下がれ」
 仮面の人物は母親の言葉を遮った。
「は、はいっ!」
 母親は気を失っている女の子を抱き上げると足早に去っていった。
「さて…」
 仮面の人物はグレゴール・小寺を見据える。
「私の市民を襲うとはどういう了見かな、グレゴール?」
 サーバントを倒され、そんなことまで言われて黙っている小寺ではない。
「きぃーっ!あんたこそなんなのよ!!せっかくの楽しみを邪魔してくれちゃって!!」
「楽しみ?サーバントを放って市民が怯えるのを見ることがか?下劣だな、公衆猥褻物」
「こ、こうしゅうわいせつぶつぅ?そ、それって私のことかしらぁ…?!」
 額にぴくぴくと青筋を浮かべる小寺。
「ふっ、どうやら自覚はあるようだな」
 バカにしたような口調の仮面の人物。
「…もう許さない!どこの誰だか知らないけど泣いて謝るまでボコボコにしてやるわ!!」
 そう言うといきなりSF・烈光破弾<スパーキングショット>を放つ小寺。
 しかし…仮面の人物の目の前で烈光破弾は消滅した。
「なっ…!?」
 小寺は驚きの表情を浮かべる。
「効かぬな。しかし中級を修得しているとはなかなかのやり手と見える。侮っては危険か」
 仮面の人物は同じ烈光破弾をぶつけて相殺したのであった。
「あんた神属なの?!」
「そうだが」
 だからなんだといった感じで仮面の人物が言う。
「こ、この!人間に飼い慣らされ魔属に媚を売るパトモスの狗(いぬ)め!人間は私達神属に支配されるべきなのよ!!そして魔属は滅びるべき!!」
「その考え方は古い。そうした結果がどうだ?二度に渡る神魔戦線、一体どれほどの数の人間が犠牲になったと思っている。…私はインファントテンプルムの声を聞いたのだ。本来我々神属は人間の為に在るものだと」
「くっ…!」
 睨み合う双方。その時――
 仮面の人物の胸の宝石のような飾りがピコンピコンと赤く点滅しだす。
「む、時間か。貴様とのお喋りもここまでだ。…ようやく本命も着たようだな。あとは彼らに任せるか」
 仮面の人物は背中から純白の4枚の翼を広げると、上空へ舞い上がる。
「…あ、あんた!まままままさか!!?」
 驚愕の表情を浮かべる小寺。
「貴様とはいずれまた相見えるかもしれぬ。…それではさらばだ!」
 そういうと、仮面の人物は飛び去っていった。
 魔皇達が到着したのはその直後である。

●ウルフハント
 公園に到着した魔皇達は手分けして公園中に散ったサーバントの退治を始めた。

 ジョギングコースを周りながら発見したサーバントをその都度倒しているのは彩門・和意とその逢魔・鈴だ。
 二人はつかず離れずの絶妙な距離を保ち囲まれないように気を付けつつ、ドリルランスや大鎌で確実にパイパーウルフにトドメを刺していた。
「ふう、これで少しは減りましたかね」
 額の汗を拭う和意。11月も終盤とは言え、激しい戦闘をした所為か体中に汗をかいている。
「和意様……避難誘導を優先するわけにはいきませんか?」
 鈴が心配そうに言う。確かに市民の安全の方が大事だ。
「ですね…ここは敵も減りましたし。…うーん、科学館なら少しは安全でしょうか」
「急ぎましょう!」
 二人は逃げ遅れた市民を探し始めた。

「悠宇!」
「分かってるって!」
 禍々しい闇がパイパーウルフの群れと、それを統括するパイパーウルフリーダーを包み込んでゆく。ナイトノワールの逢魔能力・忍び寄る闇だ。
「いきます!!」
 少女(…いや、年齢的にはもう立派な女性なのだが…)が叫ぶ。
 白煙を上げ降り注ぐ真マルチプルミサイル。
 そうして狼の群れは、爆炎の中に消えていった。
「はあ…はあ…」
「あんまり頑張りすぎるなよ」
 月島・日和と逢魔・悠宇だ。肩で息をする日和を悠宇が支えてやる。
「いいの。身を守る術を持たない人達が戦いに巻き込まれるのは嫌だから…」
 日和は少し俯いた後…顔を上げ、きりっとした表情になった。
「戦える、わたし達が戦わなきゃね」
「…ああ、そうだな」
 悠宇は頷いた。

 風祭・烈と逢魔・エメラルダは三体のワーウルフを相手にしていた。無論、例によって多数のパイパーウルフも一緒である。
「打ち貫く!!」
 烈が真ステイクランチャーを連続で放つ。次々と打ち出される杭がパイパーウルフの身体を易々と貫いていく。その強力な攻撃は敵の密集した陣形を崩した。
 それを好機と見た烈はエメラルダの霧のヴェールを受けつつ真アクセラレイトドリルのブースターを吹かし、ワーウルフに向かって突撃する。
 猛烈な攻撃を避けきれずまともに受けた真ん中のワーウルフが粉々になった。隣に居たもう二体の方も煽りを受けて片腕が千切れ飛んでいる。
 だがしかし、残った二体の腕は骨、筋肉、毛皮とみるみるうちに再生してしまった。
「再生したか、厄介だな。ならば、微塵に砕かれてもなお動けるか、試してみるか」
「烈…!」
「大丈夫だ、お前が後ろに居てくれれば俺は負けない」
「分かりました。ではせめて…」
 公園に響く美しいエメラルダの歌声。
「うおおおおおっ!!」
 再生が終わり、襲い掛かってくる二体のワーウルフに向かって突っ込む烈。
 真音速剣を発動し、四肢を狙って攻撃する。そして10秒後、真燕貫閃をも組み合わせて追撃する。
「再生など許すものか、微塵に砕け散れ!」
 凄まじい攻撃。乱舞するドリルの嵐。
 …その後には、赤い霧しか残っていなかった。

「ちっ、俺の相手はこいつらか…」
 月村・心が舌打ちして言った。
「はぅぅ〜怖いですぅ〜」
 逢魔のノルンは心の後ろでぷるぷる震えている。
 二人の前の前に居たのは、二体のフロストウルフとそれを囲む多数のパイパーウルフ。
「ノルン忍び寄る闇だ!」
「は、はひっ!分かりましたぁ!」
 ノルンが手をかざした周囲に闇が広がってゆく。すると、パイパーウルフ達は戦意を失い呆けたようにふらふらと辺りをぶらつき始めた。しかしフロストウルフのほうには効果は見られない。
「やはり利かないか…だが!」
 真ホルスジャベリンを投擲し数体のパイパーウルフを貫き、残りは真フェニックスブレードで蹴散らした。
「お前らと俺の魔皇殻の相性は最高なんだよ!!」
 心は真インフェルノウィングから炎を放った。業火に飲まれ、もがきながら消えていくフロストウルフ。
「ふん、他愛のねえ」
 そう、心は吐き捨てながら真フェニックスブレードにこびりついた血を払った。

「ふふふ、これはピンチって奴かな…」
 ロジャー・藤原は顔を引きつらせつつ冷や汗を垂らした。
「どどどどうするんだよ〜!」
 ロジャーの腕に引っ付きワタワタしているのは逢魔のコハクである。
 腕に胸の柔らかな感触が伝わってくるがそんなことを意識している場合ではない。意識している場合ではないのだ。いや、こんなことを考えている時点で意識してしまっているのかもしれないが(以下略)。
 話を戻そう、要するに2人はワーウルフ1体、パイパーウルフリーダー3体、パイパーウルフ15体という狼の大群に囲まれていたのだった!
「俺ってばモテモテだな…はは」
「もう!ロジャーについてくといっつも散々だよ!」
 コハクの文句を聞き流しつつ、ロジャーはコルトM4A1を両手に構えた。こうしている間にも狼達は牙を剥きじりじりと迫ってきていたのだ。
「迷彩でそのヤバ過ぎる牙を程よく包み隠せよ」
「意味わかんないよ!」
 速攻で突っ込むコハク。
「そんなことはどうでもいい!ガイアが俺にもっと輝けと囁いてくれているんだ!つまりここが正念場!クライマックス!コハク、お前は俺の背中を守れ!いくぞ!うおおおおおっ!!」
 叫びながら銃をフルオートで乱射するロジャー。
「もっと訳わかんないよ!ああもうっ!!」
 また突っ込みながら、コハクも仕方なくレミントンM31を構えるのだった。

●女王乱舞
 そんなこんなで他の魔皇達が狼退治に明け暮れている最中、クロウリー・クズノハと逢魔・カレンだけは、事の発端であるグレゴールとファンタズマの元へと赴いていた。
「あらぁん?ここに来たのはお兄さんとお嬢ちゃんだけぇ?」
 ボンテージに身を包んだグレゴール・小寺がファンタズマの金色の髪を撫でながらつまらなそうに言った。
「悪いか…?」
 クロウリーは殺気を込めた口調で反す。
「まあいいわ。退屈してたところだから、相手をしてあ・げ・る。お兄さん体力ありそうだしねぇ」
 舌舐めずりする小寺。
「ほざけ!!」
 クロウリーはクロウブレードとジャンクブレイドを抜き放ち、二天一系の構えを取ると一気に距離を詰め、小寺に斬り掛かる。
 しかしその攻撃は、見えない壁に阻まれた。
「!?」
「ダメダメ、せっかちさん♪」
 小寺は予め自分達の周囲に設置型のSF・聖障壁<ホーリーフィールド>を張っていたのだった。
「ちぃっ!」
 それでも尚斬り掛かろうとするクロウリー。しかし鞭でことごとく攻撃を弾かれてしまいなかなかダメージを与えられない。
 焦りを覚えたクロウリーは奥の手に出た。そのまま攻撃を仕掛けつつ、一瞬の隙を突いてシュリケンブーメランをファンタズマに向けて投げ放ったのだ。
「きゃー!?」
 悲鳴を上げてその場にうずくまるファンタズマ。
 だが…
「まったく、アタシのグローリアに手を出そうなんて最低ね」
 クロウリーの放ったシュリケンブーメランは小寺の冠頭衝<サークルブラスト>によって無効化されていた。
「もう大丈夫よ、怖かったわね」
 小寺はファンタズマ・グローリアを立たせると、抱き締めてその膨らみかけた胸に頬擦りをし、そして首筋に真っ赤な舌を這わせた。
「あ、あふぅん」
 小さく甘い声を洩らすグローリア。
「…ご、ごくり」
 その様子に思わず赤面し唾を飲むカレン。
「さてと、悪い子ちゃんにはおしおきが必要よねえ」
 小寺はグローリアを愛でていた時の優しい表情から一転、サディスティックな笑みを浮かべてクロウリーを見据えた。
「く、来るかっ!?」
 剣を構え直すクロウリー。
「いくわよっ!雷撃鞭<ライトニングウィップ>!!」
 小寺の手に新たな、発光した鞭が出現する。
 クロウリーは先手必勝とばかりに両断剣を付加したジャンクブレイドで攻撃を仕掛けるが小寺はそれを軽々と避けた。そこに大きな隙が生まれる。それを見逃す小寺ではない。鞭が放たれる。
 バリバリバリッ!!
「ぐあああああっ!!?」
 それを受けたクロウリーは地に伏した。
「身の程も弁えずに独りで向かってくるとは、なんてお馬鹿さんなのかしら」
 帯電した鞭が、二度三度とクロウリーを打つ。
「うぐっ!があっ!!」
「おばぁかさん!あはは!おばぁかさぁ〜ん!!」
 倒れたクロウリーの身体はビクビクと痙攣している。
「くそっ、身体が…動かん…」
「そろそろお終いにしちゃいましょうかぁ?」
 小寺がクロウリーに向け手をかざす。
 …攻撃系のSFを放つ気だ!
「クロウ様はやらせません!!」
 カレンは大切な主を守るべく凝縮する闇を使おうとするが、戦闘経験の浅いカレンには発動することは叶わなかった…。
「ばいばぁーい♪」
 放たれる閃光。そして、クロウリーは動かなくなった。
「そんな…クロウ様!!クロウ様ぁーっ!!!!」
 絶叫し我が身の危険も忘れて駆け寄るカレン。
「あらあら、主想いの逢魔さんねえ。大丈夫よ、殺しちゃいないから」
 その言葉にカレンは主の呼吸を確かめる。…まだ息はある。安堵するカレン。
 しかし…カレンは動かないクロウリーの身体を抱き締めたまま小寺を睨み付けた。
「まあ怖い。せっかく手加減してあげたのに。そっちだってアタシのグローリアを狙ったでしょう?都合がいいわねぇ」
 小寺は悪びれた様子も無く言った。
「大丈夫か?!」
 その時、複数の足音と共にロジャーの声がした。狼を倒し終えた魔皇達が駆けつけたのだ。
「もう片付けちゃったの?ふーん、流石といったところかしら」
「てめえ!仲間をこんなにしやがって!!」
 心が怒りの声を上げた。
「この数だとちょっと分が悪いかしらね。飽きたし、もう帰るわ。いくわよグローリア」
 さっさと去ろうとする小寺。
 無論魔皇達は後を追おうとするが、再び現れたパイパーウルフの群れに阻まれた。
「じゃあね〜」
 そうしている内に小寺とグローリアの姿は見えなくなってしまう。
「くそぉぉぉっ!!」
 心の悔しげな叫びが、虚しく寒空に響くのだった。

●パトモス軍仙台基地・地下施設にて
 何の目的で設置されたのか判らない機械類が並ぶ部屋。
 仙台基地副司令・高槻博士と仮面の人物が相対していた。
「メタトロンシステムの具合はいかがでした?」
「うむ、性能は申し分ない。しかしながら稼働時間が3分というのは如何なのだ?」
 その問いに対して高槻博士はニヤリと笑った。
「あら、そのほうがヒーローっぽいじゃないですか」
「いやまあ…そうではあるが、実用性に欠けると思うぞ」
「なんてことを仰るんですか!短時間しか活動できない!それこそまさにヒーロー!まさにロマン!実用性など二の次です!」
 熱く語る高槻博士に頭を抱える仮面の人物。
「…はあ、このままでよい」
「うふふ。解ってくださいましたか」
 にっこり微笑む高槻博士。いや、呆れて諦めただけなのだが…。
「ところで、よろしいのですか?“仙台基地の司令官”ともあろうお方がこのような“ヒーローごっこ”に興じて」
「そう言ってくれるな、これでも真面目なのだぞ?」
 言いながら仮面を脱ぐ…すると、額から二本の角を生やし、豊かな銀の髪をたたえた美少女の素顔が現れた。
 そう、仮面の人物の正体はパトモス軍仙台基地司令官、アークエンジェル・テミス少将であった。